放送人権委員会 判断ガイド 2024
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108放送人権委員会 判断ガイド2024人権侵害名誉一定範囲の人に同定されれば人権侵害は成立しうる映像についてはボカシが入り、音声の加工が入ることから、全ての一般視聴者が申立人を含む事件関係者を同定することは困難であるが、放送対象となった人物の年齢、職業、容貌その他の一定の情報を知る周囲の人や、将来、その人物を知ることとなる人などの一定の範囲の人によって同定される場合であっても権利侵害が成立しうる(委員会決定第52号「宗教団体会員からの申立て」、最高裁第3小法廷平成14年9月24日「石に泳ぐ魚」事件判決参照)。第58号 ストーカー事件再現ドラマへの申立て(2016.2.15)解 説食品工場で起きた「ストーカー事件」を取り上げた番組で「再現ドラマ」が放送され、申立人は、少なくとも職場関係者にとっては登場人物の一人が自分だと同定可能で(実在する特定の人物のことを指しているとわかること)名誉を毀損されたと主張した。局は、ボカシや仮名の使用によって申立人とは同定できないと主張した。委員会は職場の取材協力者から提供された隠し撮り映像を織り交ぜた「再現ドラマ」の内容や、放送に先立って取材協力者が本件放送で職場のことが取り上げられると同僚らに話していたことから、本件放送は少なくとも申立人の職場の同僚からは申立人だと同定しうるとものと判断した。決定文中の「石に泳ぐ魚」事件は、大学院生である在日韓国人の原告を匿名化したモデル小説をめぐって名誉毀損やプライバシー侵害などが争われた裁判。一般読者の大多数が原告の存在を知らず、したがって、一般の読者は原告と小説の登場人物を同定し得ないが、原告と面識があり、又は、原告の属性のいくつかを知る不特定多数の者がおり、これらの読者にとっては、登場人物と原告を容易に同定し得るとして、名誉毀損成立の要件に欠けるところはないという判断が示された。関 連第59号 ストーカー事件映像に対する申立て(2016.2.15)公共性は摘示事実の性質を踏まえて客観的に判断すべき公共性の判断は、表現の自由を保障するという観点から、実質的にその内容を検討するのではなく、摘示事実の性質を踏まえて客観的に判断すべきである(最高裁1981年4月16日「月刊ペン事件」判決)。このような観点からは、沖縄における基地反対運動を取り上げた点で、本件放送の関係部分には公共性があると言える。

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