放送人権委員会 判断ガイド 2024
81/264

63企画・取材、制作、放送苦情対応、謝罪・訂正行っても申立人側の納得は得られず事態は収束しないと考えたことを、告示前にお詫びと訂正の放送を行わなかった理由に挙げていることについては、放送は視聴者のためになされるべきという放送局の責務に鑑みて重要な問題点があるとの指摘があったことを付記する。ここで行おうとしていた訂正は客観的な事実についての訂正であり、相手の言い分を受け入れなければできないという性質のものではない。自ら辞職したにもかかわらず市議選出馬を表明している申立人の辞職経緯にかかわる事実関係について、告示前に正確に伝えることは、申立人にとって重要であるだけでなく、有権者にとって大きな関心事である。テレビ埼玉は、事実関係を確認し、告示前の時点で、お詫びと訂正の放送を行うことを考えていたのだから、その内容につき申立人側の納得が得られていなくとも、自らの責務として躊躇することなく実施すべきではなかったか、という指摘である。第72号 訴訟報道に関する元市議からの申立て(2020.6.12)解 説本件放送は、夕方のローカルニュース番組の中で、申立人である元市議会議員が提起した損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論についての内容を伝えた。申立人は、「自分がセクハラで訴えられたかのようなタイトル」と、「第三者委員会のハラスメント認定後に議員辞職したかのような誤解を与える表現」によって名誉が損なわれ、また次の市議会議員選挙に出馬することに言及したことは選挙妨害に当たるとして、同番組での訂正と謝罪を求めて申し立てた。委員会は当該番組について、名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断したプライバシーに関わる謝罪の放送フジテレビは自局ニュースによって人権問題が生じていることを認識し、速やかに謝罪放送を行った。特定個人のプライバシー侵害に関連するため、「関係者へのお詫び」という表現を使い、人権上の配慮をしたこともうかがえる。謝罪放送とは別に当事者への謝罪が真摯に行われなければならないことは当然としても、こうした謝罪放送を行ったこととその内容に特段の問題があったとは言えない。「誤り」に対する事後の訂正放送と違って、今回は特定個人のプライバシー侵害に関する謝罪放送だった。そのため申立人の主張するように、結果として実名漏洩を認めることになったことは否定できないが、申立

元のページ  ../index.html#81

このブックを見る