117人権侵害敬愛追慕の情放送に登場しない被害者遺族の社会的評価被申立人は、申立人自身は放送において名指しはされていないから、申立人の被害はないとも主張しているが、一定の範囲の視聴者からすれば申立人が被害者夫妻の子であることが特定できる以上、申立人の社会的評価の低下の有無、両親に対する敬愛追慕の情への影響を論じることは可能である。第44号 上田・隣人トラブル殺人事件報道(2010.8.5)解 説隣家の住人に両親を殺害された遺族が、事件を手がかりにした企画について放送内容は事実に反するとして名誉毀損等を申し立てた事案。申立人は全く放送に登場していないが、委員会は上記の理由で審理入りした。敬愛追慕の情死刑執行の対象となった者は故人であり、もはや権利の主体ではないため、その名誉や名誉感情の侵害の問題は生じないと通常考えられている。他方、裁判例上、故人が誹謗中傷された場合、故人に対する敬愛追慕の情を侵害されたことについて近親者に法的救済が与えられている(東京高裁1979年3月14日判決〔「落日燃ゆ」事件〕など)。そうすると、故人に対する敬愛追慕の情の侵害は、委員会の判断の対象となる人権侵害となりうるというべきである。第73号 オウム事件死刑執行特番に対する申立て(2020.6.30)解 説本件番組は、地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連の事件で死刑が確定したオウム真理教教祖の元死刑囚ら、教団の元幹部7人の死刑執行に関する情報を、中継やスタジオ解説などを交えて報じた。申立人は元死刑囚の三女。番組内で、死刑囚の顔写真を一覧にしたフリップに「執行」の表示を印字やシール貼付で行ったことなどの点で、人の命を奪う死刑執行をショーのように扱い、また、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者の発言によって、名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして申立てを行った。委員会は、人権侵害の問題も放送倫理上の問題もないと判断した。3敬愛追慕の情
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