放送人権委員会 判断ガイド 2024
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218放送人権委員会 判断ガイド2024要望、見解、声明など1966年放送法によって設立された公的機関であるが、BSCが扱う苦情は、番組における、①不当もしくは不公平、②プライバシーの不当な侵害、および、③性・暴力表現、④差別と品位、の4分野である。これらのうちBRCと共通するのは、②のプライバシー侵害であるが、名誉毀損をはじめ放送による権利侵害一般を対象としている点では、BRCのほうがBSCよりも範囲は広い。裁判との競合について放送法の規定はないが、一般法と特別法の原則から、プライバシー侵害については放送法による解決が優先するものと思われる。この点に関し、1998年11月にBROを訪問したBSCのハウ委員長は、「BCC(96年放送法で現BSCに統合)時代に、コミッションの裁定に不満で放送局が裁判所に訴えたケースが6件あり、そのうち1件は私たちの裁定が覆された」と述べている。また、BSCでは、苦情の受理に関する規定として、『委員会の権限が及ばない事柄に関する苦情、もしくは申立期限を経過した事柄』とともに、『英国内の裁判所で係争中の事柄についての苦情、および、当該の放送に関して英国内の裁判所に訴えるに足る法的根拠のある事柄についての苦情は、受理されない』と掲げており、BRO設立に当たり参考にした経緯もある。2) 米国にはBSCないしBRCのような全国的組織は存在しないが、1980年に放送メディアをも対象としたミネソタ・ニュース・カウンシル〔Minnesota News Council。以下、「MNC」〕が誕生した。この組織の前身は、英国の報道評議会〔Press Council〕を参考に1978年に設立されたミネソタ・プレス・カウンシル〔Minnesota Press Council〕であるが、放送界にも参加の希望があり、現在のMNCに改組された。つまり、MNCも英国の報道評議会を参考にしているわけであるが、それに倣った重要な点の一つとして、裁判との関係がある。この問題について、浅倉拓也氏はその著『アメリカの報道評議会とマスコミ倫理−米国ジャーナリズムの選択』(1999年・現代人文社)のなかで、次のように解説している。「MNCに苦情を申し立てる場合、名誉毀損などの訴訟を起こさないという誓約が要求される……。もちろん裁判で係争中の問題も受け付けない。MNCが苦情を審議する際に提供された情報や、MNCの報告、裁定文などの中で公表された事実に関しても、苦情申立人はこれらを名誉毀損や誹謗などのかどで裁判に訴えることはできない。」訴訟の権利を放棄しなければ苦情の申立てはできないという条件は、BRCのそれよりもはるかに厳しいが、その理由について浅倉氏は、MNCのギルソン事務局長の次の説明を紹介している。「もし訴訟する権利を放棄する必要がなく、しかもMNCが苦情申立人の主張を認める判断を示せば申立人はその結果を裁判所に持ち込んで訴訟を起こすだろ

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