放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2025年3月18日

「警察密着番組に対する申立て」通知・公表の概要

[通知]
2025年3月18日午後1時20分から千代田放送会館において、曽我部真裕委員長と事案を担当した廣田智子委員長代行、大谷奈緒子委員のほか、申立人2名と代理人弁護士、被申立人のテレビ東京側から4名が出席して、委員会決定第81号の通知が行われた。
まず、曽我部委員長が委員会決定の概要を説明し、廣田委員長代行および大谷委員から補足説明があった。
委員会決定の説明の後、申立人、被申立人とそれぞれ意見交換を行った。申立人の代理人弁護士は「結論は我々の求めていたものとは異なるものの、委員会としてどうしてこのような結論に至ったのかが理解できる内容となっている。警察密着番組自体が内包する危うさなども指摘されており、今後、同じことが起きないよう、この委員会決定が広がりを持ってもらえればと期待している」などと述べた。一方、申立人からは「国の機関に確認しながら行ってきたビジネスが罪に問われること自体がおかしいのに、この番組が人権侵害にあたらないとの判断には納得がいかない」との考えが示された。これに対して廣田委員長代行は「今回の委員会決定は本件放送の内容を、あらゆる予断を排して検討したものである。申立人側の主張や取り組みも精査したうえで判断しているので、あらためて委員会決定の詳細を確認いただければと思う」と述べた。
テレビ東京側は「委員会決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に活かしていきたい。番組制作に携わるみんなで学び、話し合いながら、再発防止の取り組みを着実に進めていきたい」との発言があった。これに対して、曽我部委員長は「チェック体制の強化で終わらせるのではなく、スタッフが仕事に取り組む際の環境整備にも目を配りながら対策を進めていただきたい」と述べた。

[公表]
午後2時40分から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定第81号の内容を公表した。会見には、放送局や新聞社など17社1団体から35名が出席した。
通知と同様、曽我部委員長が委員会決定の概要を説明し、廣田委員長代行および大谷委員から補足説明があった。その後、質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

<質疑応答>
(質問)
「再現」部分が警察の恣意的なものかどうかを判断するにあたり、委員会が警察にヒアリングを行うという方法もあったと思うが、実施しなかった理由は何か。
(廣田委員長代行)
本件放送で示された部分に加え、申立人へのヒアリングなどで具体的な事項を確認することができたので、特に警察側へ確認しなければならないものはなかったと考えている。

(質問)
テレビ東京は事前に詳細なペン取材を行ったことを「再現」であることの根拠としているが、委員会決定は詳細なペン取材があったとは認定していない。テレビ東京はなぜ、このような主張をしたと考えているか。
(廣田委員長代行)
今回、制作会社の担当者にも個別にヒアリングを行った。それらの結果、事前に詳細なペン取材が行われたと認められるような事実は見当たらなかった。ただ、テレビ東京が虚偽の説明をしているとの印象は持っていない。

(質問)
テレビ東京のお詫び放送が、本件放送から1年以上経ってから行われており、もっと早く実施していれば、被害の回復もさらに明確なかたちでできたのではないか。今回の委員会決定は時間の経過よりも、双方が合意して対応したことを評価しているということか。
(廣田委員長代行)
事後撮影が行われたことをテレビ東京が把握したのは、申立ての後であり、そこから制作会社に聞き取りを行い、お詫び放送の実施へと進んでいるという事情があったと思う。時間の経過はあるものの、テレビ東京の取り組みについては一定程度評価できると考えている。

(質問)
申立人、被申立人双方の受け止めは。
(曽我部委員長)
テレビ東京は「真摯に受け止め、再発防止に努める」といった内容であった。一方、申立人側については、経緯をできるだけ詳細に認定することを心掛けたこともあり、基本的に理解いただけたものと考えている。ただ、申立人のお一人は刑事事件そのものに不満を持っておられ、その思いを強い言葉で話されていた。

(質問)
テレビ東京が「取材源の秘匿」を根拠に、事後撮影が行われた日付について明らかにしないのは「合理性に欠ける」と指摘しているが、このように判断した理由をうかがいたい。
(曽我部委員長)
本件の場合、取材源は明確であるので、「取材源の秘匿」を理由とすることは、説得力に欠ける主張だったと考える。
(廣田委員長代行)
撮影した日付を明らかにできない理由を主張してもらえれば、明らかにすることの不利益と明らかにすることの必要性を比較検討することができるが、今回、そういった主張がなかったため、不合理であるとの結論に至った。
(質問)
審理にあたって情報を提供しなかったからといって、一概に「合理性に欠ける」と判断するものではないということか。
(曽我部委員長)
資料が提出されないのであれば、その状況の中で委員会として判断することになる。

(質問)
今回以外でも、事後撮影が行われたケースがあったのか。
(曽我部委員長)
審理の中では特段、確認はできなかった。

(質問)
今回、「放送倫理上重大な問題あり」との結論にならなかったのは「やらせ」や「ねつ造」がなかったからなのか。
(曽我部委員長)
先例があるわけではないが、今回の委員会決定で、定義したような意味での「やらせ」が行われていた場合、「放送倫理上重大な問題あり」と判断することはありうると考える。

(質問)
今回、意図的に事実と異なる虚偽の放送がされたとはいえず、その意味では「やらせ」「ねつ造」があったとは認められなかったとしているが、申立人や視聴者からすれば、意図的かどうかはあまり関係がないのではないか。
(曽我部委員長)
個人の考えとなってしまうが、「やらせ」「ねつ造」が行われた場合、放送局の存続にかかわるような、極めて重大な問題になると思う。今回の事案は、事実とは言えない部分はあったものの、意図的に存在しないものを作り出したというところまでは認められなかったと判断した。

(質問)
放送倫理上の判断においては、意図的であるかどうかが重要であるということか。
(曽我部委員長)
事実を伝えるべきところを、意図的に事実と異なるものを作ろうというのは、まさにメディアの存在意義を自ら否定するような行為であると考える。

(質問)
委員会決定で、氏名推知可能な状況で手錠装着場面を取り上げることは「必要性、相当性を欠き、申立人らに過度に社会的制裁を加えるものになっている」との記載がある。手錠装着場面の是非について、申立人側は強く主張していなかったと認識しているが、委員会としてあえて論点にしたという理解でよいか。
(廣田委員長代行)
申立書にも若干の記述があるが、今回、放送局にあらためて考えてもらいたいと思い、記載したものである。
(質問)
ある種の提言であるということか。
(曽我部委員長)
警察密着番組はさまざまな構造的な課題があり、見過ごすことのできないひとつのテーマとして今回、取り上げた。

(質問)
事後撮影部分のテロップやナレーションは、審理の対象となっているのか。
(廣田委員長代行)
警察官が恣意的な「再現」をしたのかどうかを検討しているので、事後撮影部分のテロップやナレーションは一切排して検討した。

以上