第208回放送と人権等権利に関する委員会

第208回 – 2014年4月

審理要請案件:児童養護施設関連ドラマ
匿名インタビュー、モザイク処理の在り方…など

児童養護施設関連ドラマに対する申立書を審理要請案件として委員会に諮り、審理要件を満たしているかどうかなどを引き続き検討した。匿名インタビューやモザイク処理について、「委員長談話」案を検討した。

議事の詳細

日時
2014年4月15日(火)午後4時~6時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.審理要請案件:児童養護施設関連ドラマ

児童養護施設を舞台にした連続ドラマに対する申立書を審理要請案件として委員会に諮り、委員会運営規則に照らして審理対象とする要件を満たしているかどうかなどを改めて詳細に検討した。次回委員会で、審理入りするかどうか結論を出す予定。

2.「匿名インタビュー、モザイク処理の在り方」について

報道・情報番組における匿名インタビューやモザイク処理について、「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案と「宗教団体会員からの申立て」事案の両委員会決定を踏まえて「委員長談話」を公表することを決定し、委員長から出された原案や修正案について各委員が意見を述べた。
次回委員会で議論を継続する。

3.その他

  • 2014年度事業計画のうち、意見交換会の日程等について事務局から説明した。また、年度内に刊行予定の『判断ガイド2014』についても事務局から概要を説明した。

  • 次回委員会は5月20日に開かれる。

以上

第207回 放送と人権等権利に関する委員会

第207回 – 2014年3月

児童養護施設関連ドラマ
匿名インタビュー、モザイク処理の在り方…など

児童養護施設関連ドラマに対する申立書について、審理要件を満たしているかどうかなどを引き続き検討した。匿名インタビューやモザイク処理の在り方について、調査データの分析をもとに議論した。

議事の詳細

日時
2014年3月18日(火)午後4時~6時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
曽我部委員、林委員 (欠席:小山委員、田中委員)

1.児童養護施設関連ドラマ

児童養護施設を舞台にした連続ドラマに対する申立書について、放送終了を受けて、委員会運営規則に照らして審理事案とする要件を満たしているかどうかなどを引き続き検討した。申立人の意向や局側との話し合いの状況を確認のうえ、次回委員会で改めて申立書の取り扱いを検討する。

2.「匿名インタビュー、モザイク処理の在り方」について

報道・情報番組における匿名インタビューやモザイク処理について、担当委員が事務局の調査データを詳細に分析して報告、各委員が意見を述べた。次回委員会で議論を継続する。

3.その他

  • 「宗教団体会員からの申立て」事案の委員会決定について当該局のテレビ東京で3月10日に研修会が開かれ、その概要を事務局が報告した。研修会には三宅弘委員長と起草担当の市川正司委員、田中里沙委員が出席、同社報道局・制作局・編成局等の社員・スタッフら92人が約3時間にわたって委員会決定の説明を受けて意見を交わした。

  • 1月30日に開催した鹿児島県内加盟放送局との意見交換会について、その模様を伝える地元局ニュース番組の同録DVDが追加で送られてきたため、それを視聴しながら事務局が改めて報告した。

  • 2014年度のBPOと事務局の体制について、事務局から報告があった。

  • 次回委員会は4月15日に開かれる。

以上

2014年1月

鹿児島県で、初めての意見交換会を開催

BPO・放送人権委員会は1月30日(木)、鹿児島県では初めてとなる意見交換会を開催した。昨年度の広島県に続いての県単位での開催であったが、在鹿児島6局から52名が参加した。委員会側からは三宅弘委員長、奥武則委員長代行、小山剛委員が出席、最近の「委員会決定」を議題に、人権や放送倫理について意見を交わした。午後7時30分からの開始であったが、予定の午後9時を大幅に越えて、9時30分頃まで熱心な議論が行われた。
主な内容は以下のとおりです。

◆三宅委員長 冒頭の基調報告◆

私も今年8年目の委員を務めさせていただいておりますが、ちょうど委員になった頃は個人情報保護法ができて、個人名の取材は非常に難しくなったという頃で、もともとは情報公開法の制定にずっと意欲的に取り組んできたのですが、情報公開とプライバシーの保護という観点から、高度情報通信社会における個人情報の保護というところも自分なりに政府の委員会等で意見を言うような立場になっておりました。
ちょうど今、出たので申しますと、人権擁護法案と個人情報保護法と、それから青少年条例、この三つのトリプルで表現の自由が侵される危機的状況にあるというような時代状況がずっとありました。BPOが自主自律の組織として、監督権限の行使を受けることなく、放送の倫理のあり方、それから私どもの委員会では特に名誉・プライバシーと表現の自由の調整を行うということで、様々な申し立てを踏まえて、判断を行っているということです。
特に、放送倫理検証委員会ができたちょうどその頃に、私どもの委員会でも放送倫理の中で、公平性とか公正性というものをどういうふうに扱うのか、というところまで判断の範囲を広げるということが、ちょうど2007年、委員になって途中にそういうことがありました。まあ、それ以外の放送倫理について判断ガイドの中で、放送倫理というものを具体的にどう判断するのかということについて、NHKと民放連の放送、報道の指針とか、それから放送倫理基本綱領よりいくつかの範疇をかかげるようにして、今までの決定の中から、いくつかの倫理のあり方というものを、この委員会として考えております。それが、また、きめ細かい放送倫理の判断をしなければいけない事案が出ておりまして、今日取り上げる事案もそのようなものが多々あります。
今日はそういう踏み込んだところのお話しをさせていただきたいと思います。
特に昨年の暮れに秘密保護法が制定され、あの法律は中央省庁のものにとどまらず、特定有害活動とか、テロリズムの関係ではどうしてもああいう法律が欲しいということで、非常に熱心だったということがあります。
ですから、法律によって、特定秘密と指定されたものは、当局にも秘密があるということになりますので、取材をされる時にそういうものに触れうるということになると、個人情報保護法に輪をかけて非常に取材がしにくくなるというようなこともあると思います。自主的、自律的な私どもとともに、そういう権力的介入を受けないような働きかけというものもお考えいただく、きっかけにしていただければと思います。
簡単ですが、冒頭の基調のご挨拶とさせていただきます。

◆決定50号「大津いじめ事件報道に対する申立て」について◆

フジテレビの当該ニュースの同録DVDを視聴したあと、起草担当の委員が決定のポイント等の説明を行い、意見交換に入った。

奥委員長代行:決定文は、皆さんのお手元にあると思います。これを読んでいただければもちろんわかるのですけれども、読んでない方は、いまのDVDをご覧になっても、一体このニュースのどこが問題なのというふうに思われたのではないでしょうか。委員会は結論的には、本件放送は人権への適切な配慮を欠き放送倫理上問題があるという見解を出しました。
ポイントは大きく言って二つあると思います。一つはテレビの映像です。いじめの加害者とされた少年の名前が実名で入っているんですね。それにモザイクや黒塗りをしないで放送している。それがインターネットに流れて、だんだん広まっていった。
もう一つはテレビ局の責任を、人権上の問題、あるいは放送倫理上の問題としてどういうふうに問えるかということです。
このニュースを普通の視聴形態で見ている限り名前は判読できません。全然わからない。結局、委員会の判断としては、テレビの映像それ自体を通常の視聴形態で見ていたら、名前を判読できない。判読できない以上、この少年に対する人権侵害、あるいはプライバシーの問題というのは生じないというふうに、まず入り口では判断したわけですね。
それを録画して静止画として切り取ったものがインターネットに流れたわけですね。それについてどう考えたらいいのかという問題があります。これが非常に難しい判断を迫られた問題だと思います。テレビの画像を録画して、それを静止画にしてインターネットに流すということは今、技術的にはごく簡単なことですね。私でもできます。できますが、それは著作権法上について言えば、違法な行為です。ですけれども、今、テレビのデジタル化、録画機器の性能の高度化、インターネットの普及状況といった、いろいろな問題を考えると、こういうことを全然頭に入れないでニュースを放送するということについて言うと、人権上、適切な配慮を欠いたのではないか、そこにやはり放送倫理上の問題を指摘せざるを得ないという結論に至ったわけですね。

ミスであることは明らかで、現場で誰が悪かったのかとか、そういう問題はもちろん局の中で究明する必要があると思います。しかし、結論的に我々が考えたのは、個々の誰がどうしたこうしたというよりも、要するに放送局全体の人権感覚と言いますか、いじめ事件ということで非常に全国的にも大きな問題になり、訴訟にもなっていて、少年法の問題というのもあるわけです。極めてセンシティブな問題ですから、個人名とか、個人情報とか、そういうものよりさらに一層気をつけなければいけない。にもかかわらず、こういう形で出てしまったというのは、放送現場全体において、人権感覚が希薄だった。しっかり考えていなかったのではないかと、そういうふうに指摘して、結論的に人権上の適切な配慮を欠いて、放送倫理上問題ありますよと、そういう見解に達したということです。
補足的に少し言っておきますと、謝罪放送をしたわけですね。人権上、配慮に欠いたものがありましたという内容です。その謝罪放送をしたことによって、いわば個人名がインターネット上でどんどん拡散する契機になった、バッシングが過熱したと、申立人は主張しております。その辺についてどう考えるか。謝罪放送のあり方という問題も、実は少し論点としてはあるんですけども、それについては、自分のところのニュースで人権上の問題が発生したということがわかった時点で、やはり速やかにお詫び放送をするというのは、放送局としては適切なあり方で、問題はなかったというふうに委員会は考えました。

◆参加者からの主な発言◆

□いかに意識を高めるか

自分たちがニュースを日々作っていく中でもいろいろ複雑になっていくと、やはりどうしてもそこにミスが発生する可能性はどんどん高くなってくる。一人の人間がやっているならまだしっかりコントロールできるのかもしれませんが、テレビの仕事は複数の人間が携わるので、できるだけシンプルに素材を一つにしていく。問題のあるものは途中でカットするか、もう使わない、使えないようにすることが必要じゃないかなと思います。
あとは、スタッフの意識というか、結局、記者だけではなくカメラマン、編集マン、もしかしたら、そのアシスタントまで例えば気付けば止まったかもしれないという場合もあるので、いかにしてその辺りの意識を高めていくかが、私たちの課題だと思います。これはもう日々呼びかけていくしかないのかなと思っています。BPOで出していただいているこのような資料等をできるだけみんなの目に触れるところに置いたり、会議等で説明をして共有するように今、務めているところです。

□裁判資料への感覚の薄れ

裁判資料への感覚が、普段取材する中で薄れているなというのは確かにあって、特に、先ほどのような自殺、特に少年の問題の時に、映像が作りにくいニュースの時に、何をその映像の中に入れ込むか。安易にその書面の接写とかに走ってしまうこともあり得るかなと個人的には思ったんですね。本当にこのカットが必要なのかというところもスタッフ間で共有しつつ、考えながら編集を進めていかないといけないと思いました。

奥委員長代行:我々が考えている今回の事案の最大のポイントは、要するにテレビがデジタル化し、録画機能が高度化して、なおかつインターネットの利用が広がっているという状況の中で、テレビのニュースを作る側がどれだけ注意しなければいけないのかという、その点なんですね。
決定文の中ではこういう状況だからこそ、作る側には一層研ぎ澄まされた人権感覚が必要ですよ、と指摘しました。なんか、研ぎ澄まされた人権感覚なんていう言葉を使うとすごく堅苦しいんですけども、想像力の働かせ方の問題だというふうに私は思っているんです。そういうことが明らかになった事案だと。ここがこの事案の最大のポイントだろうと私は思っています。
それから、スタッフの意識の問題とか、いろんな人が関わるから、やっぱりどうしても難しくなってしまうという話がありました。当該局には個人情報などが含まれる素材については取材担当者が注意を喚起するようになっていたそうです。局内では「イエロー」と呼んでいたとのことですが、この事案では入口の問題として担当者が「イエロー」とするのを失念したということがありました。しかし、問題はそういう個人の失念ということではなく、それをみんなが最後まで気がつかないで放送しちゃったというところにあるんであって、そこにさっき言った、新しい形の想像力を発揮した人権感覚を持ってほしいというのがこの決定の趣旨ですね。

◆参加者からの主な質問◆

□どこまで責任があるか

自局のサイトに事件等を上げた時には3日間で消そうという基準は持っているんですけど、ただ、それをネットに張り付けられた時にはいつまで経っても残ってしまう。テレビ局のニュースがずっとそういう形でネットに残った場合に、どこまで責任を問われるものなのか。

三宅委員長:このケースでも、複製権の侵害と言うことで、著作権法の問題を、どこまで責任を負うのかということで、第三者がコピーをとってネットに出したというところ以上は違法行為ですから、違法行為に加担したという責任までは問われないだろうということは、我々、判断しました。ただ、そういうふうに流れていく映像ですから、中学校のところはマスキングでどこの中学かわかりません。それから、中学の校庭辺りの映像は、かなりぼかしが入っているので、どこかわからない。あの辺はかなりきっちり丁寧にぼかしを入れているので、放送のレベルでの匿名性、ぼかし方は非常に良くできていると思う。
しかも、通常の見方でどこにあったかわからない。だから、映像のモザイクがかかった素材と元の素材の管理というところの問題ですけど、取材としてはできる限り正確な取材をちゃんとやってほしいというのが倫理上の問題であります。マスキングのかけ方とか、ぼかしの仕方というのはかなり思い切って徹底していただかないと、それがどんどん流れていくことになるので、複製権の侵害までは責任を負いませんよと言っても、それがどんどん行くと、訴える立場としてはやっぱり訴えたい立場になってきますから、訴訟に載せられる余地はやっぱりあると思います。取材は正確に、それからぼかしは思い切ってやらないと、特に少年事件ですので、元のデータと、モザイク処理をきっちりやったデータと、少なくともこの2本がはっきり区別して管理されて、それがうまく管理上、誰が見てもわかるような形にしていくというのが、本件から学ぶ大事なところじゃないかなという気がしています。

◆決定51号「大阪市長選関連報道への申立て」について◆

朝日放送の当該ニュースの同録DVDを視聴したあと、委員長と起草担当の委員がポイントを説明した。

三宅委員長:私からは概要の説明ということにします。まず冒頭では、職員を脅すように指示していた疑い、しかも脅迫か、ということで、疑いとしてはあるのですが、全体の論調がですね、紹介カードの回収リストに今後不利益になることを本人に伝えるとの指示が書き込まれていましたと。
それから一番我々がこれを取り上げないといけない、大阪交通労組って大きい組合ですけども、個々人の組合員に対する名誉棄損とか侮辱ということもありうるということで、団体としての申立も受けたのは、やくざと言っていいくらいの団体だと思っていますという、この「やくざと言っていい」ここが、我々が取り上げる一番のきっかけになった部分です。
それから裏付けをしたらですね、リストには交通局職員の3割にあたる1867人が並び、管理職もいます、非組合員のコード番号も記されている。このあたりは一応裏付け取材をすれば、こういうのが入っているんだから組合員のデータじゃないでしょという話が出て来る。
取り上げること自体に問題があるじゃないかと局側からは言われましたけれども、この点については、私どもも大きな団体のものを取り上げなかったこともありますけれども、今回は取り上げて、そういう決め打ちの報道にならないように、疑いであれば疑いとして表現するということと、裏付け取材を、できる限り努力をする。そこがうまくできてればもう少し違った放送内容になったのではないかというところが、ここで検討すべき内容だと考えております。

小山委員:これは非常に単純な事案です。画面でおわかりのように、二つのカードというか、二つの紙が出て来てきます。最初に出て来た平松市長の顔写真が写ったこの知人紹介カード、これは本物で、これについてはもうすでに過去に報道されているということです。今回はその知人紹介カードの回収リストというものが新たに明らかになったということで、その回収リストというのはボカシが入っていましたけど、職員番号と氏名が並んで、その下に強迫的な文言があるという。これが独自の取材で見つかったということです。しかし、これが完全なねつ造だということがあとで発覚したということです。
あの放送を見た人はどういう印象を持つかですけども、回収リストについては、これは本物だという前提で報道していたと思うんですね。その上で、実は内部告発者があの回収リストをねつ造した人だったんですけども、その内部告発者の「やくざと言っていいくらいの団体」とか、あるいは大阪市議の「恫喝」といった発言を重ねた番組になっています。
では、紹介カードの回収リストを、なんで本物だと信じてしまったのか、要するに内部告発者の言ったことを信じてしまったのかですが、これまでも当該局はこの内部告発者からの情報を報道していましたが、それがすべて真実だった。ですから今回も真実だろうと思い込んでしまった。
それからもう一つ、市議会議員が動いていることについて過度の信頼を置いてしまったのではないかと思います。この決定文に「市政調査権」と書いてありますが、これは局側が答弁書で出してきた言葉です。ただ今回の「市政調査権」はなんの意味もない、いわゆる百条委員会とはまったく関係のない、市議会議員個人の調査にすぎません。それを、ある程度権威がある情報源だとしてのっかってしまったようです。
結局、労組のほうに取材に行ったのかということですが、取材の努力はしたけども、取材は間に合わなかったということです。具体的にはニュースの直前に記者が組合事務所を訪ねたけれども、そのときは組合側の担当者が不在で対応していただけなかった。放送後、改めて委員長に取材を申し込んで、夕方のニュースでは報道していると。最大限取材努力をしたと言っていますけども、結局、委員会を納得させるものではなかったということです。
最後に1点だけ。この後も、当該局は回収リストについて続報を行っています。それで、リストがねつ造だとわかったのが3月下旬でして、3月26日に、これがねつ造だったという報道をしているんですが、大阪市はこのリストがねつ造だったと発表しましたという、単に淡々と事実を述べているだけで、先ほどの2月6日の報道を例えば引用して、それを訂正するわけでもないし、当時者に対して、謝罪するわけでもない。そのような内容でした。

◆参加者からの主な発言◆

□裏付け取材について

やっぱり労働組合に間違いなくその裏付けと言いますか、コメントを求めて、それから出すのが基本的なこと。もしうちでも気をつけなきゃいけないというのは、こういった疑惑の段階で、「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」といったコメントを使う部分ですね。どうしても我々は、インタビューで引き出したコメントの中で見出しになると言いますか、センセーショナルなコメントを選びがちですから、まだあくまでも疑惑の段階でこういった強い表現をあえて使う必要があるのか。その辺が、こういったインタビューでのコメントを選ぶ中で犯してしまいがちだと感じました。

小山委員:要するに100パーセント裏がとれない限りは報道するなと言っているわけではなくて、報道のやり方というところもあるんですね。相手方が否定している以上は、相手方の否定についてそれなりに配慮した構成あるいは言葉遣いの番組にすることもあり得ると思います。ご覧いただいた番組についても、結局取材ができなかったら一切報道しちゃいけないというわけではなくて、あの報道はないでしょというところが非常に強いですね。
それからもう1つ、あの回収リストについての情報は他の在阪局もつかんではいたみたいですけれど、局によっては事前に労組に取材に行って、これはうちは全然関係ないと否定されて、それで一旦、ボツにしたところもある。他の局でもこれはちょっと踏み切れない、で、逆にあのようなテレビが出てしまったので、あっ、やられたと思った局もあったようです。ですから、「回収リスト」情報はあの局だけが独占的に入手したわけではなくて、あの局だけが食いついてしまったと。それはやはりこの内部告発者とのそれまでの関係などもあったし、よく言えばあのテーマについて一生懸命やってきたので、逆に食いついてしまったのかなというところのようです。

三宅委員長:この決定文の結論の2段落目に「いかに報道することが重要であるとしても、裏付け取材の必要性、その他の放送倫理上の要請を軽視してよいことにはならない」とありますが、その次の「また、疑惑を報道するのであれば、取材努力を尽くした上で、あくまでも疑惑の段階であることが明確になるようにすべきである」と。したがって、内部告発報道とか目撃証人報道についても事実が確定的でないとしたら、疑惑の段階だということがはっきりするようにというシグナルですね。スクープというのと、もう事実がそれで固まったかのように走っちゃったところの問題があるので、疑惑は疑惑としてこういう疑惑がありますってことを淡々と述べ、裏付けが仮にとれなくても、おそらく報道はしたと思いますが、もうちょっと違う報道の仕方があったのではないかと思います。

◆モザイク映像や匿名インタビューについて◆

三宅委員長:今、私どもで、顔なしインタビューについてどういうふうに考えるかということを委員会の中でも議論しております。まだ確定的ではありませんが、いろいろ調査すると、各局で原則顔ありインタビュー取材をするようにということで、例外として顔なしインタビューすることができる場合についてはかなり検討されて、その基準がよくできているっていうことがだいぶわかってきました。ただ実際の運用として、それができているかどうかっていうところの問題。それから海外の通信社の基準を見ると、例外として顔なしインタビューするにあたっては理由を付記するようにという指導もされています。この辺は日本ではまだそこまで徹底しているような基準にはなってないような感じがあります。
先ほど言いましたように事実の正確性とか客観性とかですね、真実に迫る努力、放送倫理上ですね、そういう基準を示しているんですが、そういう観点からすると原則として顔ありインタビューというのが本来なされるべきです。しかし実際は安易に顔なしインタビューがなされているのではないかということで、私どもとしても今ですね、調査をしてもらおうという段階であります。
知る権利に奉仕する取材、報道の自由という観点からは、取材においてはやっぱり原則、顔ありインタビューをしていただきたいというのが私どもの立場でございます。ただ実際にはですね、先ほどの大津いじめ事案にあったように、放送時に、特にデジタル化した時代の放送を無断で二次利用するという現状においては、例外的な顔なしインタビューを放送する要件がきっちり確立され、運用される必要があるだろうと考えております。特に名誉、プライバシーの保護のためにはぼかしとかモザイク処理は十分に行う必要があります。
先ほどの話にもつながりますが、取材源の秘匿は絶対必要だということもあります。それから客観性や真実性の担保の努力という点ではできる限り顔ありインタビューを原則とする。ただし放送の段階ではぼかしの処理をしないといけないというケースも出て来ると思います。今日、先ほど見ていただいた大津いじめの事件報道で、瞬間的に名前が出たところは問題になりましたけども、それ以外のぼかしの仕方はかなりきっちりできていたんじゃないかなということで、それとの比較の観点からも、放送倫理上、問題があるんじゃないかということを考えた次第です。
いずれいろんな研究会で、また取り上げることにはなるかと思いますけども、そのあたり、撮影をする、取材をする、その時点の問題と、放送するときの処理の仕方というところを少し分けて考える必要が出て来ているのではないかということを思っています。まだ委員会では審議、検討している段階ですので、ある程度まとまったところで委員長談話のような形で出したいなとは思っています。特に現場で、ぼかしをしなきゃいけないんじゃないかってことで、取材の時点で、安易に妥協しないような取材をしていただきたいとの希望を持っています。

◆各局の現状◆

  • 平成23年にハンドブックを作り、その中でモザイクあるいは顔なしのインタビュー等について、一応規定しております。取材・放送については、実名報道が原則というところを明記しまして、モザイク・ぼかし等については例外措置であると謳っております。安易に使うことは避けましょうと呼びかけをしております。
    最近の傾向として、一般の方も実際の放送を見て、インタビューで顔が出ないケースが多いと思われてか、取材対象者のほうが顔を出さなければ取材、インタビューに応じるというケースが増えているように見受けられます。難しいのが共同取材、共同インタビューみたいに事件現場等で、どうしても1社がもう顔なしでいいですというふうに応じてしまうと、それに従わざるを得ないというケースもあると思います。そのあたりはある程度、各社さん、たぶん方向性は一緒だとは思うんですが、足並みがそろえばいいなと思っています。

  • 自社でそうした規定は作っておりません。系列キー局で作っている放送ハンドブック、記者ハンドブック、また民放連から配られる倫理手帳とか、そういったものを基準にしながらケースバイケースで対応しているところです。
    弊社も基本的には顔出しインタビューの方向ということで指示していますが、最近、事件・事故、火災等の現場等で、一般の方の意識として、インタビューっていうのは顔出さずに受けられるものみたいな、あるいは顔出しを非常に嫌がるという、昔と比べて取材がしにくい。現場から、なんで顔出して撮ってこないんだと言ったときに、本当にもうなかなか承諾してくれる人が少ないですよと、安易に走っているつもりはありませんと言われます。実際、現場でなかなか撮れるのが少なくなっていると記者から聞きます。

  • 独自のマニュアルはありません。キー局のガイドラインを参考にしながら、その事案ごとに対応を協議しているというのが実態です。やはり実名報道、顔がちゃんとあって、きちんと誰が証言をしているか、インタビューをしているかがわかるような形で撮るのがベストだと、普段から現場の記者には伝えています。モザイクが多いと視聴者から不信感を持たれかねないので、非常にモザイク報道が増えていることに対して危惧を覚えています。

◆三宅委員長から締め括りのあいさつ◆

長時間意見交換ができて、大変私どもも有意義な時間を過ごせたと思っております。最近の例、冒頭少しコメントさせていただきましたが、放送倫理の問題として、非常に難しい判断を迫られる、なおかつ新しいそのメディアが置かれている状況、二次的被害と放送される側からいえばそういう形ですし、こちらとしては意図していない被害をあたえかねないという状況もあります。
最近は、ニュースが一旦放送されると、各局のホームページ上で何度も見られるような状況にもなっておりますので、一回性の放送ではないという状況を自ら局側も作っている様子が伺えます。新しい時代状況に応じて、放送倫理のあり方をきめ細かく考えていく時期にきているのではないかなと思っています。
ただ、最後のモザイク処理の関係でいいますと、見ていると、やはり顔なしインタビューが多いです。真実に迫る正確な報道という点で取材される人との信頼関係を構築していただいて、正確に顔あり報道をしていただきたい。単に放送だけにとどまらず、個人情報保護法とか、秘密保護法とか、非常にメディアを取り巻く状況、表現の自由を取り巻く状況が厳しくなっている折に、安易な状況に流されると放送自体が匿名化社会に拍車をかけるということにもなりかねません。その辺に、私どもも気をつけながら、皆さんとともにできる限りいい放送するように心掛ける、そういう私どもの立場というものも考えながら議論をしていきたいと思っております。
今後ともまたこういう機会をできるかぎり作って頂いて、いい放送になり、且つ権力からの介入を受けないで、自律して放送業界がやっていけることを目指していきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。本日はどうもご苦労さまでした。

以上

第206回 放送と人権等権利に関する委員会

第206回 – 2014年2月

大阪市長選関連報道事案の対応報告
児童養護施設関連ドラマ…など

「大阪市長選関連報道への申立て」事案で、朝日放送から提出された対応報告を改めて検討した。児童養護施設関連ドラマに対する申立書について、審理事案とする要件を満たしているかどうかなどを検討した。

議事の詳細

日時
2014年2月18日(火)午後4時~7時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「大阪市長選関連報道への申立て」対応報告について

本事案で、「勧告」として「放送倫理上重大な問題あり」の決定を受けた朝日放送から提出された報告「放送人権委員会決定後の取り組みについて」(2013年12月24日付)を、前回の委員会に引き続いて検討した。
その結果、朝日放送が決定の通知を受けて発表した「広報コメント」の内容やその後の取り組み等に関する考えを委員会の「意見」として取りまとめ、民放連の「放送倫理・番組向上機構への対応に関する申し合わせ」(2003年6月19日付)に基いて、これを付して報告を公表することになった。(局の報告と委員会の意見はこちらから

2.児童養護施設関連ドラマ

児童養護施設を舞台にしたドラマに対する申立書について、委員会運営規則に照らして審理事案とする要件を満たしているかどうかなどを検討した。放送人権委員会としては、本ドラマについて審議入りするかどうか討論を続けていく青少年委員会の動きを見守りつつ、次回委員会で引き続き申立書の内容を検討する。

3.「匿名インタビュー、モザイク処理の在り方」

報道・情報番組における匿名インタビューやモザイク処理について、事務局が調査結果を報告し、それを踏まえて各委員が意見を述べた。調査結果をさらに分析し、次回委員会で議論を継続することになった。

4.その他

  • 1月21日に行われた「宗教団体会員からの申立て」事案の通知・公表について、「委員会決定」の内容を伝える当該局テレビ東京のニュース番組の同録DVDを視聴した。

  • 1月30日に開催した鹿児島県内加盟放送局との意見交換会について、その模様を伝える地元局のニュース番組の同録DVDを視聴しながら事務局が報告した。

  • 次回委員会は3月18日に開かれる。

以上

第205回 放送と人権等権利に関する委員会

第205回 – 2014年1月

宗教団体会員事案の通知・公表の報告
大阪市長選関連報道事案の対応報告書…など

「宗教団体会員からの申立て」事案の通知・公表の概要を事務局が報告した。「大阪市長選関連報道への申立て」事案で、朝日放送から提出された対応報告書について検討した。

議事の詳細

日時
2014年1月21日(火)午後4時~6時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「宗教団体会員からの申立て」事案の通知・公表の報告

委員会に先立ってこの日行われた本事案に関する「委員会決定」の通知・公表の概要を事務局が口頭で報告した。【詳細はこちら

2.「大阪市長選関連報道への申立て」事案の対応報告書

本事案で「勧告」として「放送倫理上重大な問題あり」の決定を受けた朝日放送から、対応と取り組みをまとめた報告書(2013年12月24日付)が委員会に提出された。
報告内容について意見が出され、次回委員会でさらに検討のうえ対応を決めることになった。

3.「匿名インタビュー、モザイク処理の在り方」

報道・情報番組における匿名インタビューやモザイク処理について、事務局がまとめた各局のルールやガイドラインに関する資料(海外放送局を含む)を説明し、それもとに各委員が意見を述べた。事務局がさらに調査し、次回委員会で議論を継続することになった。

4.その他

次回委員会は2月18日に開かれる。

以上

2014年1月21日

「宗教団体会員からの申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は1月21日、上記事案について通知・公表を行い「本件放送の公共性・公益性を高く評価するものであるが、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えず、放送倫理上問題があると判断する」との「見解」を示した。

[通知]
通知は、午後1時からBPO会議室で行われた。三宅弘委員長と起草を担当した市川正司委員、田中里沙委員が出席、申立人本人と被申立人であるテレビ東京の報道局次長ら3人に対し、三宅委員長が決定文のポイントを読み上げ、説明を加えた。
決定について申立人は、「私の立場等も十分に検討した上で、丁寧かつ慎重に審理していただいたことが分かりました。人権侵害については、少し残念なところはあるのですが、放送倫理上の問題という観点から、プライバシーについて問題があるという判断は、十分考慮していただいた内容かと思います」と述べた。また、テレビ東京は「公共性・公益性が高いことを認めていただいたのは大変ありがたいが、我々もこれまでになく丁寧にやった上でのことなので、もう少し決定を読み込んだ上で、意見などを書くこともあるかと思います。我々にとって非常に勉強になる例なので、携わる者全員に、もう一度、徹底して勉強の材料にして、これを次の良い報道につなげていきたいと思います」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。22社50人が取材した。
会見では三宅委員長が委員会決定に沿って委員会の判断や考え方などを説明し、記者からの質問を受けた。

(質問)
申立人は再放送をしてくれるなと申し立てているが、委員会の決定は「プライバシーに配慮した放送を要望する」と書いてあるだけだ。再放送については「放送局の判断」ということなのか。
(三宅委員長)
そうだ。「再放送をしてくれるな」と言うことは、表現の自由にも関わる。そこまでは立ち入っていないということだ。

(質問)
委員の間で、プライバシー侵害かどうかという判断が分かれたということだが、概ね拮抗していたのか。
(三宅委員長)
拮抗していた。

(質問)
テレビ東京は申立人に対して、全く取材の許可を得ていなかったのか。
(三宅委員長)
放送された映像や、ヒアリング等で確認した限りでは、そうだった。
承諾を取れるような対象だったのかどうか、という点はいろいろあると思う。場合によっては承諾がなくても、本人が特定出来ないようなボカシのかけ方をすれば、放送された内容を公共性・公益性の観点から検討して、プライバシー侵害かどうかを判断することになる。
今回の判断は、申立人を知る者には特定出来るのではないかということを前提として、承諾を得ずにカウンセリングの内容や手紙の内容を放送している点について判断をした。本件では本人の承諾がないが、公共性・公益性はかなり高く認めた。その上で、放送倫理の問題として、いろいろなことを考えた結果、もう少し配慮があるべきではなかったかと判断した。

(質問)
今回の事案に則して考えれば、人物が特定出来ない状況で放送すれば、カウンセリングや手紙の内容を放送しても放送倫理上問題がなかった、という判断になっていたのか。
(三宅委員長)
カウンセリングと手紙の点はリアリティを持たせる手法としては有効だと思うが、それを追求すればするほど、本人のプライバシーの部分に入って行くので、プライバシーとの関連が非常に難しいところがある。公共性・公益性が高いから、1分程度の映像が出ても許されるのではないかという意見から、心の中に入って行くという形式的な観点から言えば、それはやはりプライバシー侵害ではないかという意見まで、委員の中でも、プライバシーについての理解の仕方に幅がある。
映像を作る側の観点だけではなく、映される側、放送される側の観点からも考えて、知られたくないと思う範囲を慎重に判断して行かなければならない。今回は特にそういう点を、読み取ってもらいたい。
最近は、テレビ放送で終わるのではなく、それがネットに流れたりする。そのことで、二次的被害が生じてしまうというメディアの状況の中で、テレビの映像なり放送がどのように使われるのか、ということも配慮しながら、プライバシーの侵害の問題を議論して行かなければならないという点では、非常に難しい。
我々としては、取材段階できっちり特定して取材してほしい。あまり顔なしで取材してほしくないというのは何度も言っているが、放送をする時には、心の機微に触れるものであればあるほど、特定されないような表現方法を採ることで、脇を固めることが大事なのではないか、ということを、このケースでは考えさせられた。
(市川委員)
「特定できなければ問題はない、という理解なのか?」、という点については、仮定の話なのでちょっとお答えしがたい。
ただ、本件で問題にしている「本件放送部分」というのは、カウンセリングを外から隠し撮りしたところと、私信の公表という2つの部分で、もし特定出来なかったとしても、申立人本人にとっては自分が話したことだということが理解出来るので、そのことが放送されること自体を保護すべき利益だと考えるという見方も当然あり得る。そこでの問題性は、議論される可能性はあると思う。
(田中委員)
この放送は、ごく普通の若者がなぜ入信していくのか、というところに焦点を当てており、ごくごく普通の若者を表現するための素材が、いくつか提示されたわけだ。委員会の判断は、この素材を総合していくと特定につながるのではないかということであり、こういう情報の扱いについては今後検討しなければいけない時期に来ているのではないかと審理の過程で感じた。

(質問)
論点のところに「隠し撮り、隠し録音の取材手法とその放送の当否」が放送倫理上の問題としてあがっているが、取材方法については特に今回の判断の中では示していないという理解でよいのか。
(市川委員)
そうだ。隠し録音、隠し撮りが、どういう場合に許容されるか、されないか、についての判断をしているということではなく、むしろ取材対象としてのカウンセリングの部分に踏み込んで撮影した点での問題性を指摘した。
(三宅委員長)
付け加えると、従前の決定では、隠しカメラ、隠しマイクは、原則として使用すべきでなく、例外として使用が許されるのは、報道の事実に公共性・公益性が存在し、かつ、隠しカメラ、隠しマイクによる取材が不可欠の場合に限定されるべきである、という基準がある。今回はそれを前提として、問題の部分の放送の仕方を議論したということだ。

(質問)
当事者の承諾を得ていないと隠し録音ではないかという気もするが、今回のケースは事前に承諾が得られるような状況ではなかったということもあり、通常の場合とは違うということか。
(三宅委員長)
先程言った基準から言えば、例外的な場合ということがあり得るし、公共性・公益性に高い評価をしていることからすると、プライバシー侵害の点からどうかという点で、掘り下げて行けば、かなりいろいろな問題で議論出来るとは思う。しかし、その辺は従前の基準に照らして、あまり問題ないということで、深めてはいないということだ。

(質問)
論点の中に、「具体的な被害はあったか」とあるが、具体的な被害というのは、放送を見た人によって申立人が特定され、それが広まる可能性があったということか。
(三宅委員長)
プライバシー侵害かどうか、その違法性が阻却されるかどうかという点はあるが、他人に知られたくない自分の内面を知られてしまったという点が、具体的な被害と言えば被害であろうと思う。

(質問)
本人が何を考え、なぜ入信しようとしたかは、当人の内面に踏み込まない限り分からないのではないか。カウンセリングの隠し撮り、私信を使ったこと自体が、本来は保護すべき利益という考え方もあるとのことだが、その点をもう少し説明してほしい。
(三宅委員長)
本件放送の一番大事な点は、若者が何を考え、なぜ入信しようとしたのか、というところだから、そこを取材することは、必要なことだと思う。だから、隠し撮りとか隠し録音のような点を批判しているという決定内容ではない。そのことは理解されたとして、どういう形で放送するのかというところに、難しい点がある。今のネット社会におけるテレビの利用のされ方という点から、表現手法にかなり気を配ってやっていく必要が今後は出て来ると特に強く思っているので、その辺を考慮した。

(質問)
プライバシー侵害として白黒つけるためには、本人に対する救済の必要性が高いかどうか、という議論があったということだが、もう少し詳しく必要性についてどう判断したのか説明してほしい。
(三宅委員長)
放送の公共性・公益性が極めて高い放送なので、プライバシー侵害として違法だという判断をするかどうかという点が非常に難しく、委員会では意見が一致しなかった。ただし、放送倫理の問題として、こういうことを局側に望む、という点では意見が一致したので、その限りで本人を救済したという結果になった。本人に対する救済の必要性との関係は、公共性・公益性との兼ね合いでバランスをとるということだ。

以上

2013年度 第52号

「宗教団体会員からの申立て」に関する委員会決定

2014年1月21日 放送局:株式会社テレビ東京

見解:放送倫理上問題あり
テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、公道で隠し撮影された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーを侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、1月21日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送には放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

 テレビ東京は、2012年12月30日午前1時25分から午前2時25分まで、『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』と題する番組で、オウム真理教の後継団体であるアレフの活動状況と、新たにアレフの信者となった若者らの様子をローカル放送した。番組は、申立人をアレフの信者であると紹介しつつ、申立人の顔に一定のボカシをかけながら、申立人が特定の地方都市の国立大学を放送の年に卒業したこと、年齢や出身地方を説明し、その大学を想起させる大学の構内や学部名の入った門柱の映像、実家付近の駅周辺の映像、卒業式らしき場で友人たちと写る写真などを放送した。また、申立人が実家で、アレフ脱会のカウンセラーからカウンセリングを受け、思春期の悩み等から信仰に至ったことを話す状況をカウンセラーのみの了承のもとで隠し録音し、音声を変えたうえで放送し、さらに、申立人が両親に送った私信の映像を流しながら、信仰に対する考え方を書いた部分のナレーションによる朗読を挿入するなどした。
委員会は、申立人から本件放送によってプライバシー権などを侵害されたとの申立てを受けて審理し、「見解」に至った。決定の概要は以下の通りである。
委員会は、アレフの危険性についての疑惑などに関係する調査報道を行う本件放送の公共性・公益性を高く評価し、今、なぜ若者がアレフに入信するのかを明らかにすることを目的とした本件放送の申立人に関する部分についても同様に公共性・公益性を認めるものである。
しかし、本件放送においては、申立人の顔に一定のボカシをかけ、申立人の声を機械的処理により変換したものの、年齢、出身地方や出身国立大学のある都市の情報、出身大学を想起させる構内や学部名の入った門柱の映像、実家付近の駅周辺の映像、卒業式らしき場での友人と写った写真などの情報を放送の中で順次示した。このため、申立人を知る一定の者には、本件放送の対象が申立人であると特定できることとなっている。
このように本件放送の対象が申立人であると特定できる状況下で、申立人が脱会カウンセラーとの間で脱会に関するカウンセリングを受けている場を、カウンセラーのみの了承のもとで隠し録音して放送し、申立人が両親に宛てた手紙を両親から提供を受けて放映しながらその内容をナレーションで朗読して放送し、申立人の思春期の心情や信仰に至る経緯を語る部分を明らかにしたことは、申立人の承諾なく私生活の領域に深く立ち入るものであり、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えない。この放送部分の内容がプライバシー権の侵害に至るものであるか否かについては委員の意見は一致しなかったが、この放送部分に放送倫理上の問題があることで委員の意見は一致した。
いかに本件放送部分に高い公共性・公益性が認められるといっても、申立人と特定しうる状況下において、カウンセリングを受ける場や、両親に宛てた私信などの申立人の私生活の領域に、申立人の承諾なく踏み込んだ放送を行うことは、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えず、放送倫理上問題があると判断する。
委員会は、本件放送の公共性・公益性を高く評価するものであるが、本件放送部分は、その放送目的を追求するあまり、申立人のプライバシーに対する十分な配慮があるとは言えない結果となったものであり、テレビ東京に本決定の主旨を放送するとともに、今後、プライバシーに配慮した放送を要望するものである。

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2014年1月21日 第52号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第52号

申立人
宗教団体会員の男性
被申立人
株式会社テレビ東京
苦情の対象となった番組
『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』
放送日時
2012年12月30日(日)午前1時25分~2時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送は、申立人のプライバシー権、肖像権を侵害するものであるか
    • (1)申立人をアレフ信者であるとして、脱会カウンセリングの模様の隠し録音の内容と、私信の映像・内容などを放送したことと、申立人のプライバシー権
    • (2)商店街を歩く申立人、帰省時の申立人の撮影・放送と肖像権
    • (3)本件放送は申立人本人を特定しうるものであったか
    • (4)公共性・公益性とプライバシー権侵害の判断について
  • 2.本件放送の放送倫理上の問題について
    • (1)申立人の特定可能性への配慮
    • (2)カウンセリングの隠し録音と両親への私信の撮影・朗読の問題点
    • (3)本件放送の公共性・公益性により本件放送部分が許容されるか
    • (4)アレフの団体としての取材拒否、申立人の両親の承諾との関係

III.結論

IV.番組の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2014年1月21日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は1月21日午後1時からBPO会議室で、上記事案の「委員会決定」を通知し、その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き公表した。報道関係者は22社50人が出席した。
詳細はこちら。

2014年5月20日 委員会決定に対するテレビ東京の対応と取り組み

2014年1月21日に通知・公表された「委員会決定第52号」に対し、テレビ東京から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月18日付で提出され、5月20日の第209回委員会で検討された。
委員会では、「題材に高い公共性・公益性があるとしても、放送内容によっては放送倫理上問題ありとされることを認識してほしい」との意見なども述べられた。

全文PDFはこちらpdf

目 次

  • 1.委員会決定後の対応
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.決定についての検討内容等
  • 4.むすび

第204回 放送と人権等権利に関する委員会

第204回 – 2013年12月

宗教団体会員事案の審理…など

「宗教団体会員からの申立て」事案について審理し、「委員会決定」修正案を了承し、本事案に関する「委員会決定」の通知・公表を2014年1月に行うことになった。

議事の詳細

日時
2013年12月17日(火)午後4時~6時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、
曽我部委員、田中委員、林委員

1.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』で、在家信者として紹介された男性が、公道で隠し撮影された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーを侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
テレビ東京は、「公安調査庁の観察処分の対象となっている団体の実態を明らかにするには、私たちのとった取材手法以外に方法はなかった。編集に際しては、男性の映像や音声、写真には加工を施すなど人権の保護に配慮して放送し、問題はないと判断している」等と、反論している。
この日の委員会では、第4回起草委員会での検討を経た「委員会決定」案が示され、審理の結果、一部の文言を修正のうえ最終的に了承された。
「委員会決定」の通知・公表は2014年1月に行うことを決めた。

2.その他

  • 「大阪市長選関連報道への申立て」事案の委員会決定について当該局の朝日放送で11月26日に研修会が開かれ、その概要を事務局が報告した。三宅弘委員長と起草担当の曽我部真裕委員が出席し、報道局社員ら46人が2時間余にわたって決定内容の説明を受けて意見を交わした。

  • 次回委員会は2014年1月21日に開かれる。

以上

第203回 放送と人権等権利に関する委員会

第203回 – 2013年11月

フジテレビの対応報告書
宗教団体会員事案の審理・・・など

「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案で、フジテレビから提出された対応報告書を了承した。「宗教団体会員からの申立て」事案について審理し、「委員会決定」案をさらに検討した。

議事の詳細

日時
2013年11月19日(火)午後4時~6時25分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、
曽我部委員、田中委員、林委員

1.「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の対応報告書

2013年8月9日に通知・公表された「委員会決定第50号」に対し、フジテレビより局としての対応と取り組みをまとめた報告書が11月5日付で提出された。この日の委員会で報告書の内容が検討され、了承された。

2.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」で、番組で紹介された男性が、公道で盗撮された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
この日の委員会では、前回委員会と前週開かれた第3回起草委員会での議論を反映した「委員会決定」案について検討した。本件放送で申立人が特定されるかどうか、プライバシー侵害と番組の公共性・公益性との関係などについて各委員が意見を述べ、委員会決定の方向性を煮詰めた。
次回委員会でさらに審理を進める。

3.その他

  • 次回委員会は12月17日に開かれる。
  • 県単位の意見交換会を2014年1月30日に鹿児島で開催する。

以上

2013年10月

意見交換会を大阪で開催

放送人権委員会は、近畿地区の放送事業者との意見交換会を10月29日に大阪で開催した。毎年1回地区単位で意見交換会を開いており、近畿地区での開催は2006年以来7年ぶりで、10社77人が出席した。委員会側からは三宅弘委員長ら9人の委員全員が出席し、前半では曽我部真裕委員が判例や放送番組をもとに報告を行い、休憩後の後半では最近の「委員会決定」をめぐって人権や放送倫理について意見をかわした。予定を上回る3時間20分にわたって議論をした。

概要は以下のとおりである。

◆三宅弘委員長 冒頭あいさつ◆

ご承知のとおり、特定秘密保護法案が国会に提案をされようとしています。サツ回りを日ごろされている報道機関の方々にとっても、テロとかスパイということで行政機関の長が認定した情報が特定秘密になるということで、これは都道府県の警察本部長まで含みますので、霞ヶ関以外の取材・報道関係者にとっても、非常に危険なものだと考えています。法案の中身を見ると、戦前の国防保安法(1937年)、軍機保護法(1941年)に似た条文があります。それはまさに戦前の治安維持法をベースにさまざまな戦時立法の中で作られた法律です。普通の戦争のできる国に舵が切られようとしている状況だと私は考えています。
ことし6月に亡くなったBPOの初代理事長の清水英夫さんが30年以上前に情報公開権利宣言というのを自ら起案されて、情報公開を求める市民運動の宣言としました。その一節に、「国民の目と耳が覆われ、基本的な国政情報から隔離されるとき、いかなる惨禍に見舞われるかは、過去の戦争を通して私たちが痛切に体験したところである」とあります。清水さんは学徒動員で出陣した経験の持ち主だから、このひと言でおわかりになったと思いますが、私どもは過去の歴史を読み解きながら追体験しなければなりません。報道機関には国家秘密のベールを切り裂き、鋭い調査報道がますます求められるのではないかと考えています。放送に求められる社会的な要請というのはこれからもますます強くなると思います。
そういう中で、私たち放送人権委員会がどういう役割を果たすのかということを常日ごろ考えています。報道に対して無用な権力介入を招かないように、取材、報道は放送の対象者の名誉、プライバシーを侵すことなく、放送倫理にもかなう必要があります。そのためのアドバイスをするという役割が、私どもの機関であると認識しています。
清水さんは、かつて放送人権委員会は「必要悪」だと言われました。私の先代の堀野委員長は、「辛口の友人」という言葉で話されました。こちらから友人と言ってもそちらから受け入れていただけるかどうか? きょうの意見交換会などを通じて友情を深めたいと思っています。

◆曽我部真裕委員の報告◆

「報道と人権-最近の事例から改めて確認する」

曽我部委員は、名誉毀損の法律的な枠組みの確認として(1)適示事実の公共性(2)目的の公益性(3)真実・真実相当性といった名誉毀損の正当化自由などの説明に続いて、裁判所の判断の基準について、最近の判例を基に報告した。

何を放送したかがポイント

まず、名誉毀損を判断するときに、何を放送したかがそもそも争いになる場合があります。番組というのは一定の長さがあるし、ニュアンスのある表現も含まれているので、番組が何を提示しているのかということを確定する必要がある場合があります。なぜそういう必要があるのかというと、1つは、そもそもこれが名誉毀損にあたるのかどうかという点、もう1つは、免責事由のときに何を証明したら真実証明になるのかという点に関連する場合があるからです。
民放キー局が埼玉県の所沢産の野菜がダイオキシンに汚染されていると報道したことに対し農家が名誉毀損だと訴えた事案で、高裁判決と最高裁判決とで、この番組が何を放送したのかということについての理解が違いました。そこが勝敗に直結したというところに注目したいと思います。
高裁判決は、このダイオキシン報道の中身の要約として、「民間の研究所が所沢産の野菜を調査したところ、1グラムあたり0.64から3.80ピコグラムTEQのダイオキシンが検出されたこと」というのが放送内容だったと理解しました。これを立証できるかという問題になったときに、1グラムあたり3.4ピコグラムTEQの白菜が1つあったので、これは「真実性あり」だと認定しました。
これに対して最高裁は報道の要約を、「ホウレンソウを中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシンによる高濃度の汚染状態にあり、その測定値が1グラムあたり0.64から3.80ピコグラムTEQもの高い数字があること」としました。そうすると、白菜が1点だけあっただけでは「真実の証明になりません」ということなのです。放送が何を言ったかを判断する基準は、「一般視聴者の普通の注意と見方」です。テレビの場合は、ナレーションとか効果音とかいろいろな演出があるので、それも総合的に加味して一般人の基準で判断します。その結果、最高裁は単にそういう高濃度の汚染されている野菜が少しあるというだけではなくて、全般的にあるという印象を与えたのだという理解をしているということです。

未確認情報の報道に関する異なる判例

次に、未確認情報の報道の場合の裁判所の判断を確認します。うわさであると断わったうえで、社会的評価を低下させるようなことを報道した場合に、何を立証すればいいのでしょうか。1968年の最高裁の決定は、「真実性立証の対象となるのは、風評そのものが存在することではなく、その風評の内容である事実の真否」だと判断しました。これは非常に古い判断ですが、最近になっても同様の判断があります。2005年の東京高裁の判決で、「名誉毀損の違法性の判断においては、真実性の証明の対象は疑惑の対象として指摘される事実」だ、というふうに判断をしています。疑惑報道の場合であっても、疑惑の内容の真実性を立証することが求められるということだとすると、これは報道機関にとってかなり厳しい判断です。
そうでない判断も幸いなことにあります。2002年の東京高裁の判決で、ある夕刊紙がある県の県会議員が多額の脱税をしているという疑惑を報道したことに関するものです。判決では、「立候補者にかかる事柄である場合は、民主的政治の土台としての表現の自由・報道の自由が最大限に尊重されるべき」だ、というスタンスをまず述べているのが注目されますが、それをふまえて「真実であること、真実であると信ずるについて相当の理由があることの完全な証明がなくても、疑念、疑惑として合理的な根拠があり、国民、政党、議会等あるいは司直の手によって今後の更なる真実究明をする必要があることを社会的に訴えるために、これを意見ないし論評として表明することは民主的政治の維持のために許容されるべきであり、これを報道することは違法性を欠く」というふうに示しています。

未確認情報をどう報道するか

要は裁判例は分かれているということですが、では、どのように考えるべきかというと、佃克彦著の「名誉毀損の法律実務(第2版)」には、次のように書かれています。風評形式の記事の場合は、先ほどの1968年の最高裁判決の判断方法が妥当すると解すべきではないとしています。佃氏は「その記事がいかなる事実を適示していると読者が受け止めるかの問題であって、記事の形式によって判断方法が自動的に決まるわけでない」と、「メディアとしては事実として書ける部分と、推測にとどまる部分を明確に分け、表現の仕方に注意して報じることが必要」だということです。そういう形で真摯にやっていれば、メディアが救済されることになると思われます。
これらの判決や見解をふまえると、さしあたり次のようなことが言えるのではないでしょうか。まず、最低限、「疑惑報道」であることが視聴者に理解されなければなりません。この問題は、何を放送したかということと同じで、一般の視聴者の基準で判断します。つまり視聴者がその放送を見て、これは断定的に言っていると判断するのか、疑惑報道だと理解するのか、それにかかるということと思われます。
そのうえで、疑惑報道だと理解されるようなものであったとしても、疑惑であると言えば何でも報道していいというわけでは当然なくて、次の2点が必要になります。つまり、(1)取材は可能な限りしたうえで、疑惑として合理的な根拠があること、さらに、(2)さらなる真実究明が必要であることを訴える必要があることです。これは疑惑段階であえて報じる価値があるというような趣旨です。
つまり、疑惑としての合理的な根拠が必要であり、疑惑段階で報じる価値があることというのが少なくとも必要だと思われます。現在のところ、裁判所の判断は分かれていますが、少なくとも今述べたことは満たす必要があると思われます。こうした点を後ほどの議論の参考にしていただきたく思います。

曽我部委員は、続いて裁判員制度と報道という論点から事件報道で配慮すべき点などについて説明し報告を終えた。

◆決定50号「大津いじめ事件報道に対する申立て」について◆

まず、起草担当の委員が決定のポイント等を説明してから、意見交換に入った。

奥武則委員長代行:今回の決定のポイントは、一つはインターネット上に少年の実名が判読できる画像が掲載され、その画像を放送したテレビ局の責任をどこまで問えるかということですが、名誉毀損とかプライバシー侵害といった人権上の問題を考えた時に、実際に放送されたテレビの画像では分からないわけですですから、そこでは人権侵害の問題は生じないと、そういう判断をまず前段でしているわけです。
しかし、放送が静止画として切り取られてインターネットに流れる、そういう新しいメディア状況をどういうふうに判断するかという問題が2番目の焦点になるわけです。放送された画面を勝手に切り取って、それをインターネットにアップするという第三者の故意行為は、著作権法に違反する行為であり、そういう第三者の違反行為が介在しているから責任ありませんよ、と局側は言うわけですね。それは、そのとおりだと考えざるを得ないところがある。しかし、問題はその先で、ニュースなり番組を作る人が、新しいメディア状況をどこまでしっかり考えて作らなければいけないのかという点です。この場合、特にいじめ事件という世の中にずいぶん喧伝されて話題になった事件で、少年が関わっているわけですから、その実名に関わる情報、画像の扱いは極めて慎重にしなければいけないと、その点でミスがありましたと、決定ではそういう判断をしたわけです。
それから、なぜこういうミスが起こったのかという問題ですが、実際ヒアリングで聞いても、どうしてこういうことが起こったのか、実はよく分からないところがあるんです。「そこをもっとしっかり究明しろ」とおっしゃる方もいますが、それは放送人権委員会の仕事からちょっと逸脱するだろうと思っています。決定では、全員が見過ごしたというか、考えが及ばなかったという意味で、報道現場全体の人権感覚の欠如ということを指摘したわけです。
私がテレビ局の現場の方々に求めたいのは、やっぱり一人一人が仕事をしていく中でのある種の感覚ですね、「ここは、やっぱりちょっと気を付けなきゃいけない」とか「ここまではやっちゃいけない」とか、そういう感覚を一人一人が身に付けて、判断していくしかないんであって、決定文の表現になると、「人権感覚の涵養」とか、「高度に研ぎ澄ました人権感覚」とか、そういう堅苦しい言葉にならざるを得ないのですが、結局どんなにしっかりシステムを整えて管理する仕組みを作っても、そこで働いている人間がしっかりしてなきゃダメなんですよね。結局、最後は人間だという気がしていまして、こういう決定文になったわけです。

大石芳野委員:アンケートの回答を拝読しますと、「大津いじめ事件の問題は他山の石」と答えてらっしゃる方が何人かいらっしゃって、審理をしていても新しい大きな問題だなというふうに思いました。「ビデオテープの時代でも、止めれば判読できた」というご意見もありましたけれども、結局、今の新しい時代に入っての問題だったと思います。
それで、どうして起こったかというと、やはり奥代行がおっしゃいましたけれども、機械の問題ではなく人間の問題だったかなと。なぜこの映像素材を3種類(モザイク処理したもの、モザイク処理のないもの、黒塗りをしたもの)作ったのか、局にヒアリングで聞きましたが、明確な答えがありませんでした。アンケートでは、「現場が忙し過ぎた」、「流れ作業だった」とか、「意思の疎通が不足だった」とお書きになった方もいらっしゃいますけれども、やはり、そういうことだったんだろうなと思います。というのは、局はずっと長い間この3種類を使ってきたわけですから、今回だけというわけではなく、長い間使っていた、それが今回は誰も気付かなかったというのがヒアリングでの答えで、担当の人のミスということになっていますが、一人のせいにしてしまうのは、どうなのかなと私は考えたりしています。
記者だけではなく、派遣の人も、子会社の人も、いろんな人たちが集まって放送、ニュースを作っているようですので、そういう中で一番大事なのはジャーナリスト感覚だと思うんです。これはバラエティでもドラマでも、放送に関わる人はみなジャーナリストでなければならないと私は強く思っています。落としたら割れると分かっていた器を落としてしまった原因は何だったのか、しっかり握っていなかったのか、あるいはよそ見していたのか、そういう人間の意識に関わってきますので、これは皆さんだけでなく、私にとっても大事なジャーナリストとしての自覚というか、認識というか、そういうものに関わってくるかなということを、つくづく感じております。

【謝罪放送について】

(以下、会場からの発言)

  • 今回の事案では、局が放送で謝罪をしたことによって、「え、そんな映像が流れたんだ」ということで拡散した部分もあったと思うんです。もしかしたら、放送で謝罪せずにご本人に謝罪するところに留めておけば、こんなに拡散しなかったかもしれないと思ってしまって。どういう謝罪が正しいのか、うかがいたい。

奥委員長代行:ご質問の点は委員会でもかなり議論がありました。確かに謝罪放送が一つのきっかけになった部分はあるだろうと思いますが、じゃあ、謝罪放送がなければ、ああいう形のバッシングが加速・過熱しなかったかというと、それは全く検証できないということが一つありますね。
それから皆さん、テレビ局の現場にいらっしゃる方ですから、ぜひ自分の問題として考えていただきたいんですけれども、今回のケースで言えば、テレビ局は当初は全然認識がなかったわけです。翌日の午前中、新聞社から電話が入って、「お宅のテレビの画像がインターネットに流れて大問題になっているよ」と取材を受けたんですね。その段階で、テレビ局の現場の方がどういう判断をするか。これは個人情報に関わる問題だから、テレビで謝罪しないで当事者にだけ「ごめんなさい」と謝って済ませるか。今質問された方は、そういう選択もあるのではないかとおっしゃったわけですけども、どうでしょうかね? 
やっぱり自分のテレビニュースの映像が素材になって大きな問題になっている、人権問題が生じていると分かった時に、それはテレビ放送の問題としてあるわけですから、それをテレビの放送で何か口を拭っておくことは、やっぱりまずいのではないかというのが委員会の判断です。人権に関わるので、謝罪の仕方にも配慮して謝罪放送をした選択は正しかっただろうと、委員会は判断しました。

三宅委員長:ちょっと補足ですけど、局が謝罪しているということをふまえ、決定を出す前に、委員長として、委員会の総意でしたから、双方に和解で解決しませんかという話もしました。委員会の決定文が流れることによって、もう一度視聴者にこの放送の記憶を喚起させて、少年と母親がまたメディアやツイッター等でたたかれるようなことがあってはならないと思ったので、そういう配慮もいたしました。最終的には、申立人側は多少そういうことがあったとしても、きっちりした決定をもらいたいという判断をされて、和解には応じられませんでしたけども、それなりの働きかけをするという意味合いでも、謝罪放送は重要なポイントだったかなとは考えています。

  • 今回の場合、相手方に謝罪放送をするというコンタクトはとったんでしょうか? 当社では間違った情報を流した場合は、まず最初に先方と連絡を取ってご意見をお聞きして、最終的にどうするか判断しています。

奥委員長代行:局は、問題を把握した段階で、もちろんその当事者に連絡する段取りを取ったようなんですけれども、つかまらず、ちょっと経ってから代理人の弁護士と話し合いができたということでした。少し待ってから、謝罪放送をするかどうか考えることができた可能性はあるんですけれど、ただ、既に新聞社の取材が入っていて、記事に書かれる可能性がすごくあるわけです。そういう時に局として何も対応を取っていないというのは、選択としてはまずかろうと判断し、速やかに人権に配慮しつつ責任を認めたということだと思います。単純な誤りについて「ごめんなさい」と言うのとは相当違う問題があり、確かにいろんなケースがあるだろうなとは思っています。

【放送自体の問題性】

  • 決定の冒頭の「テレビ映像に限ればプライバシーの侵害には当たらない」という部分にすごく違和感を覚えます。要するに、放送そのものに一部でも出ている以上、ひとコマかも分からないですけれど、放送自体にプライバシー侵害の問題はなかったといえるのか、お聞きしたい。

三宅委員長:曽我部委員の報告にありましたが、「一般人の通常の見方」が最高裁の判断の基準です。ネット上でなくても、静止画像にしたら判読できるからプライバシー侵害に当たるのではないかという議論があることは十分承知していますが、私も何回その映像を見ても分からないんです。もう1.1秒ぐらいですから。しかも、テレビは真ん中を見ますが、ちょうど上の端なので、何回見ても分からないという状況ですので、「一般人の通常の見方」からすると、プライバシー侵害はちょっと酷じゃないかなと、それよりも放送倫理上の問題としてはっきり判断したほうが納得いただけるんじゃないかということも考えました。
明らかな名誉毀損とかプライバシー侵害の事例は、もう長年積み重ねられてきていますから、多分即座に放送局でも対応されて、委員会に来るまでに解決されているようなケースもあるのではないかと、私どもも推測しています。確かに非常に微妙なケースの申立てが多くなってきております。
そういう観点からすると、無理やり名誉毀損かプライバシー侵害かどうかを判断をするよりは、放送倫理上の問題としてこれからの放送に生かしていただくような見解を述べるということが委員会に求められているのではないかと。静止画像にできるからプライバシー侵害とするかどうかいう点について、最終的にそこは問わないという結論を委員会が出しているということを読んでいただけると、読み方として参考になるのではないかなと思います。

◆決定51号「大阪市長選関連報道への申立て」について◆

朝日放送の当該ニュースの同録DVDを視聴したあと、まず委員長と起草担当の委員が決定のポイントを説明した。

三宅委員長:短いストレートニュースですが、一番印象に残るのは、「スクープです」と言い切られたところと、内部告発者が「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」、そこのところが、やはり大きな問題点ではなかったかと考えております。 
曽我部委員の報告にありましたが、噂を報道する時は、その真実証明の対象が実際の噂があるということではなくて事実証明だという判例のグループと、疑いは疑いとして合理的な疑いとして報道をすればいいという判例の2つに分かれておりますが、今回の決定はどちらの立場かというと、疑いは疑いとして合理的に判断されるべきだというところに一応立っているわけです。そういう意味では、放送局側にかなり理解を示す立場という前提条件があります。それは決定の結論でも一文入れて、「また、疑惑を報道するのであれば、取材努力を尽くしたうえで、あくまでも疑惑の段階であることが明確になるようにすべきである」という、この一文が今言った判例の立場をベースに考えているということです。ただ、冒頭の「スクープです」がかなり強烈で、どうも「疑い」という感じがしないというころが、やはりこの委員会決定になった部分だと思います。
それから「やくざ」という強い表現の論評の部分ですね,あそこでどうしても使わないといけない映像なのか、非常に気になりました。短い報道であればあるほど、脇が甘くならないようにきっちり固めていただく必要があるのではないかということを、今回警告させていただいたと考えています。

小山剛委員:今回の決定の最初のポイントは、この放送が何を報道したのかということです。放送をご覧になって分かりますように、「疑惑」という言葉が2か所用いられていますが、回収リストについては、「疑惑」ではなく、当然に本物であるという扱いになっているという印象を受けました。それから内部告発者の「やくざと言ってもいいくらいの団体」というコメントですが、非常に視聴者に与えるインパクトが強く、かつまた「スクープ」という表現も含めて考えますと、組合がこのようなことをやったということを断定している、もしかすると交通局ぐるみかもしれない、もうちょっと大きな疑惑に広がる可能性があるということを伝えたのではないかと思います。単にこのような疑惑があったとか、市議会議員が調査活動をしたと報じたという受け止め方は、多分一般的な視聴者はしないのではないかと判断しました。
それから2番目ですが、仮に名誉毀損の場合でも、免責事由が満たされれば責任は問われません。この放送自体には確実に公共性はあっただろうし、別に組合たたきというわけではなくて、公益性もあっただろうと思います。しかし、最後の「真実相当性」が、委員会に提出された資料やヒアリングでお聞きした限りでは十分なご説明が得られなかったということです。特に、相手方に対する取材をせず、あのような報道をしたところが一番問題ではないかと感じております。

曽我部委員:2点だけ申し上げたいと思います。一つはアンケートの感想を拝見してということですが、「疑惑は疑惑として報じるべきだ」とか、「裏取りが重要である」というような回答が多くて、当該局も、もちろん一般論としてはそのことは当然ご承知と思うのですが、なぜ、そういうことになってしまったかというと、やはりアンケートの中に出てくるように、一つは「スクープということで、勇み足だったのではないか」というご意見がありますし、もう一つは、今回特有の問題に関することで、大阪では現市長就任以降いろいろな出来事があり、私も近所におりまして、非常に関心を呼んで多々報道されているというのは承知しております。そういう中で、やはりある種予断のようなものが生じてと言いますか、チェックが緩やかになってしまっていた部分も、おそらくあるのかなとは思っております。放送は旬を切り取るものだともいわれますので、こういうことを要求するのはなかなか難しいとは思うわけですけれども、やはり、一歩流れから距離を置いた立場で冷静に眺める目というものが必要ないかと感じたところでございます。
もう1点、この決定は名誉毀損の問題と放送倫理の問題を大きく2つ取り上げておりますが、最終的な結論は放送倫理上の問題とさせていただいております。今回の当事者は社会的関心の高い団体で、例のリストがねつ造だったことは大阪市も正式に調査され結果を発表されていて、それが報道されていることからすれば、リストがねつ造だったこと自体は、大阪市民というか関西一円の視聴者は、事後的であれ、理解され周知徹底されているだろうと思うわけです。そういうことからすると、名誉毀損自体はいったんは成立しているけれども、結果的に相当程度というか一定程度というか、それなりには回復されているとも考えられます。
むしろ、今回の事案で今後に生かしていただくべきは、報道における裏取りの問題ですとか、やくざ発言のあの段階での使い方、あるいは続報の在り方など、決定の「5.放送倫理上の問題」で4点ほど指摘しておりますけれども、そういった点を委員会の問題意識としてお伝えするほうが、今後のためになるのではないかという立場で、名誉毀損の問題よりはこちらを取り上げたとご理解いただければと思います。

【各局の対応】

「回収リスト」に関する在阪テレビ各局の放送対応を尋ねた。

  • ABCの昼ニュースで放送され、私どももリストは入手していたので、これは業界ではありがちですが、うちも夕方からやろうかということで、基本的にはニュースの構図としては同じものを全国ネットで1回、ローカルで1回やりました。ただ、私どもがリストを入手して大阪交通労組に取材したときに、強く否定されて直ちに放送することを逡巡したという経緯がありました。現場の判断を尊重して、グッと我慢を貫けば、良かったんですけれども、それ以上我慢できずに放送したと。ABCさんとの違いは本当にわずかで、労組のインタビューを放送したということと、「スクープです」と言わなかったという、この2点ぐらいなのかなと。
    ですので、記者全員に決定文の概要をメールで送って、これは他人事ではないと。特に独自ダネあるいはスクープになると、ネタを取ってきた記者やデスクは舞い上がりがちなので、そういう時こそより慎重にやらねばならないということと、やはり当事者に当たるということ、対立する側の意見を聞くという取材の基礎を改めて徹底するようにしました。

  • うちの場合は、取材による信憑性とかではなく、物理的な問題でその日のニュースに入らなかったというか、入る余裕がなかったので放送しなかったのですが、うちでも起こりうる話かなということで、決定文については報道のほうでも要約を全員にメールで配信しました。

  • 結果的に2月6日は放送を見送りました。ABCさんのお昼のニュースを見まして、これはやられたなと。とりあえず、記者に対して裏が取れたら夕方のニュースで放送しようと指示を出しました。放送直前になって、現場から「組合が完全にあれはねつ造だ」という言い方をしていると、記者も心証からガセだと思うという報告が上がって来ました。組合側の声を放送してバランスが取れるか検討した結果、かえって疑惑がクロだという雰囲気に伝わってしまうだろうなという判断で、とりあえず放送を見送ろうと、そういう形になりました。
    うちが最初に放送したのは、翌日橋下市長が調査を指示したというニュースで、その日の夕方の番組では、民主党のあの偽メール事件と同じようなことが起きていますと、そっちの方の目線で放送しました。

  • 基本的にはあまりこのあたりを深くは取材出来てないと思いますので、おそらく放送しなかったのではないかと思っております。

  • 報道の担当者がいませんので、現場でどういう判断をしたかは、申し上げられないんですが、私の知る限りでは、これについては裏を取らなければやはり放送はしないだろうと、こういうことはなかなかあり得ないかな、という部分はあります。

【当該局の発言】

  • 決定に対するコメント等から、ひょっとしてABCは何も反省していないんじゃないかという疑義を、どうもお持ちだということを漏れ聞きましたが、まったくそういうことはなくて、ニュース原稿を見ても、やはり交通労組のコメントが入っていなかったのは致命的だと思いますし、疑惑と言いながら、かなり断定的な表現になっていたと、「やくざ」という内部告発者のインタビューもちょっときついと、というあたりの反省点は、実は内部的には既に共通認識として持っております。
    ただ、申立てがあくまで名誉毀損ということでしたので、こちらの反論もそちらを中心にやって来ました。その分、反省すべきは反省するというところが、ちょっと伝わらなかったのかと思います。決定文の最後でご指摘の表現上の問題点、取材の甘さは十分認識していますが、名誉毀損の部分が最後で放送倫理の部分に変わってしまったところが、最初決定を受け取った時にちょっと理解しにくかったということが社内の反応としてもありました。それから、委員会は個人の報道被害の救済が大原則なのに、今回の団体の申立てはいいのかなと、交通労組は組合員のみなさんの集まりではあるが、集合体としてそれなりの権力機関として見られているのではないか、という思いも背景としてありました。
    いずれにしましても、社内的にいろいろこれからも議論、取り組みをしたうえで、報告書をまとめることになりますけれども、今日の意見も十分参考にさせていただいて、やって行きたいと思います。

【「スクープ」など放送での表現について】

  • 「スクープ」とは独自ネタということで、こういう疑惑があるというスクープもスクープであろうと思います。「スクープです」という表現を使ったことで、断定的に論じているという点は納得いかない。

小山委員:  別に「スクープです」と言ったから断定的とは言っていない。決定文6ページの(b)の最後のところで、「このことに加えて、本件放送の冒頭で『朝日放送のスクープです』と強調され、本件報道の真実性が強く印象付けられることもあわせ考えると」と論じております。「スクープです」だから断定的なのではなく、その印象がより強まったということです。
結局、この回収リストについては、「回収リストらしきもの」とか、あるいは「その疑い」といった表現はなくて、断定的な言及です。それから内部告発者についても、断定して「内部告発者」と放送されていました。そういったものがあって、「疑惑」は頭と最後の2か所だけで、サンドイッチされた中間の部分は全て断定的に放送されたと判断しました。

三宅委員長:ニュースの中で、紹介カードの問題で橋下市長に謝罪している映像がありましたね、「ああいう過去の労組のやってきた内容からすると、今回もそうらしい」という、そういう「らしさ」をある程度出せば、違う内容の放送になったんじゃないかなと実は思っています。
真実相当性の立証というのは、仮に事後にねつ造だと分かっても救済される余地がありうるところですので、やっぱり「疑い」を放送する時には、注意していただいて、決め付けない構成にするやり方があったのではないかなと。私もかつて、無罪になった被告人について報道機関が有罪を前提に放送したと訴えられ、最終的に真実相当性が認められて勝ったケースの代理人をしたことがありましたから、今回のような1分そこそこニュースでも、そういう構成で作れたのではないかという感じが体験的にしました。

坂井眞委員長代行:「スクープです」と言っておきながら、「いやいや、スクープと言っても疑いですから、間違っているかもしれません」というのでは、「スクープ」というほどの迫力はないんじゃないかという気がします。本件放送で「スクープ」と言ってもいいのですが、その場合例えば、「組合に真否を問い合わせたけれど、逃げ回っているので裏は取れておりません」ということを同時に言って、でもこういう疑いがありますと言えば、だいぶ印象は違うと思います。でも、そんな報道ではおそらく「スクープ」とは言いづらいかなと思いますし、だったらそもそも「スクープ」と言うのは止めたほうが良いという話になるのではないかという気がしています。
今の話を前提に聞いていただくと、奇妙さが分かるんですが「朝日放送のスクープです」と始まって、その後「疑いが独自の取材で明らかになりました」ではまったく迫力がないんですよ。結局、まだ「疑い」ならば、スクープとは言わないで欲しいなと。
その後、以前知人紹介カードを集めていたことが発覚して謝ったことがあると報じた上で、さらに今度は回収リストが独自に入手出来ました、そこにはこんなことが書いてありましたと。これでは、印象としては「まだ裏は取れていません」という話にはなっていないわけですよ。回収リストを入手したら、こういうことが書いてありましたと報じて、さらにその後「やくざ」という話ですから、そうすると、これは最初に「疑い」という言葉があって、最後に「組織ぐるみの疑い」とあっても、やっぱり「疑い」の報道とは受け取れないだろうと私は思います。
しかも、最後のところで、リストには政治活動が制限されている管理職が入っている、非組合員のコード番号も記されていると。だとしたら、この回収リストは組合には作れないじゃないかという疑問が当然浮かびますね。それを合理的に説明しようとしたのか、最後に「組織ぐるみ」と指摘をする。しかしこれだと、組合じゃなくて交通局の「組織ぐるみ」ということになって、もともとの「労組がリストを作成した」というニュースではなくなっちゃう。どうも奇妙な、詰めが甘い報道に思えてしょうがないんです。

田中里沙委員:「スクープ」とは業界用語であって、一般の人はあまり敏感にかつ深く反応するものではないと感じています。新聞の「号外」は社会共通の話題になる内容ですが、テレビの「スクープ」はその意味合いがわかりづらい。もちろん大切で価値のあるものですし、記者であれば一度はスクープを取りたいと思うのが普通ですが、この受け手との「温度差」をふまえて使用してもらってはいかがかと考えています。
私は日常の仕事で企業の広報の方と接することがよくありますが、皆さんマスコミが呈する「疑惑」自体に非常にナーバスになっています。「疑惑」とマスコミが報道すれば、世間一般の方はそのことをクロあるいはグレーだと受け止めがちです。報道されたことはその時点における事実となりますので、やはり慎重に発信していただかなければいけないだろうと思っています。一方で、視聴者は速報性を求める面もありますので、疑惑を報じる際には、締めくくりのところで、「現在このような疑惑があります。取材先はノーコメントで取材にも応じない段階なので、追及していきます、あるいは調べています」などと、そのような状況を示していただければ、多分視聴者は「疑い」はこの後どうなるだろう、という見方をするのではないかと思います。

林香里委員:決定に対する朝日放送の放送を見て、反省していらっしゃらないのではないかと、かなりショックを受けていたんですが、今日だいぶ印象が変わりまして、私自身納得しております。
そしてもう一つ、朝日放送の皆さんにお礼申し上げたいのは、今日実際のニュース映像を見せていただいたことです。映像を見ることで議論も活性化するし、皆さんもいろいろ考えることが出来ます。多分作られた方はもう1回見るのも嫌だろうと思いますので、映像を許可していただいたことを、私はありがたく思っています。

【続報について】

  • 決定の「5.放送倫理上の問題」の「続報のあり方」のところで、「その趣旨をふまえれば、続報では本件放送の日時やリード部分等を明示した上で、申立人の関与がなかった事実を伝えるべきであった」とございますけども、ABCさんの方は「リストがねつ造で、労組が関与をしていなかったことは、続報の中で明らかにしている」と。委員会はなぜ不十分だという見解を持たれたのか。

小山委員:手元にある原稿(3月26日の朝日放送のニュース)を見てみますと、まず前説として、「去年の大阪市長選挙の際、大阪市交通局の労働組合の名義で、当時の市長の支援リストが作成されていた問題で、大阪市はこのリストが交通局の非常勤職員によるねつ造だったと発表しました」。本文に入って、「この問題は去年の大阪市長選に絡み、交通局労組の名義で作成された平松前市長の支援カードの回収リストを、内部告発者が維新の会の市議会議員に持ち込み、市議会で追及されたものです。リストには、交通局職員1800人分の職員コードや氏名があり、『協力しないと不利益がある』などと書かれていました。これに対して組合側は『労組が知り得ない情報も含まれていて、文書作成には一切関与していない』と全面的に否定、被疑者不詳のまま刑事告発しています。その後交通局は調査を進めて・・・」ずっとこんな感じの、要するに事実関係の羅列なんですね。
あれだけ強い、インパクトの強い報道を行った当事者という感じが全然しないわけでして、これによって内容的には最初の当該報道は事実上、修正されていることになると思うんですけれども、やはり報道が報道だけに、何月何日にこういう形で報道したものの、その回収リストがねつ造であることが明らかになったといった形で、やっぱり当該ニュースを引用して伝えるべきではなかったかというのが委員会の判断です。

【団体からの申立てについて】

  • 今回の団体からの申立てについて、朝日放送としては、委員会の運営規則や我々の今までの理解からすると、受理しないのではないかと考えていた事案を受理されたということで、質問書をお出ししました。
    その回答というのが、決定文の中で、いわゆる組合の性格を一般論として論じて、組合が個人の集合であり、その権利を守るべきであるから受理したというような内容だと思いますが、正直、すとんと落ちて来るものではない。さらに言うと、途中で申立人に書記の方が入って来られた。書記の訴えは組合とは異なるので、委員会はいったんは仲介、斡旋ということを当然示唆すべきではなかったかなと思っています。また、書記の方と話し合う気持ちがありますか、と朝日放送に提示があって然るべきかなと思っているんですが、それもなくて。これから、こういった形で団体からの申立てを委員会として受けると理解していいのか、回答いただければと思います。

三宅委員長:団体からの申立てを審理したケースは過去にもございまして、資料に「委員会決定事案と判断内容」というのがありますが、決定43号の「拉致被害者家族からの訴え」、これは拉致被害者家族会からの申立てで、団体からの申立てを審理したケースの最近のものとしてはそれがございます。
それから、さらにさかのぼりますと、「幼稚園報道」という決定2号の申立人は、幼稚園と理事長、保護者。それから決定17号の「熊本・病院関係者死亡事故報道」は病院を運営する医療法人と理事長が申立人になっていたということで、今回が初めてのケースではないということを、まずご理解いただければと思います。
で、今回の場合は団体としてかなり規模が大きかったので、そのところをどう判断するか、申立てがあった段階で考えました。決定の5ページの「委員会の判断」の「1.本件申立てについて」のところに書いているつもりでございます。その後ろの方ですかね、「また、本件放送は、本組合による重大な不正行為の告発の主旨を含み、本組合及び組合員個人らの信用、名誉、名誉感情等の」というのがありますね。ここのところが、どうもやっぱり腑に落ちなかった。「やくざと言ってもいいくらいの団体」というところは、結局組合員が皆やくざだというようなニュアンスの、侮辱的な表現をここに含んでいると判断すると、この辺については、非常に「深刻な影響を及ぼすおそれがある内容を含むものだった」という判断をして、規模は大きいけれども、「救済を検討する必要性が高く」と。次の段落の「委員会の過去の判断をふまえ」は今言った事例もありますよということをふまえ、「以上の事実関係を総合的に考慮したとき、本件申立てについては、救済を検討する必要性が高く」ということで、「本組合の団体の規模、組織、社会的性格等をあわせ考えてもなお、委員会において権利侵害や放送倫理上の問題の有無について審理することが相当である」と判断をしたということです。
書記の個人としての申立てについては、別件の申立てということは確かにそうですが、その後ろに書いてあるように、本組合の書記の立場として被害を受けているということだったので、審理する必要はないということで、仲介、斡旋まではする必要もないという判断が同時にされているということです。
なかなか詳しくも書きにくいので、決定ではこういう具合にお答えしていると、ご理解いただければと思います。

◆その他の委員会決定について◆

【決定47号「無許可スナック摘発報道への申立て」】

  • 決定文に「悪質性の比較的軽微な『無許可営業』」とあるが、犯罪が軽微かどうかの線引き、基準は何か。

奥委員長代行:どこかに線引きがあるということではないんですね。略式命令で50万円の罰金を払っているじゃないか、これが軽微な犯罪と言えるのか、とアンケートに書いていらっしゃる方がいますけれども、略式命令で50万だから軽微だとか、あるいは懲役5年だから軽微じゃないとか、どこかに線引きが出来るという話ではなくて、これはスナックのママさんが、ちょっと勘違いをしていたのか、風俗営業法の許可を取っていなかったっていう事案ですね。
それを、もう執拗に彼女の全身からアップから、捜査員と受け応えする場面とか、捜査車両に乗り込む場面とか、1分何秒ぐらいのニュースのうちで、申立人の映像が37秒だったか、ほとんど登場するという、つまり風俗営業法違反の無許可営業についてのニュースとして、これだけ顔をさらすというのはやり過ぎじゃないか、という話なんですね。じゃあ何が軽微で、何が軽微じゃないか、それは個々の報道にあたっている人間が判断出来る問題であって、判断しなければいけないだろうと私は思います。

小山委員:ちょっと補足ですけども、この風俗営業法の無許可、無届けの件数は、この事案の神奈川県でも多数発生しております。また、別に近年増加しているわけではなく、横ばいか、もしくは減少している、その意味でもあちこちにたくさんある事件の一つに過ぎないんですね。風営法関係の摘発というのは相当の件数がある。本件は性風俗というわけでもない。それなのに、ここまで放送でやるのかと。
あと、罰金50万という金額は大きいように見えるかもしれませんけど、専門家の話を聞きますと、それはその間に得た収益を没収するという趣旨も含んでいるとのことで、そのようなことも少し考慮したということだったと思います。

【決定48号「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」】

  • 決定文の「取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある」いう部分、局側に明らかな瑕疵があったとは思えず、当事者間の微妙な問題にまで踏み込んだ判断に違和感を覚える。

市川正司委員:民間放送連盟の報道指針の中に「視聴者・聴取者および取材対象者に対し、常に誠実な姿勢を保つ」という1項目があり、取材対象者との関係という問題も、一応視野に入っているということが、まず一つあります。
この番組では、2002年当時イレッサの被害者であった娘の父親の申立人と、2007年頃にイレッサの副作用情報を充分認識して服用していたという別の患者さんを、5年以上経っているにもかかわらず同列に置いて、申立人はどうしてそんな損害賠償訴訟をやっているのか、という捉え方をされかねないような報道の仕方をしたということで、委員会は構成上の問題を指摘しています。しかし、若干今までの案件と違いまして、誤った報道、明確な誤認であるとか、あるいはプライバシー侵害、名誉毀損と明確に言えるという部分はなく、そういう意味で非常に判断が難しいところでした。
委員会の多数意見としては、問題はあるものの、やはり構成上の問題で人権侵害や放送倫理違反には踏み込めないだろうという理解です。それに対して少数意見は、先程の信頼関係の問題をより深く重く捉えて、申立人にとっては自らの思いを誤って伝えられた、あるいはそういう可能性があったという点で、放送倫理上問題があったと考えたということであります。そういう意味で、多数意見も少数意見も取材の過程だけではなくて放送内容との関係も含めて、取材対象者との信頼関係を喪失したと、ここの部分は申し上げていると、こういうふうに理解いただければと思います。

【決定49号「国家試験の元試験委員からの申立て」】

  • 実際にこれを取材して構成したのは当社で、ローカルでも放送したんですが、決定後、現場の記者と話し合いをしたことで2つほど申し上げたい。一つは、「少数意見」で「放送倫理上問題あり」とされたが、我々としては、つまりこれでアウトと言われると、捜査当局がクロとする事案しかもう扱えないのではないかということで、取材現場を萎縮させる効果をもたらしたということを申し上げたい。もう一点、委員会の判断は「放送倫理上問題なし、要望」ということだったんですが、この委員会判断が9ページなのに対して、「少数意見」は6ページにわたっているということに違和感を覚えたということが、現場の声としてございました。
    我々はあくまで国家資格の試験委員であれば、「李下に冠を正さず」ではないでしょうか、ということを言いたかったんで、漏えいがあったか、なかったかという、そこに論点が行き過ぎていたんじゃないだろうかというのが、現場の思いとしてあります。

◆人権や放送倫理をめぐる質疑応答◆

事前アンケートで寄せられた質問について、委員に回答してもらった。

【桜宮高校の体罰事件の実名の扱いについて】

  • バスケット部の顧問の先生について、書類送検された時点で実名で報道した局と、在宅起訴された時点で実名報道した局がある。どう考えたらよいか。

坂井委員長代行:これは、おそらく基準は明示できないというのが共通意見だと思います。刑事事件の報道なので、実名がだめだということは法律的には言われてない。だけれど、例えば日弁連は原則匿名にするべきだと、完全にとまでは言ってないですけど、原則匿名にしろと言っています。
それは、刑事手続き的には無罪推定があるからですが、原則無罪推定と言っても、犯罪の重さだとか、被疑者の立場で、全然利益状況が違うわけです。少年だったら少年法で保護されるわけですし、これがまた汚職事件か何かだったらまた違って、地方自治体の普通の公務員だったのか、それとも中央官庁のいわゆる官僚と言われる人なのかで変わってくる。おそらく犯罪報道をする時に公益目的が否定されるということはないので、公共性の重さということが、ケースごとにそれぞれ違って来るということですね。
では、桜宮高校の事件はどうかというと、一教員だということは確かです。だけれども、内容はすごく重いものがあるということで、現場の皆さんが悩まれるのはすごく良く分かります。教師が生徒に暴力をふるうということは、あってはならないので、一教員の行為であってもそれは書くべきだと。だけど、こいつは悪い奴だという方向で報道が過熱した状況で、要するに水に落ちた犬をたたけ、みたいな話になると、大きな副作用が出ることがあるんですね。報道してもいいけれど、そこで実名を大々的に報道することによって、どういうマイナスがあるかということも含めて考えて、そこから先は、それぞれが比較考量して、判断して行くことになるんじゃないのかなと、こういうふうに思っています。

【事件・事故報道の際の建物の撮影】

  • 一般的に事件・事故の現場の建物を公道から撮るのは差し支えないと理解しているが、例えばビルの一室とか、マンションの一室で事件・事故が起きた場合、その建物全体を撮ることがどうかという問題です。マンションの住民から撮影を断られたという回答や、一方で、マンションが特定できないように配慮して撮影したという回答もある。どう考えたらよいか。

三宅委員長:『判断ガイド2010』をお持ちの方は、314ページにかつての事務所等の撮影についての委員会の判断が示されています(決定35号「"グリーンピア南紀"再生事業の報道」)。建物の外観や肖像が映ったんですけれども、「事務所等の撮影が無断で行われたとしても、放送された映像によって何らかの権利侵害が生じるなど、特段の事情が存在しない限り非難に値するとは考えられない」と。「当委員会決定においても、肖像権の侵害となる行為があった場合でも、報道・取材の自由が民主主義社会において国民の知る権利に奉仕するという重要な意義を有することから、当該取材・報道行為が公共の利害に関する云々」ということで、肖像権の侵害の違法性はないというような判断とかも並べ立てて、建物の外側から撮ったことについては、まったく問題ないというようなケースもございます、という紹介をまずしておきましょう。この時は、確かビルの映像とその窓から中がちょっと見えたんじゃなかったかと思いますが、その映像自体について、このケースの時は問題ないとしました。だいぶ前のケースですが、一概に建物の外観映像が撮れないかというと、そういうわけではないと、まず言っておきましょう。

  • マンションの一室に容疑者が住んでいるような場合でも、マンションの外観映像をはっきり分かる形で放送することに問題はないか。

三宅委員長:先ほどの、実名報道を書類送検のときからするのか、在宅起訴のときからするのかと一緒で、容疑者のプライバシーがどの程度保護されるものか、犯罪者として明らかになった事実との関係上、公共目的と公益性があるということで、名前を明らかに出来るなり、プライバシーの侵害も制約されて致し方なしと言えるのかどうかという、微妙なケースだと思いますね。

以上

第202回 放送と人権等権利に関する委員会

第202回 – 2013年10月

大阪市長選関連報道事案の通知・公表の報告
宗教団体会員事案の審理・・・など

10月1日に行われた「大阪市長選関連報道への申立て」事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局から報告した。「宗教団体会員からの申立て」事案について審理し、「委員会決定」案をさらに検討した。

議事の詳細

日時
2013年10月15日(火)午後4時~6時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「大阪市長選関連報道への申立て」事案の通知・公表

10月1日に行われた本事案の「委員会決定」の通知・公表について、事務局が概要を報告した。当該局の朝日放送から放送対応の報告があり、決定を伝えるニュース番組の同録DVDを視聴した。決定は「本決定の主旨を放送する」ように求めているが、委員から「裏付け取材がなかったという重要な指摘を、他社は伝えているのに当事者として何ら触れず、自社のコメントを延々述べている」「いい放送を出したが、表現方法だけ問題だったとすり替えている」「決定の主旨は分かっていると思うが、なぜこういう放送がされたのか」などの発言があった。
朝日放送からは改善策を含めた取り組み状況が3か月以内に報告されることになっており、委員会は今回の放送対応を踏まえて報告の内容を検討することになった。【詳細はこちら

2.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』で、番組で紹介された男性が、公道で盗撮された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
この日の委員会では前回委員会の議論を反映した新たな「委員会決定」案について、プライバシーの侵害と公共性・公益性との関連、放送倫理上の問題としてどうとらえるか、などについて議論を深めた。
次回委員会で、さらに審理を進める。

3.その他

次回委員会は11月19日に開かれる。

以上

2013年10月1日

「大阪市長選関連報道への申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は10月1日に、上記事案についての「委員会決定」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上重大な問題がある」として、朝日放送に再発防止を「勧告」した。

〔通知〕
三宅弘委員長と起草を担当した小山剛委員、曽我部真裕委員が出席し、午後1時からBPO会議室で申立人と被申立人に対して「委員会決定」を通知した。申立人の大阪交通労働組合からは組合役員ら2人、被申立人の朝日放送からは報道担当者ら3人が出席し、三宅委員長が決定文を読み上げて通知を行った。
決定について、朝日放送は「私どもとしては、決定を真剣に受け止める。具体的には多岐にわたるご指摘があるので、熟読してじっくりと検討させていただきたいと思う」と述べた。また、大阪交通労働組合は「スクープ報道の十分な裏付けの重要性が示された。先入観で固まった勇み足とも言える報道に警鐘を鳴らしていただき、そして個々の組合員にも限度を超えた侮辱行為として名誉感情を侵害しているという決定をいただき、感謝申し上げたい」と述べた。

〔公表〕
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。25社47人が取材した。
会見では、三宅委員長が委員会の判断と結論のポイントを説明した。
続いて、小山委員が次のように述べた。
「この放送は、非常にインパクトの強い報道だった。断定的な形で、いわゆる回収リストが存在するとし、またやくざと言ってもいいくらいの団体という発言を引用している。本来必要な裏付け取材が行われないまま、局の説明によれば時間的な理由からだが、そのような断定的な報道が行われてしまった。
決定文中の、地方自治法の百条委員会云々の部分について補足しておく。国会には、いわゆる国政調査権があるが、それに相当するものとして、地方議会にはいわゆる百条調査権が認められている。これは、関係人の出頭や証言、記録の提出を要求でき、その拒否には、罰則が定められている。そのような委員会が公表した内容であれば、裏付け取材なしで引用することも出来るのではないかと思う。でもそうではなくて、一国会議員、あるいは一地方議会議員が自分で独自の調査を行った、その内容がソースになっている場合には、多分報道機関として裏付けは必要だろうと思う。
警察取材などでも、正式の記者会見で伝達された内容については、場合によっては裏付け取材がいらないと思うが、インフォーマルに得た情報については、やはり裏付けをしないと、仮にそれが誤報であった場合には、今回と同じような形になってくるのではないかと思う」と述べた。

曽我部委員は次のように述べた。
「1点補足したいと思うのは、今回の決定は、名誉毀損の成否と放送倫理上の問題という2つの論点を取り上げているが、結論については放送倫理上の問題とし、勧告もそちらを理由にしている。放送人権委員会は、名誉毀損、プライバシー侵害という人権にかかわる判断だけではなくて、放送倫理の問題についても判断をするということはご承知のとおりだが、どちらの問題が前面に出てくるかというのは事案によって異なり、必ずしも人権の問題を優先するということにはならないのかなと思う。
今回の事案では、事後的な放送によって問題のリストがねつ造であったことは、少なくとも大阪市民には周知されているということなので、その限りで申立人の名誉というのは、かなり回復されているのではないかと。名誉毀損としては、結果としてそれほど深刻なものではなかったかもしれないと、これも断定は出来ないところですけれども。
それよりも、むしろ取材から編集、それから続報のあり方の一連のプロセスにおいて、いろいろ問題があったのではないか。そちらのほうが重要ではなかったかというような認識の下にこのような決定をしたと、個人的には理解している」と述べた。
このあと出席者から質問を受けて委員が答えた。主なやり取りは以下のとおりである。

(質問)
申立人は、謝罪と放送内容の訂正を要求していたと思う。謝罪については、決定文で10ページで民法723条について考察をしているが、放送法9条1項の訂正については記述がない。これは訂正放送は局が主体的に判断するからということなのか、それとも、名誉毀損を指摘するよりも放送倫理上の問題を結論にしたので、書いていないということなのか。
(三宅委員長)
本件は、基本的には名誉毀損に該当するが、事後報道がかなり度重なってされているので、事実上の訂正もされて、申立人の社会的評価の低下が一定程度回復されているとみることもできると判断している。放送法上の訂正放送のことまで判断せずに、放送倫理上の問題としての扱いに判断を収れんしたということである。

(質問)
決定文にある朝日放送と他社の報道との違いの点だが、リストの情報を入手しながら報道を控えた社もあり、また後追いの報道では指摘されているような「やくざ」というような表現もおそらくなかったと思う。あるいは、リストの疑惑の度合いが強調されていたという部分で、朝日放送の報道の方はより断定的で、より名誉毀損的だ、そういう違いがあるという理解でいいか。
(三宅委員長)
そういう含みもあるが、ただ本件申立ては朝日放送だけを問題にしているので、他社の報道内容を全て精査したわけではない。決定文に書いてあること以上の踏み込んだ判断はしていない。

(質問)
申立人が、他のテレビ局の報道に対して申立てをしなかったか理由はあったのか。
(小山委員)
ヒアリングで聞いた限りでは、他の局は表現の仕方が違っていたとか、自分のところへ取材に来てから放送していた、そういうことは述べていた。

(質問)
裏付け取材が十分ではなかったと書かれているが、逆に言えば、労組に対して取材をすれば、それは容易に真実ではないと分かったということか。
(小山委員)
申立人を取材すれば、回収リストは自分たちが作成したのではないという答えが返ってきたと、予想出来ると思う。放送日の2月6日よりも前に、別の局が取材した時に、申立人はそのような回答をしているようなので、多分2月6日に取材しても同じような回答ではなかったかと。その上で、どう処理するかは局の問題なのでよく分からないが、放送内容が変わっていたということも考えられる。

(質問)
取材をしていない理由として、朝日放送は時間がなかったと言っているが、それについて委員会は朝日放送になんらかの意見を言ったのか。
(小山委員)
時間がなかったということは、午前中に市議会議員の動きを取材しており、結果的に放送までに申立人側を取材することが出来なかったということだが、委員会を納得させるような説明がなかったので、今回のような決定文の記述になった。おそらく取材しなかった理由、事情等々あると思う。決定文で「委員会に提出された資料等においては」という、ある種の限定をしているが、その趣旨というのは、提出された書面やヒアリングの範囲では、説得力がある説明がなかったということである。

(質問)
「決定の概要」で、「『スクープ』として疑惑を真実であるかのように断定的に報じ」と書かれているが、「スクープ」という表現に、疑惑を断定的に報じるということの強調としての意味合いがあるのかどうか。報道する側にすれば、「独自ダネ」の意味で使っている言葉だと思う。決定では、この疑惑はさらに真実であると、付加するような意味合いで書かれているが、見解を聞きたい。
(小山委員)
「決定の概要」部分はあくまで要約で、「委員会の判断」部分、6ページの(b)のところを読んでいただければ、「『朝日放送のスクープです』と強調され、本件報道の真実性が強く印象付けられていることもあわせ考えると」と書いている。「スクープ」という言葉が、直ちに「疑惑」の「真実性」を高めたと言っているわけではない。

(質問)
1点は、「勧告」さらに「放送倫理上重大な問題あり」ということで、重い軽いでいえば、委員会の判断として、これ以上重いものはないという理解でいいのか。
また、今回確かに名誉毀損はしているが、最終的な結論としては名誉毀損と認定はしない。その理由というのは、結局、事後に名誉が一定程度回復された、社会的評価の低下が一定程度回復されたということだとすると、つまりどれだけ厳しい名誉毀損があったとしても、事後放送でちゃんとカバー出来ればよいということになってしまう。では一体名誉毀損が認定される場合はどういうケースなのかなと、何でも事後放送で回復すればいいのかいう疑問がわく。
(三宅委員長)
勧告で放送倫理上重大な問題ありというのは、判断のグラデーションでは、一番重い判断である。
それから「名誉毀損には該当するものの」という点だが、本件については、名誉毀損であるとはっきり言っているので、結論を名誉毀損をベースに判断するかどうか考えたが、名誉毀損として改善勧告を求めるよりは、放送倫理上の問題として決定文11ページで述べた4点の改善勧告をして、今後の放送に生かしていただくということで判断したほうが、今回の事案ではふさわしいと思った。
したがって、名誉毀損について、事後放送で回復されているからよいというような判断はしていない。委員会決定第40号の「保育園イモ畑の行政代執行をめぐる訴え」で「名誉毀損の疑いが強い」にとどめ、しかし重大な放送倫理違反という判断をしたこともあり、これが最初のケースでもない。先例にのっとりながら、放送倫理上の問題として改善勧告を出すほうがふさわしいという判断をした。

2013年度 第51号

「大阪市長選関連報道への申立て」に関する委員会決定

2013年10月1日 放送局:朝日放送株式会社

勧告:放送倫理上重大な問題あり
本事案は、朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』で放送した「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードで始まるニュースについて、労働組合側が事実と異なる放送によって名誉や信用を毀損されたと訴えたもの。
放送人権委員会は審理の結果、10月1日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

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2013年10月1日 第51号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第51号

申立人
大阪交通労働組合
A
被申立人
朝日放送株式会社
苦情の対象となった番組
『ABCニュース』(月~金 午前11時35分~42分)
放送日時
2012年2月6日(月)の上記番組内の1分37秒のニュース

【決定の概要】

1.朝日放送は、2012年2月6日の『ABCニュース』で、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードのニュースを「スクープ」として放送した。ニュースでは、「朝日放送が独自に入手した紹介カードの回収リスト」を映像で示し、内部告発者が、「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」と匿名映像で語っている。
2.本件の申立人は、大阪交通労働組合という団体である。このため、委員会は、個人による申立てを原則とする本委員会運営規則に照らし、審理入りの是非について検討した。その結果、労働組合が個々の労働者の権利・利益の確保を主眼とする、各労働者の集合としての性格が強い団体であること、また、本件放送は、組合及び組合員個人らの信用や名誉・名誉感情等の権利利益に対して深刻な影響を及ぼすおそれがある内容を含むものであることから、当委員会の過去の判断をふまえ、本件申立てについては救済を検討する必要性が高く、委員会において権利侵害や放送倫理上の問題の有無について審理することが相当であると判断した。
3.本件放送による権利侵害の有無について、委員会は次のように判断した。
本件放送の内容について、朝日放送は、申立人が選挙への協力を強要したとの「疑惑」あるいはこの疑惑を追及する市議会議員の活動を報じるものであると主張する。
しかし、協力を強要する文章が書かれた「回収リスト」について断定的に報じ、放送冒頭で「朝日放送のスクープです」と強調するなど、一般的な視聴者からすれば、本件報道は、申立人が非協力的な組合員を威圧し、選挙への協力を強要し、内部告発者が発した「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」とのコメントを伝えるものと受け止めよう。
本件放送は、申立人の社会的信用・評価を低下させるものである。本件放送には、公共性、公益性は認められるが、主要な部分において真実ではなく、また、放送の時点で真実であると考えたことについて相当の理由も認められない。すなわち、本件放送で報じられた「非協力的な組合員がいた場合は、今後、不利益になることを本人に伝える」との指示が書かれた回収リストは、ねつ造されたものであった。また、報道にあたって申立人に対する取材を行っておらず、取材を行わなかったことの理由も薄弱である。
その一方、回収リストの真偽については、朝日放送もその後の報道においてねつ造であることを報じている。本件放送によってもたらされた申立人の社会的評価の低下は、一定程度、回復されているとみることもできる。
4.しかしながら、本件放送には、放送倫理上の重大な問題がある。本件放送は、「スクープ」として疑惑を真実であるかのように断定的に報じ、さらに「やくざ」という強い表現で論評を行ったものである。そして、すでに述べたように、それは申立人への取材もないままに行われた。本件放送は、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とうたう放送倫理基本綱領(NHK・民放連)に違背し、正確・公正な報道を求める「日本民間放送連盟 報道指針」の「2 報道姿勢」に反するものである。
委員会は、朝日放送に対し、本決定の主旨を放送するとともに、スクープ報道における取材や表現のあり方、主要な事実が真実に反すると判明した場合の対応について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件申立てについて
  • 2.本件放送は何を報じたか
  • 3.本件放送により、申立人の社会的信用ないし評価が低下したか
  • 4.本件放送に公共性、公益性、真実性・真実相当性が認められるか
  • 5.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2013年10月1日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は10月1日に、上記事案についての「委員会決定」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上重大な問題がある」として、朝日放送に再発防止を「勧告」した。
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2013年12月24日 朝日放送「放送人権委員会決定後の取り組みについて」

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2014年2月21日 報告に対する放送人権委員会の「意見」

放送人権委員会は、今回、上記の朝日放送の報告に対して「意見」を述べました。

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第201回 放送と人権等権利に関する委員会

第201回 – 2013年9月

宗教団体会員事案の審理
大阪市長選関連報道事案の審理…など

「宗教団体会員からの申立て」事案について審理し、「委員会決定」案を検討した。「大阪市長選関連報道への申立て」事案の「委員会決定」修正案を了承し、本事案に関する「委員会決定」の通知・公表を10月1日に行うことになった。

議事の詳細

日時
2013年9月17日(火)午後4時~8時05分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』で、番組で紹介された男性が、公道で盗撮された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
この日の委員会では、双方から提出された書面や前回委員会でのヒアリングの結果をもとに担当委員が起草した「委員会決定」案が提出され、各委員が意見を述べた。本件放送による「プライバシーの侵害」はあったか、具体的な被害はあったか、公共性・公益性をどう考えるか、放送倫理上の問題はあったかなどについて意見交換した。
次回委員会で、さらに審理を進める。

2.「大阪市長選関連報道への申立て」事案の審理

朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』(午前11時台)で放送した「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが独自の取材で明らかになりました」というリードで始まるニュースについて、交通労組と組合員が事実と異なる報道によって名誉や信用を毀損されたとして謝罪等を求めて申し立てた事案。独自にリストを入手した朝日放送の「スクープ」報道だったが、その後リストは内部告発者によるねつ造だったことが分かった。朝日放送は「疑惑が出たこと自体視聴者に知らせるべきニュースであり、弊社を含むすべての報道機関が第一報として報道している。労組が関与していなかったことは続報で明らかにしている」等と主張している。
委員会では、第3回起草委員会での検討を経た「委員会決定」の修正案が示され、審理の結果、一部の文言を修正のうえ最終的に了承した。「委員会決定」の通知・公表は
10月1日(火)に行うことを決めた。

3.その他

次回委員会は10月15日(火)に開かれることとなった。

以上

第200回 放送と人権等権利に関する委員会

第200回 – 2013年8月

宗教団体会員事案のヒアリングと審理
大津いじめ事件報道事案の通知・公表の報告・・・など

「宗教団体会員からの申立て」事案のヒアリングが行われ、申立人、被申立人から詳しく事情を聞いた。8月9日に行われた「大津いじめ事件報道への申立て」事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局から報告した。

議事の詳細

日時
2013年8月20日(火)午後3時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、曽我部委員、田中委員、林委員(大石委員、小山委員は欠席)

1.「宗教団体会員からの申立て」事案のヒアリングと審理

テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、公道で盗撮された容姿・姿態が放送されるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てた事案。
この日の委員会では、申立人、被申立人双方からそれぞれヒアリングを行った。
この中で申立人は、「個人情報を無断で放送したこと、とりわけ両親あての直筆の手紙やカウンセリングの隠し撮りを無断で放送したことは私のプライバシーを完全に踏みにじるものであり、重大な人権侵害だ」と主張した。学生時代のサークルの仲間と一緒に写っている写真が使われことについても、人権侵害であると訴えた。また、被申立人がアレフへの団体規制法などを理由に今回の放送の公共性・公益性を主張していることについては、「アレフの団体活動と私、個人の私生活は全く別物」などと反論した。
被申立人は報道責任者や番組担当者ら4人が出席し、「ビデオテープを編集する際にもプライバシーが侵されることがないか、ボカシを入れるなど映像の加工も加えながら個人が特定されないよう最大限の配慮をした」と強調。また「(写真を使ったのは)ごく普通の学生生活を送る普通の若者が入信していくということを表現したいと考えた。今この日本の中で何が起きているか、この事実を報道することに非常に社会的意義があって、公益性があると考えこの番組を制作した」などと、放送に至る経緯や目的を説明した。
ヒアリング後も審理を行い、担当委員が「委員会決定」文の起草作業に入ることになった。
その上で、次回委員会でさらに審理を進める。

2.「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告

8月9日に行われた本事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるフジテレビが決定について報じた当日の番組同録DVDを視聴した。 【詳細はこちら

3.「大阪市長選関連報道への申立て」事案の審理

朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』(午前11時台)において、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが独自の取材で明らかになりました」とのリードで伝えたニュースについて、交通労組と組合員が事実と異なる報道によって名誉や信用を毀損されたとして謝罪等を求めて申し立てた事案。内部告発者から大阪維新の会の市議会議員に持ち込まれたリストに基づく「スクープ」報道だったが、その後リストは内部告発者によるねつ造だったことが分かった。朝日放送は「疑惑が出たこと自体視聴者に知らせるべきニュースであり、弊社を含むすべての報道機関が第一報として報道している。労組が関与していなかったことは続報で明らかにしている」等と主張している。
委員会では、第2回起草委員会での検討を経た「委員会決定」の修正案が示され、担当委員の説明をもとに審理した。結論の方向を確認しつつ記述等を議論したが、引き続き次回の委員会で審理することになった。

4.その他

次回委員会は9月17日(火)に開かれることとなった。

以上

2013年8月9日

ステータス

「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は8月9日、上記事案に関する「委員会決定第50号」の通知・公表を行い、「本件放送は人権への適切な配慮を欠き、放送倫理上問題がある」との見解を示した。
通知は、被申立人側には8月9日午後1時からBPO第1会議室で行われ、三宅委員長、奥委員長代行が出席し、被申立人のフジテレビからは報道局専任局次長ら4人が出席した。申立人側へは、申立人の都合がつかなかったため、被申立人への通知と同時刻に京都市内にある申立人の代理人法律事務所に事務局長と調査役の2名がおもむき、通知した。申立人(少年の母親)と代理人弁護士2人が出席した。
被申立人側への通知では、まず、三宅委員長が「決定の概要」「委員会の判断」をポイントに沿って読み上げる形で決定内容を伝えた。委員長が感想を求めたのに対し、被申立人側は「人権上配慮に欠けた放送をしたことをお詫びする。決定を真摯に受け止め、新しいメディア状況を考慮したとき細心の注意と確認の上にも確認をし、再発防止に努め、スタッフの意識を高めていきたい」、「委員会決定にもあるように、何にでもぼかしを入れてしまえばいいというわけではない。モザイク処理が多くはなっているが、積極果敢な放送を心掛けたい」と述べた。最後に委員長が、「意見交換など積極的に行っていきたい」と今後、再発防止のための研修等に協力する旨を伝えた。
申立人側への通知では、事務局長が「放送倫理上問題あり」とする「見解」で、放送局にとって厳しいものになっており、この決定はテレビ界全体に対する警鐘にもなっていると説明。その後、調査役が「決定の概要」「委員会の判断」の要所要所を読み上げる形で通知した。通知後、申立人の感想は特になかったが、代理人が、決定文で「フジテレビは再発防止策をすでに実施している」としていることについて説明を求めた。事務局からは、「フジテレビは、マスキング処理の方法の改善、ダブルチェック体制などをすでに講じている。委員会は、再発防止策の運用の実際について報告するように求めており、改善策の報告を3ヶ月以内にもらうことになっている。それはホームページ上などでオープンになる」と説明した。
申立人側、被申立人側への通知の後、千代田放送会館2階ホールで記者会見を
開き、「委員会決定」を公表した。午後1時40分から事務局による事案の説明があり、引き続き午後2時から三宅委員長、奥委員長代行が記者会見した。報道関係者は23社53人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
会見では、三宅委員長から「本件でプライバシーの侵害が生じたかどうかの判断に際しては、テレビ映像が容易に静止画像として切り取られ、インターネット上にアップロードされるという時代状況において、申立人の主張する『プライバシー侵害』が起きてしまったということをどのように判断するかという点が、今回の決定における非常に新しい判断部分であると考えている」とし、「委員会の判断」の要所要所を紹介しながら説明を行った。最後に、結論部分では、「新しい状況に対処すべく、いま放送人に求められているのは、高度に研ぎ澄まされた人権感覚である」と述べた。判断の説明の後、今回「和解」の試みもあったが、まとまらなかったことも紹介された。起草主査の奥委員長代行は「新しいメディア状況には放送局も対応しなければいけないが、当委員会も今回同じ状況に直面した。本来は放送されたものだけが審理対象だが現実は明らかに違ってきている。現実の状況をどのように審理に反映させるかが課題だった」と述べた。次に起草委員で会見には出席できなかった大石委員のコメントを三宅委員長が読み上げた。コメントの概要は「少年の事案で私たちは和解を望んだが、和解には至らなかった。テレビ局には厳しい結果になったが、人権意識を高めることがいかに大切かを考えさせてくれた事案であった」というものであった。
質疑応答では、「放送そのものではなく、録画したものから切り取った静止画像でも放送局に責任を求めたのはBPO3委員会でも初めての決定か」という質問があり、委員長は「第三者の故意行為によってアップロードされ、局とは無関係に流れたというケースで判断したのは初めて」と答え、事務局からも「他の事案で、審理の中での議論はあったかもしれないが、決定文で判断を下したのは初めて」と補足した。
「同じ時期の別の番組で、マスキング処理されたものが第三者の加工で薄く見えてしまうということがあったが、今回は議論されなかったのか」という質問には、奥委員長代行が「ご指摘の件は、申立ての中には入っていないので検討していない」と説明し」た。
「検証委員会で取り上げなかったことと、今回の判断との違いは何か」という質問には、委員長が「人権委員会は申立てがあって苦情取扱いの条件が合えば取り上げる。われわれは申立てがあってこれを受けてからということ。プライバシー権の侵害と放送倫理上の問題の2点について申立てがあったので、委員会として判断した。検証委員会と人権委員会は役割が違う。人権委員会として独自に取り上げている」と答えた。さらに、「今回、第三者の故意行為が介在してネットに流れたことで判断の範囲は広がっているが、われわれは本来放送が守備範囲だ。主たるものは放送自体であり、その点では本件の場合は何度見ても(ほとんど)分からない、ということでプライバシー侵害はないとした。このことは重要な判断といえる」と説明した。
このほか、「決定文の中で、民放連放送基準の規定も『新しい想像力とともに読み込まれる必要がある』とあるが、時代に即して規定を変えるなど、ネットの問題を明文化していくべきかどうか」という質問があり、三宅委員長は、「テレビの映像を取り巻くメディアの状況が変わっている中で、考えなければいけない要素がいくつか出てきている。放送基準を弾力的に解しながら人権への適切な配慮を及ぼすように運用していってもらいたい。(委員会としては)慎重にも慎重に放送の自由について委縮させることのないような働きかけをしながら考えて行きたい、という基本的なスタンスでいる」と答えた。また、奥委員長代行は、「ネットに流れることをパブリシティーと考えて番組作りすることも現実にあるだろう。放送基準などでネットのことについてガチガチに書いてしまうのは絶対よくない。しかし、ニュースの場合、今回のケースを含め“これはやっぱりまずいな”というふうな形で想像力を発揮してもらいたい」と答え、会見は終了した。

2013年度 第50号

「大津いじめ事件報道に対する申立て」に関する委員会決定

2013年8月9日 放送局:株式会社フジテレビジョン

見解:放送倫理上問題あり
フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺したとして中学生の両親が起した民事訴訟の原告側準備書面の内容を報道した際、加害者として訴訟を起こされている少年の実名部分がモザイク処理されずに放送され、少年と母親がプライバシーの侵害を訴え、申し立てたもの。

2013年8月9日 第50号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第50号

申立人
少年とその母親
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『スーパーニュース』(月―金 午後4時50分~5時54分)
放送日時
2012年7月5日(木)午後4時53分00秒頃~5時03分24秒頃
2012年7月6日(金)午後5時27分28秒頃~5時37分29秒頃

【決定の概要】

フジテレビは2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』内で各1回、大津市の中学生いじめ事件の報道に際して、加害者として民事訴訟を起こされている少年の氏名を含む映像を放送した(以下、本件放送という)。委員会は少年と少年の母親(以下、申立人という)から本件放送によってプライバシーを侵害されたなどの申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下の通りである。
本件放送のうち少年の氏名を含む映像は、5日分が1秒未満、6日分が2秒弱と短く、画像内の氏名部分も微小で、通常のテレビ視聴形態では、氏名は判読できない。したがって、このテレビ映像に限れば、プライバシー侵害は生じていない。しかし、テレビ映像を録画した静止画像では少年の氏名を判読できる。これがインターネット上に流出した。この静止画像が申立人のプライバシーを侵害していることは明らかである。
テレビ映像を録画してインターネット上にアップロードする行為は著作権法に違反する。したがって、フジテレビに静止画像によるプライバシー侵害の責任は問えない。だが、録画機能の高度化やインターネット上に静止画像がアップロードされるといった新しいメディア状況を考慮したとき、静止画像にすれば氏名が判読できる映像を放送した点で、本件放送は人権への適切な配慮を欠き、放送倫理上問題がある。
この放送倫理上の問題はモザイク処理のない映像素材を使ったミスの結果である。委員会は、個人情報を含む等取り扱いに十分な配慮が必要な素材に関する十全な管理体制を整備するとともに人権意識の涵養に努め、こうしたミスがふたたび起きないようにすることをフジテレビに要望する。この点で、本件放送は少年の個人情報にかかわるものであり、少年法の趣旨に即して特段の配慮が必要だったことも付記する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.放送倫理上の問題
  • 3.再発防止のための要望
  • 4.その他の判断
    • (1)誹謗中傷の加速・過熱化
    • (2)映像素材としての適否

III.結論

IV.申立てに至る経緯及び審理経過

V.申立人の主張と被申立人の答弁

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2013年8月9日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には8月9日午後1時からBPO第1会議室で行われ、申立人側へは、申立人の都合がつかなかったため、放送局への通知と同時刻に京都市内にある申立人の代理人法律事務所で行われた。
また、その後、千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。午後1時40分から事務局による事案の説明、午後2時から三宅委員長、奥委員長代行が記者会見した。報道関係者は23社53人が出席。
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2013年11月19日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

『大津いじめ事件報道に対する申立て』事案で、2013年8月9日に委員会決定を受けたフジテレビは、局としての対応と取り組みをまとめた報告書を11月5日放送人権委員会に提出した。11月19日に開催された委員会で報告書の内容が検討され了承された。

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目 次

  • 1.委員会決定後の対応
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.再発防止に向けた取り組みについて

第199回 放送と人権等権利に関する委員会

第199回 – 2013年7月

大津いじめ事件報道事案の審理
大阪市長選関連報道事案の審理…など

「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の「委員会決定」案を了承し、本事案の決定に関する通知・公表を8月9日(金)に行うことになった。「大阪市長選関連報道への申立て」事案の審理を行い、「委員会決定」案について検討した。

議事の詳細

日時
2013年7月16日(火)午後4時~8時00分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の審理

フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺したとして中学生の両親が起こした民事訴訟の口頭弁論を前に、原告側準備書面としてその内容を報道した。この中で加害者として民事訴訟を起こされている少年の実名部分にモザイク処理の施されていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画像がインターネット上に流出したとして、少年と母親が放送によるプライバシーの侵害を訴え、申し立てた事案。
この日の委員会では、「委員会決定」の修正案を検討した。事務局が本文を読み上げながら内容を確認し、一部文章、字句の追加・修正を行うことで、最終的に決定案を了承した。
これにより、本事案の「委員会決定」に関する通知と公表が8月9日(金)に行われることになった。

2.「大阪市長選関連報道への申立て」事案の審理

朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』(午前11時台)において、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で現職市長の支援に協力しなければ、不利益があると職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」との前説で伝えたニュースについて、交通労組と組合員が事実と異なる報道によって名誉や信用を毀損されたとして謝罪等を求めて申し立てた事案。内部告発者から大阪維新の会の市議会議員に持ち込まれたリストに基づくスクープ報道だったが、その後リストは内部告発者によるねつ造だったことが分かった。朝日放送は「疑惑が出たこと自体視聴者に知らせるべきニュースであり、弊社を含むすべての報道機関が第一報として報道している。労組が関与していなかったことは続報で明らかにしている」等と主張している。
今月の委員会では、前回委員会でのヒアリングとその後の起草委員会をふまえて「委員会決定」案が示され、委員会の判断と結論に向けて話し合った。本件放送やねつ造の事実を伝えた続報と申立人の社会的評価の関係等について議論を行い、起草委員会で再度決定案を検討して次回の委員会に諮ることになった。

3.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、個人情報を公表されたうえ、何の断りもなく公道で盗撮された容姿・姿態が放送されるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てた事案。
この日の委員会では、起草担当委員から論点およびヒアリングに向けた質問項目案が提示され、各委員の了承を得た。
次回委員会では申立人・被申立人から直接ヒアリングを行う。

4.その他

次回委員会は8月20日(火)に開かれることとなった。

以上

第198回 放送と人権等権利に関する委員会

第198回 – 2013年6月

大阪市長選関連報道事案のヒアリングと審理
大津いじめ事件報道事案の審理…など

「大阪市長選関連報道への申立て」事案のヒアリングが行われ、申立人、被申立人から詳しく事情を聞いた。「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の審理を行い、「委員会決定」案について検討した。

議事の詳細

日時
2013年6月18日(火)午後3時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、曽我部委員、田中委員(林委員は欠席)

1.「大阪市長選関連報道への申立て」事案のヒアリングと審理

本事案は、朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』(午前11時台)において、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で現職市長の支援に協力しなければ、不利益があると職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」との前説で伝えたニュースについて、交通労組と組合員が事実と異なる報道によって名誉や信用を毀損されたとして謝罪等を求めて申し立てたもの。内部告発者から大阪維新の会の市議会議員に持ち込まれたリストに基づくスクープ報道だったが、その後リストは内部告発者によるねつ造だったことが分かった。
今月の委員会ではヒアリングを行い、申立人側は労組役員と組合員、被申立人の朝日放送は報道責任者ら3人が出席し、個別に話を聞いた。
労組側は「組織の社会的信用を貶められ、組合員個人の名誉が傷つけられ、実質的にも精神的にも大きな損害を被った。朝日放送の報道の3日前に、ある局がリストが本物かどうか取材に来たが、労組が作成したものでない旨伝えると、報道しなかった。朝日放送はリストをねつ造した内部告発者の情報を盲信し、私たちに一切確認することなくスクープとしてねつ造者のインタビューを放送し、『やくざといってもいいくらいの団体』と表現した。報道の役割、影響力を理解せず、報道される関係者へのフェアネスを考えない杜撰な報道をしたと言わざるをえない」等述べた。
朝日放送は「リストが真実と決め付けていなかったが、選挙の公平、公正に関わる重要な問題であり、疑惑が明らかになった段階で報道するのが責務と考える。報道は市議がリストを入手し本物かどうか市の幹部に問い質した動きを伝えたもので、真実である。労組への取材努力はしたが、時間的に間に合わず、午後改めて委員長を取材して夕方のニュースで伝えた。『やくざ』の発言は、あくまで内部告発者が証言した印象の比喩的表現を引用して使った。経緯を逐一取材報道し最終的にリストがねつ造だったこともきちんと報道しているので、訂正、謝罪の必要はないと考える」等述べた。
ヒアリング後審理を続行し、担当委員が決定文の起草作業に入ることになった。

2.「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺した中学生の両親が起した民事訴訟の口頭弁論を前に、原告側準備書面の内容を報道した際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理の施されていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画像がインターネット上に流出したとして、少年と母親が放送によるプライバシーの侵害を訴え、申し立てたもの。
この日の委員会では、「委員会決定」案の検討に入った。決定文のポイントについて起草委員が説明した後、各委員が意見を述べた。次回委員会でさらに審理を重ねることになった。

3.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

本事案は、テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、個人情報を公表されたうえ、何の断りもなく公道で盗撮された容姿・姿態が放送されるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
申立人から「答弁書」に対する「反論書」が、被申立人から「反論書」に対する「再答弁書」が提出され、双方の書面が出そろった。
この日の委員会では、事務局が双方の主張を整理して説明、それを受けて主な論点について議論を交わした。次回委員会では論点の整理とヒアリングに向けた質問項目の検討をすることとなった。

4.その他

次回委員会は7月16日(火)に開かれることとなった。

以上

第197回 放送と人権等権利に関する委員会

第197回 – 2013年5月

大津いじめ事件報道事案のヒアリングと審理
大阪市長選関連報道事案の審理・・・など。

「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案のヒアリングが行われ、申立人、被申立人から詳しく事情を聞いた。「大阪市長選関連報道への申立て」事案の審理を行い、ヒアリングに向けて論点と質問事項について検討した。

議事の詳細

日時
2013年5月21日(火)午後3時~7時5分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

本事案は、フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺した中学生の両親が起した民事訴訟の口頭弁論を前に、原告側準備書面の内容を報道した際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理の施されていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画像がインターネット上に流出したとして、少年と母親が放送によるプライバシーの侵害を訴え、申し立てたもの。
この日の委員会では、申立人、被申立人から個別にヒアリングを行い、詳しく事情を聞いた。
ヒアリング後も審理が行われた。

2.「大阪市長選関連報道への申立て」事案の審理

本事案は、朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』(午前11時台)において、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で現職市長の支援に協力しなければ、不利益があると職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」との前説で伝えたニュースについて、交通労組と組合員が名誉や信用を毀損されたとして謝罪等を求めて申し立てたもの。大阪維新の会の市議会議員に内部告発者から持ち込まれたリストに基づくスクープ報道だったが、その後リストは内部告発者自身によるねつ造だったことが分かった。
朝日放送は「疑惑が出たこと自体視聴者に知らせるべきニュースであり、弊社を含むすべての報道機関が第一報として報道している。労組が関与していなかったことは続報で明らかにしている」等と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて担当委員が作成した論点と質問事項について検討した。その結果、若干の修正をしたうえで次回6月の委員会で申立人と朝日放送にヒアリングを実施することを決めた。

3.「宗教団体会員からの申立て」事案の審理

本事案は、テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、個人情報を公表されたうえ、何の断りもなく公道で盗撮された容姿・姿態が放送されるなどプライバシーが侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
この日の委員会では、これまでに提出された文書を基に事務局から双方の主張の概要を説明した。本格的な議論は書面がすべて出そろう次回以降に行うこととなった。

4.その他

 1.放送人権委員会委員と関西地区BPO加盟放送事業者との意見交換会が、10月29日に開かれることが決まった。
 2.次回委員会は6月18日(火)に開かれることとなった。

以上

2013年4月

首都圏放送事業者との意見交換会を開催

放送人権委員会は4月16日、首都圏の放送事業者との意見交換会を東京・千代田区の千代田放送会館2階ホールで開催した。この日は第196回放送人権委員会が同会館7階BPO会議室で開かれ、意見交換会はそれに続いての開催となった。三宅委員長ら9人の委員全員と首都圏の民放、NHKの12社および日本民間放送連盟から計25人が参加し、最近の「委員会決定」をテーマに2時間余りにわたって活発な議論を行った。
各事案の「決定」の判断のポイントや事件報道の公共性・公益性、ニュース映像と人権、放送局の編集権、「意見」、「少数意見」の位置付け等について多くの質問や意見が出された。

意見交換をした「決定」

意見交換会での各委員の主な発言は以下のとおり(発言内のページ数は各決定文のもの)。

Q.第47号事案、なぜ「重大な問題あり」か

三宅委員長:本件は、かなり「エステ店医師法違反事件報道」(2007年6月)との類似性を考えました。このエステ店報道のときは決定について特に異論は出ませんでした。エステ店を放送倫理違反で「見解」にしたことと、今回の判断で「放送倫理上重大な問題あり」で「勧告」というのと、私も結構微妙なところだなとは思っていました。そのエステ店の判断が、きょうのような意見交換の場を何度か持ってきたけれど、生かされているのかというような「時の経過」と、それから、当時私どもが判断したときの放送倫理についての判断基準と、その後検証委員会もできて、放送倫理がかなり強く叫ばれるようになって、放送倫理に求められる水準っていうのは、かなり高くなっているんじゃないかなということ。最後に言うと、今回の映像が鮮明に私に焼き付いています。
私としては、今回は、「放送倫理上重大な問題あり」でもやむを得ないなという感じがしたんです。今回は周りにぼかしを入れたものですから、すごいアップで出てきた。周りの人の人権侵害を防ぐという趣旨のぼかしが、かえって本人をアップにさせて、かつ何々区の何々の誰それっていうのが出て、実際それで特定されて、申立人家族の生活にも大きな影響が出た。そういう結果まで出ていますから、その被害のレベルからいっても、やむを得ない結果だったんだろうなと判断して、「勧告」の重大性というところをつけたのです。

奥委員長代行:私はまだ委員ではありませんでしたから、エステ店の事案はくわしい内容は知りませんが、書類送検だったということですね。今回は20日間ほど拘留されて、略式命令の罰金です。この点は、決定を発表したときにも質問がありましたが、では、どの程度の犯罪ならば、どの程度の放送の仕方が許容できるかという線引きの問題ですね。これは大変重要な問題ですが、どこかに「線」があるというものではないと思います。ニュースが流れたその影響といったことまで含めて、柔軟かつプロフェッショナルな感覚で、その都度その都度、判断していくしかないんだと私は思っています。要するに、例えば懲役何年だったらここまでやっていいよといった問題ではないんです。
軽微か軽微じゃないかという問題は、もちろん罰金50万円が軽微な犯罪といえるのかどうかについては、委員会の中でも議論がありました。しかし、風営法違反といっても事案はいっぱいあるわけで、無許可営業というのは、届け出を怠っていたということですね。これは、1分9秒のニュース中で当事者のアップを含めていろんな表情が映っている映像を37秒も流すに値するものではなかったというふうに我々は判断しました。

市川委員:微罪かどうかということに関して言うと、いわゆる殺人強盗と比べれば、これはまあ軽い犯罪であると。だからと言って、公共性・公益性がないとは私は思わないので、それを素材として採用すること自体はなんら問題だとは思っておりませんが、やはりその中で取り扱い方によっては、非常に重大な制裁的な報道になってしまうということになりますので、その点で、本件はやはり問題があるのではないかなと判断しました。
それで、なぜかなり重いのかというニュアンスなんですけれども、10ページに「本件放送はすでにみたように、繰り返し4回申立人の映像を流した」とあります。顔を大写しにしたものや質問に戸惑いつつ答える場面があるのですが、その外側はぼかしていて、顔だけがすごくリアルに出てくる。しかも、捜査員が質問をしているところを、非常に困惑しつつ戸惑いながら答えている場面があるんですね。それを全部音も録り、顔も表情もリアルに撮っている。その姿というのは、やはり見られている側からすれば、おそらくたいへん恥ずかしいし、困惑しているだろうなっていうことは非常に強く感じる場面で、通常のその連行の場面を、いわゆる殺人犯なんかが連行場面で顔を出して映像を撮られているよりも、さらに細かくその本人の状況が撮られているというところが、私の印象としては、非常にやりすぎているのではないかなというところを強く感じました。そこらが先ほどの重いか軽いか、倫理違反の程度のところにも影響しているんではないかなというふうに、私は個人的には思っています。

Q.地域メディアにとって「罰金50万円の犯罪」のニュース性とは

三宅委員長:地域のメディアとして罰金50万円程度の犯罪について放送してはいけないという判断ではありません。問題はそのとらえ方でして、私も1分9秒のこの放送を何度も見て、このスナックの女性経営者はお店を開く時の食品衛生法の営業許可と、それから風俗営業法の営業許可を、どうも混同しているように見えたんですね。それで、警鐘報道として放送するのであれば、一言アナウンサーが食品衛生法の許可と風俗営業法の許可を混同しているんじゃないか、それとあれは違いますよということを、1分9秒の中でもきっちり言うと、見ている視聴者としては、ああこれは違うんだということが分かると思うんですよね。
地域メディアにおける警鐘報道の意義として、現場の記者がこういうのを撮って来たときに、デスクがそれをどういうふうに構成して、1分9秒の中でどの部分でどういうふうに使うかっていうところを、検証しながら番組の質を保っていく。こういう、作業として本来あるべきところが、放送の流れの中で欠けてたんじゃないかなという点を、ここで指摘したというふうに読んでいただけると有り難いと思っております。

奥委員長代行:決定文の7ページですね、真ん中あたりを読んでいただけると、今の問題はほぼ解決できるのではないかと思います。「日々さまざまな出来事が起こる。『ニュース』としてテレビで放送されるのはそのごくごく一部である。何を『ニュース』にするか(何を『ニュース』にしないか)の判断はもっぱら報道機関として当該テレビ局の裁量にまかされる。いわば『選ぶ自由』である。(中略)被申立人が現場での取材と県警からの正式発表を得て本事案を『ニュース』として選択・放送したこと自体は不当とは言えない」。こういうふうに書いています。

Q.「微罪は報道せず定着」は疑問

(注:決定文11ページの「報道による社会的制裁が刑事罰を大きく上回ることが考えられる微罪については報道しないといった考え方も定着している」との表現についての質問)

奥委員長代行:この20年ほどを考えても、放送界を含む報道機関全体では、社会的制裁を伴うような報道について、どのような報道をしたらいいのかについていろいろと議論が続いています。その結果、報道の具体的な仕方もかなり変わってきていると思います。
まず出典について質問がありましたが、これは特にどこかに出典があって、こういうカギ括弧にしたということではなくて、文章の流れの中で、言っていることを分かりやすくということで、カギ括弧にしたものです。
また、微罪という言葉ですが、これははっきりとした定義があるわけではないので、必ずしも適切な使い方ではなかったのかなと思っています。警察の用語では、起訴しない、警察署の中で帰っていいよ、というケースを微罪処分というように使っているようですけど、ここで微罪といったのは、そういう限定的な意味ではありません。
次に、定着しているか、定着していないかっていう問題は、これはある種の価値判断で、委員の中でいろいろ議論する中で、放送界の現場などにも詳しい方がいらっしゃって、犯人視報道しないとか、無罪推定原則といったことと関係して、こういう形に今やなっているという意見がありました。ですから、定着してないよと言われれば、そうですかと、それは残念ですというふうに言わざるを得ないのですけれども、ここでこういう表現を使って、こういうふうに書いたのは、そういう流れです。

坂井委員長代行:定着しているかどうかを議論しても結論は出ません。私はそんなにおかしくないと思っているので、意見が違うということになろうかと思います。ただ私はもう25年以上こういう報道と人権の問題にずっと携わっていますけれども、確実に現場は変わって来ているという実感はあります。ご指摘いただいた決定文の表現が一つの判断基準として定義付けられているのかどうかといったら、決定では別にそういう書き方はしていませんし、内容としては私としては違和感はないけれども、違う意見の方がいてもそれはそれでおかしくはないというふうに思います。

三宅委員長:微罪のところをどうだったかという話ですけども、今回のスナックのケースは、当該局はああいうケースで1分9秒放送したんですけども、他の1局はもっと短く、匿名だったんですね。それで、新聞記事は全くなかったんです。
エステ店の事案でも、当該局は何回か繰り返し放送したけれど、他の局の放送はなくて。新聞記事は1社が1段のベタ記事で、匿名だったんです。ですから、微罪についてどこまで報道するかについて、あまり放送しないという考え方も定着しているという表現は、あながち、そういう事例を踏まえれば間違いではないということを私も判断したので、ここのところについて文章の削除はしなかった。それは、エステ店と今回の放送の具体的事実を比べて検討して、ここまでの表現は許されるだろうっていうことで書いたということはご理解いただければと思います。

Q.林委員の「意見」と編集権について(「BPOは放送局の編集権にも立ち入るのか」という質問について)

林委員:BPOは、放送事業者の「編集権」に介入するのか、という批判をいろいろなところから聞いております。この「編集権」という言葉は、戦後、日本のマスメディアが定義してきたものですので、私自身が使うのは抵抗がありますので、より一般的な「編集の独立」という言い方で代えさせていただきますけれども、私はBPOの制度において編集の独立はしっかりと担保されているというふうに思っております。編集の独立を尊重するからこそ、BPOがある、BPOはそういう制度としてスタートしたという合意は、ここに座っている全員がシェアしている。だからこうして一緒に集っているのではないですか。まずそれが第一点です。
第二点目に、BPOができた経緯を思い出していただきたい。現在、放送局側のニュースの価値判断は、いろんな意味で社会との齟齬を生んでいる、生んできたということ。それらは、社会問題にまで発展し、メディア不信を呼び、そして、さらには政府の検閲さえ招きかねない。そういう認識のもとでBPOが設立されたわけです。そうしたなかで例えばこうした申し立てが出てきた時に、私たちはヒアリングをしながら、多角的に検討を重ね、その結果、こういう判断を私たちはしましたと申し上げているわけです。
それについてどうするか、私は、いろいろと反省していただきたいことがありますけれども、強制することはできないのです。けれども、それをこんどは、皆さん方が放送局に持ち帰って、その独立した編集権の中で議論をしていただいて、新たに現代の中での「公共性」を定義していただいて、そしてニュースの価値判断を見直していただく。私は時代や社会状況に左右されない、永遠に更新されないニュースの価値判断などあり得ないと思うんですね。

坂井委員長代行:編集権の問題についてご意見をいただいたんですけれども、お話に出た法律実務の現状ではどうかについて、弁護士の立場から述べさせていただきます。まず、法律の分野でも編集権という言葉は使います。判決にも出てきますし、準備書面にも書きます。ですからその点については、法律実務でもこの言葉は出て来るという前提をお伝えしておきます。
次に、「編集権に口を出すのか」というお話ですが、そのお気持ちも理解できると感じる反面、過敏な反応だなと感じるときもあります。ただ編集権ももちろん万能ではないということをご理解いただきたいと思います。「どう作るか」についてBPOが口を出すつもりはないと私は理解しています。特に人権委員会はそういう委員会ではないと思っています。ただ編集権があるからといって、人権侵害、名誉毀損やプライバシー侵害、肖像権侵害等をやっていいということは、皆さんももともとお考えではないはずで、そういう意味で編集権といったって外縁はある、限界はある。それを超えたら、それは違いますよということを言うのが、我々の委員会の立場なのです。その限りでは編集権万能じゃないから、やりすぎですよと、これは超えちゃってますねということは言わせていただきます。
さらに、いわば人権侵害のもうちょっと手前の、放送倫理の問題も扱うという規約になってますので、人権侵害にならなくても、放送倫理上これは問題でしょうと、それは編集権があるからOKという限界を超えちゃってますよという限りで、人権委員会は口を出すべきだと私は考えています。

Q.公共性と人権侵害

林委員:公共性がないニュースだから、(放送倫理の問題ではなく)人権侵害になるのではないかというご質問だったと受け止めます。その点については、配布資料にある「判断のグラデーション」のところをご覧いただきたいんです。「勧告」の中に、「人権侵害」というのが一つ、そして「放送倫理上重大な問題あり」というのがあって、これらは一つずつ別々の判断です。法律的な言葉で、法に触れるような人権侵害があるかないかということを判断するもの、それと、「放送倫理上問題があるかないか」ということの判断は、法律論ではカバーしきれないところがあり、双方は分けて判断するというのが、こちらでの分け方だということです。
ですから、公共性に関して申し上げますのは、これは別に、真実性やプライバシーとのコンフリクトではありません。今回の場合、「放送倫理上重大な問題あり」という結論については、私も多数意見と同じですが、あえて議論として「公共性」という言葉についてテーマにして意見を書いたということです。私自身は法律家ではありませんので、「公共性・公益性」という言葉を、刑法をもとに議論する観点とは異なる、社会学の立場から全く違う観点から議論をしてきたわけです。

小山委員:おそらく林委員は、公共性や公益性という言葉を、名誉毀損やプライバシー侵害を正当化する事由になるかどうかという、いわゆる法律論の意味で使っているわけではないと思います。ですから、別に公共性がないといったらからといって、それが即座に不法行為になる、いわゆる人権侵害になるという、そういった論理的な関係にはないのだろうと思います。要するに、法学的な議論をやっているわけではなくて、さきほどのお話にあったように、社会学的な意味における公共性・公益性という、これまた伝統的な議論の枠組みでのご意見だろうと理解しています。だから私も、補足意見の中で、法的な議論としてはこうなんですよ、ということを簡単に書かせていただいたわけです。

坂井委員長代行:(公共性・公益性について)どんな議論だったのかというご質問なので、弁護士としてどんなふうにそこのことを考え、議論したかを、ぜひお話しておきたいと思います。
皆さんに言うまでもないんですけれども、名誉毀損について刑法230条の2で違法性阻却の規定がある。あれは刑事罰についての違法性阻却です。でもそれがそのまま民事上の違法論に横滑りの形で認められてきたっていうのは、今更言うまでもない話だと思います。それで、起訴されてない犯罪について報道するのは公共性ありと書いてあるわけですよね、刑法230条の2で。ですから、この件はまさにそういう事案なので、名誉毀損にあたる違法かどうかというレベルの話になったら、これは公共性ありとして違法性が阻却されると言わざるを得ないというのが、法律家である私の考えです。ただ、あの規定そのものは、刑事的な違法かどうかの規定ですし、それを横滑りさせたのは、民事上の違法かどうかの議論で、その限りで最高裁はずっともう確定して判断をしているのです。その点、私が林委員の意見について、そういう議論もありだなと思っているのは、ここでは放送倫理上の問題として公共性はどうなのかっていう議論をしているのだと考えられますから、それについて最高裁は何も判断していないので、それとは別の議論があってもいいんじゃないかと私は思うのです。要するに、放送倫理の問題としては、そこは刑法230条の2や判例理論で全部割り切れるわけではないので、その意味において公共性の内実はいったい何なのかという議論は、私は有意義だと思っています。

Q.決定の法的結論に戸惑いも

三宅委員長:その戸惑いの点ですけれども、「放送と人権等権利に関する委員会」の運営規則の5条1項の1号というのは、「名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、及び、これらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする」ということで、名誉、プライバシーの人権侵害のほうがまず主にあったんです。それで、私が最初委員に入った頃は、ほぼ名誉侵害等を中心に判断していたんですけれども、最近は、明らかな人権侵害のケースというのは社内で処理されて、この委員会に来ないんじゃないかなって感覚があるぐらい、実は難しい放送倫理の問題が来るようになってるのです。
先例もだいぶ重なってきて、「これは問題あり」と局が判断した場合は、すぐ謝りに行かれて、この委員会に来るまでに解決されてるんじゃないかと思いたいぐらい、放送倫理の微妙なものが上がってくるようなりました。私は委員会に参加して7年目ですけど、初年度、2年の頃と今では扱っている案件がちょっと違うんです。そういう意味で、「放送倫理だけやるのが人権委員会じゃないか」と最近の決定例をベースにお考えになると、そういうご理解にもなるのかもしれないのですが、元々は人権侵害と人権侵害に関連する放送倫理というものを扱うというのがこの委員会の持ち場なので、そこは戸惑わないでほしいというところがあります。

Q.ヒアリングでの代理人同席は可能か

三宅委員長:ヒアリングに代理人を出していいのかどうかという質問ですが、局側でお出しになるのであれば、全然構いません。最近は申立書が非常に書きやすくなったので、本人申立てが多くなってきたのですが、3年ぐらい前のころは、弁護士が申立てした法律論の書面ばかり出てきたようなケースがありました。そういうのもこれからもまだあり得ることですから、それに対して将来訴訟になることも見越してですね、この申立ての段階で主張すべきところ、それから、相手方に基本的に書類も渡りますし、訴訟になり得ることもありますから、そこはそれで対応していただく。将来、万が一の訴訟っていうのをお気になさる場合は、そういうふうな対応していただければと思っております。

Q.「補足意見」、「少数意見」の意味と付け方

三宅委員長:本論と「意見」、「補足意見」のところですが、最近のケースでは意見が分かれました。やはり放送倫理っていうのは時と共に流れて、ある程度のコアな部分はコアな部分で残っていますけれど、人によって微妙に違うので、放送倫理のところは、今回の「イレッサ」も、「国家試験」も、委員会の中では結構ハードな議論をしました。意見をまとめるのに3回ぐらい委員会を重ねてようやくまとめたところです。委員会としては、「問題あり」であっても、なるべく放送の自由を守りながら萎縮しないような形でコメントしていく。しかし、倫理上の問題を考えるときに、「ここまでは(いわなくても)と…」というのと、「いや、これはもうちょっと強めにいうべきだ」というようなところで意見が分かれました。今日のご意見は今後なるべく「意見」を少なくしてほしいということかもしれませんが、スタイルとしては今回の「イレッサ」と「国家試験」のように放送倫理のところで真っ二つに意見が分かれるのはあり得るということで、これから委員会の中で、今日あったご意見も考えながら、なるべくわかりやすい形にしたいとは思っています。

三宅委員長:テレビ神奈川のケースをお聞きして、「意見」と「補足意見」の違いがわからないということがあったので、今回の「イレッサ」と「国家試験」では、結論は同じだけど異なる理由という「意見」とか、「結論について意見として補充している部分は」という修飾語を付けてわかるようにしようということ、そういうような形で、工夫はしています。
委員の議論を踏まえて、何らかの工夫ができると良いかなと思っています。

Q.現場にとって決定文は難しい

三宅委員長:テレビ神奈川のケースは、なるべくわかりやすい形で書こうということで、記載の仕方を随分工夫したんです。が、「イレッサ」の申立て代理人には弁護士がついて来られて、こちらとしては、一言も問題を指摘されることのないような文章にすることに努めました。
それから、「国家試験」のほうは申立人本人が弁護士です。ヒアリングの後もどんどん書面が来るようなケースで、放送人権委員会自体が裁判で訴えられることもあり得るという、そこまで私も気を付けていたのです。だから、起案については普段よりも2回ぐらい多くやりまして、その分、読んでわかりにくいと言われるかもしれないなと思いながら、旧来型の難しい書き方にしてしまいました。今後はもう少し工夫をして決定を書けるケースをなるべく多くしたいと思いますけど、今回はなかなかそこのところが非常に難しかった。
ただ、以前の決定文には「決定の概要」はなかったんです。「決定の概要」だけまず読んでもらって、なるべくわかるようにということで工夫して書いてるので、私が思うに、将来的に分厚い参考資料とは別に、「決定の概要」の部分だけをならべるようなもので、現場でそれだけ読んでもらえれば、ある程度決定の内容がわかるというような工夫をしないといけないかなって考えているんです。ご意見を色々伺って今後の参考にしたいと思います。
今回は事案自体が「イレッサ」の場合は判決も絡んでる非常に難しいケースでしたし、もう一つ「国家試験」のほうも、弁護士が大学で授業する時の授業のあり方で、試験問題を解説するようなことをやって良いのかどうかという微妙なケースだったんです。その辺大きく見ていただければ、多数意見のほうは放送倫理上の問題とまでは言えないという形です。そこをザックリ理解していただければと思ってやっていました。
ただ、委員会の中で意見は完全に割れましたから、割れた以上、それを一本化するっていうのはできません。今回はどうも議論の中を見ていると、非常に難しく、放送倫理上問題ありか、そこまでいかないけども、という難しいところの判断を我々は迫られてるんだなという感じでした。

坂井委員長代行:BPOの役割っていうのは、おっしゃるところはもちろんあると思うんです。ただ、BPO規約を見ていただくとわかるんですが、4条の(2)で、放送倫理検証委員会のほうは「放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるため、放送番組の取材・制作のあり方や番組内容などに関する問題の審議」をするっていうことですが、同条の(3)で定められている放送と人権等権利に関する委員会のほうは、「個別の放送番組に関する放送法令または番組基準に関わる重大な苦情、特に人権等の権利侵害に関する苦情の審理」をする委員会ということなんです。その結果、おっしゃる趣旨(BPOは番組向上のための機構では?)に資するようにやりたいとは思いますが、私達の委員会の役割としては申立てがあった番組について問題があったかどうかを審理するという形で活動する以外ないということはご理解いただければありがたいと思います。

以上

第196回 放送と人権等権利に関する委員会

第196回 – 2013年4月

「イレッサ報道」事案と「国家試験」事案に関する「委員会決定」の通知・公表の報告
審理要請案件「宗教団体会員からの申立て」審理入り決定…など。

3月末に相次いで行われた「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案と「国家試験の元試験委員からの申立て」事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、それぞれ事務局から報告した。審理要請案件「宗教団体会員からの申立て」について、審理入りが決まった。

議事の詳細

日時
2013年4月16日(火)午後3時~5時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の通知・公表の報告

3月28日に行われた本事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるフジテレビが決定について報じた当日の番組同録DVDを視聴した。
これに先立ち、通知は3月28日午後1時から千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。三宅委員長、起草委員の山田委員、市川委員、田中委員、少数意見を執筆した林委員の5人が出席し、申立人側は申立人本人と代理人弁護士3人、被申立人は報道局専任局次長ら4人が同席した。
三宅委員長が決定文の要所、要所を読み上げる形で委員会の判断を示し、「本件放送には、法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったとともに放送倫理上問題があるとまではいえない」との結論に至ったと述べた。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などについて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど放送の一部に配慮不足があったと認められること、また、申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことにつき、「十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する」と述べた。また、本決定には、この多数意見と結論を異にし、「放送倫理上問題がある」とする2名の委員の少数意見も付記されていることを伝えた。
続いて申立人は、「国が認めた薬である以上、効く人がいるのは当たり前だ。にもかかわらず、これだけ多くの人々が亡くなっている。これをどのように改革していくかということが重要だと思い、私は申立てを行った」と述べた。被申立人は、「指摘された点を真摯に受け止め、よりよい報道ができるよう努力していきたい」と述べた。
その後、改めて個別に感想などを聞いた。申立人側は、代理人が「少数意見も付けていただいたので、これを今後の活動に活かしていきたい」と述べた。また、被申立人側は、「まだ十分に読み込んでいないが、指摘された点は、今後、ニュース報道の中で意識していきたい。また、読み込んだ上で意見があれば申し上げたい」と述べた。
この後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には17社39人が出席し、テレビカメラ6台が入った。初めに三宅委員長が決定の主要部分を紹介し、続いて起草に携わった委員が一言ずつ述べた。市川委員は判断のポイントとなった2点について説明した。1点目の申立人の娘と番組に登場した肺がん患者を、前提条件を詳しく説明しないまま対立的に描いた点については、視聴者に誤解を与える可能性はあるが、限られた時間内という条件等を考えると放送倫理上問題があるとまではいえないと判断したこと、2点目の申立人と局との関係については、多数意見は放送倫理上問題はないと判断したが要望は付けたことを述べた。山田委員は、委員会はあくまでも放送された番組から判断するのでこのような結論になっているが、放送に至る過程において報道機関にとって重要な被取材者との信頼関係の喪失という事態を招いたことを重く受け止めて欲しい旨述べた。田中委員は、「申立人が最も大事にしている主張があまり重視されていない点が残念だった。お互いに議論して理解し合い、確認し合う作業が必要だ」と述べた。続いて少数意見を執筆した林委員が、「放送倫理上問題あり」と、多数意見とは異なる結論を下した理由を説明した。林委員は、「判断の理由は多数意見とほとんど同じであるが、結論が異なったのは、放送倫理の定義の仕方が異なるからだろう。問題提起の意味もあって、『取材対象者への誠実さ』『取材対象者との了解志向性の有無』『コメントの使い方、および放送全体の文脈から生まれるその印象の妥当性』の3点から放送倫理を定義し、結論を出した」と述べた。
記者との質疑では2、3の質問が出た。「放送倫理上問題があるとまではいえない」という表現と「放送倫理上問題がない」という表現が混在していることについての質問には、三宅委員長が「微妙にニュアンスが違うので表現を変えた。我々の悩みの表れとも言える」と答えた。また、要望に至る経緯が難しくてわかりにくいとの声に対しては、三宅委員長が「そもそも事案が複雑で、映像なしで理解するのは難しい。『取材対象者に対し、常に誠実な姿勢を保つ』ということをどう考えるかによって、多数意見と少数意見は分かれた。多数意見は『編集の自由』ということを考えると、放送倫理上問題があるとはストレートには言いにくいと判断した」と答えた。起草主査を務めた山田委員がそれを補足して、決定文の構成に沿って判断のポイントと結論を説明した。最後に「被取材者との信頼関係の喪失」と表現された事態についての具体的な説明を求める質問があり、山田委員が回答して、会見は終了した。

2.「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の通知・公表の報告

3月29日に行われた本事案に関する「委員会決定」と通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるTBSテレビが決定について報じた当日の番組同録DVDを視聴した。
通知は3月29日午後2時からBPO会議室で行われ、三宅委員長、坂井委員長代行、林委員が出席し、申立人とその代理人、被申立人のTBSテレビからは番組プロデューサーら3人が同席して行われた。
決定は「見解」として、名誉毀損・信用毀損には当たらず放送倫理上の問題があったとはいえないと判断したが、表現内容等について再検討し今後の番組作りに生かすよう要望した。なお、本決定には放送倫理上問題があったとする少数意見が付記された。
三宅委員長が、決定文をポイントに沿って読み上げ、少数意見についても説明した。決定を受けた申立人は「私としては、BPOの判断を信頼して申し立てたので、判断は率直に受け止めたい」と述べた。TBS側は「少数意見についてはしっかり精査させていただきたい」と述べた。
このあと、申立人、TBS側と個別に意見交換を行った。
TBS側に対して坂井委員長代行は「今回の試験委員の方はこの問題では公人だろうが、高級官僚や政治家のように権力を持った方ではないことも考慮すべきだったと思う。権力者を相手にしたときは、かなりきっちり事実関係を押さえた上でみんなが納得できるように批判したほうが、批判が力を持つし反撃を受ける隙がなくなるだろうと個人的には思う。そういう主旨で少数意見を書いたことをご理解いただきたい」と述べた。
また、林委員は「申立人の映像をスローモーションをかけて使ったりしている点は、多数意見で放送倫理上問題なしとはしましたが、視聴者としては非常に気になったところで、必要のないような映像の使い方は検討していただきたい」と述べた。
その後午後3時からBPOに近い都市センターの会議室で記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。18社が取材した。
三宅委員長が決定文を説明、坂井委員長代行が少数意見を説明した。
記者から「多数意見が結論なのに、少数意見が強調されている感じがする」という質問がでた。三宅委員長は「多数意見と少数意見で対立する点はあるが、問題点の把握というレベルではほぼ同じである。ただし、最後のところで公人であれば一般人よりも受忍する幅が広いだろうと判断し、放送倫理上問題ありとまではいかないだろうというのが多数意見である。そのポイントは何かといえば、申立人は国家試験の試験委員であり試験委員会副委員長という立場で、一般私人とはかなり違うという点で判断の違いが出てきたと思う。ただし、番組の作りからすると、少数意見でかなり強調されている点については、多数意見でもやはり全般的に要望しておかなければいけないという判断、認識はあった。公人に関する放送だから倫理違反にはならなかったが、一般私人の放送であった場合は、かなり状況が変わったというニュアンスもあるので、こういう意見は考慮して欲しいということを多数意見の中に書いた」と述べた。
三宅委員長はさらに質問に答え「我々が扱う放送倫理の問題は非常に微妙である。名誉毀損にはならない場合も放送倫理を委員会は考えるが、その放送倫理のとらえ方が微妙なケースが多く、このケースは本当に微妙なケースだったと思う。今回はもうひとつ公人というファクターがあり、公人だと甘受しなければならない範囲がどこまでかという問題がある。非常に微妙で悩ましい案件だったので、多数意見と少数意見に分かれたと思う」と述べた。
坂井委員長代行は、委員長の発言を補足するとして「少数意見は、試験問題の漏えいなどの事実の摘示があったとは認められないから名誉毀損は成立しないが、視聴者にそういう事実が放送されたとの印象を与える部分が存在すると判断した。事実摘示があったとまではいえないが、それに近い印象を与えたことは、放送倫理基本綱領や日本民間放送連盟の放送基準に照らすと、放送倫理上問題だと判断した。公人の職務に関する報道という点では少数意見も同じだが、やっぱり限度を超えてはダメです。事実摘示とほぼスレスレのことをやって誤った印象を与えたということで、放送倫理上問題があったという結論になった」と述べた。

3.大津いじめ事件報道への申立て事案の審理

本事案は、フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺した中学生の両親が起した民事訴訟の口頭弁論を前に、原告側準備書面の内容を報道した際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理の施されていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画像がインターネット上に流出したとして、少年と母親が放送によるプライバシーの侵害を訴え、局に謝罪等を求めて申し立てたもの。この日の委員会では、双方の主張を確認し、起草委員がまとめた本事案の論点について各委員が意見を述べるなど議論を深めた。次回も審理を続行する。

4.大阪市長選関連報道への申立て事案の審理

本事案は、朝日放送が2012年2月6日の『ABCニュース』(午前11時台)において、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で現職市長の支援に協力しなければ、不利益があると職員を脅すよう指示していた疑いが独自取材で明らかになりました」との前説で伝えたニュースについて、交通労組と組合員が名誉や信用を毀損されたとして謝罪等を求めて申し立てたもの。内部告発者から入手したというリストをもとにしたスクープ報道だったが、その後リストは内部告発者自身がねつ造したことが分かった。
朝日放送は「疑惑が出たこと自体視聴者に知らせるべきニュースであり、弊社を含むすべての報道機関が第一報として報道している。労組が関与していなかったことは続報で明らかにしている」等と主張している。
今月の委員会では双方から提出された書面等をもとに、放送内容に名誉毀損が認められるかどうか、裏付け取材は十分だったのかどうか議論した。また、朝日放送がその後の一連の報道において、リストがねつ造で労組の関与がなかったと報じていることを、本件申立てとの関係でどう判断するかについても意見を交わした。
次回委員会も審理を続ける。

5.審理要請案件「宗教団体会員からの申立て」~審理入り決定

放送人権委員会は4月16日の第196回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組はテレビ東京が2012年12月30日に放送した『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』。番組は、オウム真理教の後継団体アレフが「麻原回帰」を鮮明にし、新たな信者獲得に動く中、なぜ多くの若者が入信するのかを主なテーマに、元最高幹部のインタビューや現役信者や家族らを取材した映像等を中心に放送した。
この放送に対し、番組で紹介された男性が、個人情報を公開されたうえ、「何の断りもなく、公道で盗撮された私の容貌・姿態を放送され、自宅アパートの所在・外観を特定可能なかたちで放送され、容易に判別可能な顔写真数枚を放送された」等と抗議する文書をテレビ東京に送ったうえで、20日以上回答がなかったため、プライパシーの侵害を訴える申立書を委員会に提出した。また男性はテレビ東京に対し、番組を制作、放送したことについて、非を認めて直接謝罪し、番組を二度と放送しないと誓約するよう求めた。
これに対しテレビ東京は、「番組はオウム真理教の後継団体アレフの現状を伝えることなどを目的とした公益にかなうもので、取材も両親などから承諾を得てすすめている」として、申立人の求めには応じかねると回答。このため男性は、「当事者間の解決は極めて困難だと思われる」として最終的に委員会の審理に委ねる文書を提出した。
テレビ東京はその後委員会に提出した「見解」書面で、「公安調査庁の観察処分の対象となっている団体の実態を明らかにするには、私たちのとった取材手法以外に方法はなかった。編集に際しては、男性の映像や音声、写真には加工を施すなど人権の保護に配慮して放送し、問題はないと判断している」等と、反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

6.その他

次回委員会は5月21日(火)に開かれることとなった。

以上

2013年4月16日

「宗教団体会員からの申立て」審理入り決定

放送人権委員会は4月16日の第196回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組はテレビ東京が2012年12月30日に放送した『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』。番組は、オウム真理教の後継団体アレフが「麻原回帰」を鮮明にし、新たな信者獲得に動く中、なぜ多くの若者が入信するのかを主なテーマに、元最高幹部のインタビューや現役信者や家族らを取材した映像等を中心に放送した。
この放送に対し、番組で紹介された男性が、個人情報を公開されたうえ、「何の断りもなく、公道で盗撮された私の容貌・姿態を放送され、自宅アパートの所在・外観を特定可能なかたちで放送され、容易に判別可能な顔写真数枚を放送された」等と抗議する文書をテレビ東京に送ったうえで、20日以上回答がなかったため、プライバシーの侵害を訴える申立書を委員会に提出した。また男性はテレビ東京に対し、番組を制作、放送したことについて、非を認めて直接謝罪し、番組を二度と放送しないと誓約するよう求めた。
これに対しテレビ東京は、「番組はオウム真理教の後継団体アレフの現状を伝えることなどを目的とした公益にかなうもので、取材も両親などから承諾を得てすすめている」として、申立人の求めには応じかねると回答。このため男性は、「当事者間の解決は極めて困難だと思われる」として最終的に委員会の審理に委ねる文書を提出した。
テレビ東京はその後委員会に提出した「見解」書面で、「公安調査庁の観察処分の対象となっている団体の実態を明らかにするには、私たちのとった取材手法以外に方法はなかった。編集に際しては、男性の映像や音声、写真には加工を施すなど人権の保護に配慮して放送し、問題はないと判断している」等と、反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2012年度 第49号

「国家試験の元試験委員からの申立て」に関する委員会決定

2013年3月29日 放送局:株式会社TBSテレビ

見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
TBSテレビが2012年2月に放送した報道特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」で、国家資格である社会福祉士の試験委員会副委員長を務めた大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど、国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。

2013年3月29日 第49号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第49号

申立人
A
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『報道特集』(毎週土曜日午後5時30分~6時50分)
放送日時
2012年2月25日(土)
特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」午後5時48分頃から23分30秒間

本決定の概要

本件放送は、2012年2月の「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」と題する報道番組である。そのなかで被申立人は、国家資格である社会福祉士の試験委員であり、試験委員会副委員長であった大学教授を取り上げ、試験の過去問題解説集を出版して、これを大学の講義で用いたことなどが、試験委員としてふさわしくない行為で、国家試験の公正・公平性に疑念を招いたと伝えた。
これに対し申立人は、本件放送が、国家試験の試験問題の漏えいや出題のヒントを与えていたかのような印象を与えるものであり、これにより名誉と信用を毀損されたとして救済を求め、また放送倫理上の問題を指摘した。

委員会は、本件放送が、平均的な一般視聴者にとって、申立人による「漏えい」等の事実を指摘する内容であったと認定することはできず、違法な名誉毀損・信用毀損には当たらないと判断した。社会福祉士国家試験の試験委員による出版等の行為について国家試験の公正・公平性に疑義を生じさせるおそれがあると指摘した本件放送の問題提起には、社会的意義が認められる。申立人に異論があるとしても、国家試験委員であり委員会副委員長という立場にある以上、国家試験にかかわる事項に関する限り、申立人は「公人」として放送によるそのような批判は受けざるを得ないものと考える。
また、本件放送が、申立人についてマイナスの印象を強調して伝えたことは否めないが、公人の職務に関する報道であったことを勘案すれば、これに対する批判的言論として許容される限度を逸脱したものとは認められず、結論として、放送倫理上問題があったとはいえないものと、委員会は判断した。
ただし委員会は、局においても本件放送における表現内容、表現手法等に反省点がないか、再度検討されるべきものと考えるので、本決定が指摘する各意見を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かすよう要望する。
なお、本件放送は申立人による「漏えい」や所属学生を具体的に有利に扱った事実を印象づけるものであって、放送倫理上問題があるとの、多数意見と結論を異にする少数意見が示された。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の主張
  • 4.被申立人(放送局)の答弁
  • 5.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の企画意図
  • 2.申立人の立場
  • 3.問題とされた申立人の行為
    • (1)著作の出版行為
    • (2)著作を用いた大学での講義
  • 4.申立人による「漏えい」の事実を摘示しているか
    • (1)番組が挙げた2つの実例について
    • (2)厚生労働省のプレスリリースの扱いについて
    • (3)「漏えい」の事実摘示には当たらないこと
  • 5.放送のその他の問題点
    • (1)申立人の映像の扱い方について
    • (2)大学学長選挙と報道の時期について

III.結論

  • 少数意見

IV.審理経過

全文PDFはこちらpdf

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2012年度 第48号

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」に関する委員会決定

2013年3月28日 放送局:株式会社フジテレビジョン

見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月に2回にわたって放送した企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性が「放送はイレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性、正確性、公正さに欠け、放送倫理に抵触している。こうした放送や、申立人の主義主張とは反する発言の使われ方、取材休憩中の撮影とその映像の放送などによって名誉とプライバシーを侵害された」として、謝罪と放送内容の訂正を求め申し立てたもの。

2013年3月28日 第48号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第48号

申立人
X
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースJAPAN』
(月―木曜日 午後11時30分~11時55分、 金曜日 午後11時58分~午前0時23分)
放送日時
第1回 2011年10月5日(水)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【前編】ガン新薬の副作用は薬害か?」(7分12秒)
第2回 2011年10月6日(木)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【後編】承認から8年目の真実」(7分)

本決定の概要

本件放送は、抗がん剤イレッサをテーマにした報道番組である。申立人は、イレッサの副作用で亡くなった患者の父親であり、その後、訴訟や社会的活動でイレッサの副作用にかかわる問題を追及しているが、本件放送中での扱いによって、これまで自身が続けてきている活動を否定されかねない人権侵害があるとして、委員会に苦情の申立てを行った。
本件放送は、「イレッサの真実」というタイトルのもと、2011年10月に二夜連続で放送された。ちょうど同時期、イレッサの副作用を巡る製薬会社や国の責任を問う訴訟が係争中であり、番組放送後間もない時期に控訴審判決が出された。被申立人には、いわゆる薬害について熱心に追跡・報道してきた実績がある。
委員会は、本件放送に、法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったとともに、放送倫理上問題があるとまではいえないと結論する。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど、放送の一部に配慮不足があったと認められる。申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある。取材者・放送人にとって取材先との信頼関係を喪失するという重大な事態を招いたことにつき十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する。
なお、本決定には、多数意見と結論を異にし、「放送倫理上問題がある」とする少数意見がある。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の主張
  • 4.被申立人(放送局)の答弁

II.委員会の判断

  • はじめに~本件放送の構成と申立人の人権
  • 1.申立人の訴訟提起と東京地裁判決の伝え方
    • (1)東京地裁判決の引用の正確性
    • (2)T医師の東京地裁判決に対するコメント
    • (3)新薬の承認をめぐる研究者のコメント
    • (4)申立人とAさんの二人を対比的におくこと
  • 2.申立人のコメントの使用と人権侵害
    • (1)申立人のコメント使用の正確性
    • (2)申立人のコメント等の使用による人格権侵害の有無
  • 3.番組内容・構成における公平・公正

III.結論

  • 少数意見

IV.審理経過

全文PDFはこちらpdf

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

第195回 放送と人権等権利に関する委員会

第195回 – 2013年3月

イレッサ報道事案の審理
国家試験事案の審理…など

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の「委員会決定」案を了承し、本事案の決定に関する通知・公表を3月28日に行うことになった。「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の「委員会決定」案を了承し、本事案の決定に関する通知・公表を3月29日に行うことになった。

議事の詳細

日時
2013(平成25)年3月19日(火)午後4時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員
オブザーバー出席:曽我部真裕氏(4月度就任新委員)

1.「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。
この日の委員会では「委員会決定」の最終案を検討した。事務局が本文を読み上げながら内容を確認するとともに一部表現や字句の修正等を行い、決定案を了承した。
これにより、本事案の「委員会決定」に関する通知と公表は3月28日に行われることになった。なお、一部委員が、多数意見とは結論の異なる少数意見を書くことになった。

2.「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案は、TBSテレビが2012年2月25日に放送した『報道特集~「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」』で、国家資格である社会福祉士の試験委員だった大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。
この日の委員会では「委員会決定」最終案を検討した。事務局が本文を読み上げながら内容の確認と一部字句の修正を行い、最終的に決定案を了承した。
これにより、本事案の「委員会決定」に関する通知と公表は3月29日に行われることになった。なお、一部委員が、多数意見とは結論の異なる少数意見を書くことになった。

3.審理要請案件~審理対象外と決定

原爆による放射線被曝の調査・研究機関からの申立てについて、審理対象外とすることを決定した。
申立ての対象となったのは在京テレビ局が2012年7月に放送した番組で、当該研究所の知られざる実態を初取材したとしてその活動について報道した。
番組では、原爆投下による放射線の人体への影響に関する世界的権威である研究所が、これまで内部被曝に関する取り組みを軽視してきたとし、福島第一原発の事故でも福島の人の不安に応えられず、内部被曝のデータが欠落している研究所に今後もリスクの解明ができるか疑問である等と伝えた。
この放送に対し研究所は、「研究所が内部被曝調査を実施して来なかったとの重大な事実誤認をもとにした構成であり、憤りを禁じえない」等と局に抗議、放送による名誉毀損を訴え、局に対し謝罪等を求めて委員会に申し立てた。
申立てに対し局は、「番組は、放射線調査において世界的な権威を持つ研究所でさえ、予期せぬ福島の被災者の、内部被曝への不安に応えられない現実と、その現実を生んだ背景を伝えたものである」とし、「極めて公的な性格と社会的意義や影響を有する事業内容・成果に対する報道」の是非については「公の言論の場で批判検討されるべき」と主張した。
委員会は、委員会運営規則第5条(1).6「団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる」に照らし、審理入りするかどうかについて慎重に検討した。
この結果、本件申立てに係る団体については、原爆被爆者に対する放射線の影響調査を重点として、放射線の人に及ぼす医学的影響およびこれによる疾病の調査研究等を行ってきたこと等、その沿革や研究内容、また、日米両政府が経費を分担して共同で管理運営していることなどから、その組織や活動に高い公共性を有し、かつ、一定程度の情報発信力も備えていると認められるとし、「委員会による救済の必要性が高いなど相当」とみなすことはできないとして審理対象外とすることを決定した。

4.大津いじめ事件報道への申立て事案の審理

本事案は、フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺した中学生の両親が起した民事訴訟の口頭弁論を前に、原告側準備書面の内容を報道した際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理の施されていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画像がインターネット上に流出したとして、少年と母親が放送によるプライバシーの侵害を訴え、局に謝罪等を求めて申し立てたもの。
この日の委員会では、双方から提出された文書・資料に基づく各々の主張内容と本事案の論点について、事務局がまとめた資料により説明した。
次回も審理を続行する。

5.大阪市長選関連報道への申立て事案の審理

本事案は、朝日放送が2012年2月6日に放送した『ABCニュース』(午前11時台)において、2011年11月の大阪市長選挙で市交通局の労働組合が、「現職市長の支援に協力しなければ不利益があると職員を脅すよう指示していた疑いが独自取材で明らかになった」と報道したことに対し、交通労組と組合員が名誉や信用を毀損されたとし、局に謝罪等を求めて連名で申し立てたもの。内部告発情報に基づくスクープ報道だったが、約1か月後、この情報は内部告発者自身による捏造であることが分かった。
この日の委員会では、双方から提出された文書・資料に基づく各々の主張内容と本事案の論点について、事務局がまとめた資料により説明した。
次回も審理を続行する。

6.テレビ神奈川より対応報告書

昨年11月、『無許可スナック摘発報道への申立て』事案で「勧告」を受けたテレビ神奈川より、「委員会決定」の通知を受けて後の対応と取り組みをまとめた報告書が2月26日付で提出された。
この日の委員会で基本的に了承されたものの、放送倫理の向上に向けた今後の取り組みとして記載された事項に関しては、その具体的な実施状況や成果について、委員会として今後さらに報告を要請することとなった。

7.その他

次回委員会は4月16日(火)に開かれることとなった。

以上

2013年2月

東北地区各局との意見交換会

放送人権委員会は、2月20日に盛岡で東北地区の放送事業者との意見交換会を開催した。三宅委員長ら委員8人(1人欠席)と東北6県の民放とNHKの計22社48人が出席し、3時間20分余議論した。前半では震災報道と原発事故報道を取り上げ、まもなく2年目を迎える現在の取材・放送の取組みや問題点について岩手と福島の4局の報告をもとに意見交換をした。後半は過去の「委員会決定」をふまえ、事件・事故の報道で顔なしインタビューやモザイク映像を多用する「風潮」などについて議論した。
概要は以下のとおりである。

震災報道と原発事故報道・現在の取組みと課題

岩手、福島の4局の報告をもとに意見交換をおこなった。

【報告】IBC岩手放送 報道局報道部長 眞下卓也 「全社体制で被災者を支援」

私たちは地震発生の直後から「ふるさとは負けない」というキャッチフレーズを掲げてキャペーンを展開してきました。テレビ、ラジオはもちろん、Webですとか街頭での活動、いろんな形で広げていきました。それをまとめた映像をご覧いただきたいと思います。
(DVD視聴 約8分)
震災発生から2年近く経過し、沿岸のスタッフといろいろ話をする中で、一番課題として出てきているのが仮設住宅の取材です。岩手県内では応急仮設住宅というのは319か所ありまして、そこで1万2600世帯、2万9000人ほどの方々が生活をしています。
その仮設住宅の取材をする際に、カメラの前に出てこられる方とそうでない方たちが少しずつはっきり分かれてきているというんです。仮設住宅の中から出てこられない方たちが今何を考えて、何を望んでいるのか、非常に分かりづらくなっている、見えにくくなっています。 一方で、無理にと言うか、説得して取材をお願いすると、思い出したくないような記憶を呼び起こしてしまって、本当に嫌な思いをさせたりするんじゃないかとスタッフは本当に恐れていて、なかなか強気に出られない、難しい場面が増えてきていると言っています。カメラを担いで入ること自体、住んでいる方々にプレッシャーを与えてしまうのではないか思っています。そうした仮設住宅に暮らしている方々の思いとか、現状をどう伝えるかというのは1つの課題になっています。
それから、これは震災が発生してまもなくの頃から言われていますが、被災地と被災地の外の温度差というものです。岩手でも沿岸部と内陸部で温度差があると思いますね。現地の被災した方たちは「私たちの暮らしはどうなるんだろう」という現実のところを伝えて欲しいと思っているのに対して、外から取材にくる人たちは悲しみだとか前向きな気持だとか、そういうところにポイントが行って、知りたい情報ではないものが流れてきている。バランスよくという言い方はちょっとどうか分かりませんけれども、双方の思いがちゃんと伝わるようにと放送を出しています。そのひとつの例として、陸前高田の一本松の話をよく会社の中でします。津波に耐えた奇蹟の一本松というのは、非常に東京の注目度が高いですね。何回もニュースにもなっていますが、地元の記者たちは「あの一本松が地元の人たちにとってどれぐらいプラスになっているのか。それにお金をかけるぐらいだったら、もっと別な使い道はあるんじゃないのか」ということを常々言っています。非常に冷めた目で見ている部分もある、そういうような現実もあります。
私たちは、前に踏み出している方たち、走り出している人たちにスポットを当てがちですが、そうではない方たちもまだまだ数多くいらっしゃいますし、そうした方たちの思いを伝えていくのが地元局の役割だというふうに思っています。時間の経過とともに、このまま忘れられてしまうのではないかという不安を被災地の方たちは非常に持っていると聞きます。地元のメディアとして今後も被災者の方たちの声をしっかりと受け止めて、息の長い報道を続けていきたいと思っております。

【報告】NHK盛岡放送局 放送部副部長 渡辺健策「被災者に寄り添う震災・復興報道」

私は震災の時は報道局にいまして、すぐ福島の応援に出て福島と東京を1週間ずつ往復するような毎日が続き、その年の6月の異動で盛岡に着任しました。震災後のまだがれきも片づいていなかったような混乱の頃と、震災2年を前にしている最近では大きく状況が変わってきていると感じています。被災者の方々の状況もさることながら、われわれ取材者の置かれた状況、取材のアプローチも変わらざるをえないような、そんな変化を肌で感じています。
何かと言いますと、震災直後の頃はどの社もそうでしたでしょうが、待っていても次々といろいろ動きがあって毎日ニュースを出すのがフル回転でやっても追いつかないぐらいでした。それが、だんだん半年、1年、1年半と経つにつれて、いわば目に見える動きが減ってきて、今でもそれなりにはたくさんあるんですけれども、ネタをどう掘り起こすのかが大きな課題になっていると思います。目に見えない潜在化したような課題や問題をどう掘り起こしていくか、問われていると思います。 
例えば仮設住宅に住む人たちが、なぜ本来の自分の家を建てることができないのか、高台移転の計画があってもなかなか実現しないのはなぜか、一つ一つの地区ごとにやっぱり個別の課題があります。それは多くの場合切れ味鋭く全国ニュースにすぐになるような分かりやすい問題ではないんですけれども、一つ一つの地区が抱える課題はそれぞれの人たちにとっては最も深刻で重要な問題であり、それを伝えていくことが地域の被災地の人々のために役立つ放送だと考えています。
受け手の方々の反応も気になっています。初めの頃はローカルニュースの90%以上、95%ぐらい震災のニュースばかりで、殺人のような事件が起きてもよほどのことがない限りボツにするというような状況がしばらく続いていました。だんだんと視聴者の反応として「いつまで震災のニュースばっかりやっているんだ」という声がかなり目立ってくるようになりました。その後、かなり意識的に震災関連ニュースとそうではない内陸の一般ニュースの比率をちょっとずつ変えていきまして、今は五分五分ぐらいになっていると思いますけれども、受け手の側のニーズということを考えても、震災あるいは復興の報道をどう出していったらいいのか日々考えさせられています。
NHK盛岡放送局では震災後の5月から『被災者の証言~あの日あの時』の放送を始め、今まで320人ぐらいの方の証言をご紹介しています。3月11日に一般の方々がどんな生死の境をさまようような体験をしたのか、あるいはすぐ隣にいた人が亡くなって自分がぎりぎり助かったというような、そんなさまざまな体験からどんな教訓を学び、それを糧にどう変わりつつあるのかという証言のインタビューシリーズをお伝えしています。これも最近悩ましいのは、取材を受けてくださる方の中に「もう早く震災を忘れたい」という方もやっぱり大勢いて、特に九死に一生を得たような方の中には「その現場に行って語ることすらも恐ろしい」という方もいます。そういう方に無理をお願いすることはできないので、可能な方に限ってお願いしていますけれども、中には「辛いことだけれども、これを伝えていくことの大切さを考えて、今まで他の場では語らなかったことをきょうは語りましょう」というような方もいらっしゃって、そういう方々の思いを伝えるためにもこのコーナーは続けていかなければと思っています。その後、コーナー自体を福島、仙台、青森などNHK各局とも連携して全国放送のミニ番組で放送したり、あるいはWebにアップするような形に変えていったりしています。
もうひとつ最近感じているのが、取材拒否あるいはクレームが非常に多くなっていることです。被災地あるいは被災者全般に言えることなのかもしれませんけれども、先行きの見えない閉塞感の中で精神的に追い詰められているような方も大勢いるように見受けられます。例えば、催物で主催者の許可を受けて取材に入って、参加している方にちょっと感想を聞こうとカメラとマイクを向けようとしたところ、急に怒りだして「いったいなぜここにカメラが入っているんだ」というようなことを言われます。通常よりも更にもう一段きめ細かく取材の趣旨を説明したり、いろんな配慮をしながらやっていかないと難しい状況にあるのかなと感じています。 
最近、全国各局から応援に来た記者たちが自分の局に帰ってから、自分たちの地域でどんな防災対策をやっているか、何が課題になっているのか、そんな原稿をかなり多く出している、被災地で知りえた教訓を自分の局の取材に生かしていることを知りました。この被災地で学んだ教訓をどう全国や世界の防災対策に生かしていくか、われわれメディアとして伝えていかなければならないと思うようになりました。
(以上の報告を受けて、内陸部からは震災以外のニュースを求める声が強いというわゆる“温度差”と、津波映像の扱いをめぐって意見を交換した)

沿岸部と内陸部の"温度差"をどう考えるか

  • 仙台の中心部は経済的にも戻って逆に復興需要もあったりして、デスクにはそういうニュースをなるべく取り上げていこうという思いがあると思います。ただ被災地でニュースを見ていて現地の感覚からいくと、被災地のニュースの比重が明らかに落ちている、被災地の人たちにとっては、もう忘れられているという辛さではないかと思うんです。やはりどこまで気を配れるかじゃないかなとは思います。日々の業務の中での震災報道は、今は多分どこの社もいっぱいいっぱいなんですね。やはり課題を検証するにしても、マンパワー的にも減ってきているので、ある程度絞り込んでそれを継続させていくということではないかと思います。

  • 震災発生後、少し時間が経過すると、内陸の視聴者からは被災地のネタの中でも悲惨なニュース、大変だというニュースではなくて、頑張っている、あるいは復興の槌音が聞こえているというニュースを見たいという声も寄せられました。また、例えば「がれきの処理が始まりました」というニュースを流しても、それは一番最初ということでニュースにしているので、他のところは全然動いてないということもあるわけです。地元で取材している記者としては、現実を伝えていないのではないかと。そうしたことが、意識のズレを大きくしてしまった面があるかもしれません。

津波映像について

  • 必要なところに使うのはもちろんいい、ただし映像がないから、あるいはここへ津波の映像を入れれば何とかなるかなというのはだめだと。あの映像を見て非常に辛い思いをする人がいるだろうという想定です。ドキュメンタリーにしても、本当に津波の映像をそこで流す必要があるのかと非常に考えます。いろいろ考えてはみるんですけども、なかなか結論は出ないですけれど、相当の配慮は必要だとは思います。

  • 津波の映像に関しては、あくまでケースバイケースです。特に震災の教訓とか検証、私どもは毎週証言を映像で伝えたりしていますが、例えば津波というのはどういうものなのか、最初はちょろちょろ流れているぐらいの川でいきなりそれが濁流となって襲ってくる、こういうのはやはり映像でないと伝わらない、教訓として残せないという部分は明確にあると思います。その一方で、震災から1年ぐらいたって津波の映像を流したとき複数の被災者の方からこう言われました「自分たちの町がどういう津波に襲われて、どういう被害を受けたのかを初めて見た」と。被災地の人たちはテレビをそもそも3か月、長い人だと半年ぐらいほとんどまともに見ていなかったのです。少数派かもしれませんが。

  • 私は明治の大津波で浜辺に累々と横たわる遺体の写真を見て、その時初めて被害の大きさを実感しました。その時は岩手だけで2万人の方が亡くなっています。今回の津波の映像は、時を経て時代を積み重ねて後世に伝え防災にどう役立てるのかという観点でも大事にしなければならないと思っています。とりわけ各社の報道現場を見ると、震災後かなりの方々が転勤、異動をされていて、津波映像、資料などが今後どう使われて行くか不安があります。我々が報道現場からいなくなっても次の世代、またその次の世代が有効に活用出来るように整備しなければいけないと思っています。

  • 当社に契約カメラマンがいるんですが、彼が撮った津波の映像が非常に迫力があって、相当危険な取材をさせているんじゃないかという声までちょうだいしました。実は、事前に綿密ないろんな訓練、シミュレーションをして、あらかじめ想定してあった避難経路を確保しながら撮影した映像でした。あまりに迫力があるものですから、被災者や視聴者の方からフラッシュバックが起きるのでやめてくれ、そんなの流すなら『ドラえもん』を流してくれ、というふうな苦情がたくさん来ました。それ以来、必要最小限使わなければいけないという場合は事前に「今から流す映像は非常に刺激的なのでご注意ください」というテロップを流しています。

  • 山田委員
    今回の震災では、社で撮られたもの以外に数多くの持ち込み映像、写真があると思います。しかし、それらのなかにはきちんと肖像権処理をしていないものや、撮影者すら分からないものも少なくないと思います。だけど、それらは非常に貴重な歴史的記録なわけです。だからこそ是非、報道機関の経験とノウハウでスクリーニングをかけ、アーカイブや日々の報道の中で活用していただきたいと期待をしています。

  • 田中委員
    津波映像は防災の観点や教訓という意味で放送していただく場合であれば、使用目的を明確にした上で、やっぱり流して頂くことを視聴者は期待していると思います。先ほどの目に見える動きが減って来たという中で、被災地の皆さんが今考えていること、心の中で思っていることがこれから必要な情報になるので、是非このエリアから発信していただくことが非常に有効だし、それによって他の地域の人たちの気持ちや対応が変わったり出来るんじゃないかと感じたところです。ネットにはもう何でもあると言われていますが、すごく大事なことは私たちは言わないですし、一番大事なことは表に出ていなかったりする、そういう情報を集められるのは、やっぱり地域のテレビ、ラジオですので本当に期待したいと感じました。

【報告】 ラジオ福島 編成局専任局長 大和田新「原発事故さえなかったら」

私は震災以降ずっとアナウンサーとして現場に行き、活動をして来ました。特にこの1年間の取材の中で一番多かった言葉が「原発事故さえなかったら」です。私たちの人生に「たら、れば」はないんですが、これほど多く福島県民が今「原発事故さえなかったら」と苦しんでいることをお伝えしたいと思います。
まず福島県は原発事故により、現在12万人がふるさとを追われ、5万5000人が県外に避難しています。そのうち1万5000人が子どもたちで、北海道から沖縄まで避難しています。昨日現在ですが、福島県内の死者・行方不明は3113人、内訳は行方不明211人、地震・津波による直接死が1600人、いわゆる関連死が1300人となっています。この関連死が福島県の場合は特に多い現状は皆さんお分かりと思います。これはまさに無理な避難、そこから来る運動不足、ストレス、高血圧、糖尿病の悪化、認知症などが進んで、いわゆる持病がかなり悪化しています。一番深刻なのは、将来このままだとふるさとに戻れないという不安から自殺する人が非常に多い現状です。
福島県は今健康管理調査を行っています。これはアンケート調査ですが、私が取材して思うのは、国や県がやるべきことは調査ではなく内部被曝などの検査だと思っております。そして、将来もし甲状腺がんが出たら、福島県の子どもたちに関しては100%国が医療費を持つべきだと私は思って福島県選出の国会議員たちにも呼びかけ、何とか議員立法をしてほしいという呼びかけをしています。
非常に問題になっているのが子どもたちのPTSDです。昨年12月7日に宮城県沖で津波警報が出る大きな地震がありました。あの時に取材したんですが、浜、沿岸の幼稚園、小学校、中学校はかなりパニックの状態で、泣き叫んでいる子どもたちがおりました。PTSDは余震が来ると2011年3月11日午後2時46分に戻るんです。もっと深刻なのは沿岸部の小学校の女の子たちが言うことです「放射能を浴びてるから、私たち赤ちゃん産めないんだよね」。これはもうまさに人間差別につながっているというふうに思っております。現在のこの低放射線量で、子どもが産めないとか結婚出来ないとか、がんになるなんていうことはあり得ないんですが、子どもたちがそういうふうに言うということは、何が必要かと言うとやっぱり教育と医療だというふうに私は考えています。 
2011年3月に相次いで福島第一原発が爆発したとき、原発から20キロ圏内は自衛隊も警察もご遺体の捜索をやめて撤退しました。ちょうど20キロの南相馬市原町区萱浜のAさんは、津波でご両親と8歳のお嬢さんと3歳の息子さんの家族4人を亡くしています。お父さんと息子さんの遺体はまだ見つかっておりません。自衛隊、警察が全部撤退した後、遺体の捜索をしたのはAさんを中心とした10人の消防団です。4月20日に自衛隊が入って来るまで毎日自分たちの家族の捜索を行い、1か月に40人のご遺体を見つけたそうです。
これがご自宅の写真です。海岸から1キロです。周りの家は土台しか残らなかったのですが、奇跡的に残りました。Aさんはマスコミが大嫌いでしたが、確か7回目にお会いしてようやくインタビューをさせていただきました。
(ラジオで放送したインタビュー音声 約3分)
震災から2年経って1万人いたら1万人の思いがそれぞれ違うんだということを私たちは確認して、その思いをちゃんと伝えて行かなければいけない、十把一絡げでは被災地、被災者というものを語って行けないと思っております。
大熊町から雪深い会津若松に避難している、ある中学生の作文をちょっとご紹介させて頂きたいと思います。
(作文朗読 省略)
昨年の3月1日、福島県で一斉に県立高校の卒業式が行われました。富岡高校は警戒区域にあるため100キロ離れた福島市飯坂町で卒業式が行われました。答辞を述べた生徒会長は神奈川県からサッカー留学で来ていたBさんでした。原発事故があった時、神奈川の家族は彼女に戻って来るように必死に説得しましたが、彼女は富岡高校で卒業することを選びました。答辞でこう言いました。
「人間のコントロール出来ない科学技術の発達によって、私たちは大切なふるさとを、母校を失ってしまった。しかし天を恨まず、自らの力で、自らの運命を切り開いて行きます」。これからも地元のラジオ局として、被災地、被災者に寄り添いながら福島の現状を発信して行きたいと思います。

【報告】福島テレビ 報道局報道部長 鈴木延弘「信頼される原発事故報道を目ざして」

今回の原発事故に関しては初めての経験で、どこまで取材するのかぶち当たりました。我々は事件事故が起きたらとにかく現場へ行けというのが普通で、今回も浜通りの津波の被災地に取材班を何班も出しました。その時私たちの本社には線量計が5本ありましたが、これを持って行けとも言いませんでしたし、そういう事故が起きるということも、もちろん考えなかったので、丸腰で出したという経緯がありました。
それから少し経って、どうも原発がだめだといった時に本社に線量計が5本しかありませんので、フジテレビ系列からかき集めて持たせるという話になりました。必要な線量計が揃うのに10日ぐらいかかったので、それまではちょっと取材に行くのは危ないだろうということで、避難指示が原発の20キロ圏内に出ていたので余裕を取って40キロぐらいまでにしようと。系列で話をしてそういう取材をしようということになりました。
そうなると、20キロから40キロまでは普通に人が生活しているところでしたので、何で取材に来ないんだと。電話取材をして様子を聞いたりしていましたが、避難所でも何でテレビの人たちは被災地に入らないんだと結構詰め寄られたりしました。そうした最初の部分で、初めての経験であったので安全面を考えた結果、現場に行けないというか行かないという選択が、何かマスコミというか私どものテレビ報道が信頼されない原因の一つになったのかなというふうに思いました。私たちはもちろん現場で取材するということと、後は本筋を知っているネタ元を作っておくことが求められますが、残念ながら東京電力にネタ元はありませんでしたし、政府にもありませんでした。
汚染されたわらを食べた牛が流通したという問題は、一方でその牛肉を販売した店名を発表することで回収を促したいというものでした。僕たちは食中毒の報道で原因者がその店だったら放送しますし、もちろん映像付きの方が理解を助けるため、店の映像を出そうとなるんですけども、今回同じ手法で店の映像を放送したところ、「我々も被害者なのに何でやるんだ」と店からクレームが来ました。人権上の配慮が足りなかったのかなということで、店の方にお詫びをしたという経緯があります。
除染の問題については、いわゆる災害の復旧作業というのは基本的には公共工事、公のものなので、事前の断りなんかしないで取材に行くのが普通だと思いますが、例えば自分の家が汚染された、庭が汚染されたというのは極めて高度なプライバシーだというような考え方もあって、取材に行くと必ず何で取材に来たんだというようなことを言われます。取材の主旨を説明すると、分かりましたと言う方と、いやいや私のプライバシーだと言う方とがいまして、これもケースバイケースと言うか、現場できちんと説明をしなきゃいけない、今までと違うなと感じています。
それから、放射線の問題については皆さん非常に勉強をされている、ネットにもたくさんの情報が出ていていろいろな考えをお持ちです。そんな中で、テレビとしてこの問題でどんな情報を出して行けるか非常に苦慮しています。ある学者はこう考えているけども、それが本当に正しいのか良く分からない。昔から私たちは専門家が言うことは正しいだろうというスタンスで取材し、放送してきましたが、専門家にもいろいろな考え方があるということを短い放送時間の中でどのぐらい表現するのか、正解がない難しい問題だなと思っています。
それから当社の報道部員だと今は2年間で4ミリシーベルトぐらい積算で行っている、多い人でそのぐらいだったと思いますが、最初の10日間ぐらいは線量計がなかったので、その時はもう少し強い放射線を浴びているはずなので、もうちょっと行っているだろうと思います。みんな取材に行きたい、例えば第一原発に入りたいというようなことを言うんですけども、許容できる線量は各人ばらばらだと思いますし、どうやって線量をうまく分担しながら、この先何十年と取材を続けて行くかは、多分報道部だけでは解決しないので全社的に考えなければいけない問題だと思っています。
先日、福島第一原発の構内を視察する機会があって現場を見て来ました。そこで2年経ってもなかなか収束作業が進まないという現状を見た時に、原発事故の責任は国とか東電とかいろいろ言われていますけども、私は大人全員の責任なんだろうなと改めて思いました。その責任をどうやって果たして行くかという中で、私たちマスコミの責任というものも、事故への準備がまったく出来ていなかったというところからすればで、かなり反省をして伝えて行く必要があるというふうに思いました。
(この報告にあった、汚染された牛肉を販売した店の映像使用について委員に考えを聞いた。そのあと、被ばくをめぐる視聴者の様々な考えにどう対処しているか福島の放送局に尋ねた)

放射性物質で汚染された牛肉を販売した店の映像使用について

  • 山田委員
    ちょっと言葉は悪くて適切じゃないかもしれませんが、嫌われても伝える義務が報道機関にはあると思っています。それは、報道するには報道する側にそれなりの覚悟を持つ必要があるということではないでしょうか。私としては、まずは目の前に起こっている問題から目を背けることなく、逃げずに報道するということがまず原則であって、その中で風評被害等、報道したことによって生じる影響を考えてどこまで配慮を示すのかということかと思います。ちょっと厳しい言い方になるかと思いますが、配慮を示したばっかりに、どういう問題なのか十分に伝わらない報道をしてしまったのでは、結果的には報道機関の役割が損なわれるのだろうと思っています。

  • 坂井委員長代行
    もともと県がお肉屋さんを公表しているんですよね、放射性物質が検出された肉がこういうお店で販売されたと。汚染されたものは食べない方がいいから当然のことで、店が放射性物質で汚染されたものを売って、そのお店が気の毒だから報道しないという話にはならないと思います。公共性がある話で、市民が食べるべきでないものを食べないようにするために報道する価値があると判断をするのであれば、きちんと話をして納得してもらう努力はするべきだけれども、納得してくれなかったから報道しませんというのでは、報道の責任を果たしたことにならない。段取りをちゃんとして必要な範囲で放送したのであれば、やるべきことをやったということになるのではないかと思います

被ばくをめぐる考え方の違いへの対応

  • 多分一番違いが大きかったのは、自主避難される方と避難されない方ですね。警戒区域の場合はしょうがないんですけども、例えば福島市とか郡山市は原発から60キロ離れていますが、比較的線量が高い。そうすると自主的に避難する小さなお子さんがいるお母さんと、残っているお母さんと2つに分かれています。そういう中で避難されている方に軸足を持って行くと、避難してない方からは当然なぜそれを報道するかという話がございます。ですから、なるべく機会を均等にするというか、一方でこういう事実もありますけども、こういう方もいらっしゃいますよとバランスを取るやり方しかなかったと思います。
    あと、第一原発が今どうなっているのかきちっときめ細かく伝える。政府情報を垂れ流しした反省の意味もあるんですけども、たまたま今ですと、大臣クラスが視察で原発構内に入るケースがあります。視察の情報ではなく、記者がついて行って、発表ではなくて自分が見たもの感じたものを伝える、そういう視点も大事かなと思っています。

  • 当初はインターネットで流されている危機感とか、あおるような情報、そういったものにあまり耳を傾けないで自分たちの報道姿勢を貫くような形でいました。その後はネットの声などもある程度意識して、国が発表するから、東電が発表するから、それを鵜呑みにしてそのまま流すというのではなくて、地元の自治体の考え、一般住民の考え、またネットの中の意見とか、いろいろな立場を考えて報道しているということでしょうか。

【スピーチ】 大石委員「福島を撮って」

私は2011年の5月上旬から福島、宮城の方を取材しました。福島は風評を入れて四重苦ですが、原発となると、放射性物質は目に見えないですので、写真でどう撮るかはかなり厳しいと思いながらカメラを肩に歩き回りました。やっとつい最近、「福島 FUKUSHIMA 土と生きる」という写真集にまとめることができました。写真は音もなく動きもないだけに、想像力で補っていただきたいです。ご覧いただきます。
これは言うまでもなく荒れた田んぼです。土が原点。要するに農民ですから、自分の故郷、大地、田畑が汚染されたら何にもならない。「自分の原点が奪われた」と言って大声で泣く男性です。
仮設住宅ではなく借り上げ住宅に移ったおじいさん、おばあさんと孫2人です。「田畑に毎日出ていると、いい意味の緊張感もあるけれども、ここにいると何もできない、なんだか人間でなくなったような気持ちになってくる。孫がこうしていつも一緒にいてくれるということ、これまでも一緒に住んでいたけれども、今は狭いところですぐ近くにいてくれるからせめてもかな」と自分を慰めていました。
(写真説明 中略)
この人は川内村の農民で、線量が高いために、コメは作れないことになっている。けれど彼は、先祖代々からの田を荒すわけにはいかないと、合鴨農法でコメを作りましたが、「2011年に収穫した1トンは国によって埋めさせられた。去年は2トンの収穫があったが埋めた」と。こうした農民の魂というか、誇りというか、そういうものを私たち消費者もきちんと受け止めなければならないという思いを強く受けながらこの写真を撮りました。
福島には今年IAEAが調査に来ます。チェルノブイリではIAEAが90年ごろですが、「問題ない」と宣言したために、長いこと世界の目が集まらなかったという経緯があります。IAEAが、甲状腺がんとかいろいろ認めたのは8年ぐらい経ってからですね。福島でIAEAがどういう調査結果を出すのかわかりませんが、私たち、とりわけ報道をする人たちは、しっかりと見逃さないでいただきたいと思います。
学者の中にも、100ミリシーベルトでも大丈夫だと言って福島で問題になった例もあるし、2ミリシーベルトでも危ないと言っている人もいます。いろいろな問題が福島の原発の被ばくに関してはあります。丹念に時間をかけて伝えていただければ、視聴者でもある私もとても有難いです。

事件報道における実名と映像の扱い、人権への配慮

休憩をはさんで後半に入り、表題に関係する2事案の骨子の説明に続いて会場からの発言を受けて意見交換に入った。

「委員会決定」の骨子の説明(省略)
三宅委員長  第31号「エステ店医師法違反事件報道」
奥委員長代行 第47号「無許可スナック摘発報道への申立て」

(骨子を説明するなかで、三宅委員長と奥代行は以下の発言をした)

  • 三宅委員長
    決して、首なし映像をお勧めしているわけでございません。できる限りちゃんと首から上も付けていただいた映像にしていただかないと、テレビが率先して首なし映像でシェアされていきますと、日本社会全体が匿名社会になっていって、人と人との交流がそこで途切れてしまう。人間はやはり人と人との交流の中生きていく、成長していくという点からすると、できる限り全体像を伝えて、お互いの交流ができるようにするというのが本来のあり方だと思っております。

  • 奥委員長代行
    実名や顔がちゃんとある報道をしていただきたいという基本ですけども、ただし、行き過ぎるケースとして名誉棄損やプライバシーや肖像権の侵害とならないけども、放送倫理上さらに煮詰めていただくべきところがあるという、非常にきめ細かい判断が要求されてくると思いますけども、これをまた参考に取材で活かしていただければと思うところでございます。

  • (出席者から、映像の使用に関して2つの問題提起があった)

  • 車のナンバーなどのモザイク処理について

  • モザイクの件で、私たちは交通事故の現場に行って車のナンバーにモザイクをかけて放送するということはしないんですけども、最近なんでモザイクをかけないんだという苦情がかなり来るんですね。それに対しては、ナンバーから車の所有者が特定されることがないので、モザイクをかけないと説明するんですけども、あまりにも苦情が来ます。報道以外の番組を見ていると、かなりそういうモザイクがたくさん使われていて、そもそももう世の中モザイクがないとだめみたいな風潮になっているのかなと憂慮していますし、説明に苦慮しているという現実があります。
  • 事件事故の際の顔なしインタビューについて
  • 速報性が求められるというところも原因としてあるのかもしれません。事故現場、火事現場、とにかくすぐ撮って帰らなきゃいけないというところで、顔出しでしゃべってくれる人を捜し出せないという時間的な束縛もあるのかもしれませんが、顔が出ないならインタビューに答えてもいいという人がとても多い。特に事件があって周りに住む人とか、昨日まで一緒に普通に平和に暮らしていた隣人が事件を起こした場合、その人はどんな人だったかとかいう証言とか、特に顔を出すのはだめ、声だけならという方がほんとに多い。

  • 小山委員
    車のナンバーにモザイクをかける必要がないという理由は、警察でない限りナンバー照合することができないわけだからということだと思います。ただ、一般人にはわからなくても、その当事者の周辺の人間に分かる可能性というのはあるわけですね。そうした場合、プライバシー侵害になるという可能性がないわけではありません。『石に泳ぐ魚』というモデル小説の裁判で、原告になったのは普通の女性で、著名人でもなんでもない。ただ、あの小説を通じて分かる人には誰だかわかる。ちょっとなかなか難しいところかなという印象を持ちました。いずれにせよ、ナンバーが見えたから違法とか放送倫理違反ということではなく、放送内容自体に問題がある場合に、ナンバーを通じて特定個人のプライバシー等に対する侵害や、放送倫理違反が生じうる、ということです。
    それから顔なしという話ですけども、この前のグアムの殺人事件では、加害者に近い同級生とかみんな顔を出してインタビューに応じていますよね。文化の違いなのか、日本独自の変な慣習みたいものが形成されてしまったのかという感じもしますが、やはりできるだけ顔を出してもらうように努力するというのが基本だと思います。
    それからもう1つ、顔なしでもいいからとにかく映像を撮ったほうがいいのか、扱ったらいいのかどうかというところも1つ考えるべきことではないかとも思います。場合によってはそれを使わないという、そういった判断もありうるのかな。

  • 奥委員長代行
    お二人の発言は、基本的に同じことだと思うんですね。要するに風潮です。その風潮というのを作り出したのはたぶんマスコミ自身なんだろうと思うんです。しかし、よくない風潮はどこかで止めて、元に戻していかなければいけない。私はBBCのテレビを見る時期がありましたが、ほとんどちゃんと顔を出してインタビューに答えていますね、日本に帰って来てすごく違和感を持った。これは確かに日本社会の特質というか、人前に出てしゃべったりするのを嫌がるというか、恥ずかしいというか、顔がわからなければいいなという、たぶんそういうメンタリティがあると思うんですけれども、だから、速報性とかそういう時はしょうがないでしょうが、ちょっとじっくり取材できる時は顔を出してもいいという人を一生懸命探し出して話を聞く、そういうふうな地道な努力をして、こうした風潮を少しおしとどめていくという、そういうことが必要なんじゃないかと思います。

  • 林委員
    私からちょっとお伺いしたいんですけれども、例えば火事とか犯罪、要するに事件報道のあり方そのものを見直すことはできないのでしょうか。これまで、日本のマスコミは、どんな事件でもとにかく現場へ行く。被害者や加害者の写真を撮る。こうした反射的とも言える行動が、美徳のように考えられてきたような気がします。だから、長い報道の歴史で、「メディアに顔が出る」ことに、積極的かつ主体的に社会的意味づけをしてきたのはメディア側です。したがいまして、私は日本の人が顔を出さないのを、日本人論的な部分で解釈して終わってしまうということにはちょっと賛成できないんですね。
    今まで、現場のみなさんは、「顔出し、実名」で誰かにインタビューし、細かい報道をしていくこと自体が、ジャーナリズムの本質だと理解してきたと思うんです。それだから、ニュースの時間も、それがもっともやりやすい「事件事故報道」が多くなり、取材のリソースもそこに投下されてきた。しかし、そういう報道のあり方自体を見直して、ニュースの価値の基準を少し動かすことができないのかと。今回のこの場でも、東日本大震災の記憶の風化をどうやって食い止めていけばいいかという根源的問題を語りながら、他方で市井の事件報道のあり方をどうするか、という実践的問いがある。この二つの落差をどう埋めるのかなと思います。もしかしたら、東北のテレビ局は、震災によって、たとえば、ちょっと実名報道や顔出しの基準も変わったんじゃないか。さらに、報道の社会的意義の考え方にも変更があったのではないか。そんな期待があるのですが。
    つまり、現場の方は事件報道に対して、顔出す、出さない以上の問題として、事件報道そのものを減らす決断ができるのかどうか、そこがちょっと知りたいんですね。「この事件は、大した社会的意義がないから、今日はやめておこう。」って、そういう話ってありなんじゃないかなって思うのですけども、現場ではなぜそういうことができないのか、と思うことがしばしばあります。

  • 山田委員
    最近の事例で言うと誤報がありました。PC捜査の誤認逮捕の問題、あるいは尼崎の連続変死事件の顔写真問題、誤報ととらえるかどうかは皆さん、各社で違うかもしれませんが、例えば尼崎の場合にはいくつかのテレビ局はお詫び放送をしました。けれども、PCの別件逮捕の報道に関して私の知る限りお詫び謝罪放送をした放送局はありません。要するに、警察発表で逮捕されたのだったら、もう顔写真、実名報道が当たり前で、間違えても何の責任もないというのが現在の放送局、もっと言うならば日本の報道界の慣習であり実態だと思います。
    あるいは、今回のアルジェリアの人質事件でヤフーのユーザーアンケートでは、7割は実名の公表に反対なわけです。実名報道が当たり前で、当然容疑者もそうだし、被害者も例外ではないという考え方は、もうすんなりとは受け入れられないという状況になっていることを、テレビ局はじめ報道機関はもっと自覚した方がよいと思います。ちょっと面倒かもしれませんが、実名報道の意義をきちんと丁寧に説明する時期に来ているのだろうなと思っています。それからすると、さらに一歩進めて「警察発表イコール報道」ということ自体も、一度、議論してみる必要があると思います。もう少しち密な基準作りというか、毎日の日々の取材あるいは報道の仕方の検討ということを、みなさんのなかでしてみていただけませんか。

  • 坂井委員
    小山委員がお話しになった『石に泳ぐ魚』裁判の原告側の代理人をやっていた立場から、ちょっと補足をさせてもらいます。
    決定的に違うのは、あれは小説だと柳美里さんが自分で規定しています。どのようにでも創作できるフィクションだから原告とつながりがないと言っているのに、原告とつながることを書いてしまっている。報道について刑法230条の2が名誉毀損の違法性阻却を定めるのは、事実を脚色せずにそのまま書かないと報道の意味がないという前提がある。そのうえで公共性があり、公益目的があり、真実だったらいいよとなっている、社会的価値が低下しても。だから、小説と報道とはちょっとステージが違うということがまずある。それから、あの小説では極めてセンシティブな個人情報が書かれていたので、車のナンバーとは性質がだいぶ違うんですね。プライバシーに関わるかもしれないけれども、情報の質が違う。
    例えば、交通事故でナンバーをそのまま流しました、でも本当にそれが必要あるでしょうかというチェックは必要です。ふつう分からないといっても、場合によってはプライバシー侵害になるケースがあるかもしれない。しかし北海道の雪の中で50台の高速道路の事故が起きたという時に全部ナンバー消していいんだろうか。これは事実として報道する価値が高いんだ、ナンバーは付けて走るものだということでいったら、それはもうある意味放棄しているということだって言えるわけですよね、例えばですけど。そういう個別の判断をしていかないといけない。
    あと、顔出しは嫌だと言うんだったら、じゃあ結構ですという選択だってあっていいと思うんです。取材、報道する側が、この事実を報道する価値がこれだけある、そして信用性を得るためにもちゃんと顔を出して言ってもらわないと困るということを言っていかないと。言っていけるのは報道する側の人しかいないと思うんです。

【三宅委員長の締め括りのことば】

私自身が、原発事故で避難している人たちに人権があったのだろうか、なぜ裁判所が今までの数々の原発訴訟の中でチェックできなかったのかという問題を考えなければいけないという立場にあります。こういうときに、放送メディアとしては、現場のリアリティある映像、音声を念頭に震災に対応できなかった原発の責任論みたいなのを考えないといけないだろうと思うので、ぜひそういう映像と音声を流していただく役割というものの大切さを持ち続けて、繰り返しいろいろな角度から伝えていただきたいと思います。
それから、実名報道のところで言いますと、報道機関の役割としては国民の知る権利に奉仕するという基本的な立場に立ちつつも、実名報道をした場合の弊害がどういうものかということを具体的に考えながら、できる限り開示をするという方向付けをはっきりしていただきたい。今の通常国会で多分まず最初に出てくるのが社会保障と税の共通番号制度の法案で、医療データと税金の情報は全部政府が握るけれども、当該個人についての重要な個人情報は、政府機関からはほとんど出ない。例えて言えば、匿名化社会で、いわば監獄の中心に政府があって、いろんなデータを持っているけど、周りに収監されている囚人は互いに知り合うことができない、そういう全方向型監視社会になってくるんじゃないかと、危険を感じています。ぜひ匿名化社会になるような映像を流し続けるのではなくて、絶えずチェックするというような視点で取材、放送していただくのが基本的なスタンス、報道機関のあり方ではないかなと思っております。

以上

第194回 放送と人権等権利に関する委員会

第194回 – 2013年2月

イレッサ報道事案の審理
国家試験事案の審理…など

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の「委員会決定」第3次案について審理し、これを大筋で了承した。「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の「委員会決定」修正案をもとに審理し、委員会としての結論を確定するとともに決定案を大筋で了承した。いずれも次回委員会で最終確認を行うこととなった。

議事の詳細

日時
2013年2月19日(火)午後4時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。
この日の委員会では、前回の委員会での議論を受けて起草委員が再修正した「委員会決定」第3次案について審理した。各委員から事前に寄せられた指摘や意見を踏まえ、決定文を読み上げながら、その表現や内容、結論等について時間をかけて細かく検討した。
この結果、第3次案は大筋で了承され、今後一部表現上の手直しをしたうえ、来月の委員会で最終的な確認を行うこととなった。

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案はTBSテレビが2012年2月25日に放送した『報道特集』の企画「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」』で、国家資格である社会福祉士の試験委員会副委員長を務めた大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。
この日の委員会では、2月5日の第2回起草委員会を経て提出された「委員会決定」修正案について審理した。決定文を読み上げながら時間をかけて検討し、委員会としての結論を確定するとともに表現等についても詰めを行った。
この結果、決定案は大筋で了承されたものの、今後さらに細かい手直しをしたうえ、次回委員会で最終的な確認を行うこととなった。

このほかの審理中の事案

2012年12月に審理入りした「大津いじめ事件報道への申立て」事案と「大阪市長選関連報道への申立て」事案について、それぞれ事務局より書面の提出状況等に付き報告した。
この日は先行する2つの事案の審理が長時間に及んだため、両事案とも本格的な議論は次の委員会で行うこととし、当事者へのヒアリング等を含めた今後の審理日程についても次回の議論を踏まえた上で改めて検討することとなった。

その他

次回委員会は3月19日(火)に開かれることとなった。

以上

第193回 放送と人権等権利に関する委員会

第193回 – 2013年1月

国家試験事案の審理
イレッサ報道事案の審理…など

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案について、「委員会決定」案をもとに審理した。「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理を行い、「委員会決定」修正案について検討した。「大津いじめ事件報道への申立て」事案の実質審理を開始した。

議事の詳細

日時
2013年1月15日(火) 午後4時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案はTBSテレビが2012年2月25日に放送した『報道特集』の企画「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」』で、国家資格である社会福祉士の試験委員会副委員長を務めた大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど、国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。
この日の委員会では、本年1月8日の起草委員会を経て提出された「委員会決定」案をもとに審理し、番組内容が、申立人が公人として批判を受忍すべき限度を超えて申立人への個人攻撃に及ぶなどしていたかどうか、また放送倫理上の問題についても申立人が試験問題を漏洩したとの印象を与える内容だったかどうか等、事実の正確性や客観性、公平性・公正性等の観点から突っ込んだやり取りが交わされた。
議論の結果、2月初めに起草委員が集まって第2回起草委員会を開き、決定文の修正案を作成して次回委員会に諮ることとなった。

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。
この日の委員会では、1月8日に開かれた第2回起草委員会を経て提出された「委員会決定」修正案について検討した。番組内容について公平性・公正性の観点からの判断や、取材過程の問題をどのように考えるか等について活発に議論を交わし、決定文の表現や内容、構成、結論の方向性について詰めた。
この結果、起草委員が修正案をさらに手直しし、次回委員会に第3次案として諮ることとなった。

「大津いじめ事件報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺した中学生の両親が起した民事訴訟の口頭弁論を前に、原告側準備書面の内容を報道した際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理の施されていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画像がインターネット上に流出したとして、少年と母親が放送によるプライバシーの侵害を訴え申し立てたもの。
昨年12月4日の委員会で審理入りが決った後、被申立人から「申立書」に対する「答弁書」が、申立人から「答弁書」に対する「反論書」が提出され、今回から実質的な審理に入った。
この日の委員会では、これまでに提出された文書及び資料をもとに事務局が双方の主張を整理して説明した。事務局の説明を受けて若干のやり取りを交わしたが、本格的な議論は、被申立人からの「再答弁書」の提出を受けて、次回以降に行うこととなった。

その他

  1. 2月20日に盛岡市で開かれる東北地区BPO加盟放送事業者との意見交換会について、事務局より実施概要を説明し了承された。

  2. 次回委員会は2月19日(火)に開かれることとなった。

以上

第192回 放送と人権等権利に関する委員会

第192回 – 2012年12月

国家試験事案のヒアリングと審理
審理要請案件:「大阪市長選関連報道への申立て」~審理入り決定…など

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案のヒアリングとヒアリング後の審理が行われ、「委員会決定」の作成に当たる起草委員会が発足した。大阪市長選挙関連報道をめぐる申立てについて審理入りが決まった。

議事の詳細

日時
2012年12月18日(火) 午後3時~8時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案のヒアリングと審理

本事案はTBSテレビが今年2月25日に放送した報道特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」で、国家資格である社会福祉士の試験委員会副委員長を務めた大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど、国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。
この日の委員会では申立人、被申立人から個別にヒアリングを行い、詳しく事情を聞いた。
申立人側は申立人ら2人が出席した。
申立人は問題とされた著作について、「国家試験の過去問題のなかに社会福祉士が求められている法的な知識や見方が凝縮されていると考え、取り上げた。一般の受験対策本とは質、量ともに違う」とあらためて著作が問題視されたことに反論した。また著作で取り上げた問題と似た問題が翌年に国家試験で出題されたとされるなど、あたかも申立人が試験問題を漏えいしたかのような印象を与える番組の作りになっており、さらに顔写真を繰り返し使用するなど申立人への個人攻撃が行われたと主張した。
一方、被申立人側のTBSテレビは番組担当者ら4人が出席し、「申立人が『この程度のこと』で問題にされたという認識であることに驚いた。我々は申立人の行為が国家試験の根幹にかかわる公平・公正性に疑念を招くものだったと考えており、本当に『この程度』のことだったのかどうか委員会で判断してもらいたい」と述べた。さらに申立人が著作で取り上げた問題と似た問題が翌年の国家試験に出題された等としたことについて、一般の受験生からは、申立人が自ら教える大学の学生にヒントを出したという受け取り方をされかねないことを問題視したのであり、放送では、申立人が問題を漏えいしたのではないかという印象を与えることのないよう細心の注意を払ったと強調した。
ヒアリング後も審理を行い、申立人に試験委員としてふさわしくない行為があったかどうかや、番組が必要以上に申立人への個人攻撃になっていなかったかどうかなどについて議論した。また試験委員会の副委員長という立場がどこまで公人として批判を甘受すべきかなどについても意見が交わされた。
この結果、「委員会決定」の作成に当たる起草委員会を年明けに開き、来月の委員会では起草委員会から決定案の提出を受けてさらに議論を続けることになった。

審理要請案件:「大阪市長選関連報道への申立て」審理入り決定

上記申立てについて審理入りが決まった。
対象となった番組は、朝日放送が本年2月6日に放送した『ABCニュース』(午前11時台)。2011年11月の大阪市長選挙において、市交通局の労働組合が友人・知人紹介カードの回収リストを作成し、その中で「現職の平松市長の支援に協力しなければ不利益があると職員を脅すよう」指示していた疑いが独自取材で明らかになったと報道した。大阪維新の会の市議会議員に持ち込まれた内部告発に基づくスクープ報道だったが、約1か月後、市当局の調査により、この回収リストが内部告発者自身による捏造だったことが判明した。
この報道に対し、団体としての大阪交通労組と組合員が連名で申し立てた。申立書において申立人は、「報道は組合が当該リストに関与していた疑いを不当に強調し、組合の社会的信用と名誉を大きく傷つけた。申立人組合員らも悪辣で反社会的な存在とされ、人格否定の罵詈雑言を受けた」等とし、朝日放送にどのような裏付け取材をしたのかを問うとともに謝罪と訂正放送を求めている。
これに対し朝日放送は局の見解で、「当該回収リストは、大阪市政への調査権を持つ大阪維新の会の市議が、職員証による身元確認を経た内部告発者から入手したものだ。このリストの存在そのものが、国民の知る権利に応える高いニュース性を持つと判断し報道した。弊社同様、多くの報道機関が当日中に報じている。弊社はその後、リストが内部告発者による捏造だったと判明したこと等についても順次、報道している」等と反論している。
委員会では、双方から提出された文書と資料、及び番組同録DVD等をもとに検討した結果、本件団体からの申立ては委員会運営規則第5条1.(6)(※条文は下線部分をクリック)に該当し、要件を充たしているとして審理入りすることを決めた。
また、組合員個人からの申立てについても団体としての申立てを審理する一環で審理の対象に含めることとなった。
次回委員会以降、実質審理を行う。

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が昨年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。フジテレビは、番組に人権侵害も放送倫理に抵触する部分もないと反論している。
この日の委員会では、12月6日に開かれた起草委員会を経て提出された「委員会決定」案をもとに審理が行われた。起草委員がポイントについて説明した後、各委員が意見を述べ、委員会が示す結論の方向性を中心に議論した。この結果、1月上旬に第2回起草委員会を開いて第2次案を作成し、次回委員会ではこれをもとに審理を重ねることになった。

その他

  1. 衆議院議員選挙の実施に伴い延期された放送人権委員会委員と東北地区BPO加盟放送事業者との意見交換会が、2013年2月20日に盛岡で開かれることが決まった。

  2. 次回委員会は2013年1月15日(火)に開かれることとなった。

以上

2012年12月19日

審理要請案件「大阪市長選関連報道への申立て」審理入り決定

放送人権委員会は12月18日の第192回委員会で、上記申立てについて審理入りを決めた。

対象となった番組は、朝日放送が本年2月6日に放送した『ABCニュース』(午前11時台)。2011年11月の大阪市長選挙において、市交通局の労働組合が友人・知人紹介カードの回収リストを作成し、その中で「現職の平松市長の支援に協力しなければ不利益があると職員を脅すよう」指示していた疑いが独自取材で明らかになったと報道した。大阪維新の会の市議会議員に持ち込まれた内部告発に基づくスクープ報道だったが、約1か月後、市当局の調査により、この回収リストが内部告発者自身による捏造だったことが判明した。
この報道に対し、団体としての大阪交通労組と組合員が連名で申し立てた。申立書において申立人は、「報道は組合が当該リストに関与していた疑いを不当に強調し、組合の社会的信用と名誉を大きく傷つけた。申立人組合員らも悪辣で反社会的な存在とされ、人格否定の罵詈雑言を受けた」等とし、朝日放送にどのような裏付け取材をしたのかを問うとともに謝罪と訂正放送を求めている。
これに対し朝日放送は、「当該回収リストは、大阪市政への調査権を持つ大阪維新の会の市議が、職員証による身元確認を経た内部告発者から入手したものだ。このリストの存在そのものが、国民の知る権利に応える高いニュース性を持つと判断し報道した。弊社同様、多くの報道機関が当日中に報じている。弊社はその後、リストが内部告発者による捏造だったと判明したこと等についても順次、報道している」等と反論している。
委員会では、双方から提出された文書と資料、及び番組同録DVD等をもとに検討した結果、本件団体からの申立ては委員会運営規則第5条1.(6)に該当し、要件を充たしているとして審理入りすることを決めた。
また、組合員個人からの申立てについても団体としての申立てを審理する一環で審理の対象に含めることとなった。

次回委員会以降、実質審理を行う。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第191回 放送と人権等権利に関する委員会

第191回 – 2012年12月

無許可スナック摘発報道事案の通知・公表の報告
審理要請案件:「大津いじめ事件報道に対する申立て」~審理入り決定…など

11月27日に行われた「無許可スナック摘発報道への申立て」事案にかかる「委員会決定」の通知・公表について、事務局から報告した。審理要請案件「大津いじめ事件報道に対する申立て」について、審理入りが決まった。

議事の詳細

日時
2012年12月4日(火) 午後4時~6時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の通知・公表の報告

11月27日に行われた本事案にかかる「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるテレビ神奈川が決定について報じた当日の番組同録DVDを視聴した。
これに先立ち、通知は27日午後1時30分から千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。三宅委員長、起草主査の奥委員長代行、起草委員の小山委員の3人が出席し、申立人は女性経営者と家族の2人、被申立人は取締役報道局長ら4人が同席して行われた。
三宅委員長は決定文のポイントを読み上げる形で委員会の判断を通知し、「本放送によるプライバシー等に関する明確な権利侵害は認められないものの、放送倫理上重大な問題があった」として、人権への配慮を徹底するようテレビ神奈川に勧告した。
委員長はこの中で「事案が風営法違反の中でも悪質性の比較的軽微な『無許可営業』(罰金50万円の略式命令)であることからすれば、本件放送は、繰り返し女性経営者の映像を流した結果、この女性に対する過剰な制裁的・懲罰的効果が生じ、本人とその家族に精神的苦痛を与えた」と述べた。また、「同社のサイトにテレビニュ―スがそのまま掲載され、同社運営のfacebook等を通じ長期間閲覧可能な状態で放置されていた点、サイトの管理に問題があった」と指摘し、適切な管理を求めた。
通知を受けて申立人は「本当にありがとうございました。納得しています」と感想を述べた。
被申立人は「決定を真摯に受け止め、報道現場に持ち帰りたい。今後の報道活動の重要な分岐点になるかもしれないと思います」と述べた。
その後、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定内容を公表した。記者会見には23社49人が取材に訪れ、テレビカメラ6台が入った。
初めに三宅委員長が決定の主要部分を紹介し、続いて奥代行と小山委員がそれぞれの「補足意見」について述べ、さらに委員長から林委員の書いた「意見」について説明した。また、本年5月に修正された「委員会の判断のグラデーション」を適用した初の事案となったことから、決定と合わせて「委員長談話」を出したが、これについても説明が行われた。
記者との質疑応答では、「勧告・放送倫理上重大な問題あり」となった理由について質問が出た。
三宅委員長は「無許可営業という比較的軽微な犯罪からすれば、申立人の映像が繰り返し使用され、また周囲をぼかした結果、逆に本人が強調されるなど申立人への過剰な制裁的・懲罰的効果が生じた。結果として申立人と家族が大きなダメージを受け、お子さんが学校に行けない状態になっている。放送界が事件報道について積み上げてきた議論を踏まえた形跡がないし、地域メディアとしての影響力についても自覚すべきだった。もう一つサイト上の問題もあり、それと合わせて『勧告・重大な問題あり』という判断になった」等と答えた。
「勧告」と「見解」の線引きとなる基準についての質問には、奥委員長代行が「一定の基準があるということではなく、具体的な個別事案の中でどう判断していくかが重要だ。報道現場でもその都度、節度や品性を持った感覚で判断していくしかないと思う。今回は映像の使い方がちょっと酷過ぎるというケースだった」と答えた。
ネット上に流れる動画について委員会の審理の対象としているのかという質問には、三宅委員長が「2008年12月の第38号決定『広島県知事選裏金疑惑報道』事案で取り上げ、放送と同一の動画・音声を伴うものの配信については、放送と同一とみなすという判断をしている。かつ今回は、テレビ神奈川のホームページだけでなく、同社の運営するfacebook、twitterからアクセスできる状態が続いていた。サイト管理上の手落ちの指摘は委員会の守備範囲として判断した」と答えた。ただ、「付言」としたことで、放送そのものとは違うというニュアンスを込めたと述べた

審理要請案件:「大津いじめ事件報道に対する申立て」 審理入り決定

上記申立てについて審理入りが決まった。
番組は、フジテレビが本年7月5日と6日に放送した『スーパーニュース』。大津市の中学生いじめ事件で自殺した中学生の両親が、加害者とされる少年とその両親、及び大津市を相手に起こした損害賠償請求訴訟に触れ、2回目の口頭弁論を前に原告側準備書面の内容について報道した。その際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理のされていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画がインターネット上に流出する事態となった。放送翌日、フジテレビは流出の事実を把握し、同日夕方の上記番組において「人権上の配慮に欠けた映像を使用した」とお詫びした。そして番組担当者らが少年と母親の代理人弁護士を訪ね、書面をもとに事実経過を説明するとともに謝罪した。しかし弁護士は世間の大きな注目を集める裁判の原告側準備書面であることや口頭弁論前の放送であったこと等を理由に、システムへの入力ミスから起きたとの説明には納得できず謝罪は受け入れられないと答えた。
その後、少年と母親を申立人とし放送によるプライバシーの侵害を訴える申立書が委員会に提出された。申立書提出後も双方の間でやり取りが交わされたが話し合いはまとまらず、11月9日、申立人は改めて委員会での審理に委ねたいと文書で要請した。これを受けてフジテレビは局の見解をまとめた書面と番組同録DVD等を提出した。
この日の委員会では、双方から提出された文書、資料、番組同録DVD等をもとに審理入りするかどうかについて検討した。この結果、本件申立ては委員会運営規則第5条((苦情の取り扱い基準)に照らし、審理の要件を満たしているとして審理入りすることを決めた。次回委員会より実質審理に入る。
放送によるプライバシーの侵害という申立人の主張に対して、フジテレビは局の見解書面で、「人権への配慮に欠けた映像使用だった」としつつも、「氏名が放送された時間は極めて短時間であり、且つ、通常の方法では判読は不可能で、少年は特定されず、本件各放送はプライバシーの侵害には該当しない」と主張している。
また、放送を録画した画像がネット上に流出したことで少年の実名が広まり誹謗中傷を加速させたという申立人の主張に対しては、「当社と全く関係のない第三者の行為の結果については、当該第三者が責任を負うべきと考える」としている。

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案は、TBSが今年2月25日に放送した『報道特集~国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた一冊の書籍』で、国家資格である社会福祉士の試験委員だった大学教授において、試験委員就任前に執筆しその後も改訂を続けていた著作物が過去問題の解説集に該当する等、試験委員としてふさわしくない行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申立てたもの。
この日の委員会では、前回の委員会で検討した本事案の論点とヒアリングにおける質問項目について確認を行った。
次回委員会で申立人、被申立人の双方に対するヒアリングを行う。

その他

次回の委員会は12月18日(火)に開かれることとなった。

以上

2012年7月18日

「無許可スナック摘発報道への申立て」審理入り決定

放送人権委員会は7月17日の第185回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組はテレビ神奈川の『 tvk NEWS 930 』で、神奈川県警が無許可営業のスナックを風営法違反で摘発した現場を取材し、本年4月11日に報道した。この報道に対し、スナックの女性経営者からプライバシーの侵害等を訴える申立書が提出された。
申立人は「軽微な罰金刑にもかかわらず、映像では私の顔をアップし、実名と年齢、店と自宅の住所まで放送したのは個人のプライバシーを公開し過ぎるものだ。また、放送から1か月もの間、ネット上で動画が再生できる環境にあったことも問題だ」とし、テレビ神奈川に謝罪放送等を求めている。
これに対しテレビ神奈川は、局の見解で「報道される側の基本的人権の尊重についても十分慎重に検討したが、警察発表事件の実名報道原則等に基づき、当人の顔のボカシは入れずに放送した。ネット上の動画ファイルについても放置はしていない」等と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条の規定に照らし、本件申立ては要件を充たしているとして審理に入ることを決めた。来月から実質審理を行う。

放送人権委員会の審理入りとは?

委員会は、「放送によって人権を侵害された」等と申し立てられた苦情が、審理要件(※)を充たしていると判断した時、「審理入り」します。
「審理入り」が、ただちに、申立ての対象となった番組に問題があるという判断を意味するものではありません。

(※審理入りに必要な要件については委員会運営規則第5条をご覧ください。)

2012年7月18日

『南三陸町津波被災遺族からの申立て』

本事案は、NHKが本年3月10日に放送した『NHKスペシャル「もっと高いところへ~高台移転 南三陸町の苦闘~」』について、津波の犠牲となった町の職員の遺族から、「放送に使われた写真で肉親の最期の姿を見て、大きな衝撃を受けた。写真を使うのであれば写っている全遺族の了承を取り、使用に際してはモザイクをかける等の配慮が必要ではないか」として、NHKに謝罪等を求めて申立てがあり、先月の委員会で審理入りが決定した。

その後、申立人とNHKとの間で話し合いが行われ、これを受け申立人から申立てを取り下げたいとする書面が、実質審理前の7月5日付で委員会に提出された。
7月17日の第185回委員会において申立ての取り下げを了承し、本事案の実質審理には入らないことを決めた。

放送人権委員会の審理入りとは?

委員会は、「放送によって人権を侵害された」等と申し立てられた苦情が、審理要件(※)を充たしていると判断した時、「審理入り」します。
「審理入り」が、ただちに、申立ての対象となった番組に問題があるという判断を意味するものではありません。

(※審理入りに必要な要件については委員会運営規則第5条をご覧ください。)

2012年12月5日

「大津いじめ事件報道に対する申立て」審理入り決定

BPOの放送人権委員会は、12月4日に開かれた第191回委員会において上記申立てについて審理入りすることを決めた。

番組は、フジテレビが本年7月5日と6日に放送した『スーパーニュース』。大津市の中学生いじめ事件で自殺した中学生の両親が、加害者とされる少年とその両親、及び大津市を相手に起こした損害賠償訴訟に触れ、2回目の口頭弁論を前に原告側準備書面の内容について報道した。その際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理のされていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画がインターネット上に流出する事態となった。放送翌日、フジテレビは流出の事実を把握し、同日夕方の上記番組において「人権上の配慮に欠けた映像を使用した」とお詫びした。そして番組担当者らが少年と母親の代理人弁護士を訪ね、書面をもとに事実経過を説明するとともに謝罪した。しかし弁護士は世間の大きな注目を集める裁判の原告側準備書面であることや口頭弁論前の放送であったこと等を理由に、システムへの入力ミスから起きたとの説明には納得できず謝罪は受け入れられないと答えた。
その後、少年と母親を申立人とし放送によるプライバシーの侵害を訴える申立書が委員会に提出された。
申立人の主張に対してフジテレビは局の見解書面で、「人権への配慮に欠けた映像使用だった」としつつも、「氏名が放送された時間は極めて短時間であり、且つ、通常の方法では判読は不可能で、少年は特定されず、本件各放送はプライバシーの侵害には該当しない」と主張している。また、放送を録画した画像がネット上に流出したことで少年の実名が広まり誹謗中傷を加速させたという申立人の主張に対しては、「当社と全く関係のない第三者の行為の結果については、当該第三者が責任を負うべきと考える」としている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理の要件を満たしているとして審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第190回 放送と人権等権利に関する委員会

第190回 – 2012年11月

イレッサ報道事案のヒアリングと審理
無許可スナック摘発報道事案の審理…など

「肺がん治療薬イレッサ報道に対する申立て」事案のヒアリングとヒアリング後の審理を行い、本事案の「委員会決定」の起草委員会を発足させることになった。「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の「委員会決定」最終案を了承し、本決定の通知・公表を11月27日に行うこととなった。

議事の詳細

日時
2012年11月20日(火) 午後3時~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案のヒアリングと審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が昨年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。フジテレビは、番組に人権侵害も放送倫理に抵触する部分もないと反論している。
この日の委員会では、申立人とフジテレビの双方に対し、個別に事情を聞くヒアリングを実施した。
申立人側は、申立人とその代理人の計5人が出席した。申立人は、「私の娘はイレッサを承認直後に服用し、間質性肺炎で亡くなった。しかし、その後、承認前から間質性肺炎による致死的な副作用報告があったことがわかり、以来約10年間、そうした注意喚起を怠った国や製薬会社の責任を裁判で問い、娘のような被害が起きないように人生を賭けて闘っている。しかし本件放送は、私の娘のケースと安全対策等が講じられた後にイレッサ治療を受けているがん患者とを対比的に描くなど、あたかも私がイレッサの有効性を理解しないまま、がん患者のイレッサ服用を妨げる活動をしているかのように伝えた。がん患者支援の方々からも非難や注意を受け、私は生きざまを否定されたような思いだ」と訴えた。
一方、フジテレビからは、番組担当ディレクターと放送当時の番組編集長ら5人が出席し、「本番組はイレッサに感謝しているというがん患者の声を聞いたことを端緒に、高齢社会に生きる私たちが薬とどう向き合えばよいのかを考えてもらう機会になればと願い制作した。番組ではイレッサをめぐる10年間の動きを俯瞰する視点で多様な意見を紹介した。視野をできるだけ広く柔軟に持ち、いろいろな意見を客観的で公平、公正に伝えるため、何度も推敲を重ね映像も何度も確認した。申立人とがん患者を対立的に描いたつもりはないし、申立人の立場も正しく伝えており、人権侵害に当たるとは考えていない」等と述べた。
双方合わせて3時間に及んだヒアリング後の審理では、各委員がひとりずつ意見と感想を述べ、議論した。この結果、12月上旬に起草委員会を開催し、「委員会決定」原案を12月18日の委員会に提出してもらうこととし、そのうえでさらに議論を詰めることになった。

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の審理

本事案は、テレビ神奈川が本年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の現行犯逮捕を現場で取材し、4月11日の『tvkNEWS930』で1分強のニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等と申立てがあったもの。テレビ神奈川は、「通常の実名報道原則に基づいて放送した。申立人の基本的人権についても十分慎重に検討した」等と反論している。
この日の委員会では、2回の起草委員会と委員会審理を経てまとめられた「委員会決定」最終案について確認を行い、これを了承した。また、本事案の決定は、本年5月に修正された判断のグラデーションが適用される最初の事案となるため、通知・公表時に「新しい判断のグラデーションンの適用にあたって」と題する委員長談話を出すこととなり、この点についても了承された。
この結果、「委員会決定」の申立人、被申立人に対する通知と記者会見での公表は11月27日(火)に行われることとなった。
(追記:通知・公表は予定通り11月27日に行われた。決定本文および委員長談話はこちらから)

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案は、TBSが今年2月25日に放送した『報道特集~国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた一冊の書籍』で、国家資格である社会福祉士の試験委員だった大学教授が、試験委員就任前に執筆しその後も改訂を続けていた著作物が過去問題の解説集に該当する等、試験委員としてふさわしくない行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申立てたもの。
申立人は、番組では「疑念を招く」程度の行為を取り上げてあたかも申立人が試験問題を漏洩したかのように視聴者に印象付けるなど個人攻撃が行われたと主張している。これに対してTBSは、「問題漏洩等にはいささかも言及していない。試験委員だった申立人の行為が社会福祉士試験の公平性・公正性に疑念を招いたのではないかと問いかけたものだ」と反論している。
この日の委員会では、起草担当委員から本事案の論点とヒアリングでの双方への質問項目案について説明が行なわれた後、意見を交わした。論点としては、番組の意図と放送内容が整合していたかどうか、番組が申立人に対する過剰な非難・攻撃になっていなかったかどうか、社会福祉士国家試験の試験委員としての申立人の行為に不適切な点がなかったかどうか、等があげられた。
委員会では12月4日の委員会でさらに検討を重ね、12月18日の委員会で申立人、被申立人の双方に対するヒアリングを行うことを決定した。

10月の苦情概要

10月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・3件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・14件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

  • 12月4日に盛岡で予定されていた東北地区のBPO加盟放送事業者を対象とする放送人権委員会委員との意見交換会は、衆議院の解散・総選挙のため延期されることになった。日程を変更し今年度中に実施する。
  • 増加する事案の審理の迅速化を図るため、12月4日に臨時で委員会を開くことになった。これにより12月は委員会開催が2回となり、次回は12月4日(火)、次々回は12月18日(火)に開かれる。

以上

2012年度 第47号

「無許可スナック摘発報道への申立て」に関する委員会決定

2012年11月27日 放送局:株式会社テレビ神奈川

勧告:放送倫理上重大な問題あり(補足意見・意見付記)
テレビ神奈川が2012年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の逮捕を現場で取材し、4月11日夜の『tvkNEWS930』でニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等として申立てた事案。

2012年11月27日 第47号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第47号

申立人
スナック経営者とその家族
被申立人
株式会社テレビ神奈川
苦情の対象となった番組
『tvkNEWS930』(月-金 午後9時30分~10時)
放送日時
2012年4月11日(水)
午後9時35分頃から1分9秒

本決定の概要

テレビ神奈川は2012年4月11日夜の『tvkNEWS930』内で、神奈川県警によるスナック女性経営者の風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)違反の無許可営業の現行犯逮捕を実名、年齢、住所とともに放送した(以下、「本件放送」という)。冒頭にアナウンサーの「カメラは強制捜査から逮捕の瞬間までをとらえていました」とのコメントがあり、摘発現場を撮影した映像の存在を強調した構成だった。全体が1分9秒で、そのうち本人とはっきりと分かるかたちで、この女性経営者を写し出した映像が計4回37秒あった。顔のアップ映像や警察の車に連行される場面も含まれていた。
また、テレビ神奈川は本件放送を同社が運営するニュースサイトに動画とともに掲載した。ニュースサイトの項目は1週間で自動的に削除されたが、同社のサイトおよび、facebookページ、twitterアカウント等を通じて当該動画と静止画を閲覧できる状態が1か月以上続き、この女性経営者から抗議があるまで放置されていた。
本委員会は、女性経営者とその家族から本件放送によってプライバシー、肖像権を侵害され、名誉を毀損された等の申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下の通りである。
現行犯逮捕の事実を放送した本件放送の内容に誤りはないが、事案は風営法違反の中でも悪質性の比較的軽微な「無許可営業」(最終的に罰金50万円の略式命令)である。本件放送は、映像の存在を強調し、繰り返し女性経営者の映像を流した。その結果、この女性に対する過剰な制裁的・懲罰的効果が生じ、本人とその家族に精神的苦痛を与えた。この点で、本件放送は、プライバシー等に関する明確な権利侵害は認められないものの、「報道の自由」という観点を考慮しても、放送界がこれまで積み重ねてきた事件報道のあり方をめぐる議論を十分に踏まえた形跡はなく、人権への適切な配慮を著しく欠いており、放送倫理上重大な問題がある。
また、同社のサイトにテレビニュ―スがそのまま掲載され、かつ長期間閲覧可能な状態で放置されていた点、サイトの管理に問題があった。今後、適切な管理を行うことを要望する。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1. 申立てに至る経緯
  • 2. 放送内容の概要
  • 3. 申立人の主張
  • 4. 被申立人(放送局)の答弁

II.委員会の判断

  • 1. はじめに
  • 2.「報道の自由」の観点
  • 3. プライバシー侵害と名誉毀損について
  • 4. 肖像権をめぐって
  • 5. 放送倫理上の問題
  • 6. 抗議に対する対応

III.結論

  • 補足意見
  • 意見

IV.審理経過

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2013年2月26日 委員会決定に対するテレビ神奈川の対応と取組み

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目 次

  • 1.広報及び放送対応
  • 2.社内での報告・周知等
  • 3.申立人に対して
  • 4.番組審議委員会への対応
  • 5.意見交換会の実施
  • 6.報道部内での対策
  • 7.動画配信について
  • 8.放送倫理向上に向けた取り組みについて

第189回 放送と人権等権利に関する委員会

第189回 – 2012年10月

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の審理
「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理…など

前回に続き、「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の「委員会決定」(決定文)案について検討した。「肺がん治療薬イレッサ報道に対する申立て」事案について審理し、来月の委員会でヒアリングを実施することになった。

議事の詳細

日時
2012年10月16日(火) 午後4時~7時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の審理

本事案は、テレビ神奈川が本年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の現行犯逮捕を現場で取材し、4月11日の『tvkNEWS930』で1分強のニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等と申立てがあったもの。テレビ神奈川は、「通常の実名報道原則に基づいて放送した。申立人の基本的人権についても十分慎重に検討した」等と反論している。

この日の委員会では、前回委員会での議論を踏まえて提出された「委員会決定」(決定文)修正案の検討を行なった。今回は決定文の構成、内容、表現のほか、特に結論部分について各委員が改めて意見を述べた。
委員会が示す結論には「勧告」または「見解」があるが、その判断のグラデーションについては、放送局への聞き取り調査を踏まえて本年5月に修正が行われた結果、「勧告」は「人権侵害」、「放送倫理上重大な問題あり」、また「見解」は「放送倫理上問題あり」、「要望」、「問題なし」、となった。

この日の議論では、本事案が修正後の「判断のグラデーション」を適用する初めての事案となるため、グラデーションの考え方とその適用の仕方についても確認を行い、委員会としての結論を確定した。
この結果、次回委員会までに修正案をさらに吟味し、「委員会決定」最終案として諮ることとなった。

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が昨年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。フジテレビは、番組に人権侵害も放送倫理に抵触する部分もないと反論している。
前回委員会では、番組内容が放送倫理に抵触しているとする申立人の主張が、申立人に対する人権侵害とどう関連しているのかを中心に議論が交わされた。
この日の委員会では、前回委員会での議論を踏まえ起草委員間でさらに検討を重ねて整理した論点について、担当委員から説明が行われた。続いて、それに基づいて作成されたヒアリングに向けての論点と質問項目の原案が示され、全員で検討を行った。その結果、いくつかの質問項目を追加することで意見がまとまり、来月の委員会で当事者へのヒアリングを実施することになった。

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案は、TBSが今年2月25日に放送した『報道特集~国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた一冊の書籍』で、国家資格である社会福祉士の試験委員だった大学教授が、試験委員就任前に執筆しその後も改訂を続けていた著作物が過去問題の解説集に該当する等、試験委員としてふさわしくない行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申立てたもの。
申立人は、番組では「疑念を招く」程度の行為を取り上げてあたかも申立人が試験問題を漏洩したかのように視聴者に印象付けるなど個人攻撃が行われたと主張している。これに対してTBSは、「問題漏洩等にはいささかも言及していない。試験委員だった申立人の行為が社会福祉士試験の公平性・公正性に疑念を招いたのではないかと問いかけたものだ」と反論している。
一回目の実質審理となったこの日の委員会では、双方の主張が対立する点や、全体的な番組の構成について資料をもとに事務局が説明した後、各委員が番組を見た感想も含め意見を述べた。
来月の委員会では、当事者へのヒアリングに向け、委員会の提示する論点や質問項目について検討する。

9月の苦情概要

9月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・・・2件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・・・10件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

次回委員会は11月20日(火)に開かれることになった。

以上

第188回 放送と人権等権利に関する委員会

第188回 – 2012年10月

無許可スナック摘発報道事案の審理
その他

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の「委員会決定」(決定文)案について、時間をかけて検討した。

議事の詳細

日時
2012年10月9日(火) 午後4時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案のヒアリングと審理

本事案は、テレビ神奈川が本年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の現行犯逮捕を現場で取材し、4月11日の『tvkNEWS930』で1分強のニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等と申立てがあったもの。テレビ神奈川は、「通常の実名報道原則に基づいて放送した。申立人の基本的人権についても十分慎重に検討した」等と反論している。
この日の委員会では、10月初旬の2回にわたる起草委員会を経て提案された「委員会決定」(決定文)案の検討を行なった。事務局が文章を読み上げるやり方で、決定文全体の構成、内容、表現や結論等について時間をかけて細かく検討した。委員の間では、本件報道の公共性、公益性についても改めて議論が交わされた。
この結果、起草委員が次回委員会までに修正案を作成し、それをもとに再度検討することとなった。

その他

1.広島地区意見交換会事後アンケート調査結果を報告

9月14日に広島市で開かれた、放送人権委員会委員と広島地区のBPO加盟放送事業者との意見交換会の事後アンケート調査結果がまとまり、事務局から報告した。アンケートには52人の出席者の約3分の1から回答があった。
今回は放送現場を担う若手スタッフの参加を促すため、開始を午後7時30分からとしたが、「たいへん参加しやすかった」との声が圧倒的に多かった。
当日の主なテーマとしては、現地で直面している福山市のホテル火災に関連しての実名・匿名問題を取り上げたが、テーマ設定については「よかった」とする声が多かった。ただ、会場での意見交換は活発とまでは至らず今後に課題を残した。また、アンケートでは、顔なし映像が多用され匿名化が強まる現状について「昨今は一般人の間でも肖像権という言葉が飛び交う時代だ。取材時に“顔出し”を説得できないからといって顔出し取材が減ってくると、顔なしが基本になってしまい、自分で自分の首をしめることになる」という意見も寄せられた。

2.次回委員会は10月16日(火)に開かれることになった。

以上

2012年6月22日

「南三陸町津波被災遺族からの申立て」審理入り決定

放送人権委員会は6月19日の第184回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、NHKが本年3月10日に放送した『NHKスペシャル「もっと高いところへ~高台移転 南三陸町の苦闘~」』。昨年3月11日の東日本大震災の際、町の防災対策庁舎屋上に避難した人たちのうち42人が津波の犠牲となった宮城県南三陸町の事例を取り上げ、屋上での様子を撮った写真、町長や住民へのインタビュー取材等を交え、当時を振り返るとともに、町の高台移転の現状と難しさ、今後の課題について伝えた。
この放送に対し、番組内で使われた屋上での写真に顔と姿が写っていた職員の遺族から「肉親の最期の姿を見て大きな衝撃と苦痛を受けた、亡くなる直前の写真であれば全遺族の了解を得るか、得られなければモザイクをかける等の配慮が当然ではないか」として、NHKに謝罪等を求め、申立てがあったもの。
申立てに対しNHKは、「遺族に対しては、事前の説明も含め可能なかぎり配慮したうえで放送した」等と局側の見解で述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条の規定に照らし、本件申立ては要件を充たしているとして審理に入ることを決めた。
今後、委員会は、局側から改めて答弁書の提出を求め、来月から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2012年7月18日

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」審理入り決定

放送人権委員会は7月17日の第185回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

対象となった番組はフジテレビの『 ニュースJAPAN 』で、昨年10月5日と6日の2回、「イレッサの真実」と題し、肺がん治療と新薬をめぐる問題について、肺がん治療薬イレッサのケースを取り上げて報道した。

この報道に対し、番組で長期取材を受けた男性から人権侵害を訴える申立書が委員会宛て提出された。申立人は、「本報道はイレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性、正確性、公正さに欠けている。また申立人の発言をその主義主張とは反する使われ方をされ、かつ取材の休憩中の撮影とその映像を放送されたことにより名誉とプライバシーを侵害された」等と主張し、フジテレビに謝罪と放送内容の訂正を求めている。

これに対し、フジテレビは「本番組は肺がん治療に関し様々な立場から多様な意見が存在することを伝えたもので、客観性、正確性、公正さに欠けるところはない。また、申立人に対する名誉、プライバシーの侵害もない」と、局の見解で全面的に反論している。

委員会は、委員会運営規則第5条の規定に照らし、本件申立ては要件を充たしているとして審理に入ることを決めた。来月から実質審理を行う。

放送人権委員会の審理入りとは?

委員会は、「放送によって人権を侵害された」等と申し立てられた苦情が、審理要件(※)を充たしていると判断した時、「審理入り」します。
「審理入り」が、ただちに、申立ての対象となった番組に問題があるという判断を意味するものではありません。

(※審理入りに必要な要件については委員会運営規則第5条をご覧ください。)

2012年8月22日

「国家試験の元試験委員からの申立て」審理入り決定

放送人権委員会は8月21日の第186回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組はTBSテレビの『報道特集』。本年2月25日に「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」と題した特集を放送、大学教授で社会福祉士試験委員会副委員長を務めていた申立人が、その著書で社会福祉士資格試験の過去問題を解説し、大学の授業でこれをテキストとして用い、期末試験でも社会福祉士の試験問題と同じ形式で出題していたこと、厚生労働省の調査を受け申立人が試験委員を辞任したこと等を報道した。
この報道に対し申立人は人権侵害を訴え、7月2日付で申立書を提出した。申立書では「本件番組は、申立人がいかにも国家試験の試験問題を漏洩したり、試験委員としての職責に背く行為をしたかのように視聴者に印象付け、その名誉と信用を著しく毀損した」とし、TBSに謝罪と放送の訂正等を求めている。
これに対しTBSは、「報道は、試験委員であった申立人の行為が国家試験の受験生に不公平感を醸成し、公正であるべき国家試験自体への不信の念を生じさせるのではないかと問いかけたものであり、問題漏洩等の疑惑については一切報道していない」と局の見解で反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条の規定に照らし、本件申立ては要件を充たしているとして審理に入ることを決めた。
次回委員会以降、実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

委員会は、「放送によって人権を侵害された」等と申し立てられた苦情が、審理要件(※)を充たしていると判断した時、「審理入り」します。
「審理入り」が、ただちに、申立ての対象となった番組に問題があるという判断を意味するものではありません。

(※審理入りに必要な要件については委員会運営規則第5条をご覧ください。)

2012年 9月

広島地区各局との意見交換会

放送人権委員会の初めての県単位での意見交換会が、9月14日広島市で開催された。これはこれまでの地方ブロック単位での意見交換会に加えて、少し規模を小さくして委員会の活動をより現場に届きやすくする目的で、今年度から始まったもので、広島市内のホテルの会場には、広島市に本社を置くBPO加盟放送局6社から52人が出席した。出来るだけ現場のスタッフが出やすいよう、開始時間を午後7時半に設定したこともあって、出席者は県警担当や市政担当記者、カメラマン、ディレクターが中心となった。一方委員会側からは、坂井委員長代行、山田委員、林委員、及び事務局が出席した。
意見交換会ではまず各局から要望のあった今年5月に福山市で起きたホテル火災で、警察側が実名の公表を拒み続けている問題が取り上げられ、県警担当の記者から報道各社と県警側との交渉について報告があった。
この後委員会側から、警察の一貫した態度の背景には6年前に制定された犯罪被害者等基本法、およびこれに基づいて策定された犯罪被害者等基本計画があり、この中では実名にするか匿名にするかは原則的に警察当局が判断するという項目があって、当時、放送人権委員会や民放連、日弁連から強い危惧が表明されたことが紹介された。

報道側のスタンスは、実名にするか匿名にするかはあくまで報道側が決めるもので、警察にこれを委ねることは公権力の監視というマスコミの責務の一つを損なうことになるというものだが、委員からは、ではなぜ実名の公表が必要なのか、実名をもとにして何を伝えようとするのかの考えを明確に持っていない限り、警察の壁と向き合えないのではないかという点も指摘された。また、警察が発表しなくても報道側で実名を割り出すという意欲と能力がなければ、実名公表の要求も迫力を欠くのではないかという意見も出された。

次に、報道が犯罪報道などで時に「行き過ぎた懲罰」を加えてしまう結果になる問題をテーマに話し合った。ここでは事務局調査役からこれまで放送人権委員会が取り上げた事例の中からいくつかを紹介し、どこにどういう問題があったかを議論した。
このほか意見交換会では顔なし映像やモザイク使用の問題点、犯罪や災害の被害者と家族、関係者への取材における問題点等についても話し合われた。

次回の県単位の意見交換会は、来年初めにも鹿児島市で開催する予定。

2010年 12月 

北海道地区各局との意見交換会

毎年各地区で順次開かれている、放送人権委員とBPO加盟放送事業者との意見交換会が、北海道地区を対象に12月7日札幌で開かれた。
札幌では2003年10月以来7年ぶり2度目の開催で加盟9社から62人が出席、一方、委員会側からは堀野委員長をはじめ委員7人と事務局9人が出席し、「ジャーナリズムへの信頼向上のために~現場の困難をどう乗り越えるか」を全体テーマに約3時間にわたり意見を交わした。

◆前半◆

基調スピーチで堀野委員長は、委員会の判断任務のひとつである放送倫理上の問題に触れ、「放送倫理とは一種の規範であり、視聴者の意識や放送を提供する側の意識に根づいた見えない法律だ。放送倫理上の問題をどう判断するかは難しい作業だが、誰もが思うあるべき放送の姿や報道の旨を番組が実現しているか、視聴者と正面から向き合った緊張関係を放送から見出せるかが委員会の判断の基準だ」と説明した。
そのうえで、「キバを抜かれたジャーナリズムは無力だが、優しさを欠いたジャーナリズムは凶器と化す」という清水英夫氏の言葉を引用しつつ、「放送はもっと事実を突っ込み、視点がはっきりと分るものにしてほしい。一方で、被取材者や視聴者との緊張感を欠いて優しさを失くした放送は、凶器となって人権を侵害する。その両面を自覚して仕事をしてほしい」と要望した。
三宅委員長代行は、このほど発刊された『判断ガイド2010』で、放送倫理上の問題を考えるための目安として設定された「事実の正確性」、「客観性、公平・公正」など5つの分類項目と、それらに該当する事案や判断内容について説明した。

◆後半◆

後半は、各局への事前アンケート等をもとに3つのテーマを設け、議論した。

(1)顔なしなど匿名化手法について
はじめに顔なしやモザイクなど匿名化手法の問題を取り上げた。局側から「簡単な交通事故の現場でも顔出しを断られる場合が多く、放送時間が迫ると仕方なく顔なしで撮ってしまう」、「サンマの不漁で融資相談が行われた際、水産加工会社の社長から顔だけは勘弁してくれと頼まれ、やむなくカットした」等の事例が相次いで報告された。一方で、「顔がないのはやらせではないかという視聴者の声も寄せられる」という報告もあった。
これを受け、2010年8月に通知・公表された「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案で、顔なし住民インタビューの問題点を指摘した委員から、「内部告発者の人権擁護やプライバシーの観点から顔を隠す必要がある場合は確かにある。しかし、成り行きで隠してしまう場合もあるのではないか。本当に顔なしの必要性や必然性があるケースなのかを真剣に議論してほしい。匿名への風潮や悪循環を断ち切る努力をしないと放送そのものが信憑性を失う。それは自業自得の道でもある」という意見が出された。
局側からさらに、「記者の若年化に伴い、”顔は個人情報でしょう”といって対象者と向き合う前に顔なしで撮って来る場合がある。土台の違う人にどう理解させるか苦労している」という声があがった。「若い記者は人権やプライバシーを当然と感じる世代で、それが取材を鈍らせている面がある」という意見も出た。
これに対し、別の委員は「それは人権への配慮というよりも単にクレームを避けたいだけではないのだろうか」と疑問を呈し、「個人情報の保護は万能ではない。事実報道の価値は間違いなくあり、すべてが匿名化したら民主主義社会は成り立たない。両方の価値があってこそバランスが取れるし、どちらが優先するかはケースバイケースだということをちゃんと考えてほしい」と力説した。

(2)報道対象者や一方当事者への取材
報道対象者や一方当事者への取材の問題では、前記「上田」事案で論点となった「犯罪被害者とその家族の名誉と生活の平穏への配慮」について、決定文の起草に当たった委員から説明した。
別の委員は「本件報道は、殺害された被害者にも非があったとする内容だったが、それを被害者側はどう受け止めただろうか、放送する側はやはり気にするべきだ。被害者側の気持ちを取材で聞いていれば、あるいは司法よりも深い真実追求が報道の場面でできたかもしれない」と述べ、報道対象者の心情を汲んだ丁寧な取材やアプローチの必要性を訴えた。

(3)謝罪・訂正のあり方
3番目のテーマ「謝罪・訂正のあり方」では、北海道で起きた轢き逃げ事件で容疑者の顔写真を取り違えて放送した局から、その経緯と謝罪対応について報告を受け、謝罪・訂正のあり方が論点となった2つの事案について委員から説明した。
「保育園イモ畑の行政代執行をめぐる訴え」事案では、訂正放送の趣旨について、(1)視聴者に放送の誤りを知らせ、正しい事実を伝える、(2)視聴者に誤報があったことをお詫びする、(3)これらを通じ、当該放送によって被害を受けた当事者にお詫びの気持ちを伝える、(4)同時に、当事者が受けた被害について社会的に回復する効果を生む、という4項目が示されている。
起草担当委員は「謝罪・訂正放送が常にこの4条件を満たさなければならないということでは必ずしもないが、放送に際しての参考にしてほしい」と述べた。
また、「拉致被害者家族からの訴え」事案に関連して、起草担当委員から「局が謝罪すると決めたのであれば、謝罪の気持ちや意図がちゃんと伝わる放送をすべきだ」という指摘があった。

このあと、この1年以内に通知・公表された主な事案を各委員が解説した後、樺山委員長代行が次の通り会議を総括した。

  • BPOは放送局を監視し、指示する機関ではない。放送現場の実情を理解した上で、局と申立人との接点を見出すべく考えている。時間がかかりすぎるという声もあるが、委員会の立場と問題自体の難しさを理解してほしい。
  • 顔なしの件はすぐには結論が出ないが、むやみに顔を隠し、誰が発言しているのか分らないような放送は本来あるべきではない。現場での努力をお願いしたい。
  • 上田の事案で出た被害者側の心情への理解やいたわりについて、そういう倫理的な観点から考える必要を特に若い局員に指導してほしい

最後にBPO飽戸理事長が「放送局が自主的な改革・改善に取り組まないと、監督や規制強化の動きは強まる。それを跳ね除けるには改革を進め、視聴者の信頼を得ることがなにより重要だ」と訴え、意見交換会を終了した。

第187回 放送と人権等権利に関する委員会

第187回 – 2012年9月

無許可スナック摘発報道事案
肺がん治療薬イレッサ報道への申立て事案の審理…など

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案のヒアリングとヒアリング後の審理が行われ、本事案の「委員会決定」 (決定文)の起草作業に入ることが決まった。「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理が行われた。

議事の詳細

日時
2012年9月18日(火) 午後3時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案のヒアリングと審理

本事案は、テレビ神奈川が本年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の逮捕を現場で取材し、4月11日夜の『tvkNEWS930』でニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等と申立てがあったもの。これに対しテレビ神奈川は、「通常の実名報道原則に基づいて放送した。申立人の基本的人権についても十分慎重に検討した」等と反論している。
今月の委員会では、申立人とテレビ神奈川の双方に対し、個別に事情を聞くヒアリングを行った。
申立人側は女性経営者ら2人が出席し、「放送だけでなく、フェイスブック等ネット上でも実名、自宅住所、顔のアップ、逮捕の瞬間や連行される模様までとらえたニュース映像が1か月以上もの間、再生可能な環境にあったため、地元でも様々な波紋を呼んだ。その結果、申立人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)で心療内科に通院したり、子供も含めた家族全員の生活に想像以上に深刻な影響を受けた」と訴えた。またこれをテレビ神奈川に抗議したところ、「(犯罪を犯したのだから)しょうがない」などと誠意のない対応だったと述べた。
一方、テレビ神奈川からは報道局の幹部ら5人が出席し、神奈川県警が年間150件以上の無許可営業の摘発を進める中で、「地元のローカル局として警鐘を鳴らすという意味からもニュース価値があると判断して報道した」と強調。顔のアップ映像を繰り返し使用したことについても、「特に映像をクローズアップしたわけではなく、むしろニュース内容を視聴者にきちんと伝えるため」等と説明した。ただ、ネット上にこのニュース映像が長期間再生可能な状態で放置されたことについては、「動画配信を始めた時点で、細かいところの確認を怠っていたという反省はある」と認めた。さらに申立人の抗議に対しては、「そのような暴力的な表現はしていない」と述べた。
ヒアリング後も審理を続けた結果、委員会は本事案の「委員会決定」(決定文)の起草作業に入ることを決め、10月上旬に起草委員会を開くことになった。

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案の審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が昨年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から放送倫理に抵触する内容により人権を侵害された等と申立てがあったもの。これに対しフジテレビは、番組に人権侵害も放送倫理に抵触する部分もないと反論している。
前回の委員会後に、申立人側から「反論書」が、被申立人側から「反論書」に対する「再答弁書」が提出され、双方からの書面がすべて出揃った。
この日の委員会では、まず、事務局が双方の主張で新たに付加された内容を説明した。その後、起草担当委員が、委員会として論点とする事項を整理したレジュメを配布し、考え方を説明した。

本事案で申立人は、申立人の発言を取り上げた部分に名誉とプライバシーの侵害があるとしている他、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する、正確性や公正性等に欠けた番組内容によっても人権を侵害されたと主張している。
委員からは、番組内容が放送倫理に抵触するとする申立人の主張が、申立人に対する人権侵害とどう関連しているのかや、委員会の判断の対象とする範囲等をめぐり、様々な意見が出された。

議論を受け、起草担当委員の間でさらに論点を整理し、次回はそれをもとに審理を続けることとなった。

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案についての報告

本事案は8月の委員会で審理入りが決まったが、先行する事案の審理があり、今月は事務局より双方からの書面の提出状況について報告した。10月9日の委員会で実質審理を行うことにしている。(事案の概要は8月の議事概要、もしくは審理中の事案をご参照ください)

8月の苦情概要

8月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・4件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・・6件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

  • 広島地区意見交換会を開催(9月14日)
    放送人権委員会委員と広島地区のBPO加盟放送事業者との意見交換会が9月14日に広島市で開かれ、地元民放とNHKの計6社から52人、委員会から3人の委員と事務局が出席して、実名報道と匿名報道等をテーマに意見を交換した。(詳しくは意見交換会・シンポジウムの項をご参照ください)
  • 盛岡で東北地区意見交換会を開催(12月4日)
    放送人権委員会委員と東北地区のBPO加盟放送事業者との意見交換会を12月4日に盛岡市で開くことが決まった。東北6県の民放各局とNHKに出席を呼びかけ、人権と放送倫理をめぐって意見を交わすほか、震災報道についても取り上げることにしている。東北地区での開催は2005年に仙台で開催して以来7年ぶり2回目となる。
  • 次回委員会は10月9日(火)に開かれることになった。

以上

2000年度 第13号~第15号

援助交際ビデオ関連報道

第13号~第15号 – 2001年1月30日

1999年8月、名古屋の小学校教諭が県青少年保護育成条例違反容疑で逮捕されたが、同じ日にこの教諭が常連客だったビデオ店経営者がわいせつ図画販売容疑で逮捕された。ビデオ店経営者は、名古屋テレビ、テレビ愛知、中京テレビのニュースについて、「自分は教諭の事件と関係ないのに、関わっていたかのような印象の報道をされ名誉を毀損された」として申し立てた。

第15号 – 放送局:中京テレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第14号 – 放送局:テレビ愛知 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第13号 – 放送局:名古屋テレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)

第15号 – 放送局:中京テレビ

申立人
愛知県名古屋市の元ビデオ店経営者
被申立人
中京テレビ
対象番組
「NNNニュースプラス1」
「ニューススポット」
「きょうの出来事」
「おめざめワイド」
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第15号審理経過

第14号 – 放送局:テレビ愛知

申立人
愛知県名古屋市の元ビデオ店経営者
被申立人
テレビ愛知
対象番組
「ニュースワイド・夕方いちばん(現TXNニュースアイ)」
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第13号 – 放送局:名古屋テレビ

申立人
愛知県名古屋市の元ビデオ店経営者
被申立人
名古屋テレビ
対象番組
ローカルニュース2回、ネットニュース1回
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第13号~第14号 審理経過

1998年度 第6号~第10号

大学ラグビー部員 暴行容疑事件報道

第6号~第10号 – 1999年3月17日

1998年、大学ラグビー部員らあわせて8人が婦女暴行容疑で逮捕されたが、示談の成立で全員処分保留で釈放になり、その後起訴猶予処分となった。申立人は部員2人とその家族で、「暴行に加わっていないのに犯人として放送され、本人と家族の名誉が著しく損なわれた」などとして、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京を相手に名誉毀損や肖像権侵害を訴えた。

第10号 – 放送局:テレビ東京 見解:問題なし
第9号 – 放送局:テレビ朝日 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第8号 – 放送局:フジテレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第7号 – 放送局:TBS 見解:問題なし
第6号 – 放送局:日本テレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)

第10号 – 放送局:テレビ東京

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
テレビ東京
対象番組
「ニュースウォッチ」 1月20日
「ニュースワイド・夕方いちばん」 1月20日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第9号 – 放送局:テレビ朝日

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
テレビ朝日
対象番組
「やじうまワイド」 1月20日、1月21日、1月22日
「スーパーモーニング 」 1月21日
「スーパーJチャンネルニュース」 1月20日、21日
「ワイド!スクランブル」 1月21日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第8号 – 放送局:フジテレビ

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
フジテレビ
対象番組
「めざましテレビ」 1月20日
「おはようナイスデイ」 1月20日、1月21日、1月22日
「ビッグトゥデイ 」 1月21日、1月22日
「ザ・ ヒューマン」 1月21日
「スーパーナイト」 1月25日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第7号 – 放送局:TBS

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
TBS
対象番組
「ニュースの森」 1月20日
「サンデーモーニング」 1月25日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第6号 – 放送局:日本テレビ

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
日本テレビ
対象番組
「ズームイン朝」 1月20日、1月21日、1月22日
「おもいっきりテレビ」 1月20日
「プラスワン」 1月20日、1月22日
「ルックルックこんにちは」 1月21日
「ザ・ワイド」 1月21日、1月22日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第6号~第10号 審理経過

1998年度 第5号

幼稚園報道

委員会決定 第5号 – 1998年10月26日 放送局:NHK

見解:放送倫理上問題あり
1997年12月、NHKの『クローズアップ現代』は「赤ちゃん預かります~保育に乗り出した幼稚園の戦略」と題した放送をした。この番組で取り上げられた幼稚園と理事長らが「取材趣旨の説明と異なり、経営状況の厳しさだけが意図的に強調された」などとして、幼稚園の信用が毀損され、関係者の名誉が侵害されたと申し立てた事案。

1998年10月26日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第5号

申立人
A幼稚園
B理事長 外53名
被申立人
NHK
対象番組
NHK 「クローズアップ現代」
放送日時
1997年12月9日

申立てに至る経緯

1997年12月9日、NHKの番組「クローズアップ現代」(29分番組)で、「赤ちゃん預かります~保育に乗り出した幼稚園の戦略」と題する放送が行われた。この番組は、少子化と女性の社会進出によって保育園への需要が高まる中で、厳しい経営状況に追い込まれた幼稚園の現状と対策、行政の対応等を伝えるものであった。
この番組の中で、園児の減少で経営が苦しくなった幼稚園の例として京都市山科区にあるA幼稚園が2分間取り上げられた。この放送に対し、A幼稚園側(理事長が園長代行)は「取材趣旨の説明と異なり、園の特色である教育方針が全く紹介されず、経営状況の厳しさだけが意図的に強調された」としてNHKに抗議した。しかし、話し合いに決着がつかず、今年6月、この放送により幼稚園の信用が毀損され、保護者、園児、教職員らの名誉が侵害されたとして、A幼稚園側が本委員会に対して、「権利侵害」の救済を求める申立を行った。

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人の申立て要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁の要旨
  • IV. 委員会の判断

全文pdfPDFはこちら

【委員会決定を受けてのNHKの対応】

当該局の対応pdfPDFはこちら

2005年度 第25号 放送局対応

第25号 産婦人科医院・行政指導報道

【委員会決定を受けてのNHK名古屋放送局の対応】

2005年7月28日に委員会決定を受けたNHK名古屋放送局は、放送と人権等権利に関する委員会〔BRC〕宛に10月18日に「改善策と取組状況」をまとめた文書を提出した。

これは、NHKと日本民間放送

連盟が、BPOの発足にあたり基本合意書において「3委員会から指摘された放送倫理上の問題点については、当該放送局が改善策を含めた取り組み状況を報告し、放送倫理の向上を図る」と申し合わせたことに基づくもので、1

0月の委員会では、7ページにわたるこの報告文書について意見を交わした。

この中で、同局内で行なわれた職場研修に招かれた渡邊委員からは「60名程の報道部員が集まり、予定の時間を超えても質問するなど非

常に熱心でした」との報告があった。また、委員からは「委員会決定を受けた当該局としては今までで一番丁寧な対応といえる」「申立人に直ちに会うなど取り組み方はきめ細かい」などNHK名古屋放送局が、具体的改善策を講

じ、誠意ある対応をしたことを高く評価する意見が相次いだ。

NHK名古屋放送局の報告は以下の通り

平成17年10月18日
NHK名古屋放送局
NHK名古屋放送局で放送した「産婦人科医院・行政指導報道」のローカルニュースについて、BRCより受けた「勧告」に対するNHK名古屋放送局の対応や取り組みに

ついて報告します。

(1)勧告後のNHKの対応について

平成17年7月28日のBRCからNHK名古屋放送局への勧告を受けて、NHKは同日午後、東京・渋谷区の放送センターにある「ラジオ・テレビ記者会(全国紙など14社加盟)」と「東京放送記者会(地方紙など13社加盟

)」に対して、「勧告で指摘された問題を真摯に受け止め、今後さらに放送倫理の向上に努め、公共放送に対する視聴者の皆様の期待に応えていきたい」というコメントを発表しました。
名古屋放送局では、この決定を受け

て、同日午後6時10分からの愛知・岐阜・三重の東海3県向けのローカル放送「ほっとイブニング」で、BRCの勧告内容をNHKのコメントを加えて放送しました。さらに東京から全国向けに午後9時からの「ニュース9」で同様

の内容を放送しました。ラジオでは、午後7時45分から東海3県向けに、また、午後11時から全国向けに放送しました。

申立人に対しては、同日夜に、愛知県豊明市の自宅に名古屋放送局報道部長と副部長の2人が

直接出向いて、勧告内容を「ほっとイブニング」で放送したことや「ニュース9」でも放送することなどを報告しました。

「勧告」を受けた7月28日の翌日、29日に、名古屋放送局報道部内に報道部長をチームリ

ーダーとして、ニュース取材、テレビ制作、映像制作(編集)、映像取材(カメラマン)、報道番組の各責任者5人のあわせて6人による「改善チーム」を直ちに立ち上げるとともに、報道部会を開いて勧告内容を説明し、勧告を

重く受け止め、放送倫理の向上に一層努めるよう指示しました。
東京の報道局でも、この問題を幹部が出席する編集会議で取り上げた上で、注意を喚起する旨の文書を29日付けで全国の報道の現場に送り、放送倫理の向上

に一層努めるよう指示しました。
さらに勧告後、9月16日に名古屋放送局で開かれた、中部地方在住の11人の学識経験者らからなる第506回中部地方放送番組審議会で、勧告内容、改善計画について報告しました。

(2)「勧告」に対する報道部員の意見集約と問題点の整理

名古屋放送局報道部では、BRCの「勧告」について、報道部員全員から「勧告」をどう受け止めたか、問題点はどこにあったか、などについての意見を求めるためにリポートを提出させました。その際に、「勧告書」のほか、BRC

が行った記者発表の内容や出席した新聞社などの記者の質疑応答をまとめた文書を熟読するように指示しました。
これらのリポートを集約して、「改善チーム」で問題点を整理しました。ひとつは、「報道される側への配慮

が足りなかった」という、ニュースを報道する側の意識の問題があげられました。報道のイロハである「いつ」が欠落した点に重大な問題があると「勧告」で指摘されており、原稿上の事実関係は正しくても、報道される側への配

慮を欠いたニュースであったことを深く認識するべきで、記者、デスク、ほか報道に携わるもの全員が、改めて人権に対する意識を改革する必要があるという結論に達しました。
もうひとつは、当該の原稿が出された際の「

チェック体制」の問題です。この点については、原稿の内容が専門的で、担当デスクに全面的に任せるかたちになっていたこと。また、放送間際の出稿で、編責やTVデスクによる十分なチェックができなかったことなどが上げら

れました。「改善チーム」では、これまでのチェック体制を見直し、より重層なチェック体制を構築する必要があるとの結論に達しました。
以上を踏まえて、名古屋放送局報道部では、再発防止に向けて、ニュース・放送に

携わる者のさらなる意識改革を行うこと、ニュースデスク体制や編集責任者(編責)体制を中心にニュースのチェック機能を一層強化することの2点を重点に、以下のような措置を講じました。

(3)名古屋放送局報道部での具体的改善策

1.「報道される側に配慮した放送」へのさらなる意識改革

  • グループ討議を開き、再発防止と人権への意識を高める
    報道部の記者、カメラマン、映像制作、報道番組の各グループが9月2日から21日にかけてそれぞれグループ討論を行いました。各グループからは、「ニュースの

    出し手としての責任の重さを痛感した」、「人権への配慮が問われるとき、情報を共有化して確認する作業がいっそう必要だ」、「相手への影響をまず考えることが大切だ」などという意見が出されました。

  • 職場研修の実施
    10月6日、名古屋放送局900会議室にBRC委員で千葉弁護士会の渡邊眞次弁護士を招いて、2時間あまりにわたって職場研修を実施しました。研修には報道部を中心に全局から60人が出席し、講演を

    通じて改めて「報道される側に配慮した放送」への意識を高めました。
    報道部では、この研修のほか、随時、人権に関する研修を開いて意識改革に努めることにしています。

2.「ニュースのチェック体制の強化」

  • ニュースデスク体制の見直し
    ニュース原稿を二重、三重にチェックするため、新たに総括デスクを設け、ニュースデスクの役割を明確にし、機能の強化を図りました。
    これまで、名古屋放送局から出稿される原稿

    については、1番デスク、2番デスクに分かれて地域別の責任体制をとっていました。今後は、1番デスクを出稿全体の責任者に位置づけ、2番デスクが1番デスクの補佐役として、原稿の2次チェックをすることとしました。ま

    た新たに創った総括デスクは、3次チェックを行い、その日出された原稿のニュースバリューや、翌日のニュースの予定の選択、TVデスクとの綿密な打ち合わせなどを業務として位置づけました。1番・2番・総括デスクの役割

    分担を明確にした上で、互いの業務に目を配ることで、名古屋放送局から放送されるニュースについてより重層的にチェックできると考えています。

  • 報道部のレイアウト変更
    複数の報道部員から「ニュースデスクとTVデスクとの間が離れすぎていて綿密なコミュニケーションがとれていない」という指摘があり、これを改善するため、報道部フロアのレイアウトを変

    更し、ニュースデスクとTVデスクの距離を近づけました。これによって、出稿を担当するニュースデスクとTV制作を担当するTVデスクとが、より緊密に連絡をとれるようにしました。

以上が、BRCより受けた「勧告」に対して、NHK名古屋放送局が取り組んできた内容です。

以上