放送人権委員会 判断ガイド 2024
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215要望、見解、声明などきない。性、暴力の過剰表現などによる低俗番組の横行も、報道やワイドショーなどで起きる人権侵害事件も、視聴率競争から生み出されているものが少なくない。「低視聴率でもよいから良質の番組を出したい」という広告主の要望に対して「局全体の視聴率が低くなるから」などと言って断わることがあるような現状には、広告主の中からも厳しい批判が表明されている。たしかに視聴率は、視聴の量を測る指標としては、現在入手可能な唯一の客観的データである。しかし、番組の質の評価基準としては不十分であり、また、量の指標としても600サンプルでは±2〜3%の誤差を伴っているのに1%の差で一喜一憂するなどは、適切な視聴率の使い方とは言えない。にもかかわらず、現実には視聴率至上主義に走り、番組制作を左右していると言っても過言ではない。今回の事件はその実態の反映と見ることができよう。事件は、世論のメディア不信と公権力による法的規制が進む情勢のなかで起きている。放送の自由と放送文化の向上を願う放送人は、この機に自律を強め、視聴率問題の歪みを正して世論の信頼を取り戻さなければならない。同時に、放送の社会的使命を再確認し、生き生きとした創造活動によってテレビの可能性を追求し、社会の期待に応えてほしい。この観点から当面、次の点について提言し、関係者の積極的な論議と具体的な対応を要望する。1.過大な視聴率依存を改めるためには、番組の質を測定する視聴質調査も併用して総合的に評価すべきである。NHKと民放各社がこれまで個別に進めてきた視聴質研究を発展させながら、放送界全体としての新たな番組評価基準づくりに向けた対策機関の設置が必要と考える。視聴率制度の再検討は放送の根幹に触れる構造改革と言えるものなので、この対策機関には、広告界、制作会社や専門家、視聴者・市民なども参加することが望ましい。2.広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的な協力を望みたい。広告主・広告会社もまた、放送文化の質に大きな社会的責任を持ち、それを果たすことによって、視聴者・消費者の信頼を得ることができる。3.放送人の自律を強める倫理研修などの必要性も改めて強調したい。日本テレビの調査報告書によれば、当のプロデューサーは「視聴率さえ上げれば何をやってもいい、という感覚があった」と述べている。視聴率至上主義は放送現場の倫理観をここまで麻痺させている。また、制作会社との関係のなかでキックバックを生むような土壌があるという批判にどう応えるか。現状を放置したままでは制作現場の倫理強化は望めない。

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