71企画・取材、制作、放送事件解 説申立人(ビデオ店経営者)は自分が逮捕されたわいせつ図画販売事件と、同じ日に小学校教諭が少女と淫らな行為をし、それをビデオに撮影していたとして県青少年育成条例違反の疑いで逮捕された事件は、別の事件であるにもかかわらず、関係があるかのように報道されたと民放3局を相手に名誉毀損を申し立てた。警察の発表資料は、両事件の関連性を強く示唆するものとなっていた。委員会は、重要な事実に関する当初の報道の修正をしなかった点等を指摘して、3局とも放送倫理上問題があったと判断した。被害者遺族への対応①テレビ朝日は、申立人の出演に当たっては衝撃的な事件の被害者遺族であることへの「十分なケアの必要性」を自覚していたと言いながら、出演依頼から番組制作に至る過程を見ると、それをその言葉通りに実践したとは思えない。本件放送に対して申立人が強い反発を抱き、本委員会への申立てに至った一つの理由はこの点にあるだろう。「日本民間放送連盟 報道指針」は「3.人権の尊重」において、「取材・報道される側の基本的人権を最大限に尊重する」とうたい、「取材対象となった人の痛み、苦悩に心を配る」ことを掲げている。この規定に照らして、テレビ朝日は衝撃的な事件の被害者遺族という申立人に対する適切な配慮を著しく欠いていたと言わざるを得ない。第61号 世田谷一家殺害事件特番への申立て(2016.9.12)解 説申立人の出演経緯や取材映像の取り扱いなどについて、申立人と局の主張は多くの点で食い違っていた。また、局は当初、複数の未解決事件を取り上げると申立人に説明していたが、ヒアリングでは申立人から出演の承諾を得たので世田谷一家殺害事件だけを取り上げることになったと述べた。こうした内容の変更について、委員会は「申立人に事前に十分に説明し、了解を得ていたのだろうか」と疑問を呈した。被害者遺族への対応②この報道指針は、「事件・事故・災害の被害者、家族、関係者に対し、節度をもった姿勢で接する」としているし、犯罪被害者等基本法(平成16年12月8日法律161号)も、「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」(第3条1項)
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