放送人権委員会 判断ガイド 2024
41/264

23企画・取材、制作、放送取材第78号 ペットサロン経営者からの申立て(2023.2.14)解 説ペットサロンで預かっていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を取り上げた番組に対し、ペットサロンの経営者が、自身が虐待死させたかのように印象付け、名誉を侵害したとして申し立てた事案。委員会は審理の結果、人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとまでは言えないと判断した。そのうえで、放送局に対して、経営者への直接取材の実現に向けてもう一歩の努力がなされるべき事案であり、直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作にあたるよう要望した。この決定には、申立人(経営者)に対する取材を怠った点で放送倫理上の問題があったとする少数意見がある。少数意見は、報道対象者への取材の省略が正当化される例外的場合があることは認めたうえで、本件はそういった例外に該当しないと判断した。その理由として、少数意見は、本件放送は申立人をことさらに悪く描いており、同人によるペットサロン経営等に重大な不利益を及ぼすことが容易に予想できる内容であること、放送を特に急ぐ事情はなかったことを放送局自身が認めているのに、取材を試みてから半日程度しか待っておらず、本人が取材を拒否したと判断できる事情もないことなどを指摘している。裏付け取材は直接本人に「出家詐欺」をテーマにする報道番組において、それを斡旋する「ブローカー」として、ある人物を登場させ、現に多重債務者とやりとりを行っている場面を「やらせ」でなく、収録したというのであれば、その人物のブローカーとしての真実性を単に取材協力者であるB氏からの伝聞だけではなく、裏付けを取る必要があったはずだ。記者は申立人には直接接触しないようにB氏から言われていたという。しかし、最低限本人に確認はすべきだった。第57号 出家詐欺報道に対する申立て(2015.12.11)解 説本件放送で「ブローカー」として紹介された申立人は、記者の指示でブローカー役を演じただけであり、映像や音声は加工されていたが、自分をよく知る人には自分と特定できるものだったと人権侵害を主張した。記者は撮影当日まで申立人に一度も取材せず、取材の段取りはすべて取材協力者のB氏が行っていた。委員会は、裏付け取材を欠き、明確な虚偽を含むナレーションを通じて実際の申立人と異なる虚構を伝えたとして放送倫理上重大な問題があったと判断した。

元のページ  ../index.html#41

このブックを見る