217要望、見解、声明など1) では、BRCが裁判で係争中の問題は取り扱わないこととする理由は、どこにあるか。その第一は、法的判断の齟齬を防ぐことにある。BRCの任務は主に人権等の権利侵害にかかわる苦情の審理であり、当然、法的判断が重要となる。そのため、現在、BRCを構成する8人の委員のうち、4人は最高裁裁判官経験者を含む法律家となっている。他方、裁判所はもちろん法的判断の場であって、もしBRCに申し立てている事案が同時に裁判所で審理されるならば、場合によって裁判所とBRCの判断に齟齬が起きる可能性が生じよう。もちろん、一方は国家機関であり他方は民間の自主機関であるから、その間に判断の食い違いが生じること自体には否定的ではない。しかし、問題はBRCの判断は単に法的視点にとどまらず、広く放送倫理の視点を踏まえて行われているし、また行われなければならないということである。したがって、法的判断と放送倫理的判断が切り離せないような事案は、裁判所よりもBRCがよりふさわしいものと思われる。2) また、第二の理由として、機能上の相違が挙げられる。自主的苦情処理機関であるBRCには法に基づいた強制的調査権がないので、真実発見・確定する能力に欠けるところがある。したがって、同一事案について、申立てと提訴が並行した場合または提訴が確定している場合には、裁判という強制的調査権により担保された直截的で最終的紛争解決に委ねるのが妥当である。また、裁判所にも調停・仲裁の機能があるが、BRCは連絡や斡旋で解決する事例が多いことからも明らかなように、主として謝罪や訂正を求める場合は裁判所に比べ手続きが簡単で迅速な処理が行われやすいBRCへの申立てが望ましいと考えられる。3) BRCが裁判で係争中の問題は取り扱わないこととする第三の理由は、BRCが主として救済しようとしている報道被害者は、社会的にも経済的にも比較的弱い立場にある個人が念頭に置かれている。本来、名誉毀損等権利侵害に対する回復は訴訟手続きによるべきものであるが、訴訟は裁判費用や日数の点で一般人には利用しにくい難点がある。無料で、しかも迅速に解決できるというのがBRCの特徴であるが、裁判に訴えるだけの力のある報道被害者は、あえてBRC救済を必要としない立場にあるものと判断される。また、裁判所に比較するまでもなく、組織的にも人員的にも弱体なBRCとしては、種々の理由で訴訟を起こし得ない報道被害者を主な対象とすべきなのである。Ⅲ.外国の状況について1) では、外国の状況はどうであろうか。非公的機関としての日本のBRCは、放送の苦情処理機関としては世界で稀な存在であるが、それに近いものとして英国のBSC〔Broadcasting Standards Commission、放送基準委員会〕がある。BSCは、
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