放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2024年度 第81号

「警察密着番組に対する申立て」に関する委員会決定

2025年3月18日 放送局:テレビ東京

見解:放送倫理上問題あり
申立ての対象は、テレビ東京が2023年3月28日に放送した「激録・警察密着24時!!」のうち、人気漫画・アニメ「鬼滅の刃」を連想させる市松模様などの和柄商品に関する事件を取り上げた部分である。1年にわたり捜査に“密着”取材したとして放送されたが、逮捕当日とその前日の署長訓話以外は警察官らによる「再現」で事後に撮影されたものであった。放送時点で逮捕された4名のうち3名が不起訴になっていたがその事実に触れず、また、事実と異なる点がある放送をした。
これに対し、販売会社の現役員と元役員の夫婦が、名誉感情を大きく毀損するとともに、捜査場面は警察官を使った「やらせ」であるなどと主張し、謝罪、訂正文の掲載などを求めて申立てをした。テレビ東京は、お詫び放送やお詫び文の局ホームページへの掲載のほか、警察密着番組の打ち切りも発表したが、事後撮影部分が「再現」か否かといった認識の違いなどから申立人らは納得せず、申立ての取り下げには至らなかった。
委員会では、審理の対象を話し合いが相容れない状況になっている事後撮影部分に限定して審理した結果、事後撮影部分の一部について、申立人らの名誉を毀損する内容があったと判断したが、すでにお詫び放送などでその被害は一定程度回復しているとして、本決定において改めて人権侵害があったと扱うことはしなかった。放送倫理上の問題については、事後撮影部分の事実の重要な点において、意図的に事実と異なる虚偽の放送がされたとはいえず、その意味で「やらせ」「ねつ造」があったとはいえないが、放送内容の正確さ、公正さなどに問題があり、テレビ東京が放送責任を果たすためのチェック・確認をしていたとは到底いえないことから、放送倫理上問題があると判断した。

【決定の概要】

本件は、テレビ東京が2023年3月28日に放送した『激録・警察密着24時!!薬物・凶器・詐欺… 春のワル一掃大作戦SP』(以下「本件番組」という)のうち、人気漫画・アニメ「鬼滅の刃」を連想させる市松模様などの和柄商品に関する初の不正競争防止法違反事件を取り上げた部分(以下「本件放送」という)に対して申立てがなされた事案である。
1年にわたり捜査に“密着”取材したとして放送されたが、取材開始は逮捕の直前で、逮捕当日とその前日の署長訓話以外は、実際に捜査にあたった警察官らによる「再現」であり、事後に撮影されたものであった。
社名や氏名は伏せ、人物や建物はモザイク処理が施されていたが、商品名や本件放送までの他の報道で社名や氏名の推知が可能であった。
逮捕された4名のうち3名が不起訴となり、公判では法律の解釈適用が争われ、無罪主張がされたが、一審で有罪判決を受け本件放送時は控訴していた。
しかし、本件放送は不起訴や控訴に触れることなく、「“ニセ鬼滅”組織を一網打尽」とのサイドスーパーや、不起訴となった者の逮捕場面に「被害者面で逆ギレ。挙げ句に泣き落とし」などのナレーションをつけて放送した。また、キャラクター(登場人物)を使用した商品は扱っていないのに、「あからさまな偽物も中国へ発注していた」などと、事実と異なる放送をした。
これに対し、夫婦である現役員と元役員が、会社や4名の信用、プライバシー、名誉感情を大きく毀損したと主張するとともに、捜査場面は逮捕後に撮影されたもので、警察官をつかった「やらせ」であるなどと主張し、「ねつ造」を認めて謝罪、訂正文の掲載をすること、事後撮影の内容と経緯の説明をすることなどを求めて申立てをした。
申立て後、当委員会の促しにより、申立人らとテレビ東京で話し合いがなされ、その結果、お詫び放送やお詫び文の局ホームページへの掲載が行われた。また、テレビ東京は、警察密着番組の打ち切りを決める一方で、再発防止策として番組チェック体制の強化や社内教育・研修の拡充などを進めていくとした。
申立人らは、お詫び放送等の対応に一定の評価をしたものの、事後撮影部分が「再現」か否かといった認識の違いや、テレビ東京が事後撮影の経緯を含む番組制作過程を明らかにしなかったことに納得せず、申立ての取り下げに至らなかった。
委員会は、こうした経緯をふまえ、申立人らの実質的な被害回復の状況を検討し(運営規則第5条第2項(1))、審理の対象を話し合いが相容れない状況(同第5条第1項(4))になっている事後撮影部分に限定することとした。
そして、事後撮影が行われた経緯から、警察官らによる恣意的「再現」の可能性があることを前提に、5つの事後撮影部分について、実際の捜査で行われた事実と異なるか、人権侵害はあるかを検討した。その結果、警察官らがキャラクターの絵がついた商品画像を発見しアウトだという場面については、捜査の過程の事実と異なるとまで認めることはできないが、一般視聴者に販売会社がキャラクターそのものを真似た商品を扱っているとの印象を与えるもので、申立人らの名誉を毀損すると判断した。しかし、この点については、お詫び放送・お詫び文の掲載により、すでにその被害は一定程度回復されていると判断し、本決定において改めて人権侵害があったと扱うことはしなかった。
次に、放送倫理上の問題について、申立人らの求めでもある事後撮影が行われた時期、事後撮影から放送までの経緯を詳細に検討し、事後撮影部分については、事実の重要な点において、意図的に事実と異なる虚偽の放送がされたとはいえず、その意味では「やらせ」「ねつ造」があったとはいえないと判断した。
しかし、長年の一括発注の過程で、事後撮影部分があることがテレビ東京に報告されないような緊張感を欠く状況となっており、また、本件では局プレビューも機能しておらず、テレビ東京が放送責任を果たすためのチェック・確認をしていたとは到底いえなかった。
その結果、控訴審第1回公判の直前に、争点である正規品との混同可能性や真似る意図に関して、警察官が「再現」するままに、その言い分を一方的に述べるものが放送されることになった。キャラクターを真似た商品を申立人らが扱っているとの誤解を生じさせる場面が「再現」され、誤ったナレーションがつけられたが、チェックされることもなかった。さらに氏名推知可能な状態で、不起訴になった者も含む4名の逮捕の方針を決める捜査会議場面がドラマのように「再現」された。無罪主張をしている申立人らの言い分や控訴していることも一切述べられなかった。これらが「1年に及ぶ“執念の捜査”完全密着」というサイドスーパーのもと実際の捜査場面として放送された。
このように、本件放送は正確さ、公正さに問題があること、取材される側への配慮を欠き過度に社会的制裁を加えるものになっていること、視聴者の期待、信頼に反することから、放送倫理上問題があると判断した。
最後に、警察密着番組を好んで視聴する人は少なくなく、他局においては放送が続けられていることから、警察密着番組のもつ構造的問題にもふれ、放送界全体として、本件をきっかけに番組の意義や内在する危険性について改めて考えていただくことを求めた。

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2025年3月18日 第81号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第81号

申立人
販売会社の現役員、元役員
被申立人
株式会社テレビ東京
苦情の対象となった番組
『激録・警察密着24時!!薬物・凶器・詐欺… 春のワル一掃大作戦SP』
放送日
午後6時25分~午後8時54分
(テレビ北海道、テレビ愛知、テレビ大阪、テレビせとうち、TVQ九州放送、びわ湖放送、岐阜放送、テレビ和歌山で同時放送)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.背景事情
  • 2.申立てからお詫び放送・お詫び文の掲載、話し合い終了まで
  • 3.論点1「テレビ東京が本件放送について、既に申立人に謝罪し、お詫び放送やお詫び文のホームページへの掲載等を行っていることは、本件申立てにおいてどのように扱われるか」
  • 4.論点2「捜査に関して警察官自身による『再現』であるという事後撮影を行い、放送したことに、人権侵害はあったか」
  • 5.論点3「捜査に関して警察官自身による『再現』であるという事後撮影を行い、放送したことに、放送倫理上の問題はあるか」

III.結論

  • 1.本件放送について
  • 2.今後の警察密着番組について

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの