第229回放送と人権等権利に関する委員会

第229回 – 2016年1月

ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、ストーカー事件映像事案の審理、
STAP細胞報道事案の審理、自転車事故企画事案の審理、
世田谷一家殺害事件特番事案の審理入り決定…など

ストーカー事件再現ドラマ事案とストーカー事件映像事案の「委員会決定」案が大筋で了承され、委員長一任となった。その結果、両事案の通知・公表は2月に行われることになった。STAP細胞報道事案、自転車事故企画事案を審理、また「世田谷一家殺害事件特番への申立て」を審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。

議事の詳細

日時
2016年1月19日(火)午後4時~10時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内いじめ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内いじめの「首謀者」とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第4回起草委員会を経た「委員会決定」案が提示され、前回委員会以降の修正点等について起草担当委員が説明を行い、各委員から細部にわたるさまざまな意見が述べられた。その結果、一部表現・字句を修正したうえで大筋で了承され、委員長一任となった。「委員会決定」の通知・公表は2月に行なわれることになった。

2.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、前の事案と同じフジテレビが2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
この日の委員会では、第2回起草委員会を経た「委員会決定」案が示された。審理の結果、一部表現・字句を修正したうえで大筋で了承され、委員長一任となった。「委員会決定」の通知・公表は2月に行なわれることになった。

3.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張している。
今回の委員会では前回に続いて起草担当委員が提出した「論点メモ」に沿って各委員が意見を述べた。その結果、次回委員会までに起草担当委員が、論点とヒアリングに向けた質問項目を整理することになった。次回委員会ではそれをもとにさらに審理を進める予定。

4.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて論点と質問項目を審理した。論点については、本件放送による人権侵害はあったのか、放送倫理上の問題として申立人に対する取材前の説明はどうだったのか等を検討し、来月の委員会で申立人とフジテレビからヒアリングをすることになった。

5.審理要請案件:「世田谷一家殺害事件特番への申立て」~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送に対し入江氏は、番組の取材要請の仲介をした人物を介してテレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。その後弁護士とともに7回にわたってテレビ朝日側と話し合いを行い、放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。
このため入江氏は2015年12月14日、委員会に申立書を提出、「テレビ的技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びに(新聞の)ラジオ・テレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
申立人はこの中で、実際の面談において申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」を否定しているにもかかわらず、過剰な演出、恣意的な編集がなされ、「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したかのように、事実と異なる報道、公正を欠く放送をされたと主張。また、実際の面談において申立人は犯人の特定につながる具体的な発言は一切していないにもかかわらず、音声を一部ピー音で伏せるなどの過剰な演出、恣意的な編集により、申立人が殺害された長男の発達障害に関連して犯人の特定につながる具体的な発言を行ったかのように、事実と異なる報道、公正を欠く放送をされたとして、「これらは、悲しみから再生された申立人の人格そのもの、真摯に築いてきた生き方、すなわち人格権としての名誉権、自己決定権を著しく毀損するもの」と訴えている。
さらに申立人は、テレビ朝日が新聞のラジオ・テレビ欄で「被害者実姉と独占対談」「○○を知らないか?『心当たりがある!』遺体現場を見た姉証言」と実際にはない発言を本件番組の目玉として番組宣伝を行ったのは、「放送倫理に著しく違反する」と述べている。
これに対しテレビ朝日は2016年1月14日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出し、申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張した。
またテレビ朝日は、番組では「妹達には恨まれている節はなかったと感じる。経済的なトラブル、金銭トラブル、男女関係みたいなものなど一切無かったですから。」とサファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。さらに、申立人が被害者長男の「発達障害に関連して犯人の特定につながる具体的発言を行ったかのように事実と異なる報道、公正を欠く放送をされた」と述べていることについては、事件現場が世田谷区上祖師谷であることなどの情報と合わせれば、視聴者による誤った推測で「具体的な場所」が「特定」される可能性があったためで、言葉を伏せたのはそのような誤解が起きないようにという配慮であり、「公正を欠く放送」には当たらないと考えていると主張している。
このほかテレビ朝日は、新聞のラジオ・テレビ欄で「『心当たりがある!』遺体現場を見た姉証言」との表記で番組宣伝等を行ったことに関しては、サファリック氏の「(規制音)へ行ったり、そのような接点は考えられますか?」という質問に対し、申立人が「考えられないでもないですね。」と回答した点を挙げ、番組ではこの発言を新聞ラ・テ欄や番組宣伝等に利用するのに際し、「字数制限の制約の中で表現する上での演出上許容範囲であると思料しており、ご指摘のような『放送倫理に著しく違反している』とは考えていない」としている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。

6.その他

  • 2月3日に福岡で開かれる地区別意見交換会(九州・沖縄地区)について、事務局から概要を説明した。
  • 1月13日に行われたテレビ愛知への講師派遣について、事務局が概要を報告した。委員会から坂井眞委員長、同局からは関連会社を含め約30人が参加、最近の委員会決定などを題材に活発な意見交換を行った。
  • 次回委員会は年2月16日に開かれる。

以上

2016年1月19日

「世田谷一家殺害事件特番への申立て」審理入り決定

放送人権委員会は1月19日の第229回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送に対し入江氏は、番組の取材要請の仲介をした人物を介してテレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。その後弁護士とともに7回にわたってテレビ朝日側と話し合いを行い、放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。
このため入江氏は2015年12月14日、委員会に申立書を提出、「テレビ的技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びに(新聞の)ラジオ・テレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
申立人はこの中で、実際の面談において申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」を否定しているにもかかわらず、過剰な演出、恣意的な編集がなされ、「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したかのように、事実と異なる報道、公正を欠く放送をされたと主張。また、実際の面談において申立人は犯人の特定につながる具体的な発言は一切していないにもかかわらず、音声を一部ピー音で伏せるなどの過剰な演出、恣意的な編集により、申立人が殺害された長男の発達障害に関連して犯人の特定につながる具体的な発言を行ったかのように、事実と異なる報道、公正を欠く放送をされたとして、「これらは、悲しみから再生された申立人の人格そのもの、真摯に築いてきた生き方、すなわち人格権としての名誉権、自己決定権を著しく毀損するもの」と訴えている。
さらに申立人は、テレビ朝日が新聞のラジオ・テレビ欄で「被害者実姉と独占対談」「○○を知らないか?『心当たりがある!』遺体現場を見た姉証言」と実際にはない発言を本件番組の目玉として番組宣伝を行ったのは、「放送倫理に著しく違反する」と述べている。
これに対しテレビ朝日は2016年1月14日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出し、申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張した。
またテレビ朝日は、番組では「妹達には恨まれている節はなかったと感じる。経済的なトラブル、金銭トラブル、男女関係みたいなものなど一切無かったですから。」とサファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。さらに、申立人が被害者長男の「発達障害に関連して犯人の特定につながる具体的発言を行ったかのように事実と異なる報道、公正を欠く放送をされた」と述べていることについては、事件現場が世田谷区上祖師谷であることなどの情報と合わせれば、視聴者による誤った推測で「具体的な場所」が「特定」される可能性があったためで、言葉を伏せたのはそのような誤解が起きないようにという配慮であり、「公正を欠く放送」には当たらないと考えていると主張している。
このほかテレビ朝日は、新聞のラジオ・テレビ欄で「『心当たりがある!』遺体現場を見た姉証言」との表記で番組宣伝等を行ったことに関しては、サファリック氏の「(規制音)へ行ったり、そのような接点は考えられますか?」という質問に対し、申立人が「考えられないでもないですね。」と回答した点を挙げ、番組ではこの発言を新聞ラ・テ欄や番組宣伝等に利用するのに際し、「字数制限の制約の中で表現する上での演出上許容範囲であると思料しており、ご指摘のような『放送倫理に著しく違反している』とは考えていない」としている。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2015年11月17日

「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の通知・公表

[通知]
「謝罪会見報道に対する申立て」事案に引き続いて、BPO会議室で申立人側と被申立人側が同席して「委員会決定」の通知を行った。申立人の佐村河内氏は体調が思わしくないとの理由で欠席し、代理人の2人の弁護士に決定を通知した、被申立人のフジテレビからは編成制作局の担当者ら6人が出席し、委員会からは、坂井委員長と起草担当の曽我部委員、林委員が出席した。
坂井委員長は「名誉感情の侵害はない、放送倫理上の問題もないという『見解』になった」と述べ、決定文のポイントを読み上げた。
委員会側との意見交換で、申立人の代理人は「名誉感情の侵害とともに、番組を見ている小さい子どもや青少年への悪影響が放送倫理上問題ではないかと思って申し立てた。この番組は若い視聴者が多いと思うので、影響は少なからずあるのではないかなというのが率直な感想で、ちょっと残念ではある」と述べた。
一方、フジテレビは「主張を認めていただいてありがたい。ただ、決定を読むと、やはりぎりぎりのところで表現の自由と人権の問題は存在しているので、よりよい番組を作るための参考にしていかないといけない」と述べた。

[公表]
千代田放送会館2階ホールで、「謝罪会見報道に対する申立て」事案に引き続いて記者会見を行い「委員会決定」を公表した。
坂井委員長が「結論として名誉感情の侵害なし、放送倫理上の問題なしで、判断のグラデーションでいうと一番下の『問題なし』の『見解』になった」と述べ、決定文を読み上げながら説明した。続いて、2人の担当委員が以下のように説明した。

(曽我部委員)
先ほどの謝罪会見報道事案は、事実を事実として伝えるということだったが、こちらの大喜利事案は演芸の形式だということがポイントであった。これは風刺画なども同様だが、確立した表現手法によって名誉感情が侵害された場合にどういう基準で判断するかが問題になったが、比較的幅を認めるのが表現の自由の趣旨からして適当であると判断した。
それから、個別の回答の中には障害にかかわる回答があるわけだが、これは障害自体を揶揄しているというよりは、申立人の言動にフォーカスを当てて、それを風刺・批判あるいは揶揄する、そういうものだと理解するのが通常の視聴者だと思うので、そういう観点から許容範囲内であると判断した。

(林委員)
こちらはやはりパロディーというジャンルになるかと思う。そうすると、そのパロディーと表現の自由との兼ね合いという問題になるが、今回の場合はやはり佐村河内さんという時の話題の人、しかも、かなりキャラクターが立っている、風貌とか演出の仕方とか、そういうことに対してのパロディーということで、これは許容範囲ではないかと判断をした。さらに大喜利の回答が、子どもたちのいじめを助長するなど、社会的影響に波及するとは受け止められないので、こういった判断に至った。

以上

2015年11月17日

「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表

[通知]
午後1時から、BPO会議室で申立人側と被申立人側が同席して通知を行った。申立人の佐村河内氏は体調が思わしくないとの理由で欠席し、代理人の2人の弁護士に決定を通知した。被申立人のTBSテレビからは情報制作局の担当者ら3人が出席した。委員会からは坂井委員長と起草担当の曽我部委員、林委員に加え、少数意見を書いた委員の1人の奥委員長代行が出席した。
坂井委員長が「結論は申立人の名誉を毀損したと判断する『勧告』である」と述べ、決定文のポイントを読み上げた。
担当委員による補足の説明と少数意見の委員による説明が行われたあと、申立人側、TBSとそれぞれ個別に意見交換を行った。
申立人の代理人は「感謝している。BPOとしての機能を十分果たしていただいて、あえて裁判ではなくて裁判外でこういった形で申立てをした主旨が報われたものかなと思っている」と述べた。
TBSは「正直言って非常に驚いた感じがしている。佐村河内さんの耳が聞こえているのかどうか、説明が十分でなかったとすれば、そうかもしれないが、番組は新垣さんと佐村河内氏が言っていることのどちらが正しいかを検証したもので、診断書など与えられたものを評価しただけと考えている」等と述べた。

[公表]
午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。24社の51人が取材した。通知の際の坂井委員長ら4人の委員に加え、もうひとつの少数意見を書いた中島委員が出席した。
坂井委員長が「本件放送は申立人の名誉を毀損したものと判断した『勧告』となった」と述べ、決定文の判断部分を中心に説明を行った。起草担当の2人の委員は以下のように説明を行った。

(曽我部委員)
放送局の立場からすると、大変厳しい判断だと受け止められるのではないかと推測する。その関係で3つほど手短に補足させていただきたい。
まず、今回の人権侵害の判断は、過去の判断をご覧になればわかるように比較的まれな判断で、異例の厳しい判断と受け止められるのではないかと思う。ただ、勧告の中には、人権侵害と放送倫理上重大な問題ありの2つあるが、これは人権侵害のほうが重いということでは必ずしもない。訴訟になった場合、名誉毀損の程度は結局慰謝料の金額で表せるが、委員会はそういう認定をしないで、人権侵害の結論だけになってしまうので、重く見えるかもしれない。しかし、必ずしも放送倫理上重大な問題というのが人権侵害よりも軽くて、逆に人権侵害のほうが重いということではない。
2つ目は、佐村河内さんのこの間の動きを見ると、やはり疑惑はあるのではないかという点との関係である。実際、本人も一部お認めになり、社会を裏切ったこともあるので、これくらいの放送をしても、多少の行き過ぎがあったかもしれないが、人権侵害という結論は厳し過ぎるのではないのかという受け止めもあるかと思う。これについては2点ほど申し上げたいが、1つはやはりいくら疑惑があっても、その勢いで何を言ってもいいということではない。やはり客観的な証拠とか、裏付けに基づいて言える範囲のことを言っていただくことが必要で、今回も疑惑は疑惑として明確に伝わるように放送すべきではなかったか。それとの関係で2つ目として、聴覚障害はセンシティブな問題であるということである。また非常に専門的な内容であって、一般の視聴者は、仮に放送内容が誤っていた場合に簡単に誘導されてしまうおそれがあるということもあり、やはり疑惑は疑惑としてきちんと伝える、そういった配慮も必要ではなかったかということである。
最後に3点目だが、本件は情報バラエティーということで、報道・ニュースとは違うので、多少アドリブも入っていたり、自由な発言をしてもいいのではないかということとの関係で厳し過ぎるという受け止めもあろうかと思う。ただ、本件はいわゆる情報バラエティーで、特にこの回は事実を事実として伝えるということがテーマだったはずで、バラエティーだからといって、一概に判断基準を緩和するのは申立人の名誉権との関係では適当ではない。これを活字メディアとの対比で言うと、いわゆる全国紙であろうが、週刊誌であろうが、スポーツ新聞であろうが、裁判所は同じ基準で判断をしているわけで、それとの類推からもそういうことは言えるかと思う。
もちろん、委員会の中でも議論があり、3人から少数意見が出されたのは、異例のことで、いろいろな受け止めがあったということだが、最終的にはこういう形でまとまった。

(林委員)
本件はかなり難しい案件だったと私も思う。ただ、そうはいっても、この案件は、やはり放送人権委員会の原点に立ち返るべき案件ではないかと思っている。社会的に佐村河内さんはいろいろ問題がある方だった、そしてすでに社会的評価も下がっている。しかし、そういう人であっても、やはり結論ありきで、間違った、あるいは根も葉もないことを基にいろいろ冗談を言ったり、ましてや体の障害について面白おかしく話をすることは、やはり影響力の強い放送番組としてはやってはいけないだろう。
少数意見があるが、放送倫理上問題があるということでは全員一致している。聴覚障害は、なかなか難しい専門的知識が必要で、私も勉強したが、だからこそ障害について理解を歪めるような社会的影響も懸念される。その点からしても、こうした決定をすべきだと思っている。

続いて、本決定に付記された2つ少数意見の説明が行われた。奥委員長代行は市川委員長代行との連名で少数意見を書いた。

(奥委員長代行)
事実の摘示という入口の部分で多数意見と私どもとは違う。事実の摘示というとすごく難しいが、私の理解では、一般の人がテレビを見て番組でどんな内容が流れたのかというある種の印象とかイメージとか、そういうものだと思う。
多数意見は、こうこうこういう事実が摘示されたが、真実性・相当性の証明がないから名誉毀損にあたるという趣旨だが、我々は決定文が言うような事実の摘示が、明確かつクリアなかたちであったとはいえないだろうと受け取った。
とりわけ日曜日の昼過ぎの情報バラエティー番組であり、もちろん、多数意見で指摘されているように事実を事実として取り上げるわけだから、正確でなければいけないが、視聴の形態とか、見ている側の意識ということからいうと、結局、視聴者が受け取ったのは「全聾だと言っていたのはやっぱり嘘だったのかと。今も聴覚障害があると言っているけど、それは怪しいぞと。手話通訳、本当に必要なのかな」という程度のものではなかったかと思う。手話通訳が必要だということについては、かなり強い疑いがあると番組視聴者の多くは受け取っただろうと思う。ここに我々の考える事実の摘示があったと判断した。しかし、手話通訳の必要性について強い疑いを持つということは、これは今までの流れの中で、ある種の真実性はあったわけで、それは名誉毀損にはならないだろうということで、人権侵害という結論をとらなかった。
しかし、放送倫理上の問題ということでいえば、やはり聴覚障害をめぐる診断書の説明が、いろいろな部分で非常にあいまいで、しっかりした説明をしていなかった。こういう問題を取り上げるときは、ちゃんとしっかりやってくれよということで、放送倫理上問題はあるという結論になった。

(中島委員)
私は本件放送に名誉毀損の成立の前提となる事実の摘示があったとは考えていない。委員会決定のように厳格な医学的説明を要求して、それがなされないまま申立人の聴力について聴こえているのではないかとコメントすると、正常な聴力を有するという事実の摘示があったとされる。それについて真実性の証明を求めるとなると、申立人は聴こえないと主張しているわけだから、実際には証明できないということになり、名誉毀損の成立を認めざるを得ない。
しかし、すでに申立人は謝罪会見時には一定の聴力があることを認めていたので、どこまで聴こえているのか、これも聴こえているのではないかという観点から意見を述べることは許されると思う。この点で、その意見が公正な論評にあたるかどうかが問われたのが本件であると私は考えている。
委員会決定は、公正な論評についても真実性の証明を要求しているが、それは事実の摘示と同様に不可能な証明を要求することになりかねない。これは表現の自由の観点から大いに問題があると思う。論評というのは意見を自由に述べることが大前提だからである。放送人権委員会は裁判所の代行機関ではないから、表現の自由と人権保障のバランスを最高裁と同様な態度でとらなければならないとは私は考えていない。実は私が申し上げたような論評に関する考え方は、東京地裁等日本の一部の裁判所が採用し、あるいはアメリカの裁判所では一般的にとられている立場でもある。
他方、奥・市川両代行の少数意見は、事実の摘示はあったが、真実性と相当性を認めることができると論じている。私は、本件放送は謝罪会見における事実を報道し、例えばペンの受け渡し等々だが、それについて公正な論評を付したものと理解した。つまり、事実の摘示を視聴者がどのようにとらえたかという観点で論じていない。これを行うと、視聴者の視点、その時々の多数者と言い換えてもいいと思うが、そうした受け止め方を基準にして事実の摘示の有無を決定することになり、多数者の視点で表現の自由の保障があるか・ないかを検討することになりかねない。奥・市川両代行の今回の少数意見は名誉毀損を認めていないので、結果的に表現の自由に配慮がなされたことになるが、表現の自由の一般論として「一般人」=多数者を基準とするのは適切ではないと考える。
しかしながら、本件放送には申立人との関係においてではなく、障害がある人々一般に対する配慮が著しく欠けているという点で、放送倫理上重大な問題があると私は考えた。逆に言うと、申立人との関係では放送倫理上の重大な問題は認めていない。以上の点で、私の意見の法律構成上の特徴があると考えている。

このあと質疑応答に移った。主な内容は以下のとおりである。

(質問)
佐村河内さんがどのくらい聴こえるのか、委員会としてどうやって確認したのか。
(坂井委員長)
佐村河内さんの聴力がどのくらいあるのか、我々の力で確認することはできない。委員会は佐村河内さんの聴力がどうなのかを判断する場でもないし、判断する能力もないという前提で、放送内容について判断をしただけである。

(質問)
この時期に他の報道番組でもかなりこの問題を報道していると思うが、それは今回の判断に反映されたのか。
(坂井委員長) 
委員会は申立てを受けた番組について判断をするということなので、他の番組は考慮の対象外である。

(質問) 
「人権侵害」と「放送倫理上重大な問題あり」が2つとも「勧告」の中に入るというケースはありえないのか。
(坂井委員長)
委員会の結論に両方書くことはないのかというご質問だが、それもありえないと思っているわけではない。ただ、過去にそういう例はないし、人権侵害ありとしたときには、決定文に書いたように、人権侵害をしてはならないという放送倫理上の規定もあるので、当然放送倫理上の問題も生じることになろうかと思う。それを、結論にあえて書くのかどうかというと、少なくとも今回に関しては名誉毀損があったという判断で足りると。ただ、それにつながるような放送倫理上の問題は具体的に指摘しておいた。

(質問)
今回の決定自体は人権侵害を認めているが、少数意見の3人の委員は人権侵害はないと認定している。これだけ真っ向から意見が分かれる場合には、1つの意見に集約しないという考え方が、BPOとしてありうるのか、お尋ねしたい。
(坂井委員長)
原則全員一致で決定を出せるのがベターだということにはなっているが、かといって、例えば今回のように少数意見が3名、その少数意見がまた2種類あるということもある。しかし、意見が分かれるからといって、決定を出さないということは考えられない。
委員会の運営規則の16条は、「委員会の議事は委員全員の一致を持って決することを原則とする。全員の一致が得られない場合は、多数による議決とする」と書いてあり、「賛否同数の場合は委員長の判断による」と。「多数決による議決の場合は、『勧告』または『見解』に少数意見を付記することができる」、こういう規定になっている。

(質問) 
人権侵害なしという少数意見は、表現の自由に配慮するという立場からすると、大変傾聴に値する意見だと思う。我々報じる側が、両論きっちりあり、それぞれの意見を踏まえて番組制作者に考えてもらいたいと報道することが問われているのかなと思った。
(坂井委員長)
普通の裁判所の判決と違って、最高裁判決には補足意見、少数意見があるというのと同じ意味で、「あっ、こういうバランスだったのか」ということがわかる。最高裁判決について言えば、ひょっとしたら次は変わるかもしれないということもありうる。それが1ついい面であって、おっしゃるとおり委員会の議論はこういうことだったのかと分かるかもしれない。
ただ、少数意見は個人、その少数の方の意見なので、委員会全体で議論するわけではない。委員会の決定として、最終的にどうだったかといところはぜひ重く受け止めていただきたい。その上で、少数意見もあったということを理解していただくのは意味がある。私も少数意見を書いた経験があるので、ぜひ読んでいただきたいと思うが、その前に委員会としてどういう結論だったのか、少なくともそこはしっかり受け止めていただきたい。

(質問)
率直に拝読してずいぶん厳しい決定だと思った。特に情報バラエティーと銘打って、ゲストを呼んでコメントをさせていく形で進んでいく番組であり、現場が萎縮する可能性をどのくらいお考えになったのか。
(坂井委員長)
表現の自由も重いし、放送される人の人権も重いので、申し立てられた案件について淡々と判断していくしかないのかなというのが私の考え。
今回について言えば、重いと受け止められる可能性がもちろんあるかもしれないが、事案を事案として判断をしていったら、こういう判断が出たということ。委員会がどうしてこういう判断をしたのだろうかということをぜひ考えていただきたい。厳しいことを言わなきゃいけないときもあるし、そうではないときもある。厳しいことを言われると、萎縮ということが頭をよぎるかもしれないが、しかし、そこでなぜ委員会がそういう厳しい判断をしたかということをぜひ考えていただきたい。
(林委員)
これまでも、現場が萎縮するというご指摘を受けたことがあるが、現場が萎縮するから、こういう判断を出さないということはありえない。いろいろ少数意見もあり、放送現場の方がこれらをどういうふうに議論していくか、放送局全体の問題として受け止めていただくということではないか。現場では委縮という受け止めではない方法で考えていただきたいというのが、私たち全員の希望です。
(曽我部委員)
BPOの決定と萎縮という話を、二律背反的に考えてしまうと、なかなか話が進まないところもあるかと思う。今回の決定でも人権侵害という結論を出した以上、放送倫理上の問題は必ずしも述べる必要はなかったが、もう少し具体的にどの点が問題だったのかをきちんと伝えたいというところで、かなり放送倫理上の問題についても書かせていただいた。名誉毀損の部分についてもかなり詳細に書いているのは、そういうところまでお読みいただいた上で、これから考えていくヒントにしていただきたい、そういう思いがあった。

(質問)
決定を受けて、当然制作サイドで考えなくてはいけないことが多いと思う。例えば、会見から2日後に情報バラエティーで取り扱うこと自体がなかなか難しいということなのか、あるいは、こういう工夫をすれば放送できたとか、お考えがあればうかがいたい。
(坂井委員長)
事実の摘示をしっかりやって、その上でいろいろな批判、論評をしていただく分には、それは公正な論評になるだろう。そこを、論評するときの意見に合うように事実摘示をしたところが問題だというのが今回の決定のメッセージのつもりです。事実の摘示の部分は、ちゃんと客観的内容を言った上で、どうも私は信用できないという分には、問題にはならないというのが私のアドバイス、考え方です。放送人権委員会は別に、何か表現を萎縮させてもよいとか、人権だけを考えているというわけではない、委員会は、報道の自由や表現の自由を守るためには自律していなければいけないとしてできた組織、という意識を持ってやっている。ですから、久しぶりであっても、人権侵害という判断をしなければいけないときはするんだと、そういう姿勢でないと、自律的な組織とはいえないという意識は個人的にすごくある。そうすることによって、BPOなり、それを作っているNHKと民放連、民放各局に対する信頼ができてくるという意識でやっているので、その辺までわかっていただければありがたい。

以上

2015年12月11日

「出家詐欺報道に対する申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は2015年12月11日に「出家詐欺報道に対する申立て」事案について「委員会決定」の通知・公表を行い、本件番組について勧告として「放送倫理上重大な問題がある」との判断を示した。
通知・公表の概要は、以下のとおりである。

[通知]
通知は、被申立人には午後1時からBPO会議室で行われ、委員会からは坂井眞委員長と起草を担当した奥武則委員長代行、二関辰郎委員が、被申立人のNHKからは副会長ら4人が出席した。申立人へは、被申立人への通知と同時刻に大阪市内にある代理人弁護士の事務所で行われ、申立人本人と代理人弁護士に対して、BPO専務理事と委員会調査役が出向いて通知した。
被申立人への通知では、まず坂井委員長が委員会決定のポイント部分に沿って、申立人を特定できるものではないとして「人権侵害に当たらない」としたうえで、「全体として実際の申立人と異なる虚構を視聴者に伝えた」などとして放送倫理上重大な問題があり、「放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する」との委員会決定の内容を伝えた。
この決定に対してNHKは「今回の通知につきまして、真摯に受け止めたいと思います。現在私どもは再発防止の取り組みを、全国レベルで行っております。先般の放送倫理検証委員会の意見、そして、本日の放送人権委員会の委員会決定を踏まえ、再び同じようなことが起きないよう再発防止をより一層徹底させてまいりたいと考えております」等と述べた。
一方、申立人は「人権侵害が認められなかったことは残念とは思うが、NHKが事実ではないことを報道したことを委員会が認めたことに感謝したい。NHKはこの決定を真摯に受け止め、訂正の放送をすることを求める」等と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い委員会決定を公表した。24社59人が取材、テレビカメラはNHKと在京民放5局の代表カメラの2台が入った。
参加した委員は坂井委員長、奥委員長代行、二関委員の3人。
会見ではまず、坂井委員長が委員会決定の判断部分を中心にポイントを説明し「人権侵害はないけれども放送倫理上重大な問題があった」との結論に至った当該番組の問題について説明した。
また、総務大臣の厳重注意や自由民主党情報通信戦略調査会の事情聴取に触れた箇所について、「憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において、放送法1条が、まず放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって放送による表現の自由を確保することを法の目的の1つとして明記している。放送法3条では、この放送の自律という理念を具体化するという意味で『放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない』として、放送番組編集の自由を規定している。そして放送法4条は、放送事業がよるべき番組編集の基準を定めている。放送法4条が厳重注意等の「根拠」とされているようだが、この条文は、放送番組に対し干渉を規律する権限を一切定めておらず、逆に、放送法1条、3条を前提として、放送の自律の原則のもとで放送事業者が自ら守るべき基準を定めているものである。従って委員会としては、民主主義社会の根幹である報道の自由の観点から、報道内容を委縮させかねない、こうした政府及び自民党の対応に強い危惧の念を持たざるを得ないと考えている」と、述べた。
さらに放送の自律に関して、「放送には何よりも自律性が求められる。自律というためには、過ちを犯した際にも、また十全に自律を発揮しなければならない。NHKは、本件放送について当事者の聞き取りなどを行い、既に『クローズアップ現代』の報道に関する調査報告書を公表し、本件放送に多くの問題があったこと、そして再発防止策などにも触れ、『クローズアップ現代』でも検証番組を報道している。しかし、委員会としては、放送の自律性の観点から、NHKに対して、なお本決定を真摯に受け止めて、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題が再び生じないように、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材、制作において、放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告した」と述べた。
続いて奥委員長代行は「放送人権委員会の委員会決定はえてして非常に難しいという意見を漏れ聞くが、なるべくわかりやすく書いたつもりだ。すでに放送倫理検証委員会が意見を出しているので今回の委員会決定について重なっている部分があって既視感をもたれるのではないかと思う。同じように放送倫理上重大な問題があると指摘しているわけだが、放送倫理検証委員会は番組全体を放送倫理の観点から検証しているのに対して、放送人権委員会は番組で出家詐欺のブローカーとされた申立人の人権についてとそれに関わる放送倫理上の問題を検討したということだ。そのあたりの違いを分かっていただきたい」と述べた。

この後、質疑応答に移った。主な内容は以下のとおりである。

(質問)
放送法に関して、放送倫理検証委員会では放送法4条は法的規範性を有しないとしたが、政府は法的規範性があるとしており、法律についての論争があるが、その点については放送人権委員会はどう考えているのか。
(坂井委員長)
私も法律家、弁護士なので、それなりの考えは持っているが、法的規範性があるかないかというところの報道については、ある意味、用語の問題の部分があると思う。報道によっては倫理検証委員会の書いたことが倫理規範であるという書き方をしている報道もあった。しかし、それは、法律でないと言っているわけではない。放送法4条に書いてあるということは誰も否定できない。その上で行政指導の根拠となる法的規範性があるのかどうかという議論をしているのだと思う。放送法4条が法律であることは当然であるが、それについて、例えば行政が介入していく法的根拠になるのかというと、それは違うということを、今回、申し上げているつもりだ。
そういう意味では倫理検証委員会と考え方は同じだ。用語の問題として、法的規範なのかどうかとか、倫理規範なのかどうかというところは、そのような意味で若干混乱があると思う。法律に書いてあるということは誰も争いがないことで、その上でどのようなレベルでの規範性があるのかという議論ではないかと思う。

(質問)
そうすると、この4条をもって行政指導の根拠にはならないという認識は同じだというか。
(坂井委員長)
放送法4条には、その基準は書いてあるが、そもそもその前提となる3条に、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」という前提がある。放送法の1条に書いてある3つの原則の1つ、放送の自律の原則というのがあり、それを具体化するものが2条以下に定めているということは最高裁の判決も述べている。平成16年11月25日の最高裁判決、『生活ほっとモーニング』についての判決だ。
放送法3条に法律に定める権限に基づく場合でなければ干渉されないと書いてある。自律だと書いてあって、そのあとに4条があるわけだ。そこに番組の編集にあたっては次の各号に定めるところによらなければならないと書いてあるわけだが、そこには、委員会決定の中に書いたように、放送番組について干渉または規律するための権限はどこにも書かれていない。こういう基準で作らなければいけない、という規範はあるが、それについて、3条がいうところの法律に定める権限というのは、ないわけだ。
さらに言うと、放送法は憲法21条に基づく法律だから、憲法21条を放送法で解釈するようなことがあってはいけない。憲法21条の下に放送法があるということだ。
憲法21条は表現の自由、報道の自由についてどう定めているかというと、それは「人権相互の問題として調整は必要だ」という前提はあるが、「政策的に何か法律で定めれば自由に制限していい」という構成には決してなっていない。
放送人権委員会というのは、まさに名誉、プライバシーと表現の自由がぶつかった時にどうするのかということを扱っているわけで、それは法律で定めれば何かができるということとは違う。だから、放送法3条が法律に定める権限に基づく場合というのも、憲法21条の規定の下で許されるということなのだ。法律で定めればいいということではない。
そのような前提において、放送法4条、3条の関係で言うと、3条を前提に4条があって、4条は「法律に定める権限は何も決めていない」ということを委員会決定に書いたということだ。

(質問)
今の質疑の関連になると思うが、人権委員会で、こういった指摘をしたのは初めてなのか。
(坂井委員長)
こういう書き方は、これまでしていないと思うが、表現の自由についての指摘をしたことはある。
一つは、「大阪府議からの申立て」事案で、表現の自由についての補足意見として前委員長が、「取材・報道の自由、とりわけ取材・放送の自由は、情報の自由な伝達を妨げかねない特定秘密保護法の運用や、時の権力者の言動によって萎縮しかねない法的性質をも併有している」と記している。このケースは府議会議員だったが、国政に関わる者にも、より当てはまるという補足意見だった。
これは、そういう意味では同じ文脈であろうと思う。
また、「民主党代表選挙の論評問題」という事案がある。決定文の一部の抜粋だが、「申立人らが民主党の有力な政治家であり、自らも、メディアを通じて、その批判について反論する機会を有するだけの政治的な力量を持つ以上、むしろこのような自由な論評は甘受すべきであり、本件放送を論難することについては、報道の自由を堅持し、政治的干渉からの自由を擁護することを通じ、民主主義を維持発展させるという観点から疑問なしとしない」、という指摘をしている。
そういう意味で、政治家であるとか権力を持っている人間が表現の自由について尊重すべきであるということは指摘しているが、放送法という形では指摘していなかったかもしれない。ただ、文脈は同じだろうと思う。

(質問)
政府や自民党の対応に対して、「強い危惧の念を持たざるを得ない」と書いてあるが、こういうことに対しても以前から指摘されていたという解釈でよいのか。
(奥代行)
私の意見だが、ここに書かれていることは放送人権委員会の基本的立場で一貫していると思う。ただ、今回は、自民党がこういう形で事情聴取をしたり、総務大臣が厳重注意するなどの具体的な出来事があったからこういう書き方をしているのであって、放送人権委員会のプリンシプルは全然変わっていない。

(質問)
ネット上で閲覧が可能になっていたので審理の対象にするというのは、今までにもあったことなのか。審理に入る要件として、3ヶ月以内に事業者に、1年以内にBPOに言ってくるというのが運営規則だと事務局から先ほど説明があったが、今回はネット上で閲覧可能だったということで審理に入ったということか。
(事務局)
誤解がないようにご説明すると、ネット上に出ていたから審理入りしたのではなく、放送された映像と音声の同じものがNHKのホームページに誰でも閲覧可能な状態であったということで、原則という意味で放送されたと同じとして、運営規則はクリアしているということだ。
過去には、「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案がある。これも放送からは時間が経っていたが、ネット上で閲覧可能だったということで、委員会として要件を満たしていると判断している。ネットの社会になって、放送された同じ番組がネット上で見られたという場合は、要件を満たしていると判断するようになったということで、過去にもあったということだ。
(坂井委員長)
このケースは当該の局が誰でも見られるようにしているので、放送と同じように扱っていいのではないかという考え方だ。例えば誰かが違法にキャプチャーをしてネットに上げているようなケースとは、全く別だ。

(質問)
NHKの調査報告書は結果的にヤラセとはしなかった。放送倫理検証委員会はヤラセかどうかということは議論しないで、NHKのガイドラインが一般の感覚から乖離しているという言い方でNHKの対応を批判したが、今回の勧告では、特にNHKの姿勢についての論評がない。その辺、どういうふうに考えているのか。
(坂井委員長)
質問に対するストレートな答えとしては、まずヤラセの定義を決めないと、この議論はなかなか噛み合わないところがあって、「ヤラセとは何か?」という話をしないと進まないところがある。
委員会決定に関して言うと、別にその問題を避けているわけではなく、ヤラセとは何かと定義をして、それについて当てはまるかどうかということをやっても、我々の仕事としては意味がないと思う。我々の仕事としては、シーン4の部分で放送倫理上の問題として「明確な虚偽の事実を含む」と委員会決定に書いた。
ただ、それがヤラセなのかどうなのか、ということについては、そもそもこの申立人がブローカーだったのかどうなのかというところは、決定文で言うと「藪の中」で、判断し切れない。
ヤラセの定義とも関係あるが、シーン4については明確な虚偽の部分もあるが、例えば、申立人が真実、ブローカーであって普段やっていることを単に再現したのであれば、それはヤラセにあたるのだろうかという議論になるだろう。また、仮に申立人がブローカーであったとしても、普段やっていないことを演じてくれと言われてやってしまったら、それはヤラセになるかもしれない。そのような、いろいろな難しい問題があると思う。
しかし、我々がやるべきことは放送倫理上の問題を検討することなので、「明確な虚偽の部分がある。それは問題ではないか」と書いた。それをヤラセというかかどうかは定義の問題ではないかと思う。あえて、そこを述べる必要はないと、私は個人的には思っている。
(奥代行)
基本的に委員長の考えと一緒だ。ヤラセかヤラセじゃないかということを議論するのは、委員会の主要な対象にはなり得ないだろうと考えている。一般視聴者としての感覚で言えば、あれはヤラセだっただろうというふうに簡単に思う。
ただし、委員会決定にも書いたが、NHKの記者が「出家詐欺ブローカーの役をやってくれ」というふうに頼んでやったかどうかということは確認できないし、どうもそうではない可能性のほうが強いと私は思っている。
そうすると、やらせたわけではないということになる。申立人が、いろいろな事情、状況を斟酌して積極的に出家詐欺ブローカーの役を演じたということになると、それは果たしてヤラセなのかヤラセではないのかという、そういう議論になる。
だから、ヤラセという言葉は非常に分かりやすいのだが、実はこういう決定には馴染まない問題だろうと思っている。
(二関委員)
特に付け加えることがあまりないが、「ヤラセ」という言葉にメディアの人がこだわり過ぎているなという印象を持っている。

(質問)
放送倫理検証委員会もヤラセの定義というのは、意見書にそぐわないということではあったが、NHKの放送ガイドラインには「真実のねつ造につながるいわゆるヤラセ」とヤラセの定義を書いている。今回の勧告の中には「明確な虚偽を含むナレーション」と書いてはあるが、いわゆるねつ造という言葉はない。ねつ造というものに当たらないのか。
(坂井委員長)
これも、ねつ造という言葉の意味がはっきりしない。単刀直入に言うと、「明確な虚偽を含んでいる」と言うほうがまぎれのない表現だと思う。それをねつ造というのかどうかだが、ここから先は解釈の問題になるが、シーン4の部分は、仮に申立人がブローカーだったとしても、その事務所ではなかったわけだし、多重債務者が当日偶然来たわけでもなかった。
セッティングして待っていたという意味では虚偽なわけだが、もしブローカーが本当にいて、自分の事務所では撮影されては困るとからと言って他の場所を借りて、普段やっているのと同じことをやったとしたら、それはねつ造なのだろうか?虚偽なのだろうか?という、微妙な領域があると思う。
それがいいと言っているわけではないが、そこにはいろいろなグラデーションがあるので、それをねつ造に当たるかどうかということを議論してもあまり意味がないと思う。我々がはっきり言えることは、「あの部分については明確な虚偽が含まれている。それは、放送倫理上はだめではないか。事実を事実として報道する以上そういうことがあってはいけない」という意味で、もちろん「だめだ」と言っているわけだ。
そういう切り分けのほうがむしろすっきり理解できるのではないかと私は考えている。
(奥代行)
申立人がブローカーを演じることにどこまで納得していたかは全然わからない。かなり納得していたとすると、その事務所が彼のものではなかったとしても、ねつ造とまで言えるかとなると少し躊躇する。そういうグラデーションの感じで、「明確な虚偽」、あるいは「虚構」という表現を採用したということだ。

(質問)
委員会決定を読んだ印象は、記者個人が暴走したというのはわかるが、NHKの組織としての責任は、あまり明確ではないようだ。いかがか。
(坂井委員長)
記者が悪くて局に責任ないという話ではもちろんない。結論の部分には局に対する要望をしっかり書いて、NHKに対して、「今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、報道番組の取材・制作において『放送倫理基本綱領』の順守をさらに徹底することを勧告する」としている。
こうなったことについて、もちろん記者が裏付けをしないまま報道した、ということはもちろん大きいが、1人で番組を作るわけではないから、その制作チームなり、最終的な判断をする立場の人の責任も当然出てくるという意識で書いている。
だから、「個人の責任に重点を置いていないか」という指摘については、どちらかというと意外な感じで、「そういうつもりでは書いていない」と答える。

(質問)
倫理検証委員会は、組織のなりたちが行き過ぎた番組につながったのではないかということを指摘しているが、人権委員会の勧告は割と記者に特化しているような印象を受けるが、いかがか。
(坂井委員長)
そこは委員会のなりたちの違いがある。我々は放送された人、取材された人から申し立てられた内容について、その人権侵害があるのか、その人の人権侵害につながるような放送倫理上の問題があるのかという観点で、番組を見る。
番組の作り方がどうだったかということは、倫理検証委員会がまさにやっていることだが、我々は作り方がどうだったかとか、責任の所在がどこにあるのかということを追求することが主な仕事ではない。放送人権委員会は、この放送で人権侵害があったかどうか、人権侵害につながるような放送倫理上の問題があったかどうかというところにフォーカスして仕事をしている委員会だ。だから、そういう違いが出てくるのだと理解をしていただきたい。
(二関委員)
今、委員長が言ったことと同じことを若干言い方を変えて述べると、申立人が番組の中でどのように描かれていたかという点に我々は着目した結果、そういった描かれ方に一番近い、画面にナレーション等の出てきている記者にどうしてもフォーカスがあたってしまうというところはあると思う。

(質問)
裏付け取材もそうだが、チェック体制がちゃんとしていれば、こういう表現は回避できたのではないかと思うが、その辺あまり指摘がないように思う。いかがか。
(坂井委員長)
裏付け取材がないというのが一番大きく、裏付け取材がないままなぜ通ってしまったのかということはある。決定文に「これは、報道番組の取材として、相当に危ういことではないか」という表現があるが、裏付け取材は事実報道をする場合の根っこの部分だ。それは、やはりしなければいけない。
それがされないまま通ってしまったことは問題だと思うが、我々はなぜ通ってしまったかということを検証する立場ではなく、この番組に人権侵害があったのかを判断する立場なので、どうしてもそれ以上突っ込めないということになる。
(奥代行)
つまりこれは人権委員会でやっているわけであって、この番組トータルにどういう問題点があったのかということを検証したわけではない。だから、読んだ時の感じの違いは当然出てくると思う。
決定文でも、本件映像という言い方をずっと一貫して使っているが、申立てに関わる映像の問題として取り上げているわけだ。本件番組をトータルに取り上げてはいないのだ。
例えば、ヤラセということで言えば、最後の場面で、多重債務者とされている人を追いかけてインタビューする場面がある。あれなどは大きな問題だと思うが、そのことに全然触れていない。なぜ触れていないかというと、申立人の問題ではないからだ。

(質問)
結局、視聴者もこの問題を取材している我々もわからないのは、申立人がブローカーだったのかどうかというところだ。決定文はNHKの報告書とあわせて公表された外部委員の見解の中で、端的に言うと「ブローカーではない」という部分を引用している。放送人権委員会としてもこの判断は同じなのか。
(坂井委員長)
ブローカーかどうか、判断できればもちろんする。
ブローカーとして報道しているのはNHKではないか。だとしたら裏付けの話に戻るが、「ブローカーとして報道して、マスキングもした」「ブローカーとして報道したのは、事実こういう裏付けがあるからだ」という答えがふつう事実報道に関しては放送する側から出てくるはずだ。でも、それはなかった。
我々はそれ以上判断のしようがない。ブローカーであったという裏付けについて、NHKは主張はしているが説得的でないと判断をした。
NHKの調査報告書も「そう言っている」と引用して、それ以上ブローカーだったのかどうかということは、私たちの委員会で判断のしようがない。我々はできるだけ早く結論を出さなければいけないので、むやみに調査するわけにはいかない。ある程度主張と資料を出してもらったうえで、双方1回ずつヒアリングして、補充の主張等を出してもらうこともあるが、それ以上のことはしない。
倫理検証委員会のほうはもっとたくさんの人間にヒアリングをしたと思うが、それだけのことをやっている委員会と我々とは目的が違う。我々の委員会に出た材料の中でどう判断できるかというと、「それは判断しようがない」というしかないし、それでいいのだと考える。その上でどう判断するかだ。
例えば訴訟でも立証できないということはしょっちゅうある。この場合、立証責任という言葉を使うが、立証できなかった時にどちらがそれで不利益を負うのかという発想になる。何でもどちらかを判断できるということではないので、この委員会のシステムの中では、「そこは判断できない」ということしか申し上げようがない。

(質問)
今回の委員会決定の評価だが、判断のグラデーションに沿うと先日の「謝罪会見報道に対する申立て」の委員会決定と単純に比較すると、同じ「勧告」でも今回の方がややトーンが下がるのかなと思ったが、その辺はどのような認識でいればいいのか。
(坂井委員長)
「謝罪会見報道に対する申立て」のケースは人権侵害ありという結論、こちらは放送倫理上重大な問題があるという結論で、カテゴリーとしては同じ「勧告」の中に入る、という以上のことは申し上げられない。これ以上のグラデーションはないので、決定文の中に書いていることを読んで判断してもらう他ない。

(質問)
放送法4条について、倫理検証委員会が意見書を出したあとに、菅官房長官が「BPOは放送法を誤解している」と反論したことがあったし、その後に岸井さんを名指しにした意見広告が出された。そういうことを念頭に置いて、この委員会決定が改めて出されたということか。
(坂井委員長)
この事案については、申立てのあった番組について直接の動きがあったので、委員会として触れたということで、それ以外の意見広告については、我々の触れる話ではない。委員会決定はあくまでこの番組の申立てについてのものと理解してほしい。

(質問)
シーン4の場面については明確な虚偽を含むもので、虚構を伝えるものだったと書かれている。これは、記者の側にそういう意思がなければそういうことにはならなかったと思うが、なぜこういうことをしてしまったのか、動機にあたる部分、背景に何があるのかについてはどう考えているのか。
(坂井委員長)
その背景までは語るべき力はないと思うが、ただ、事実報道をする立場の人は放送かプレスかに関わらず、裏付け取材はイロハのイだ。基本的に裏付けを取らないで報道してはだめな話だと思うから、そこのところを「なぜ」と言われてしまうと、「なぜそんなことを起こしてしまうのだろう」としか言いようがない。だから、そこのところは「十分考えてください」という勧告になっている。
もう1つ、そのシーン4のところについては、さきほどからヤラセなのかねつ造なのか言葉の問題はあるが、例えば私が何らかの取材を受けた際に「すみません、そこのところもう一回言ってください」と求められることはあると思う。それをヤラセというのかというと、おそらくそこまでは言わないし、明確な虚偽を含むとも言わない。
それはなぜかと言うと、言っている内容は言う本人が本気でそう思っていることだからだ。そういう話から始まって、どこまで事実の報道に演出があっていいのかという議論はあると思うが、「このくらいだったらいいだろう」みたいな話で行ってしまったのかなと想像する。
だから、今回の明確な虚偽を含むというのは放送倫理上重大な問題があって、人権侵害はないけれども、やはりとても大きな問題で、もっときついことを言えば「そういう作り方してはいけない」という話、「論外だ」と思っている。
「なぜでしょう」と言われてしまうと、「私が聞きたい」という気がする。
(奥代行)
「なぜですか」と言われて、個人的な感想だが例えば1つだけ言えば、多重債務者として登場したBさんは取材協力者としてNHKの記者とはかなり長い付き合いで、記者はいろいろな形で情報をもらったりしていた。その人に対する過重な信頼があっただろうということとか、記者というのはいつもいい映像を撮って、いいタイミングで流したいというのがあるので、そういう功名心とか特ダネ意識とかがあったのではないか。そうしたことはいろいろ指摘できるが、それはこの委員会決定とはちょっと別の次元の話だ。

以上

第228回放送と人権等権利に関する委員会

第228回 – 2015年12月

出家詐欺報道事案の通知・公表の報告、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、
ストーカー事件映像事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、
自転車事故企画事案の審理、専決処分事案の審理対象外決定…など

出家詐欺報道事案の通知・公表について、事務局が概要を報告した。ストーカー事件再現ドラマ事案とストーカー事件映像事案の「委員会決定」案を検討し、STAP細胞報道事案、自転車事故企画事案を審理した。「専決処分報道に対する申立て」を審理要請案件として検討し、審理対象外と判断した。

議事の詳細

日時
2015年12月15日(火)午後4時~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告

「出家詐欺報道に対する申立て」事案に関する「委員会決定」の通知・公表が12月11日に行われ、事務局がその概要を報告した。そのうえで、当該局であるNHKが決定の内容を伝える番組の同録DVDを視聴した。

2.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第3回起草委員会を経て提出された「委員会決定」案が審理された。前回委員会からの変更点などについて起草担当委員が説明し、各委員から意見が述べられた。この結果、1月に第4回起草委員会を開催し、さらに決定案の検討が行われることとなった。

3.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、前の事案と同じフジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、第1回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案が検討された。各委員から出されたさまざまな意見を踏まえ、1月に第2回起草委員会を開催して、さらに検討を続けることとなった。

4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では起草担当委員が提出した「論点メモ」に沿って各委員が意見を述べた。次回委員会ではさらに議論を続け、論点の絞り込みと「委員会決定」の方向性に向けて審理を進める予定。

5.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
前回の委員会後、申立人の反論書に対するフジテレビの再答弁書が提出され、今月の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を提出し説明した。次回委員会では論点の整理に向けて審理をすることになった。

6.審理要請案件:「専決処分報道に対する申立て」

茨城県潮来市の市長が繰り返し行った専決処分と随意契約をめぐる報道に対し、前市長から提出された申立書について、審理要請案件として審理入りの可否を検討した結果、審理対象外と判断した。
本件申立ての対象とされたのは、A局が本年3月に報道番組で放送した特集。
申立人は、この報道は、申立人が茨城県潮来市長だった当時、あたかも鹿児島県阿久根市の元市長のように違法に専決処分を繰り返し、かつ特定のコンサルタント会社と随意契約することで施工業者に損害を与えたかのような「事実と異なる内容が放送され、私の名誉は著しく傷つけられ、多くの市民の信頼を失いました」として、A局による謝罪と訂正を求めて申し立てた。
しかしながら、委員会において放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第3条(目的)及び放送と人権等権利に関する委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして検討した結果、BPOの目的や当委員会の任務に鑑み、市長による専決処分、随意契約という公職者による職務執行そのものを対象とした放送部分についての苦情は、当委員会の審理対象として取り扱うべき苦情に含まれないということで委員全員の意見が一致した。
したがって、本件申立てについては、当委員会の審理対象外と判断した。

7.その他

  • 佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道」と「大喜利・バラエティー番組」2事案の「委員会決定」の通知・公表が11月17日に行われたが、事務局がその概要と放送対応、新聞報道をまとめた資料を提出した。また、当該局であるTBSテレビとフジテレビから提出された決定を伝える放送の同録DVDを視聴した。
  • 委員会が11月24日に金沢で開催した系列別意見交換会について、事務局から概要を報告した。同意見交換会には、TBS系列の北信越4局から報道・制作担当を中心に20人が、委員会からは坂井眞委員長、林香里委員、二関辰郎委員が出席、約2時間にわたって最近の委員会決定や地元局が直面した事例などについて活発な意見交換が行われた。
  • 12月に委員会が実施した講師派遣について、事務局が報告した。長崎放送には坂井眞委員長、NHK大分放送局には委員会調査役を派遣、局職員らと委員会活動や放送と人権、放送倫理等について意見交換した。
  • 次回委員会は2016年1月19日に開かれる。

以上

2015年度 第57号

「出家詐欺報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年12月11日 放送局:NHK

勧告:放送倫理上重大な問題あり
NHKは2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」「申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」などとして、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対しNHKは、「映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からない」などと反論、人権侵害も名誉棄損も成立する余地はないと主張した。
委員会は2015年12月11日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

NHKは、2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた(以下、「本件放送」という)。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対し、NHKは、映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からないと反論した。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送には申立人が4か所登場する(以下、「本件映像」という)。本件映像では申立人の顔はまったく見えない。申立人はNHKの記者が持参したセーターに着替え、腕時計や指輪もはずして、撮影に臨んだ。申立人は体型としぐさの特徴などによって本人を特定できると主張するが、本件映像を詳細に検討しても、申立人と特定できるものではない。申立人と特定できない以上、本件映像は人権侵害には当たらない。
しかし、番組が放送された場合、視聴者が申立人と特定できなくても、申立人自身は自らが放送されていることを当然認識できる。それが実際の申立人とは異なる虚構だったとすれば、そこには放送倫理上求められる「事実の正確性」に係る問題が生まれる。
NHKの記者は、かねてからの取材協力者であり、本件映像に多重債務者として登場するB氏の話から申立人が「出家詐欺のブローカー」であると信じていたと思われる。しかし、「出家詐欺」をテーマとする番組に、それを斡旋する「ブローカー」として申立人を登場させる以上、最低限、本人への裏付け取材を行うべきだったし、たとえ、本人への直接取材ができなくとも裏付け取材の方法はいくつも考えられる。本件映像はそうした必要な裏付け取材を欠いていた。
また、本件映像には申立人の「ブローカー活動」の実際に関して、記者によるナレーションなどが伴っている。それらは「たどりついたのはオフィスビルの一室。看板の出ていない部屋が活動拠点でした」など、明確な虚偽を含むもので、全体として実際の申立人と異なる虚構を伝えるものだった。
NHKは必要な裏付け取材を欠いたまま、本件映像で申立人を「出家詐欺のブローカー」として断定的に放送した。また、明確な虚偽を含むナレーションを通じて、全体として実際の申立人と異なる虚構を視聴者に伝えた。匿名化のうえで「出家詐欺のブローカー」として映像化されることに申立人の一定の了解があったとはいえ、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」(「放送倫理基本綱領」日本民間放送連盟・日本放送協会制定)との規定に照らして、本件映像には放送倫理上重大な問題がある。委員会は、NHKに対して、本決定を真摯に受けとめ、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材・制作において放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。

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2015年12月11日 第57号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第57号

申立人
大阪府在住A
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』
放送日時
2014年5月14日(水)午後7時30分~7時56分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.人権侵害に関する判断
  • 3.放送倫理上の検討

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年12月11日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には12月11日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に大阪市内の申立人の代理人弁護士事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は24社59人が出席した。
詳細はこちら。

2016年3月15日 委員会決定に対するNHKの対応と取り組み

2015年12月11日に通知・公表された「委員会決定第57号」に対し、NHKから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年3月10日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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2015年10月

山形県内の6局と「意見交換会」を開催

 放送人権委員会は10月5日、山形市内で県単位の意見交換会を開催した。放送局側の参加者は山形県内の民放5局とNHK山形放送局から43人、委員会からは坂井眞委員長、市川正司委員長代行、城戸真亜子委員の3人が出席した。
午後7時半から開催された意見交換会では、まず地元局が視聴者から指摘があった事例や判断に迷った事例を報告、それに対して坂井委員長以下委員が考えを述べた。
後半では、最近の「委員会決定」をもとに委員会側が判断のポイントを説明し、人権や放送倫理を考える際の枠組みなどについて意見を交わした。
主な内容は以下のとおり。

◆坂井委員長の挨拶

冒頭の挨拶で坂井委員長はBPOの役割に触れて、以下のように述べた。
「なぜ、放送人権委員会のような委員会が立ち上がったのかというと、表現の自由が非常に大切だという前提で、放送で人権侵害等を起こさないようにすることが、実は、放送、あるいは表現の自由を守っていくということにつながるという考えからだ。そのようなことが、BPOの設立の経緯によく示されている」と、設立の経緯に触れてその目的を説明した。
続いて「私が言いたいことは、表現の自由ないしは放送局の自由な報道ということと個人の人権というのは、対立するものではないということだ。どちらかではなくて、どちらも大切にしなくてはいけないので、そういう観点から、放送人権委員会が申立てを受けて、人権侵害があったのか、あるいは放送倫理上問題があったのかということを審理して決定をしているということを、是非、理解してほしい。そして、委員会の決定が出て、放送倫理上問題があるとか人権侵害だとかいうと、どうしても結論にばかり注目が集まってしまうが、実は委員会では、かなり真剣な議論を、委員9名でした上で結論を出している。その中には、様々な要素を考えて書き込んだ部分があるので、そういう決定を読んで、結論だけで『なんだ』というようなことのないようにしてもらえれば有り難いと思っている」と、決定文の中身をよく読んで理解してほしいと訴えた。

◆山形県での事例

BPO設立の経緯をまとめたDVDなどを使った事務局からの放送人権委員会の概要説明に続いて、山形で起きた事例が2局から紹介された。

(インターネットに関連して視聴者から指摘を受けた事例)

ある局からは、(1)病院の不祥事を報道した際の病院建物の映像に通院患者がわずかに映り込んでいて、「人物が特定でき、プライバシーの侵害だ」として家族から指摘され自社のホームページにアップしていた映像を削除したこと、(2)番組のホームページに番組で紹介した女子生徒の小学生時代の写真を掲載していたところ、写っていた生徒から中学生なった数年後になって「恥ずかしいので削除して欲しい」との要請があり削除。その後、幼児や児童など子どもの画像は掲載しないルールに改めたこと、(3)ある学校の教師の不祥事を報道したニュースをホームページにアップしたところ他の個人サイトに転用されて拡散。地域住民から「学校名で検索するとその事件が何年も経過した後も出てくるので、局の責任で完全に削除して欲しい」との要請があったこと、などいずれもインターネットに関連して視聴者から指摘を受けた事例が紹介された。
報告者は、「一旦インターネットにアップすると、いろいろ手を尽くしても削除が難しいということがあり、クレームがありそうなニュースはアップしないほうがいいのではないかとも考えた。けれども、事件・事故とか、意見が対立する問題を、一切アップしないということは、逆に報道機関としてどうなのかという部分もあって、これからの課題だろうと受け止めている」と対応の難しさに悩んでいることを伝えた。

〇城戸委員
この事例に関して、城戸委員は自らホームページを運用している体験を踏まえ、「アップする側としては何の問題もないのではないかと思っていても、映像が本人にとっては恥ずかしいものであるなど個人のデリケートな心情を害する可能性がある。また、ネットにアップしたことで全く違うふうに受け取られて拡散されるというようなことも考えられるので、神経質過ぎると思っても、やはりその都度本人に確認を取るなど配慮していくことが大事だなと感じている」と答えた。

〇坂井委員長
また、坂井委員長は「(1)の病院の話については、ここで考えなければならないのは、病院というものの性質だ。病院というのは医療情報という非常にセンシティブな情報に関わる話になると思う。だから、そういう場所に出入りしているのを見られたくないというのは合理性がある。全部、とにかくダメだということではないにしても、病院というのはそういう注意が必要だと思う。そういうところで細かい判断をしていかなければいけない。(2)の写真の話は、おそらく、最初、載せた時は、その小学生の子ども本人とその親御さんの了解を取ったと思うので、それ自体は違法でも何でもなく、だからダメだということにはならないと思う。けれど、その子どもが中学生になって、『やっぱり困る』と言ってきた時には、それが違法かどうかということではなくて、『やっぱり配慮しましょう』という話が出てくる。そこから先、『だから載せるものは了解を得た大人と物だけにしよう』というところに、本当に行ってしまっていいのかなというところは、立ち止まって考える必要があるのかもしれない。これは、『行き過ぎた匿名化』につながる話だと思う。行き過ぎた匿名化でテレビメディアの持つ力を削いでしまう部分があるので、最大の配慮はしながらも、何でも匿名化してしまうということにはならないようにしていかなければならないと私は思う」と述べた。

〇市川委員長代行
続いて市川委員長代行は、「(1)の事例では、やはり『どこで』というところが一つは問題だと思う。最近、繁華街とか商店街でのインタビューの映像で人物の周りを全部マスキングしてしまうことがよくあるが、果たしてあそこまでやる必要があるのだろうか。ああいう公のパブリックスペースで、みんな顔を見られることを、ある程度、覚悟しながら歩いているところで、そこまでやる必要があるかという問題と、では病院の入口だったらどうかという問題だ。そこは自ずから、その人の肖像を守る価値が違ってくるだろうと思う。あとは、そこを撮る必要性がどれぐらいあるのか、そのことの重みにもよるのかと思う」と、肖像権に関する考えを述べた。
続いて(3)の事例について、「テレビの場合には、基本的にニュースを流して、その場で消えていくのが前提だがウェブサイトの場合には、それがずっと継続して残っていくというところが違うところだ。今までとは違って、どれぐらいの期間、残すのかということも、一つの考慮材料にしなくてはならない。何を映すのか、どれぐらい隠すのかということと同時に、どれぐらいの期間、残すのかということも、今、難しい問題になってきていると思う。ただ、この学校の不祥事の問題については、抽象的に学校の名誉とか地域の印象であるとかということが、果たしてどれだけ保護すべき利益なのかというと、私は、必ずしも、それほど利益のある、保護すべき利益とは思わないところもある。やはり、そこは、個人の権利、利益として何が侵害されているのかをきちんと確認しなければならないと思う」と、ウェブサイトにどの程度の期間掲示するのかという問題とともに、内容の公共性や取材対象のどのような利益を侵害する可能性があるかなどを具体的に考える必要についても述べた。

(匿名・実名で局によって判断が分かれた事例)
次に、県内で起きている事件・事故で、実名か匿名かということについて各局で判断が分かれたケースとして、天童市の女子生徒がいじめが原因とみられる自殺をした事例を別の局の報道担当者が紹介した。
自局の対応について、「私の局では当初から生徒の名前や学校名はずっと伏せたままにしており、現在もそのようしている。そう判断した理由は、遺族側への配慮が一番大きかったと思う。私どもが遺族側に取材して、学校名も含めて生徒の名前などを出してほしくないということが分かったので、そこに変化がない限りはそれを続けている状態だ。一方で、遺族側だけの取材というのも、報道のバランスの上で如何なものかというところもあるので、学校側とか、市教委側とか担当記者を分けて、バランス良く取材する形でやった。ところが、最近、岩手県では亡くなった生徒の名前が出ているケースもある。これは、ご家族のほうから、名前を発表してほしいという希望があったやに聞いている。こういうケースについては、必ず匿名だとかあまり最初から決めずに、ちょっと悩みながら判断していくというところが大事なのかなと、今、感じている」と、直面した事案について報告した。

〇市川委員長代行
これに対して市川委員長代行は「生徒の名前は伏せたとしても学校名を載せるのはどうかとか、生徒がやっていたクラブ活動を、どの程度、書くかとか、おそらくそういったところで、特定性、同定性がどの程度、絞られてくるのかということが決まってくると思う。そういう意味で、特に子どもの問題だということもあって、配慮は必要だ。その配慮がどういう点で必要かといえば、やっぱり遺族への配慮の問題。それからイジメをしていたのではないかということであるとすれば、そのイジメをしていた子ども自身の問題。そして、このケースは刑事事件にはなってないのかもしれないが、潜在的にはそういう可能性もあるとすれば、少年法61条(記事等の掲載の禁止)の趣旨をどれぐらい考えるのかという問題が出てくる。そう考えた時に、どこまで、焦点を絞り込んでいくのか。学校名、クラブ名をあげてということになってくると、ある程度、絞り込まれてきてしまうという感じもする。他方で、例えば校長や管理職としての教員の責任は、それはそれで、きちんと報道しなければならないということがある。そこでのバランスをどこで取っていくかというところが非常に難しいところだと思う。一概に、こうすべきだということは、私としては申し上げにくいが、考慮すべき材料としてはそういうところだ」と、判断する際のポイントについて説明した。

〇坂井委員長
続いて坂井委員長は実名か匿名かの議論の原点に立ち返って説明した。「ちょっと違った話から入るが、私は、こういうメディアの問題を扱うようになったのは、今から27~8年ぐらい前からだ。この問題に関わり始めた頃に、新聞社、通信社の方と匿名報道についてよく話をした。当時は微罪でも実名報道をされている時代で、『何で実名が必要なんだ』と問うたところ、『いや、事実を報道するのが報道なんだ』と、『名前は事実の重要な要素なんで、当然じゃないか』という答えが返ってきて、噛み合わない議論をしたことを、今、思い出した。当時は、報道の一番肝心な点である、『いつ、どこで、誰が、何をしたのか』の要素なのだということだった。この点を全部、匿名にしてしまって、本当にニュースと言えるのだろうかということが、きっと原点にあるのだろうと思う。そこで、『そうは言っても他の利益がありますよ』という話が同時に出てくる。全部、特定されてしまうと、プライバシー侵害だったり肖像権の侵害だったり名誉棄損だったりがあるから、そこでバランスを取りましょうという、そういう話なんだと思う」と述べた。
続けて、「何が言いたいかというと、この天童のイジメで自殺したのではないかというような話に関しては、ニュース価値はあるだろう。おそらく誰も異論はない。だから本当は実名で出したいのだけれども、そのことによって別の利益、法的な利益を侵したり倫理的な問題が生じるのであれば、そこは配慮をしていかなければいけないという、そういう問題だろうと思う。今の発表にあったように、被害者の方は名前を出してもらっては困るとはっきり言っている。それを無視して出すのは、それは如何なものかと考えるのは当然だ。だけど、一方で親御さんが、『亡くなったのはA子ではなくて、ちゃんと名前があるのだから、書いてくれ』とおっしゃる場合がある。それであれば、匿名にする理由はなくなる。ただ、別の配慮は必要かもしれない。だから個別の判断をしていくことだと思う。あとで決定のところで説明する散骨場の問題なども、これは肖像権とその報道の価値とのバランスということで、そういうことを細かく具体的に考えていくと、ある程度、答えが見えてくるのではないか。だからケース・バイ・ケースというのは、おっしゃるとおりだと思う」と述べた。

◆最近の委員会決定

(「散骨場建設計画報道への申立て」について)
次に、今年1月に通知・公表された「散骨場建設計画報道への申立て」事案について、当該番組を収録したDVDを視聴したうえで、その判断のポイントなどを坂井委員長が説明した。この事案は、ローカルニュース番組で「散骨場」建設計画について事業主の民間業者の社長が市役所で記者会見などをする模様を取材・放送した際、地元記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件であったにもかわらず顔出し映像を放送したため、社長が人権侵害・肖像権侵害を訴えて申し立てた事案。委員会は、人権侵害は認めなかったが記者会との合意事項に反した放送をしたことは放送倫理上の問題があるとの「見解」を示した。

〇坂井委員長
この決定に関して坂井委員長は、「この事案の論点は次の3点だ。(1)まず誰と誰の合意なのかという点。(2)合意に反して顔の映像を放送したことは肖像権侵害にあたるのかという点。そこで考慮すべきものとして、公共性、公益性、それから合意違反と肖像権侵害との関係ということが問題になる。(3)合意に反して顔の映像を放送したことに放送倫理上の問題があるかという点だ」と論点を絞って説明した。
坂井委員長は、(1)の合意の主体については法律的には記者会と申立人の合意と判断されるが、記者会と申立人が合意したことを局も受け入れたわけだから当然それで拘束されるとした上で、肖像権と報道との関係について、次のように述べた。「(2)については、『顔を出しません』と言って約束して取材をしたのに、放送の時に顔を出してしまったら、それですぐ肖像権侵害になると思われるかもしれないが、実はここはひとつ論理的な操作が必要な部分だと思う。そもそも、肖像権とは何かというと『何人もその承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されたり、撮影された肖像写真や映像を公表されない権利』、つまり『みだり』に公表されない権利と書いてある。『みだり』にということなので、理由があれば公表できる場合もある。報道の自由との関係で言うと、公共性があると認められるならば、両者の価値を検討して一定範囲では報道の価値を優先し、肖像権侵害とならない場合もある」などと、法律的な考え方を紹介した。
その上で今回のケースに当てはめ、「相手の承諾なしに勝手に撮った場合と約束を違えて撮った場合は微妙に違うけれども、大きく見たら同じ範疇に入るので、その報道の内容、内容が持つ公共性、それから放送内容等を具体的に考えて、それが許される場合かどうかを考えるという論理構成になる」と考え方の枠組みを示した。
そして、本件の場合について、「散骨場計画は正当な社会的関心事で公共性があり、放送したのは報道番組で公益目的も認められる。放送された映像は隠し撮りをしたというようなものではなく、市役所に修正案を持っていくところや記者会見をしているところなので、プライバシーを侵害したり、肖像権を侵害する悪質性が高いわけではないので、肖像権侵害には当たらないと判断にした」と人権侵害を認めなかった理由を説明した。
しかし、約束違反をしたことについては放送倫理上の問題があったと委員会の判断を示した後、「最後に強調しておきたいのは、付言の部分だ。このケースは記者クラブが取材対象者の顔や実名を出さないと約束し、記者クラブのメンバーはそれに縛られるような形になっている。これはまずくないかということだ。なぜかと言うと、もともと記者会で報道協定を結ぶケースは、誘拐報道などの特別な場合だけだ。今回のケースは、理論的には、確かに特定の日に限られるものだが、場合によれば、次の日に何か事態が展開して、顔を撮ってしまおうという判断をするときに、記者クラブがした約束が縛りにならないかというようなことが考えられる。そうしたことから、記者会は取材先からの取材・報道規制につながる申し入れに応じたことと同様の結果をもたらす危険性を有するのではないか、ということをあえて、決定文に付言として書いた」と、特に付言の部分を強調した。

〇地元局質問
この事案に関して、報道制作に携わる参加者は、「事件や事故の現場で、一般の方からインタビュー取材をするが、撮影して放送するのを暗黙の同意を得たということで帰ってくる。しかし、帰ってきたあとに『顔を分かるように使わないでほしい』とか『一切使わないでほしい』などの申し入れがあるケースがある。これはどのように考えたらよいのか」と日常的に起こりうるケースについて問うた。

〇坂井委員長
それに対して坂井委員長は、「何か事件があって、近所の人の意見を聞いたというレベルだったら、その人が嫌だというのに顔を出した場合の正当性はなかなか得られないと思う。また、暗黙の了解ではなく、『顔を出しますけどいいですか』と確認して撮ってきたからといって、『やっぱり気が変わったのでやめてください』と言うのを押し切って出す正当性があるのかというと、なかなか難しいのではないかと思う。先ほどのケースは、社会の正当な関心事になっていて、その中心にいる人物が顔を出してくれるなということが言えるのかどうかという話だ。一番分かりやすいのは、総理大臣が顔を出してくれるなと言っても通るのかというと、通らない。いろんなレベルの段階、グラデーションがあるが、今の質問の場合は、ただ事件の近所の人を撮ったということだけでは、その人の意思に反して顔を出すことの正当化はないのではないか」と回答した。

〇地元局質問
さらに質問者が「報道する公共性・公益性等があれば、使わないでくれなどの申し入れがあっても、拒否して、放送する分には問題がないというふうに考えてよいのか」と、問うた。

〇坂井委員長
それに対して坂井委員長は、「実際そういう放送もいっぱいあると思う。それは皆さん判断されていると思う。一番分かりやすいのが政治家だ。そういう公的な立場の人間は全てではないが、NOと言っても受け入れざるを得ないときがあるということだ」と答えた。

(「大阪府議からの申立て」について)
次に今年4月に通知・公表された「大阪府議からの申立て」事案について、当該番組の音声を再生したうえで、その判断のポイントなどを市川委員長代行と坂井委員長が説明した。この事案は、ラジオの深夜トーク・バラエティー番組で、お笑いタレントが当時の大阪府議会議員が地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について「思いついたことはキモイだね」などと語ったことに対して人権を侵害されたとして申し立てたもの。委員会は「見解」として人権侵害も放送倫理上の問題もないとの判断を示した。
なお、本委員会決定の審理に当たった三宅弘前委員長は、政治家の場合は一般私人より受忍すべき限度は高く、寛容でなくてはならない、などの趣旨の補足意見を付した。

〇市川委員長代行
まず、この事案の起草を担当した市川委員長代行が、判断のポイントについて説明した。「問題になったのは、名誉感情の侵害と社会的評価の低下があったかだ。判断の枠組みは、まず名誉感情・名誉権を侵害するのかどうか。第一段階で名誉感情が侵害されたかを検討する。その上で、評価を下げている、あるいは名誉感情が傷つけられているということになった場合でも、それは直ちに権利侵害にはならない。次の段階として、公共性・公益性の観点から、許容されるのかを検討することになる」と、考え方の枠組みを説明した。
そして、「本件の場合には、『キモイ』という言葉は一定の社会的評価の低下、名誉感情に不快の念を与え、第一段階の名誉権、名誉感情の侵害という点はあるということになる。そこで、次の段階の公共性・公益性との間で許容されるかどうかということになる。その場合の判断としては、公共性・公益性がどれぐらい高いのかという問題と、侵害された社会的評価、名誉感情がどの程度のことなのか、その2つを天秤にかけて、公共性・公益性が重いということになれば、これは許容される。本件の特徴としては、放送の対象が公務員、しかも被選挙権のある公職の議員というところだった。それから、事実自体に争いはなく、論評としての許容性がもう一つの問題になる」と論点を整理した。
そして、議員が関わる名誉棄損などの判例を紹介した上で、「本件の場合は名誉感情を害された程度は低く、それに対して公共性・公益性は高いということで、人権侵害はなく、放送倫理上の問題もないと結論した」と委員会の判断を示した。さらに留意点として、「本件に関してはバラエティー番組だということで、『政治を風刺したりすることは、バラエティーの中の一つの重要な要素であり、正当な表現行為として尊重されるべきもの』として、バラエティーでの表現としては許されるという評価をしている。ただし、『キモイ』という言葉は『無限定に使うことを是とするものではない』と結論に付言をあえてした」と述べた。

〇坂井委員長
次に、「補足意見」について坂井委員長は、「どういう趣旨かと言うと、従前の委員会決定を踏まえたものとして、表現の自由というのは、まず自己の思想及び人格を形成、発展させる、自己実現と言い方をするが、そういう面と、民主主義社会は思想及び情報の自由を流通させないと、民主政自体が成立しない。これも民主政の過程で非常に大事で、この2つの面がある。法の運用や権力者の言動によって、取材・放送の自由が萎縮するようなことがあれば、先ほど指摘した2つの自己実現の形、民主政の過程が傷ついてしまう。だからそういう権力者については、受忍する範囲は緩くなるということをあえて指摘しておきたいということだ。本決定が述べるところの規範部分は、国政を担う政治家の行動についてはなおさら妥当するのだということをあえて付言しているという趣旨だ。これは私も全く同意見だ」と述べた。

〇地元局
委員の説明に対して地元局の幹部は次のように意見を述べた。「今の意見を聞いて非常に心強く思った。特に、報道の自由というところを非常に深くとっていることを心強く思った。もちろん我々も自律的に襟を正していかなくてはいけないが、BPOというのは民主主義の成り立ちとかかわっていると思う。最近、事案を見てみると、報道したことに対して公権力の方が『これは問題にすべき事案だ』とか言ってBPOにかけている。BPOを、放送局を縛ったり、あるいは自分に不都合な報道をさせないように扱う機関だというふうに公権力に勘違いされても困るなと思っているところがあったので、そういう点では自らを律すると共に、心強いなというふうに感じた」と全体を通じての感想を述べた。
意見交換会に引き続いて行われた懇親会でも、地元放送局と委員との間で活発な意見交換が行われた。

今回の意見交換会の事後感想アンケートで局側の参加者からは、「各局の事例報告は、実感を持って聴くことができたし、それに対する委員長、委員各位の意見などを直接聴くことができ、大変参考になった」「全国的にも知られている事例を解説されることでよりリアルに詳細に理解することができた。また、各局での題材も同じことがすぐに起こり得ることとして、当事者から生々しく聞くことができた」などの声が寄せられた。

以上

第227回放送と人権等権利に関する委員会

第227回 – 2015年11月

謝罪会見事案、大喜利・バラエティー事案の通知・公表報告、
出家詐欺事案の審理、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、
ストーカー事件映像事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、
自転車事故企画事案の審理…など

今月の委員会当日に行われた「謝罪会見報道」と「大喜利・バラエティー」の2事案の通知・公表について、事務局が概要を報告した。出家詐欺報道事案の「委員会決定」修正案が大筋で了承され、委員長一任となった。その結果、通知・公表は12月に行われることになった。ストーカー事件再現ドラマ事案の「委員会決定」案を検討し、ストーカー事件映像事案、STAP細胞報道事案、自転車事故企画事案を審理した。

議事の詳細

日時
2015年11月17日(火)午後4時45分~10時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の通知・公表の報告

佐村河内守氏が申し立てた上記2事案の「委員会決定」の通知・公表が、今月の委員会開会前に行われ、事務局がその概要を報告した。

3.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
この日の委員会では、前回委員会での検討を経た「委員会決定」の修正案が示された。審理の結果、決定案は一部表現、字句を修正したうえで大筋で了承され、委員長一任となった。
「委員会決定」の通知・公表は12月に行われることになった。

4.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、11月5日の第2回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案の審理が行われ、ストーカー事件の背景と取材などについて意見が交わされた。この結果、第3回起草委員会を開催して、さらに検討を重ねることとなった。

5.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、前事案と同じフジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、名誉毀損と放送倫理上の問題にポイントを絞って審理が行われ、その結果、次回委員会に向けて、担当委員が起草作業に入ることとなった。

6.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では事務局がこれまでの双方の主張をまとめた資料を提出、論点を整理するため起草委員が集まって協議することとなった。次回委員会では、起草委員によって整理された論点をもとに審理を進める予定。

7.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
今月の委員会では、申立人から反論書が提出されたことを事務局が報告。これを受けて、フジから再答弁書が提出されることになっており、次回12月の委員会で審理を進める。

8.その他

  • 11月24日(火)に金沢で開かれるTBS系列北信越4局との意見交換会について、事務局から概要を説明した。
  • 今後予定される加盟局への講師派遣について事務局から説明した。
  • 次回委員会は12月15日に開催かれる。

以上

2015年度 第55号

「謝罪会見報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:TBSテレビ

勧告:人権侵害(少数意見付記)
TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げた。この放送について、佐村河内氏は「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与え、申立人の名誉を著しく侵害した」等として委員会に申し立てた。
これに対してTBSテレビは「申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が自分の名義で発表してきた楽曲について新垣隆氏が作曲に関与していたことを謝罪する記者会見を取り上げた。この中で、佐村河内氏の聴覚障害について、会見のVTRや出演者のやり取りなどで、「検証」と「論評」を行ったとしている。
この放送について、佐村河内氏は「健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装って会見に臨んだ」との印象を与えるもので、名誉を著しく侵害されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
まず、本件放送によってどのような事実が摘示されたかについて、申立人の指摘する問題点を中心に、以下の検討を行った。(1)謝罪会見の際に申立人が配布した聴力に関する診断書に記載された検査結果について、本件放送が客観的な検査については十分に言及せず、むしろ自己申告制の検査であることを強調するなどして、一般視聴者に対し、診断書の検査結果の信頼性が低いという印象を与えた。(2)アナウンサーが「普通の会話は完全に聞こえる」との説明を行い、申立人には健常者と同等あるいはそれに近い聴力があるとの印象を与えたが、その説明は不適切であった。(3)本件放送が紹介した専門家の所見のうち、「通常の会話は比較的よく聞こえているはず」とする部分は、(2)の印象を裏付け強化するものであり、詐聴の可能性を指摘する部分は、(1)と同様、検査結果の信頼性が低いことを印象付ける。(4)「普通に会話が成立」というナレーションとテロップが付されて放送された本件謝罪会見のVTR部分は、申立人が謝罪会見の際、手話通訳なしに会話を交わすことが可能であったという事実を端的に摘示するものである。
以上、(4)を中心としつつ、(1)から(3)をも総合して一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、本件放送において「申立人は、手話通訳も介さずに記者と普通に会話が成立していたのだから、健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装い会見に臨んだ」という摘示事実が認められ、これは申立人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する。
名誉を毀損するような放送であっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり、かつ、主として公益目的によるものであって、当該事実が真実であるか又は真実と信じることについて相当の理由がある場合には、結論的には名誉毀損には当たらない。この点について、本件摘示事実については公共性があり、また、本件放送には公益目的があったと言えるが、TBSによる真実性の立証はない。さらに、相当性については、上記(4)に関し、放送されたVTR部分に先立つやり取りを踏まえた対応にすぎない可能性が十分にあり、また、謝罪会見を取材していたスタッフはこのようなやり取りについては承知していたはずであること、等から相当性も認められない。
以上より、本件放送は名誉毀損に該当すると言わざるをえない。
また、一般に、人権侵害を生じさせた放送は当然に放送倫理上の問題が存することになるが、本件放送に関して、委員会は、このような放送がなされてしまった背景に、TBSが申立人に対する否定的な評価の流れに棹さすごとく番組制作を行ったことがあるのではないかと考える。具体的には、事実をありのままに伝えること、専門性の高い情報を正確に伝えること、出演者への事前説明の努力、障害に触れる際の配慮の必要性、以上4点において放送倫理上の問題を指摘することができ、それらは決して軽視されるべきものではない。
バラエティー番組であっても、本件放送のような情報バラエティー番組には、事実を事実として正確に伝えることも求められる。とりわけ、本件放送は、聴覚障害という一般視聴者の予備知識が乏しい専門的なテーマに関するものであることから、番組による不正確な説明内容によって視聴者が容易に誘導されうることに配慮が必要であった。こうした問題は、本件放送が聴覚障害という人権に関わるセンシティブなテーマに触れるものであったことからすれば、より深刻である。
委員会は、被申立人であるTBSテレビに対し、本決定の主旨を放送するとともに、情報バラエティー番組において障害をはじめとする人権に関わる専門的な内容を含むテーマを取り扱う場合のあり方について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見がある。

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2015年11月17日 第55号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第55号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『アッコにおまかせ!』
放送日時
2014年3月9日(日)午前11時45分~午後0時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送で摘示された事実と名誉毀損の成否
  • 2.本件放送の公共性・公益目的
  • 3.本件放送の真実性・相当性
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、11月17日午後1時から、BPO会議室で行ない、その後、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定を公表した。
詳細はこちら。

2016年2月16日 委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み

2015年11月17日に通知・公表された「委員会決定第55号」に対し、株式会社TBSテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年2月15日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。
なお、本件の委員会勧告に基づいて局が行った放送対応に関し、当該番組でエンドロールの後一旦CMが放送されてからアナウンサーによるコメントの読み上げがなされた点について、多数の委員から、放送対応のタイミングについてより工夫がなされることが好ましかったとの意見が述べられた。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第56号

「大喜利・バラエティー番組への申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2014年5月24日放送の大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内守氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たる」等として委員会に申し立てた。
これに対し、フジテレビは「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、申立人の名誉感情を侵害するものでない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

【決定の概要】

フジテレビは2014年5月24日に大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』を放送した。この中で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出して、お笑い芸人らが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として、一般視聴者を巻き込んで笑い物にするものであるから、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」等として委員会に申し立てた。
名誉感情とは、人が自己の価値について有している意識や感情のことであり、法的保護の対象となりうるが、主観的なものであるだけに、名誉感情の侵害は、社会通念上の許容限度を超えた場合に初めて法的な保護を受ける。
大喜利は、しばしば世相に対する批判も含む表現形式として、社会的に定着した娯楽であり、たとえ個人に対する揶揄となったとしても、その者が正当な社会的関心の対象である場合には、個々の表現が許容限度を超えない限り許される。そして、大喜利には大げさな表現やナンセンスな表現、言葉遊び等も当然含まれうるし、即興性が特徴である。名誉感情侵害の判断においてもこうした大喜利の特徴を斟酌すべきである。
その上でまず、本件放送で申立人を取り上げたことの当否については、全聾の作曲家として高い評価を得ていた申立人が他人に作曲を依頼していたことが発覚し、また、その聴覚障害についても疑惑が持ち上がったことに社会的関心が向けられることは当然である。それは、申立人が謝罪のための記者会見を行ってから2か月半ほど経過した本件放送時点でも同様であり、本件放送において申立人を取り上げたことには正当性が認められる。
次に、個々の回答による名誉感情侵害の有無について、各回答を概観すると、a)聴覚障害に関するもの、b)音楽的才能に関するもの、c)風貌に関するもの、d)その他、の4類型に分類可能であるが、大喜利の特徴も踏まえれば、いずれも、許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えない。
また、申立人は放送倫理上の問題として、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長するおそれを主張するが、本件放送は、自らの言動によってファンや関係者の信頼を裏切ったことにより正当な社会的関心の対象となっている申立人個人に対する許容限度の範囲内での風刺等であり、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長する内容とは受け止めにくい。したがって、放送倫理上の問題は認められない。
以上より、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、また、放送倫理上の問題も認められないとの結論に至った。

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2015年11月17日 第56号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第56号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『IPPONグランプリ』
放送日時
2014年5月24日(土)午後9時~11時10分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.判断の方法について
  • 2.本件放送で申立人を取り上げたことの当否
  • 3.個々の回答による名誉感情侵害の有無
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知と公表は、同じ佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表とあわせて11月17日に行われた。
詳細はこちら。

第226回放送と人権等権利に関する委員会

第226回 – 2015年10月

ストーカー事件映像事案のヒアリングと審理、出家詐欺報道事案の審理、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、自転車事故企画事案の審理…など

ストーカー事件映像事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。出家詐欺報道事案の「委員会決定」修正案を検討し、ストーカー事件再現ドラマ事案の「委員会決定」案を議論した。STAP細胞報道事案を審理し、自転車事故企画事案の審理に入った。

議事の詳細

日時
2015年10月20日(火)午後3時~8時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今回の委員会では、申立人と被申立人のフジテレビから個別にヒアリングを行い詳しく事情を聴いた。申立人は冒頭陳述で「放送を見ると、自分が警察で見せられたものと同じ映像が流され、自分であることは間違いないと確信した。これだけのことをしたからには退職は仕方ないとは思うが、事実と違う内容の放送をされ、会社の人たちに無視されたり、あからさまに睨みつけられたりするのは、正直辛いものがあった」と訴えた。また、「誰かの指示を受け、共謀して、いじめやいやがらせをした事実はない」と述べた。さらに申立人自身が行なったストーカー行為として放送された実写映像について、「コンビニで被害者の写真は撮っていない。被害者の車を撮っていた。あからさまな尾行、つけ回し、ずっと後ろを走っていたという事実はない」として、被申立人に対し「事実と違う内容の放送があったことと、個人を特定できる放送をしたことを認めてもらえればいい」と主張した。
一方、フジテレビからは編成担当幹部ら4人が出席し、ストーカー事件に関わる申立人の実写映像を放送したことについて、「視聴者の方が信ぴょう性を感じられるように、そういった情報、ないしは実際の映像を用いている。申立人を描き、申立人を基にした内容であるのは違いないが、申立人を特定する内容ではない。あくまで描写の一部というふうにとらえている」と説明。そのうえで、「申立人自身や申立人が運転している車、会社の駐車場などの映像には十分なマスキングをしていると考えているので、同定はできない」と主張した。また、取材協力者らが放送前に周囲に会社のことが放送される旨流布してしたことについて、「事実、流布が行なわれてしまったことを考えると、確かに、流布されるような人物であったことを見抜くことができなかったことは反省すべきだと思うが、予見することはその時点では非常に難しかった」と述べた。さらに、取材で知り得た事実を他言しない旨の承諾書を取材協力者と取り交わしていたことについては、「取材協力者の方々のプライバシーと安全を守るという意図で承諾書を交わす。安全のために不必要な言論は控えた方が良いですよという意味合いで交わしている」等と説明した。
ヒアリング終了後、委員会は論点に沿って双方の主張を整理しながら議論し、次回も審理を続けることになった。

2.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
今回の委員会には第2回起草委員会を経て修正された「委員会決定」案が提出された。結論部分を中心に審理した結果、ほぼ内容がまとまり、今後細部について検討することになった。

3.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第1回起草委員会を経て提示された「委員会決定」案の検討に入った。委員会の判断のポイントについて起草担当委員が説明を行い、各委員が意見を述べた。そのうえで、11月初旬に第2回起草委員会を開らき、さらに検討を重ねることになった。

4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
9月の委員会後、申立人から「反論書」が、被申立人から「再答弁書」が提出された。今回の委員会では、事務局が双方の新たな主張を取りまとめた資料を基に説明した。次回委員会では、論点の整理に向けて審理を進める予定。

5.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前の説明が適切でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
9月の委員会で審理入りが決まったのを受けて、フジテレビから申立書に対する答弁書が提出された。今回の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を配付して説明した。

6.その他

  • 次回委員会は11月17日に開催かれる。

以上

第225回放送と人権等権利に関する委員会

第225回 – 2015年10月

「謝罪会見報道」事案、「大喜利・バラエティー番組」事案の審理…など

佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道」と「大喜利・バラエティー番組」の2事案を集中的に審理するため、ほぼ3年ぶりに臨時委員会を開催した。その結果、両事案の「委員会決定」案を了承し、通知・公表を11月中旬にも行う運びとなった。

議事の詳細

日時
2015年10月13日(火)午後4時~9時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
委員会では、第4回起草委員会での検討を経て修正された「委員会決定」案を審理し、了承された。これにより、「委員会決定」の通知・公表を11月中旬にも行う運びになった。なお、一部の委員は結論が異なる少数意見を書くことになった。

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
本件の「委員会決定」文はこれまでの検討でほぼ固まっていたが、この日の委員会で最終的に了承された。これにより、前項の「謝罪会見報道」事案とあわせて11月中旬にも「委員会決定」の通知・公表を行う運びになった。

3.その他

  • 10月5日に山形で開催された県単位意見交換会について、事務局から報告するとともに、その模様を伝える地元局のニュース番組の同録DVDを視聴した。
  • 本年度中に開催する地区単位意見交換会(九州・沖縄地区)を2月3日に福岡で開催することが決まった。
  • 次回は10月20日に定例委員会を開催する。

以上

第224回放送と人権等権利に関する委員会

第224回 – 2015年9月

自転車事故企画事案の審理入り決定、
ストーカー事件再現ドラマ事案のヒアリングと審理、
ストーカー事件映像事案の審理、佐村河内氏事案2件の審理、
出家詐欺事案の審理、STAP細胞事案の審理…など

自転車事故企画事案を審理要請案件として改めて検討し、審理入りを決めた。ストーカー事件再現ドラマ事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。ストーカー事件映像事案を審理し、佐村河内守氏が申し立てた2事案の「委員会決定」修正案を検討、STAP細胞報道事案の審理に入った。

議事の詳細

日時
2015年9月15日(火)午後4時~10時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.審理要請案件:「自転車事故企画に対する申立て」

上記申立てについて前回に引き続き審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年2月17日にバラエティー番組『カスペ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」と題する企画コーナー。同コーナーでは冒頭、自転車との衝突事故で母親を亡くした東光宏氏が自転車事故の悲惨さを訴えるインタビューが実名で流れた後、「事実のみを集めたリアルストーリー」として、14歳の息子が自転車事故で小学生にケガをさせた家族の体験を描いた再現ドラマを放送した。再現ドラマは、この家族が「被害者」弁護士との示談交渉の末に1500万円の賠償金を払ったが、実はこの小学生は意図的にぶつかってきた「当たり屋」だったという結末だった。
この放送に対し、インタビューを受けた東氏が7月5日付で委員会に申立書を提出。「私に対する事前取材にあたって、このような当たり屋がドラマのメインとして登場することについて、全く説明がなかった」としたうえで、番組冒頭でコメントした申立人についても、「『実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ』との誤解を視聴者に与えかねない状況にあり、私の名誉ないし信用が害され、犯罪被害者としての尊厳が害された」と訴えた。
申立書はまた、「私のインタビュー映像が、交通犯罪被害者および遺族を愚弄し冒涜する低俗な番組の前ふりに利用された」と主張。1500万円の賠償金について、「交通犯罪の被害者が、あたかも非常識な高額の賠償金を請求しているかのような間違った印象を与えかねない」、「本件番組は勝手な推測に基づく虚偽放送に当たる」等として、放送内容の訂正報道と文書による謝罪および訂正・謝罪のホームページ掲載を求めている。
これを受けてフジテレビは7月24日、本件申立てに対する「経緯と見解」書面を委員会に提出し、申立人のインタビューはあくまで当該コーナーの導入部分で、「自転車事故の悲惨さを実例で示し、視聴者の問題意識を高めた上で再構成ドラマに入り込んでいくことを目的」に放送したと主張した。そのうえで、「ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない。すなわち、再構成ドラマと申立人のインタビューの内容となった母親が被害者となった事件に関連性はなく、登場人物を含む設定の内容も類似性が全くない。『申立人があたかも当たり屋である』という受け取り方を視聴者がするとは全く考えていない。」として、番組による申立人の名誉・信用の侵害はないと述べている。
賠償金額については、「免許を必要とせず、手軽に利用できる自転車が時として甚大な被害を与え、利用者が重大な事故の加害者となり得る」ということを強く視聴者に印象付けるため慰謝料やケガの治療費、逸失利益等を加算して設定したもので、「非常識な」金額ではないと主張している。
またフジテレビは、申立人が「当たり屋」メインのドラマについて事前に説明が全くなかったとしていることについて、担当プロデューサーが申立人に台本の提供を申し入れたが、申立人がこれを断ったため、「結果として説明するタイミングを失った」と釈明している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会(10月20日)より実質審理に入る。

2.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、申立人と被申立人のフジテレビから個別にヒアリングを行い、詳しく事情を聴いた。
申立人は、「(被害者側のみの)一方的取材で、ひどい内容の放送だった。私がストーカーをしろなんて指導したことはない。私は首謀者でもなんでもない」と述べるとともに、再現ドラマで申立人とみられる女性がストーカー被害者のロッカーに大量のガラス片を入れたことについて、全く事実でないと主張。また番組が「一部再構成というが、一部がどこまでかテレビを見ている人には分からない。会社の人はテレビで放送されたのだから事実であるという認識を持っている。(番組を見た人から)よくあんなことできるなと言われた。未だに挨拶を返してくれない人もいる。辛いし、悔しかった。本当に精神的苦痛を受けた。家族も同じだった」と訴えた。さらに被害者の取材映像や取材協力者から提供された映像にマスキング・音声加工が施されていたことについては、「(駐車場が)会社の人ならあの場所だって分かる」とする一方、事件が本件番組で放送されることを被害者らが事前に社内で流布したことに触れながらも、再現ドラマを見れば「会社の人は全部、私だって分かると思う」と、番組内容だけでも社内では申立人が特定可能だったと主張した。
一方フジテレビからは編成担当幹部ら4人が出席し、番組は「実際の事件を題材にしているが、それ以外の部分は、登場する方々が特定されないように改編している。その部分には常時『イメージ』というテロップを出しており、視聴者の方は認識できる」と説明。申立人らに取材しなかったことについても、被害者の身の安全・プライバシー保護のため「反対取材は不可能と考えていた」と述べた。また、再現ドラマで申立人とみられる女性を事件の"首謀者"としたことについて、「取材協力者から得た証言や取材内容、取材協力者と申立人の会話を録音したICレコーダーを聴いて判断した」、「100%真実をつきとめることがこの番組の目的ではない。取材をした人の証言に基づいて再構成」したと説明、また申立人がガラス片をロッカーに入れたとした根拠を問われ、「(被害者の)証言だけ」と答えた。このほか、被害者らが放送前に番組内容を社内に流布したことについて、「その事実を加味すれば、(申立人らが)特定されることは当然」としながらも、「放送自体によって人物が特定されることはないという認識で、また情報の流布については非常に予見ができないもの」として、「放送上の責任はない」と主張した。
ヒアリング終了後、委員会はその結果を踏まえて審理し、10月に第1回起草委員会を開くことを決めた。

3.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは前事案と同じ、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、再度、論点の整理と質問項目の精査が行われ、次回定例委員会でヒアリングを行うことを決定した。

4.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では第3回起草委員会を経て一部修正された「委員会決定」案を審理し、今月初めに行われた担当委員による耳鼻咽喉科の医師への聴き取りの結果が報告された。

5.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では、これまでの検討で「委員会決定」案はほぼ固まっていることを確認し、前項の「謝罪会見報道に対する申立て」事案と同日に通知・公表を行う方針を決めた。

6.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
この日の委員会では、双方からの書面やヒアリングの結果をもとに第1回起草委員会を経て提示された「委員会決定」案の検討に入った。委員会の判断のポイントについて担当委員が説明し、各委員が意見を述べた。今後、第2回起草委員会を開いてさらに修正した決定案をまとめ、次回委員会に諮ることになった。

7.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は、人権侵害、プライバシー侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」として、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
また、論文に掲載されている画像やグラフに関し、「何らの科学的説明もないまま、『7割以上の不正』があったとする強いイメージを視聴者に与える番組構成は、強い意図をもって申立人らを断罪した」と主張。番組が申立人に無断で実験ノートや電子メールの内容を放送したことについては、著作権侵害やプライバシー侵害、通信の秘密に対する侵害行為にあたると訴えている。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」と主張した。
さらに、画像やグラフに関する申立人の主張に対して、「専門家が疑義や不自然な点があると指摘した事実を紹介したに過ぎず、NHKの恣意的な評価が含まれている訳でもない」と反論。申立人の実験ノートや電子メールの内容を放送したことについては、「本件番組において紹介することが極めて重要なものである」として、違法な侵害にはあたらないと述べている。
今月の委員会では事務局が双方の主張を取りまとめた資料を説明した。次回委員会では、申立人の「反論書」、被申立人の「再答弁書」の提出を受けて審理を進める予定。

8.その他

  • 10月5日に山形で開催する県単位意見交換会について、坂井眞委員長、市川正司委員長代行、城戸真亜子委員が出席することや、参加局との事前打合せの状況について事務局から報告した。

  • 系列単位意見交換会を11月24日にTBS系列の北信越4局を対象に金沢で開催することになり、事務局から概要を説明した。同意見交換会には、坂井眞委員長、二関辰郎委員、林香里委員が出席する。

  • 本年度中に福岡で開催する地区単位意見交換会(九州・沖縄地区)について、各委員の日程調整の結果、2月上旬に開催する方向で準備に入ることになった。同意見交換会には9人の委員全員のほか、濱田純一BPO理事長が出席する予定。

  • 次回委員会は10月13日に臨時委員会を開催する。10月は20日の定例委員会と合わせ2回開催となる。

以上

2015年9月15日

「自転車事故企画に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は9月15日の第224回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年2月17日にバラエティー番組『カスペ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」と題する企画コーナー。同コーナーでは冒頭、自転車との衝突事故で母親を亡くした東光宏氏が自転車事故の悲惨さを訴えるインタビューが実名で流れた後、「事実のみを集めたリアルストーリー」として、14歳の息子が自転車事故で小学生にケガをさせた家族の体験を描いた再現ドラマを放送した。再現ドラマは、この家族が「被害者」弁護士との示談交渉の末に1500万円の賠償金を払ったが、実はこの小学生は意図的にぶつかってきた「当たり屋」だったという結末だった。
この放送に対し、インタビューを受けた東氏が7月5日付で委員会に申立書を提出。「私に対する事前取材にあたって、このような当たり屋がドラマのメインとして登場することについて、全く説明がなかった」としたうえで、番組冒頭でコメントした申立人についても、「『実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ』との誤解を視聴者に与えかねない状況にあり、私の名誉ないし信用が害され、犯罪被害者としての尊厳が害された」と訴えた。
申立書はまた、「私のインタビュー映像が、交通犯罪被害者および遺族を愚弄し冒涜する低俗な番組の前ふりに利用された」と主張。1500万円の賠償金について、「交通犯罪の被害者が、あたかも非常識な高額の賠償金を請求しているかのような間違った印象を与えかねない」、「本件番組は勝手な推測に基づく虚偽放送に当たる」等として、放送内容の訂正報道と文書による謝罪および訂正・謝罪のホームページ掲載を求めている。
これを受けてフジテレビは7月24日、本件申立てに対する「経緯と見解」書面を委員会に提出し、申立人のインタビューはあくまで当該コーナーの導入部分で、「自転車事故の悲惨さを実例で示し、視聴者の問題意識を高めた上で再構成ドラマに入り込んでいくことを目的」に放送したと主張した。そのうえで、「ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない。すなわち、再構成ドラマと申立人のインタビューの内容となった母親が被害者となった事件に関連性はなく、登場人物を含む設定の内容も類似性が全くない。『申立人があたかも当たり屋である』という受け取り方を視聴者がするとは全く考えていない。」として、番組による申立人の名誉・信用の侵害はないと述べている。
賠償金額については、「免許を必要とせず、手軽に利用できる自転車が時として甚大な被害を与え、利用者が重大な事故の加害者となり得る」ということを強く視聴者に印象付けるため慰謝料やケガの治療費、逸失利益等を加算して設定したもので、「非常識な」金額ではないと主張している。
またフジテレビは、申立人が「当たり屋」メインのドラマについて事前に説明が全くなかったとしていることについて、担当プロデューサーが申立人に台本の提供を申し入れたが、申立人がこれを断ったため、「結果として説明するタイミングを失った」と釈明している。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第223回放送と人権等権利に関する委員会

第223回 – 2015年8月

出家詐欺事案のヒアリングと審理、
佐村河内氏事案2件の審理、ストーカー事件2事案の審理、
STAP細胞事案の審理入り決定…など

出家詐欺事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。佐村河内守氏が申し立てた2事案の「委員会決定」案を引き続き検討し、また同じ番組を対象にしたストーカー事件関連2事案を審理した。審理要請案件2件を検討し、STAP細胞報道事案の審理入りを決めた。

議事の詳細

日時
2015年8月18日(火)午後3時~10時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員 (林委員は欠席)

1.「出家詐欺報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
この日の委員会では、申立人と被申立人双方からヒアリングを行った。
申立人は代理人弁護士とともに出席した。申立人は「ブローカーを演じてくれと頼まれたのでやった。ドキュメントではなく、再現映像・資料映像だと思った。軽い気持ちでやった。まして、関西ローカルの番組だと聞いたので。それが、全国放送された。手振り、言い回し、高音になる喋り方などで4、5回会った人なら私だと断定できる」。その結果、仕事を辞めざるを得なくなった等述べた。
被申立人のNHKからは当時の番組担当者ら5人が出席した。NHK側は「インタビューをしてブローカーで間違いないと確信した。話の内容で裏付けをとったという認識だ。覆面インタビューをする際は、必ず本人に安心感を持ってもらうためにモニターを見てもらっている。毎回。とりわけ今回は犯罪すれすれ、犯罪なので、服も着替えてもらうなど、プライバシー保護には最高レベルまで十分配慮した」等述べた。
ヒアリング後も審理を行い、担当委員が「委員会決定」文の起草作業に入ることになった。その上で、次回委員会でさらに審理を進める。

2.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会には第2回起草委員会を経て修正された「委員会決定」案が提出された。結論部分を中心に審理したが、ほぼ内容がまとまり、記述等についてさらに検討することになった。

3.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では第2回起草委員会での検討を経た「委員会決定」案を審理した。大きな修正等はなく、今後細部について検討することになった。

4.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
今月の委員会では、論点の整理と質問項目の精査が行われ、各委員からさまざまな意見が述べられた。次回委員会でヒアリングを行うことを決定した。

5.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは前事案と同じ、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かると思われ、また車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる内容だった。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「放送前に、従業員にストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張した。
これに対しフジテレビは「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、事務局が申立人の「反論書」とフジテレビ側から提出された「再答弁書」を基に双方の主張を整理して説明、各委員からは論点整理に向けてさまざまな意見が述べられた。

6.審理要請案件:「STAP細胞報道に対する申立て」

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」で、番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏、笹井芳樹氏、若山照彦氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は、本年7月10日付で番組による人権侵害、プライバシー侵害等を訴える申立書を委員会に提出。その中で本件番組がタイトルで「不正」と表現し、「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」と訴え、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
また申立書は、本件放送では論文に多数の画像やグラフが掲載されているが、「何らの科学的説明もないまま、『7割以上の不正』があったとする強いイメージを視聴者に与える番組構成は、強い意図をもって申立人らを断罪した」と主張。さらに番組が申立人の実験ノートの内容を放送したことについて、「本人に無断でその内容を放送した行為は、明白な著作権侵害行為であり、刑事罰にも該当する」と述べている。
このほか申立書は、(1)「申立人と共著者である笹井氏との間で交わされた電子メールの内容が、両者の同意もなく、完全に無断で公開されたことは完全にプライバシーの侵害であり、また、通信の秘密に対する侵害行為」、(2)申立人の理研からの帰途、番組取材班が「違法な暴力取材」を強行して申立人を負傷させた、(3)本件番組放送直後、論文共著者の笹井氏が自殺した。本件番組と自殺との関係性は不明だが、本件番組が引き金になったのではないかという報道もある。「本件番組による申立人らへの人権侵害を推定させる大きな重要事実と考える」――などと指摘、番組が「人権侵害の限りを尽くしたもの」と主張している。
これに対しNHKは8月5日委員会に提出した「経緯と見解」書面の中で、「本件番組は、申立人がES細胞を盗み出したなどと一切断定していない」としたうえで、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」と反論した。
また、理研の「研究論文に関する調査委員会」はその調査報告書の中で、「小保方氏が細胞増殖曲線実験とDNAメチル化解析において、データのねつ造という不正行為を行ったことを認定した」と端的に述べており、「このように、STAP論文における不正の存在は所与の事実であって、本件番組のタイトルを『調査報告 STAP細胞 不正の深層』とすることに、何らの問題もないと考える」としている。
NHKはさらに、「実際に、7割以上の画像やグラフについて専門家が疑義や不自然な点があると指摘した事実を紹介したに過ぎず、NHKの恣意的な評価が含まれている訳でもない」と指摘。申立人の実験ノートの内容を放送したことについては、「申立人が、実際にどのように実験を行っていたのかを記した実験ノートの内容は、本件番組において紹介することが極めて重要なものであり、著作権法41条に基づき、適法な行為と考える」と主張している。
そのうえでNHKは、(1)申立人と笹井氏の間の電子メールは、笹井氏が、申立人に対し、画像やグラフの作成に関して具体的な指示を出していたことを裏付けるものであり、申立人の実験ノートと同様に、本件番組において紹介することが極めて重要なもので、「違法なプライバシーの侵害にはあたらない」、(2)今回の申立人に対する直接取材は、報道機関として、可能な限り当事者を取材すべきとの考えから行ったもの。また取材場所も、パブリックスペースにおいてコメントを求めたものであり、直接取材を行ったこと自体は問題がなかったと考えている、(3)申立人が指摘するとおり、本件番組と笹井氏の自殺の関係は不明であり、本件の審理において考慮されるものではないと考える――などとして、本件番組は、「申立人の人権を不当に侵害するものではない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

7.審理要請案件:「自転車事故企画に対する申立て」

自転車事故を取り扱った番組に対する申立書について、委員会運営規則に照らして審理事案とする要件を満たしているかどうか検討した。次回委員会で改めて申立書の取り扱いを検討する。

8.その他

  • 次回委員会は9月15日に開かれる。
  • 増加する事案の審理の迅速化を図るため、10月13日に臨時の委員会を開くことになった。これにより10月は20日の定例委員会と合わせ開催が2回となる。

以上

2015年8月18日

「STAP細胞報道に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は8月18日の第223回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」で、番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏、笹井芳樹氏、若山照彦氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は、本年7月10日付で番組による人権侵害、プライバシー侵害等を訴える申立書を委員会に提出。その中で本件番組がタイトルで「不正」と表現し、「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」と訴え、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
また申立書は、本件放送では論文に多数の画像やグラフが掲載されているが、「何らの科学的説明もないまま、『7割以上の不正』があったとする強いイメージを視聴者に与える番組構成は、強い意図をもって申立人らを断罪した」と主張。さらに番組が申立人の実験ノートの内容を放送したことについて、「本人に無断でその内容を放送した行為は、明白な著作権侵害行為であり、刑事罰にも該当する」と述べている。
このほか申立書は、(1)「申立人と共著者である笹井氏との間で交わされた電子メールの内容が、両者の同意もなく、完全に無断で公開されたことは完全にプライバシーの侵害であり、また、通信の秘密に対する侵害行為」、(2)申立人の理研からの帰途、番組取材班が「違法な暴力取材」を強行して申立人を負傷させた、(3)本件番組放送直後、論文共著者の笹井氏が自殺した。本件番組と自殺との関係性は不明だが、本件番組が引き金になったのではないかという報道もある。「本件番組による申立人らへの人権侵害を推定させる大きな重要事実と考える」――などと指摘、番組が「人権侵害の限りを尽くしたもの」と主張している。
これに対しNHKは8月5日委員会に提出した「経緯と見解」書面の中で、「本件番組は、申立人がES細胞を盗み出したなどと一切断定していない」としたうえで、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」と反論した。
また、理研の「研究論文に関する調査委員会」はその調査報告書の中で、「小保方氏が細胞増殖曲線実験とDNAメチル化解析において、データのねつ造という不正行為を行ったことを認定した」と端的に述べており、「このように、STAP論文における不正の存在は所与の事実であって、本件番組のタイトルを『調査報告 STAP細胞 不正の深層』とすることに、何らの問題もないと考える」としている。
NHKはさらに、「実際に、7割以上の画像やグラフについて専門家が疑義や不自然な点があると指摘した事実を紹介したに過ぎず、NHKの恣意的な評価が含まれている訳でもない」と指摘。申立人の実験ノートの内容を放送したことについては、「申立人が、実際にどのように実験を行っていたのかを記した実験ノートの内容は、本件番組において紹介することが極めて重要なものであり、著作権法41条に基づき、適法な行為と考える」と主張している。
そのうえでNHKは、(1)申立人と笹井氏の間の電子メールは、笹井氏が、申立人に対し、画像やグラフの作成に関して具体的な指示を出していたことを裏付けるものであり、申立人の実験ノートと同様に、本件番組において紹介することが極めて重要なもので、「違法なプライバシーの侵害にはあたらない」、(2)今回の申立人に対する直接取材は、報道機関として、可能な限り当事者を取材すべきとの考えから行ったもの。また取材場所も、パブリックスペースにおいてコメントを求めたものであり、直接取材を行ったこと自体は問題がなかったと考えている、(3)申立人が指摘するとおり、本件番組と笹井氏の自殺の関係は不明であり、本件の審理において考慮されるものではないと考える――などとして、本件番組は、「申立人の人権を不当に侵害するものではない」と述べている。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第222回放送と人権等権利に関する委員会

第222回 – 2015年7月

佐村河内氏事案2件の審理
出家詐欺事案、ストーカー事件2事案の審理…など

佐村河内守氏が申し立てた2事案の「委員会決定」案を検討し、出家詐欺事案を審理。また同じ番組を対象にしたストーカー事件再現ドラマとストーカー事件映像の2事案を審理した。

議事の詳細

日時
2015年7月21日(火)午後4時~10時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
前回の委員会後、「委員会決定」文の起草委員会が開かれ、今月の委員会に決定案が示された。委員会では担当委員の説明をもとに判断と結論の部分を中心に検討が行われ、さらに審理を継続することになった。

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
前回の委員会後、「委員会決定」文の起草委員会が開かれ、今月の委員会に決定案が示された。委員会では担当委員の説明をもとに記述等を検討し、さらに審理を重ねることになった。

3.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
前回の委員会後、申立人から「反論書」、被申立人から「再答弁書」が提出された。この日の委員会では、事務局が双方の主張を取りまとめた資料を基に説明し、ヒアリングに向けて起草委員が作成した論点と質問事項案について検討した。その結果、次回委員会で申立人、被申立人双方にヒアリングを実施することになった。

4.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を委員会に提出し、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
今月の委員会では、申立人から新たに提出された「反論書」と、フジテレビから提出された「再答弁書」を基に、事務局が双方の主張を改めて説明、そのうえで論点の整理に向けて各委員からさまざまな意見が述べられた。

5.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは前事案と同じ、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが、会社の駐車場であることが会社の人間が見れば分かると思われ、また車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる内容だった。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴える申立書を委員会に提出。また、「番組の放送前に、従業員にストーキングしている人物が自分であるということを広められ、関係会社にばれてしまったので、会社には置いておけないということで退職せざるを得なくなった」と主張した。
これを受けてフジテレビは「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張している。
また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会から審理に入り、事務局が双方の主張を整理して説明、各委員から、論点整理に向けてさまざまな意見が述べられた。

6.その他

  • 県単位意見交換会を10月5日に山形で開催することになり、事務局から概要を説明した。
  • 系列単位意見交換会を11月下旬にTBS系列の北陸信越4局を対象に開催することになり、事務局から概要を説明した。
  • 7月14日に開かれた第10回「BPO事例研究会」について、参加者のアンケート結果などを基に事務局から報告した。
  • 次回委員会は8月18日に開かれる。

以上

第221回放送と人権等権利に関する委員会

第221回 – 2015年6月

佐村河内氏事案2件の審理
出家詐欺事案、ストーカー再現ドラマ事案の審理
審理要請案件の審理入り決定…など

佐村河内守氏が申し立てた2事案の審理を行い、前回審理入りを決定した出家詐欺とストーカー事件再現ドラマの2事案を審理。さらに審理要請案件を検討し、審理入りを決めた。

議事の詳細

日時
2015年6月16日(火)午後4時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では前回の委員会で行ったヒアリングをふまえ、申立人の診断書の内容が正しく伝えられているかどうか、出演者らの発言に問題がなかったかどうかなど、「委員会決定」の方向性に向けて審理した。その結果、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では、前回の委員会で行ったヒアリングをふまえ、申立人は一般市民か公人的立場か、大喜利で取り上げて風刺することの当否を中心に「委員会決定」の方向性に向けて審理した。その結果、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

3.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
前回委員会で審理入りが決まり、今月の委員会から審理を始めた。被申立人の「答弁書」の提出を受け、事務局が双方の主張を取りまとめた資料を基に説明し、本件事案の論点の整理に向けて審理した。

4.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
これに対しフジテレビは「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張している。
この日の委員会から審理に入り、事務局が双方の主張を対比しながら説明し、各委員からさまざまな意見が述べられた。

5.審理要請案件:「ストーカー事件映像に対する申立て」
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が5月1日、番組による人権侵害を訴える申立書を委員会に提出。この中で、「放送上は全て仮名で特定できないようになっていたが、会社の駐車場であることが会社の人間が見れば分かると思われ、また車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易にわかる内容」だったとするとともに、「会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう。特定されてしまった上に内容が事実と大きく異なる」として訂正を求めている。
また申立書は、「番組の放送前にこの事件の関係者と思われる人が具体的にわが社がテレビに取り上げられ、従業員にストーキングしている人物が自分であるということを広められ、また犯罪行為をしたということが関係会社にもばれてしまったので、会社には置いておけないということで退職せざるを得なくなった」と主張している。
これを受けてフジテレビは5月27日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張している。
またフジテレビは、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人自身も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
尚、本番組については、この会社の契約社員という女性から、再現ドラマ部分では自分が社内イジメの"首謀者"にされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容だったとして、名誉毀損を訴える申立書が委員会に提出され、5月の第220回委員会で審理入りすることが決まっている。

6.その他

  • 放送局現場視察を6月30日に日本テレビ本社で行うことになり、その日程、内容等について事務局が説明した。
  • 10月に開催する県単位意見交換会(山形)の概要を事務局が説明した。
  • 7月14日に開かれる第10回「BPO事例研究会」の概要を事務局が説明した。
  • 次回委員会は7月21日に開かれる。

以上

2015年6月16日

「ストーカー事件映像に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は6月16日の第221回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イ
ジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供
された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。
登場人物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加
害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が5月1日、
番組による人権侵害を訴える申立書を委員会に提出。この中で、「放送上は全て仮名で特定でき
ないようになっていたが、会社の駐車場であることが会社の人間が見れば分かると思われ、また
車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易にわかる内容」だったとするとと
もに「会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう。特定されて
しまった上に内容が事実と大きく異なる」として訂正を求めている。
また申立書は、「番組の放送前にこの事件の関係者と思われる人が具体的にわが社がテレビに取
り上げられ、従業員にストーキングしている人物が自分であるということを広められ、また犯罪
行為をしたということが関係会社にもばれてしまったので、会社には置いておけないということ
で退職せざるを得なくなった」と主張している。
これを受けてフジテレビは5月27日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の
中で、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という
問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所
や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声
を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、
放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送に
より特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張している。
またフジテレビは、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、本件
番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人自身も
自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

尚、本番組については、この会社の契約社員という女性から、再現ドラマ部分では自分が社内イジメの”首謀者”にされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容だったとして、名誉毀損を訴える申立書が委員会に提出され、5月の第220回委員会で審理入りすることが決まっている。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第220回放送と人権等権利に関する委員会

第220回 – 2015年5月

審理要請案件2件の審理入り決定
佐村河内事案2件のヒアリングと審理…など

審理要請案件3件を検討し、そのうち2件の審理入りを決定し、1件を審理対象外とした。佐村河内守氏が申し立てた2事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2015年5月19日(火)午後2時30分~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.審理要請案件:「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
申立書によると、「取材は被害者の一方のみ、加害者の調査は一切していない」とされ、取材を受けたとされる被害者らが放送前に、同社での事件が番組で放送されることを社内で言い回っていたという。その結果、放送前にそれが会社内等に知れ渡り、放送により申立人及び家族が精神的ダメージを受けたとしている。
これに対しフジテレビは4月27日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組であり、取材した映像・音声・内容を加工や変更を加えることで、本件番組の放送によって人物が特定されないよう配慮しているから、相手方側の取材を行う必要性がない」と主張している。
そのうえで同社は、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない。また、申立人が自らの名誉が毀損されたとする原因事実は、本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の中で流布されたことにあると考えられ、本件番組の放送による人権侵害があったとは考えられない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

2.審理要請案件:「農協改革報道に対する申立て」~審理対象外

政府が進める農協改革をめぐる報道に対し、全国の農業協同組合等の組織・事業及び経営の指導や、監査等を行うA会から提出された申立書について、審理要請案件として検討し、以下のとおり審理対象外と判断した。
申立ての対象となったのは、B局が本年2月に放送した情報バラエティー番組。
申立ては、「事前に取材もなかったほか、事実と異なる内容が多く、農業協同組合グループに関して悪いイメージを植え付けられ、著しく名誉を傷つけられた」と主張、文書および放送での謝罪を求めた。
これに対し局側は、「番組が取り上げた内容は、『農協改革』についての『検証』と『論評』であり、関係者や専門家への取材に基づいたもの。A会は明確な根拠をほとんど示すことなく、『事実と異なる』として謝罪を求めているのであり、受け入れることはできない」と反論した。
申立てはA会を代表して同会会長名で提出された。
当委員会は、放送により権利の侵害を受けた個人からの苦情申立てを原則としている。
団体からの苦情申立てについては、例外的に「団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるとき」は取り扱うことができることになっている。
A会が提出した資料等によると、2012年度現在、A会の会員である農業協同組合は、正組合員(461万人)、准組合員(536万人)を合わせた総組合員998万人を擁し、全国の農業協同組合数は2015年1月1日現在694組合に達している。A会はこれら全国の農業協同組合等の運営に関する共通の方針を確立してその普及徹底に務めるために相当に分化された組織によって運営されている。A会が行う、行政や全国的な組織との連携・調整等を含む事業には高度の社会性が認められ、さらに、A会会長による定期的な記者会見など、A会が相当程度の情報発信力を備えていることも認められる。
こうした団体としての規模、組織、社会的性格等に鑑み、上記運営規則に照らして、本件申立ては、当委員会が例外的に救済する必要性が高い事案とは認められないとの判断に至った。
このため委員会では、本件申立てについては、上記のとおり、委員会の審理対象外と判断した。

* 委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)1.(6)において、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる。」と定めています。

3.審理要請案件:「出家詐欺報道に対する申立て」~審理入り決定

対象となったのは、NHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えたもので、出家を斡旋する「ブローカー」が出家により名前を変えることを考えていた「多重債務者」の相談を受けるシーンや、その二人のインタビューなどが放送された。二人とも匿名で、映像は肩から下のみ、または顔にボカシが施され、音声も加工されていた。
この放送に対し、番組内で「ブローカー」として紹介された男性が本年4月21日、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出。その中で、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」としたうえで、「申立人には、手の形や手の動き、喋り方に特徴があり、申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」と述べた。その結果、2014年末頃から番組ホームページで番組の動画を閲覧した「父親や友人などからは、『お前ブローカーなんてやっているのか!』といった強い叱責がなされた」として、申立人がブローカーではなかったとする訂正放送を求めている。
さらに申立人は、撮影は「再現映像若しくは資料映像との認識で撮影に応じたもの。申立人は上記問題部分がそもそも放送されるのか、放送されるとして、いつ、どの番組で、どのように放送されるのか、といった点について全く説明を受けていない」と主張している。
これに対しNHKは5月14日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「十分な裏付けのないまま、番組で申立人を『ブローカー』と断定的に伝えたことは適切ではなかった」としながらも、「申立人は『われわれブローカー』と称するなど、ブローカーとして本件番組の取材に応じており、取材班も申立人がブローカーであると信じていた。申立人は、インタビューの中で、仲介する寺や住職の見つけ方、勧誘の仕方、多重債務者を説得する際の言葉の使い方を詳しく語るなど、ブローカーと信じるに足る要素が多くあった」と反論した。
NHKはまた、記者やディレクターが、取材の趣旨や放送予定も収録前に申立人に伝えていたとするとともに、「収録した映像と音声は申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

4.「謝罪会見報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
今月の委員会では、申立人とTBSテレビからそれぞれヒアリングを行った。
申立人は2人の代理人弁護士とともに出席した。申立人側は「ABR検査という科学的な検査結果が出ているにもかかわらず、また感音性難聴という診断結果についても正しく放送せず、あたかも手話通訳が不要であるかのような印象を与える放送だった。限りなく健常者に近いという印象を与えたと感じる。ABR検査によって申立人が一定程度の難聴であることは否定できない事実である。取材を受けた医師は、実際に申立人を診断してコメントしているわけではなく、一般論として診断書のデータに整合しない点があると述べているだけである。申立人側の質問状に対して、医師は記者会見で申立人が手話通訳を使ったことは不合理とは思えないと回答している。医師が自信をもって詐聴の可能性を指摘したのであれば、その根拠を回答するはずだが、それはなく、逆にTBS側に不自然とは伝えていないと答えている。申立人が会見で手話通訳を介さずに回答している場面があるとすれば、それは、それ相応の理由がある。放送されたペンを渡す場面は、2本のペンを示されればどっちを使うかという質問の意図は誰にも分かるし、その前のやりとりで申立人は『細いペンを使う』と答えている。申立人と同じような難聴者に対する偏見や誤解を助長する不当な編集である。最初から申立人たたきの番組構成で、あら探しのように不自然な箇所を探してそれだけを取り上げて報道することに公共性・公益性はないと思う」等述べた。
被申立人のTBSテレビからは番組担当者ら4人が出席した。TBS側は「放送の際、日本の聴覚医学会で一番権威ある医師を取材しコメントをもらっているので、放送後確認をしたが、放送内容に間違いないということだった。医師が言っているのは診断書を見た限りにおいて手話通訳が必要ないということだけで、謝罪会見が不自然だったとは我々も聞いていない。医師から診断書のデータでは詐聴の疑いが考えられると言われ番組で伝えた。感音性難聴という言葉は結果的に使わなかったが、『音が歪んで聞こえる』と申立人が言っていることは伝えているし、少なくとも一切聴覚障害がないという放送はしていない。ペンを渡す場面の映像は、色紙にサインする場面とあわせ聴覚障害を前提とすると不自然なやりとりだと判断して使ったもので、その前段にペンに関するやり取りがあったとしても誤った放送にはなっていないと認識している。番組の最後に、聴覚障害者に誤解が及ばないよう「50dB程度の聴力の方でも手話通訳があると助かるということも実際あるそうです」というコメントを、一番伝わりやすい場所として入れた。この番組は情報バラエティーで、タレントがスタジオで視聴者代表として一種の井戸端会議をするという見え方をしているが、あくまでベースは報道で、きちっとした事実の積み重ねの上での演出という形になっている。謝罪会見は申立人が自らの意思で開いたもので、多くの人の注目を集めた点で公共性も高く公益性もあった。真実性は十分で人権侵害には当たらないと考えている」等述べた。

5.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
今月の委員会では、前項の「謝罪会見報道に対する申立て」事案と併せてヒアリングを行った。
申立人側は「有名で視聴率の高い番組のお題とされ、障害や風貌を茶化され非常に辱められ傷ついた。一音楽家に過ぎないという趣旨で申立人は一般市民だったが、謝罪会見でテレビ出演は本日が最後で、音楽活動からも退くとはっきり表明しているので、より一般市民性が濃くなったと考える。あくまで正当な社会的関心事であれば、大喜利の対象としていいと思うが、聴覚障害を揶揄することが正当な関心事と言えるだろうかというのが一番の問題である。総理大臣や政治の風刺は許容されると思うが、聴覚障害という人の最もセンシティブな部分をお笑いネタにすることは、番組のあり方として許されるべきではない。特に聴覚障害に関して性的な表現を使った回答が集中している点は悪質性が高いと考える。学校で体の障害や特徴を笑いものにするのはまさにいじめの典型的パターンだと思うが、テレビの人気番組で同じようなことをすると、子どもたちに与える影響はすごく大きい」等述べた。
フジテレビはバラエティー番組の制作責任者ら6人が出席した。フジ側は「申立人は記者会見を開いて確かに一回謝罪したが、社会的には必ずしも納得が得られず、いろいろな批判の対象になることは仕方がないと考える。そういう意味で公人的立場にあったと理解している。風刺による正当な批判表現は人権を侵害しないとか公序良俗に反しない等の一定の条件で認められるべきであり、一連の騒動のイメージを利用し風刺による批判表現を狙いとしてお題を設定することは問題ないと考える。回答としては、正当な批判に主眼をおいた回答と、そうではない回答の多分2種類あると思うが、全体を見渡せば正当な批判の中に入っていると判断している。申立人は社会的弱者ではなく、社会的弱者を批判しているわけではないので、いじめの助長とは考えていない。今回の事案が問題とされると、テレビのお笑いのジャンルから一つの表現手段が奪われかねず、公人的立場の人の不正に対する風刺による正当な批判が許されないことにつながると危惧している」等述べた。

6.その他

  • 今年度中に予定している放送局現場視察に関し、事務局から日程等について説明した。
  • 次回委員会は6月16日に開かれる。

以上

2015年5月19日

「出家詐欺報道に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は5月19日の第220回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、NHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えたもので、出家を斡旋する「ブローカー」が出家により名前を変えることを考えていた「多重債務者」の相談を受けるシーンや、その二人のインタビューなどが放送された。二人とも匿名で、映像は肩から下のみ、または顔にボカシが施され、音声も加工されていた。
この放送に対し、番組内で「ブローカー」として紹介された男性が本年4月21日、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出。その中で、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」としたうえで、「申立人には、手の形や手の動き、喋り方に特徴があり、申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」と述べた。その結果、2014年末頃から番組ホームページで番組の動画を閲覧した「父親や友人などからは、『お前ブローカーなんてやっているのか!』といった強い叱責がなされた」として、申立人がブローカーではなかったとする訂正放送を求めている。
さらに申立人は、撮影は「再現映像若しくは資料映像との認識で撮影に応じたもの。申立人は上記問題部分がそもそも放送されるのか、放送されるとして、いつ、どの番組で、どのように放送されるのか、といった点について全く説明を受けていない」と主張している。
これに対しNHKは5月14日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「十分な裏付けのないまま、番組で申立人を『ブローカー』と断定的に伝えたことは適切ではなかった」としながらも、「申立人は『われわれブローカー』と称するなど、ブローカーとして本件番組の取材に応じており、取材班も申立人がブローカーであると信じていた。申立人は、インタビューの中で、仲介する寺や住職の見つけ方、勧誘の仕方、多重債務者を説得する際の言葉の使い方を詳しく語るなど、ブローカーと信じるに足る要素が多くあった」と反論している。
NHKはまた、記者やディレクターが、取材の趣旨や放送予定も収録前に申立人に伝えていたとするとともに、「収録した映像と音声は申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
尚、申立書では、NHKが2014年4月25日に関西ローカルで放送した『かんさい熱視線』についても放送内容が類似しており、同様の問題点を指摘している。しかし、『クローズアップ現代』の動画が番組ホームページ上で2015年4月まで閲覧可能だったのに対し、『熱視線』は放送後ホームページでの閲覧は一切不可能だったため、運営規則第5条1.(4)の「原則として、放送のあった日から3か月以内に放送事業者に対し申し立てられ、かつ、1年以内に委員会に申し立てられたものとする」との要件を満たさないことから、『かんさい熱視線』は審理対象に含めないと判断した。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2015年5月19日

「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」審理入り決定

放送人権委員会は5月19日の第220回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イ
ジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供
された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人
物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者ら
の映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分
の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたと
みられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂
正と名誉の回復を求めた。
申立書によると、「取材は被害者の一方のみ、加害者の調査は一切していない」とされ、取材を
受けたとされる被害者らが放送前に、同社での事件が番組で放送されることを社内で言い回って
いたという。その結果、放送前にそれが会社内等に知れ渡り、その後の放送により申立人及び家
族が精神的ダメージを受けたと主張している。
これに対しフジテレビは4月27日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件番組は、特定の
人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組であり、取材した映像・
音声・内容を加工や変更を加えることで、本件番組の放送によって人物が特定されないよう配慮
しているから、相手方側の取材を行う必要性がない」と主張している。
そのうえで同社は、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるもの
ではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等
の必要はない。また、申立人が自らの名誉が毀損されたとする原因事実は、本件番組及びその放送
自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の中で流布されたことにあ
ると考えられ、本件番組の放送による人権侵害があったとは考えられない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満た
していると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第219回放送と人権等権利に関する委員会

第219回 – 2015年4月

散骨場計画事案の対応報告
大阪府議事案通知・公表の報告
佐村河内事案2件の審理…など

散骨場計画事案で、静岡放送が提出した対応報告を検討し、了承した。また大阪府議事案(TBSラジオ)の通知・公表の模様を事務局から報告。佐村河内守氏が申し立てた2事案について、ヒアリングの論点と質問事項を議論した。

議事の詳細

日時
2015年4月21日(火)午後3時00分~7時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

4月1日に就任した坂井委員長の下での初の委員会となり、冒頭、新委員長による委員長代行の指名が行われた。坂井委員長は奥武則委員と市川委員を委員長代行に指名し、二人ともこれを受諾した。
引き続き報道機関による資料用撮影が行われ、テレビ・新聞各社から9社が取材に訪れた。

1.「散骨場計画報道への申立て」事案の対応報告

2015年1月16日に通知・公表された「委員会決定第53号」に対し、静岡放送(SBS)から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月10日付で提出された。この日の委員会で報告書の内容が検討され、了承された。

2.「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案の通知・公表

4月14日に行われた本事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるTBSラジオ&コミュニケーションズが委員会決定について報じた当日の番組の録音と、TBSテレビが放送した番組同録DVDを視聴した。 【詳細はこちら】

3.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて本件事案の論点と申立人と被申立人への質問事項を議論した。論点としては、本件放送が伝えた事実は何か、本件放送の公共性・公益目的をどのように考えるか等を検討した。

4.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて本件事案の論点と申立人と被申立人への質問事項を議論した。論点では、申立人を「お題」で取り上げることの公共性やバラエティー番組の公共性についてどう考えるか等を検討した。

5.その他

  • 放送人権委員会の2014年度中の「苦情対応状況」について、事務局が資料をもとに報告した。同年度中、当事者からの苦情申立てが18件あり、そのうち審理入りしたのが5件(うち審理入り後取下げが1件)、委員会決定の通知・公表が1件あった。また仲介・斡旋による解決が6件あった。

  • 今年度中に予定している放送局現場視察について、各委員の日程調整をした。

  • 次回委員会は5月19日に開かれる。。

以上

2015年4月14日

「大阪府議からの申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は4月14日、上記事案に関する「委員会決定第54号」の通知・公表を行い、本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

[通知]
通知は午後1時からBPO会議室で行われた。委員会からは坂井眞委員長と起草を担当した市川正司委員、小山剛前委員が出席し、申立人本人と被申立人であるTBSラジオ&コミュニケーションズの取締役ら4人に対して委員会決定を通知した。
まず、坂井委員長が放送人権委員会の委員の構成が4月1日付で変わったが今回の委員会決定については審理に参加した委員名で通知・公表するとした上で、「決定の概要」「委員会の判断」を読み上げる形で、申立人と局側の双方に決定内容を伝えた。
続いて、小山前委員が「一般論としては申立人が言うように、公人といっても何を言われてもいいというわけではない。今回の事案に当てはめると、申立人がこだわっていた『キモイ』という言葉は当該局が初めて出したものではなく、一連の動きの中で既に出てきている言葉だったことと、申立人本人が府議会議員であることなどからこのような結論となった」などと、説明した。
局側が一旦退席した後、委員長から委員会決定に対する意見・感想を聞かれた申立人は、「この委員会決定については『はい、分かりました』ということです」と答えた。続いて一連の問題と市長選挙との関連について、「個別の放送に関してはここで取り上げられて議論の対象となるが、一連のこと全体に対して実際どうだったのかということについて検証する場がないではないか」と述べた。
また、申立人と入れ替わって席に着いたTBSラジオ&コミュニケーションズの取締役は「私どもの主張のうちで公人としての議員の不適切な行動を論評したということを一定程度受け止めていただいたと考えている。一方では、やはり人権というものへの配慮は我々が放送するうえでも大切なものなので、この決定を社員教育などに使いながら今後の一つの基調としてやっていきたい」と述べた。
市川委員は、番組での発言は申立人の行動に対するもので、人格に対してのものではないとする局側の主張に対し「それらを峻別することは難しいという立場に立って判断した」と述べた。また、「キモイ」という言葉について「すべての場合許容されるわけではないと書いてある。その言葉の厳しさというか、例えば子供に対して使われたらどうかという問題もあるので、慎重に考えていただきたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い「委員会決定」を公表した。23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
会見では、まず坂井委員長が主に「決定の概要」と「委員会の判断」の部分を読み上げながら決定の内容を説明した。続いて、補足意見について、「三宅前委員長が9年の在任中に4件の政治家に関わる事案の判断に関わられた経験があり、その経験を前提に補足の意見を書かれた」としたうえで、その主旨を紹介した。
市川委員は、番組での論評は議員の行為だけに着目したもので、人格に対する非難、あるいは社会的評価の低下とはならない、と局側が主張したことに対して、「行為と人格を峻別することは困難な場合が多く、本件でもそれを峻別する事はできないと判断した。枠組みとしては、一定の社会的評価の低下、名誉感情の侵害があるという前提で、それが公共性・公益性との関係で許容されるのかということを、委員会としては比較考量して判断した」と局側の主張する枠組みと委員会決定の枠組みの違いについて説明した。
また、補足意見に触れ「私も同感と考えている」と述べた。
小山前委員は「バラエティー番組の特性は局側が強調していたポイントのひとつだった。このバラエティーについては、かつて放送人権委員会決定第28号があるが委員会決定第28号は、独り歩きして、場合によっては都合よく拡大解釈されているのではないかという印象を持っている。バラエティーだから全部許されるのか、どこまで許されるのかは、今後、局側としても慎重に考えていかなければいけない。また、人権委員会の宿題でもあるのではないかと認識している」と述べた。
続いて質疑応答が行われた。

(質問)
日本テレビの『スッキリ!!』についての申立てが1月に取り下げられたが、申立人は取下げの理由をどう説明しているのか。
(坂井委員長)
取り下げられた事案なので、その理由を説明するのは、あまり適当ではないと思う。放送人権委員会は申立てがあって初めて審理が進められるので、理由の内容によって取り下げを認めないとかという話でもない。

(質問)
今回の判断には、『スッキリ!!』に関する委員会としての判断は示していないということか。
(坂井委員長)
そうだ。『スッキリ!!』は取り下げられた時点で、審理の対象ではなくなっている訳なので、今回についてはTBSラジオの放送のみについての判断ということだ。ただ、ここで説明した内容については、一般的な考え方も入っているので、それについて、突然また違ったことを我々委員会が言うとは思えない。
(小山前委員)
『スッキリ!!』の事案は、ヒアリングをやる前に取下げられた。ある程度、論点を整理したが、やはりヒアリングを聞いた上で具体的な事実関係とか、具体的な主張の内容を確認することになる。
一般論としては、今回の決定で使った規範の部分は取り下げられた番組にも、当然そのまま当てはまる。したがって、どういう場合にどこまで許容され、あるいはどういう場合に、人格権侵害になるかという判断の基準自体は同じだが、例外的に人格権侵害に当たるような事情があったのかどうかの確認は全くやってないので、その結論については何も申し上げることができないということだ。

(質問)
決定では「申立人の主張には理由がない」となっているが、これは問題なしという見解とはまた異なるものなのか。
(坂井委員長)
理由がないということは、申立人が主張している人権侵害、放送倫理上の問題は認められないという結論だと理解していただいて結構だ。結論として、申立ての趣旨は認められないということと全く同じだ。

(質問)
問題なし、という判断をする事によって、みだりに申立てを行うような傾向は、少し抑えられると考えるか。

(坂井委員長)
「みだりに」というところに非常に難しい評価が入っているので答えづらいが、申立てがいっぱいあればいいとは決して思っていないけれども、人権侵害や放送倫理上問題があるといった事案が出てしまえば、それは遠慮しないで申立てていただいたほうがいいと思っている。この事案で人権侵害、放送倫理上の問題はなかったからといって、一般的に、申立てることが控えられる方向になるとは思っていない。あくまで個別の判断だ。

(質問)
みだりにというか、似たような申立てがあまり起こらないように、例えば、審理入り自体を行わないという判断が今後あり得るのか。
(坂井委員長)
我々としては、原則個人の申立てで、人権侵害、名誉毀損やプライバシー侵害がある、ないしは放送倫理上の問題があるという申立てがあれば、審理を開始するということになる。そこでは、規則に定められた要件に合うかどうかということだけを考える。
それから先は個別事案を判断していく。地方議会議員は全てを受忍しなければいけないということは、もちろん無い訳で、地方議会議員であっても最も極端な例を言えば、寝室だとか浴室を暴かれていいはずはない。
ただ、そういう立場の方が申立てる時点で、申立てすべき事案かどうか本人ご自身が判断をすると思う。公的な立場だからそういう問題にはならないと考えるのか、そうでなく、いくら公的な立場でもやり過ぎだと思えば申立てる。我々は、規則に従って要件があえば審理を開始して判断をするということになる。

(質問)
三宅前委員長の補足意見の所にもあるし、市川委員も同感ということだが、受忍限度は地方議員よりも国会議員のほうがさらに高くなくてはいけないという指摘がある。これは昨今の政治状況等を反映しての補足意見あるいはお考えと考えてよいのか。
(坂井委員長)
私の個人的な意見だが、補足意見には「国政を担う政治家の行動についてはなおさら妥当する」とあるだけで、必ずしもより高くなるとまでは書かれていない。地方議会議員の場合は、一般私人に対する論評よりも受忍すべき限度は高いというのは、今回の決定で我々が書いたことで、それについて、なおさら妥当すると書いているだけだ。ただ、選挙で選ばれる議員は、公的な立場として最も強いということは、争いのないことだろうと思う。
(小山前委員)
公人というのはずいぶん広い意味で使われる場合もあって、この決定では公人という言葉は使っていない。「公人が…、公人が…」と言うのではなくて、それぞれがどういう人かで判断したほうがいい。
(市川委員)
委員会としては、これは濫用的な申立てであるとか、あるいは介入的な要素があるとか、そういうことを判断するという立場にはないし、そういう基準も持ち合わせてはいない。委員会としては、来たものをまず申立て要件にあてはまるかどうかを粛々と検討する。
放送人権委員会の場合には、人権侵害あるいは放送倫理違反という主張があれば審理入りをしなければいけないということになっている。それが本当にあるかどうかは全く考えずに審理入りをするというふうになっている。そこでの審理の開始というのは、ある意味では無色透明なものだと理解してほしい。
その上で、委員会としては、なるべく速やかに結論を出していくことによって、申立てするかどうかの判断を、自ずからみなさんが考えてくれるようになるのではないかと考えている。
(坂井委員長)
公人という言葉を使っていなくて個別に判断する訳だが、数年前ある国家試験委員をやっている方についての事案があった。もちろん、公職選挙で選ばれる方とは違う訳だが、国家試験委員をやっている方の公的な立場はどうなのかというような個別の判断をした。それぞれ、事案によって判断されていくことになると思う。
取扱い基準は、放送と人権等権利に関する委員会運営規則の第5条に書いてある。第5条の1.の(1)で「名誉・信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする」ということが書いてあり、その中で1.の(6)に「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人または直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる」と書いてある。こういう規定に従ってやっていくということになる。

(質問)
「キモイ」という言葉自体の意味と、委員会としてこれを無限定に使うことを是とするものではないということを付言しているが、あえてこれを書いたねらいは何か。
(坂井委員長)
私の個人的な考えになるが、このケースでは「キモイ」とか「キモジュン」とかの言葉が繰り返し使われていて、それは今回の申立人の立場、この放送内容を前提にして受忍限度内だということを言っているのだが、それが誤解されては困る。青少年の間のLINEでの村八分みたいな話など、色々な事象が今、報道されている。そういう中で、「キモイ」は人を傷つける場合もあるので、全部OKということは決してないということは、付言をしておきたい、というのが私の理解だ。
(市川委員)
この決定が与えるメッセージとして、「キモイ」という言葉自体にお墨付きを与えるというか、そういうことであってはいけないということが、基本的な考え方だ。審理の中でも「キモイ」という言葉の与える強い打撃を指摘する委員もいた。場面によっては、違うことになるので指摘したほうがいいだろうと思う。
ただ逆に、これはいいとかこれは悪いとかと、一律に言葉を選別するというのも適切ではないと思っているので、その辺りのことを配慮した記述にしたと考えている。

(質問)
ということは、逆に言うと、言葉の使い方について縛りをかけるという意味ではないと理解していいのか。
(坂井委員長)
この言葉について、一定の評価を一般的にかけている訳ではなくて、どの場面でどう使われるかによって、深く人を傷つける意味を持つ事もあるという意味で理解してほしい。使われる場面で、全く変わってくると思うので、一般的に言葉狩りみたいな形になってしまうのがいいとは、思っていない。

(質問)
今回の委員会の判断の中で、「キモイ」という言葉がキーワードのひとつであると書いてあるが、もし、中学生が「キモイ」と言わなければ、こういう判断基準にはならなかった可能性もあるのか。
(坂井委員長)
それは、むしろ逆で、元々この話はLINEで「キモイ」という言葉が使われて、議員のほうがそれに反論したということが報道された事案だ。それを取り上げる時に、「キモイ」という言葉を抜きにして取り上げるのは難しい。元々報道すべき事象の中に、既に「キモイ」という言葉があったので、事実の報道として、「キモイ」は出て来てしまう訳だ。
今回の番組は、必ずしも事実の報道そのものではなくて、ラジオの番組で論評をしたということだ。その中で、その事象に出てきた言葉を出演者が使ったということで、ことさらに「キモイ」という言葉の人を非常に傷つける部分を強調して使うために、あえて選んだのではないと、そういう文脈で私は理解している。
(小山前委員)
今の質問は基準が変わるのかという質問だったと思うが、基準自体は全く変わらない。基準はどこで決まるかというと、相手が公人、この場合府議会議員であり、かつまた、その論評の対象となった出来事が、府議会議員としての公務に付随した行為だった。そこのところで基準は決まる。簡単に言うと、人身攻撃みたいな例外的な場合でない限りは「我慢しろ」というのが基準だ。
要するに、確かに「キモイ」という表現は不愉快な表現だ。でも、その「キモイ」という表現は、この事案では元々のやりとりの中で既に使われていた言葉であり、殊更この申立人を誹謗中傷するつもりで言った言葉ではない。むしろ、事件のキーワードになった言葉だから、例外的な誹謗中傷にあたるような場合には該当しない。

(質問)
申立人は納得したのか。
(坂井委員長)
心の中まではわからないが、先ほど通知公表をして、格別な意見なり感想なりというのはなかったので、委員会の判断として受け止めたのだと、私は理解している。

以上

2015年度 第54号

「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)に関する委員会決定

2015年4月14日 放送局:TBSラジオ&コミュニケーションズ

見解:問題なし
TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』のオープニングトークで、お笑いタレント「おぎやはぎ」が、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語った。これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、4月14日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、取り上げるべき放送倫理上の問題もないとの判断を示した。

【決定の概要】

本件申立ては、TBSラジオ&コミュニケーションズ(以下「TBSラジオ」という)が2014年8月22日(金)に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』で、お笑いタレント「おぎやはぎ」が展開したオープニングトークでの発言を対象としたものである。このトークでは、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員(以下「申立人」という)が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯や、それに関連してテレビの情報番組でコメンテーターが「こいつキモイもん」と発言したことに対し申立人が放送人権委員会に人権侵害であると申し立てた一連の事態について語られた。
本事案は、おぎやはぎの小木氏らが「思いついたことはキモイだね。完全に」などと発言したことに対して申立人が「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」等として放送人権委員会に申し立てたもの。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送における「キモイ」等の発言は、申立人の社会的評価を低下させ、申立人の名誉感情に不快の念を覚えさせる論評である。しかし、その種の論評であっても、公共の利害に関わる事項について公益を図る目的でなされたものであるときは、表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、論評の基礎となった事実の主要な点に誤りがなく、人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱したものでない限り、その論評は権利侵害として評価されるべきではない。
本件放送が論評の対象とした事象は、府議会議員である申立人自身が議員活動の一環として行っていたと説明している、中学生とのLINEでのやりとりと、テレビの情報番組内でのコメントに対する放送人権委員会への申立てである。これらの事象について、その議員に対する評価を含めて論評することは、市民の正当な関心事にこたえるものであり、本件放送には、公共性・公益性がある。これに対して、本件放送の論評によって新たに申立人の社会的評価の低下があったとしても、それはわずかなものと考えられる。
また、本件放送は申立人の名誉感情に不快の念を持たせるものではあるが、「キモイ」という言葉は、申立人と中学生のLINEでのやりとりの中で中学生が使った言葉として、本件放送の題材におけるキーワードの一つでもあり、本件放送は申立人の人格をことさら誹謗中傷するものとまではいえない。
以上に鑑みれば、本件放送は、地方議会議員の行動に関わる事実に対する論評として公共性・公益性が認められ、他方で本件放送による社会的評価の低下や名誉感情の不快の念の程度を考慮すると、本件放送の論評については、申立人は地方議会議員として、これを受忍すべきものと考える。
また、申立人は、2014年8月に申立人の中学生グループとのやりとりが報道されるようになったのは、同年9月に実施された交野市長選挙にかかわる政治的背景があったと主張するが、その主張と本件放送による人権侵害の有無の問題は関係を持たない。また、本件放送のタイミングにも特段の不自然さはないため、放送倫理上の問題もない。
なお、「キモイ」という言葉は、それが使われる相手や場面によっては、相手の人格を傷つけ、深いダメージを与えうるものであるが、委員会は、これを無限定に使うことを是とするものではないことを付言する

全文PDFはこちら pdf

2015年4月14日 第54号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第54号

申立人
山本 景
被申立人
株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ
苦情の対象となった番組
『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』
放送日時
2014年8月22日(金)午前1時00分~3時00分
(本件放送は冒頭の約7分)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の内容と申立人の名誉・名誉感情の侵害の有無について
    • (1) 問題の所在
    • (2) 本件放送の論評の対象と地方議会議員の名誉権、名誉感情
    • (3) 本件放送と権利侵害の有無
    • (4) 小括
  • 2.本件放送と市長選との関係について

III.結論

補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年4月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、4月14日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人本人と放送局側(被申立人)に対して委員会決定を通知した。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

第218回放送と人権等権利に関する委員会

第218回 – 2015年3月

佐村河内氏事案2件の審理
大阪府議事案の審理…など

佐村河内守氏から提出された申立て事案2件を審理した。また「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案を審理し、「委員会決定」案を了承して通知・公表を4月に行うことを決めた。

議事の詳細

日時
2015年3月17日(火)午後4時00分~6時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では、申立人の聴覚障害と診断書について、その経緯や局側の取材と本件放送での伝え方、申立人の主張等を整理した事務局資料を配付した。また、これらの点が、放送倫理検証委員会が3月6日に公表した「"全聾の天才作曲家"5局7番組に関する見解」でも論じられているため、関連部分の記述内容を参照した。

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では、論点の取りまとめに向けて担当委員が原案を作成し、本件放送の公共性・公益性等をめぐって議論した。

3.「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案の審理

対象となったのは、TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』。お笑いタレント「おぎやはぎ」によるオープニングトークで、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語られた。
これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として申し立てたもの。
この日の委員会では、第2回起草委員会での検討を経た「委員会決定」の修正案が示された。審理の結果、一部表現、字句を修正したうえで最終的に了承され、「委員会決定」の通知・公表を2015年4月に行うことを決めた。

4.その他

  • 2月24日に委員会が高松で開いた系列別意見交換会について、事務局から報告した。
    (詳細はこちら)

  • 「散骨場計画報道への申立て」事案の委員会決定について当該局の静岡放送(SBS)で3月3日に研修会が開かれ、その概要を事務局が報告した。研修会には委員会から三宅弘委員長と起草担当の坂井眞委員長代行、大石芳野委員の3人、同社からは報道・編成・制作など社員・スタッフら93人が出席した。3委員が同事案に関する「委員会決定」や委員長談話「顔なしインタビュー等についての要望」について説明し、参加者から質問を受けるなど、約2時間15分にわたって意見を交わした。

  • 2015年度「放送人権委員会」活動計画(案)が事務局から提示され、了承された。

  • 三宅弘委員長、大石芳野委員、小山剛委員、田中里沙委員の4委員が3月末で任期満了となり、退任することになった。三宅委員長は委員、委員長代行時代を含め3期9年、大石、小山、田中の各委員は2期6年それぞれ務めた。

  • 4月から委員に就任する紙谷雅子(学習院大学法学部教授)、城戸真亜子(洋画家)、中島徹(早稲田大学大学院法務研究科教授)、二関辰郎(弁護士)の4氏について、専務理事から経歴等の説明があった。

  • 次回委員会は4月21日に開かれる。

以上

2014年度 解決事案

2014年度中に委員長の指示を仰ぎながら、委員会事務局が審理入りする前に申立人と被申立人双方に話し合いを要請し、話し合いの結果解決に至った「仲介・斡旋」のケースが6件あった。

「深夜ラジオ発言への申立て」

A局が2013年7月に放送した深夜ラジオ番組で、パーソナリティーが以前楽屋内で起きたとされる事件に元芸人が関わっていた可能性を示す発言をしたとして、元芸人が名誉毀損を訴え、「謝罪と放送内容の訂正」を求めて申し立てた。委員会事務局が申立人と同局に話し合いによる解決を要請したところ、双方がこれを受け入れ、申立人と同局およびパーソナリティーの所属事務所の代理人が8カ月におよぶ話し合いを行った結果、申立人が申立てを取り下げ、解決に至った。

(放送2012年1月9日 解決8月21日)

「ダンススタジオ閉鎖めぐる申立て」

B局が2014年1月に放送したバラエティー番組で、あるダンススタジオの閉鎖を取り上げたことに対し、スタジオのオーナーが「一方的な取材による嘘の放送」で名誉を傷つけられたとして、謝罪と訂正を求めて申し立てた。委員会事務局が双方に話し合いによる解決を要請したところ、半年以上におよぶ話し合いの末、同局が番組ホームページ上で放送が「正確さを欠いた」としてお詫びすることを提案、オーナーがこれを了承して申立てを取り下げ、解決に至った。

(放送2014年1月  解決9月)

「海外学校運営めぐる申立て」

海外で暮らす日本人の生活ぶりを紹介するC局のシリーズ番組(2014年3月放送)で、ある国で学校を経営する日本人が教員の給与等について「明らかな誤報によりイメージを傷つけられた」として、謝罪と訂正を求めて申し立てた。委員会事務局が一時帰国中の申立人と同局に話し合いによる解決を要請したところ、双方がこれを受け入れて3カ月以上にわたって主にメールによるやり取りをした結果、同局が番組ホームページ上および次回番組内(放送は不定期)で謝罪、訂正することを提案、申立人はこれを了承して申立てを取り下げ、解決した。

(放送2014年3月  解決7月)

「社会福祉施設めぐる申立て」

D局が2014年5月に放送したローカルニュース番組で、地元知的障害者施設の職員による入所者への暴行事件をめぐる裁判で、「日常的な虐待はなかった」との高等裁判所の判決内容を伝えたうえで、施設職員とされる2人のインタビューをもとに「日常的な虐待を認める職員もいました」と放送した。これに対し施設を運営する社会福祉法人とその理事長が、放送は裁判所の判断を否定するもので、人権侵害、名誉毀損、業務妨害にあたると申し立てた。その後D局は委員会事務局に対し、申立人と是非話し合いをしたいと仲介を依頼したため、事務局はこれを申立人の代理人に伝えたところ、申立人側もこれを受け入れ、双方の代理人同士が半年にわたる話し合いをした結果、申立人が申立てを取り下げ、解決に至った。

(放送2014年5月  解決12月)

「広報番組への申立て」

E局が2014年6月に放送した広報番組で、研修中の新人アナウンサーが「収賄の罪に問われた市議に有罪判決」というニュース原稿を読む練習の模様を放送した。この放送に対し、この市議(判決後失職)が、実名は出してないものの、市名を繰り返し読まれたため、地元ではすぐ自分と特定できるとして、「人権と生きる権利を著しく侵害された」と申し立てた。委員会事務局が双方に話し合いによる解決を促したところ、5カ月にわたる話し合いの末、同局が申立人に謝罪文と再発防止策を提示したことなどを受けて申立人が申立てを取り下げ、解決に至った。

(放送2014年6月  解決11月)

「政治倫理審査委員会めぐる申立て」

F局が2014年8月放送したローカルニュース番組で、自治体の公共事業談合に絡んで市議会の政治倫理審査委員会がある議員を審査する模様を伝えた。これに対しこの議員と家族は、「談合の賠償金回収のがれに加担?」などの一方的な表現で「マイナスイメージを植え付けられ、議員活動や選挙に支障を及ぼす」と申し立てた。申立てに対し同局は委員会事務局に対し、議員および家族と是非話し合いをしたいと仲介を依頼、申立人側にこれを伝えたところ、話し合いが実現し、その結果、申立人は「今後の活動予定等を勘案して」申立てを取り下げ、解決した。

(放送2014年8月  解決12月)

2015年2月

意見交換会[日本テレビ系列・四国4局]を開催

放送人権委員会は2月24日、香川県高松市内で日本テレビ系列の四国4局を対象に意見交換会を開催した。放送局側の参加者は四国4局から報道・制作に携わっている局員を中心に21人とオブザーバーとして日本テレビから2人、委員会側からは三宅弘委員長、小山剛委員、田中里沙委員の3人が出席した。
系列局を対象とした意見交換会は、放送人権委員会としては今回が初めてである。
意見交換会では、まず委員会が通知・公表した「委員会決定」をとりあげ、それぞれの事案に含まれている問題や、委員会が判断する際に検討したポイントなどについて委員長と起草を担当した委員が説明した。
続いて、昨年6月に公表した「顔なしインタビュー等についての要望~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~」について、この談話を出すに至った背景や談話に込めた思いなどについて三宅委員長が各項目に沿って説明した。この中で三宅委員長は冒頭の項目について、「表現の自由」の保障の根拠である「自己実現」と「自己統治」の考え方が端的に書かれている最高裁判所判決を引用したことをあげ、「表現の自由、とりわけ取材・報道の自由の原点を一文で表すとこの文章になる」と解説し、さらに行き過ぎた社会の匿名化が民主主義社会の在り方とも深いかかわりがあることを強調した。
また、田中委員は、「大事なことは取材対象者と最大限の意思疎通をはかる努力をすることだ。1秒を争う現場では難しい点もあるが、取材を受ける人に何の目的でどのように放送するかなど、参考になる情報をきちんと伝える方法を工夫することも必要ではないか」と述べ、雑誌の取材や街頭アンケートなどで採用されているチェックシートを使った確認手法などを紹介した。
局側からは、「ローカル局が作っている番組では比較的モザイクなどの使用は少ない。キー局の番組を含めて全体的な傾向が変わらなければ顔なしインタビューやモザイクの使用は少なくならないのではないか」などの意見が出された。
今回の意見交換会では特に放送局側から、実際に現場で悩んだ事例を出し合ってそれについて意見交換をしたいとの要望が出され、各局から具体的な事例が紹介された。
自社のホームページにアップしたニュース映像が期限を過ぎた後も検索によって誰でも視聴可能な状態となっていたことに対して抗議を受けた、という事例について小山委員が「忘れられる権利」に関する最近の裁判所の判例を紹介したうえで、「自動的、機械的に行われるインターネットの検索サイトの場合であっても削除命令が出されている。ましてや能動的に管理している放送局の場合はさらに注意を払わなければいけない」と述べた。
今回の意見交換会について局側の参加者からは、「全国的にも知られている事例を解説されることでよりリアルに詳細に理解することができた。また、各局での題材も同じことがすぐに起こり得ることとして、当事者から生々しく聞くことができた」「各局の事例報告は、実感を持って聴くことができたし、それに対する委員長、委員各位の意見などを直接聴くことができ、大変参考になった」などの声が寄せられた。

以上

第217回放送と人権等権利に関する委員会

第217回 – 2015年2月

大阪府議事案のヒアリングと審理
佐村河内氏事案2件の審理…など

「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案のヒアリングを行い、申立人、被申立人から詳しく事情を聞き、そのうえで「委員会決定」案を検討した。また、佐村河内守氏から提出された申立て事案2件を審理した

議事の詳細

日時
2015年2月17日(火)午後3時00分~6時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案のヒアリングと審理

対象となったのは、TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』。お笑いタレント「おぎやはぎ」によるオープニングトークで、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語られた。
これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」と申し立てた。
この日の委員会では、申立人、被申立人双方から個別にヒアリングを行い、詳しく事情を聴いた。
この中で申立人は、「キモイ」という表現を社会的影響の大きい公共の電波で流したことが問題としたうえで、「私は公人という立場なので一般的な批判は当然受け入れなければならないと思っているが、侮辱罪にあたる可能性がある表現まで受け入れられるかというと話は別だ」と述べた。また、番組により名誉感情を害され、社会的評価が低下したと主張するとともに、番組の放送以降、番組の影響と思われる嫌がらせの電話やメールが届いたと被害状況を訴えた。
さらに、中学生とLINEを巡るトラブルが起こったのは2013年10月であるにもかかわらず、2014年8月になって問題が報道された背景に、9月に予定されていた交野市長選を巡る政治的な陰謀があったと主張した。
一方被申立人のTBSラジオからは、コンプライアンス担当の取締役ら3人が出席し、まず、個別の発言だけを取り出して検討するのではなく、全体の文脈を見て判断してほしいとしたうえで、発言は人格攻撃ではなく、「申立人の不適切な行為に対しての論評という意識があるからこそ『キモイ』と言っても許される」と出演者が判断したもので、それは「TBSラジオの考え方に合致している」と述べた。
また、大阪府議という立場は、最も公人性が高いと考えられる国会議員と同等程度の非常に高い公人性を持ち、受忍の範囲は大きいと主張した。
市長選に絡む陰謀だとの申立人の主張に対しては、当該番組の放送段階では、申立人の記者会見等をもとに論評したもので、「本件とは関係がないと考える」と述べた。
その後、委員会ではヒアリングの結果を踏まえて審理した。前回委員会の議論を反映した「委員会決定」案について起草担当委員が説明、それをもとに各委員が意見を出してヒアリングで明らかになった点を盛り込むなどの修正を加えた。
今後、第2回起草委員会を開いてさらに修正した決定案をまとめ、次回委員会に諮ることになった。

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
前回の委員会後、申立人から反論書、被申立人のフジテレビから再答弁書が提出され所定の書面が出揃った。事務局が双方の主張を取りまとめた資料を配付し、新たな主張を中心に説明した。次回委員会では論点の整理に向けて審理を進める。

3.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
本件事案については、後から審理入りした上記「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案と並行して審理を進めることにしている。今月の委員会では「大喜利」事案とあわせ論点の整理やヒアリング等、次回委員会以降の審理の進め方を検討した。

4.その他

  • 3月16日に開かれるBPO年次報告会について事務局から説明した。
  • 次回委員会は3月17日に開かれる。

以上

2015年1月16日

「散骨場計画報道への申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は1月16日、上記事案に関する「委員会決定第53号」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上問題あり」との「見解」を示した。

[通知]
通知は、被申立人には午後1時からBPO会議室で行われ、三宅弘委員長と起草を担当した坂井眞委員長代行、大石芳野委員が出席し、被申立人の静岡放送(SBS)からは取締役編成業務局長ら3人が出席した。申立人へは、被申立人への通知と同時刻に熱海市内の申立人の会社事務所にBPO専務理事と調査役がおもむき、通知した。
被申立人への通知では、まず、三宅委員長が「決定の概要」「委員会の判断」をポイントに沿って読み上げる形で、「肖像権侵害にはならないが、放送倫理上問題あり」という決定内容を伝えた。
続いて、坂井委員長代行は、「付言だが、本来、実名・顔出しでできることを記者会が足並み揃えて顔出しをやめようとするのは、報道の自由の観点から問題がある」と述べ、大石委員は「今の社会は、長いものに巻かれるという流れの中にあるような気がする。そのことが報道にも出てきたのではないか」と述べた。また、委員長は「放送は映像が伴い、記者会合意として活字メディアとひとつにまとめることには問題がある場合がある。十分議論してほしい」とした。
決定について、被申立人は「今回の決定を真摯に受け止め、今後の取材と放送活動に生かしていく所存です。本件を取材対象者との信頼関係を損なう行為と重く見ており、すでに実効性のあるマニュアルを作成し再発防止に取り組んでいます。今後は公共性・社会性のある事案に対する取材・報道への議論を深め、規制することなく真実を伝えることで、視聴者・取材対象者の信頼を得るよう努力します」と述べた。
最後に委員長が、「意見交換など積極的に行っていきたい」と今後、SBSの研修会等に協力する旨を伝えた。
申立人への通知では、専務理事から、「放送倫理上問題あり」とする「見解」で、放送局にとって厳しいものになっているが、一方、「肖像権については侵害していない」という決定内容であると伝えた。その後、「委員会の判断」に沿ってポイントを説明し、担当調査役が、「決定の概要」を読み上げる形で通知した。通知を受けた申立人は、「『放送倫理上問題あり』となっていることは当然のことだが、肖像権侵害はなかったという放送人権委員会の結論に対しては不満だ。今後は裁判所の判断を仰ぎたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。22社46人が取材し、テレビカメラ6台が入った。
会見では、まず、三宅委員長が「委員会の判断」と「結論」の要所要所を紹介しながら委員会決定の説明をした。
続いて、坂井委員長代行は「3つのポイントがある。第1点は、SBSに非があった点は争いがないということ。2点目は肖像権侵害になるのか、放送倫理上の問題はあるのかということで、今回の場合正当な社会の関心事なので、その報道で顔の映像を放送することは、肖像権侵害となる『みだりにその容貌・姿態を撮影・公表』の『みだりに』にはあたらない。公共的な事項について、そういう立場にある人の映像を放送することはできたのではないか、ということだ。3点目は付言の部分になるが、この事案は各社の判断で報道してもいい事案だと考えるので、足並み揃えて匿名・顔なしを約束することには、報道の自由の観点から問題をはらんでいるということだ」と述べた。
また、大石委員は「今の日本の社会状況は『長いものに巻かれて行こう』という流れの中にある。個々の判断に任せればいいものをみんな一緒になってしまったことが、そのことを象徴している」と述べた。
このあと、出席者から質問を受けて委員が答えた。主なやり取りは以下のとおりである。

(質問)
委員会決定の通知を受けた後の申立人と被申立人の反応を伺いたい。
(三宅委員長)
被申立人のSBSは、「決定を真摯に受け止め、今後の取材・報道に生かして行く」というものだったが、申立人は「放送倫理上問題があるということは納得するが、肖像権侵害はないということについては不満である」ということだった。
(事務局)
申立人は最初から、裁判のことは委員会に対してもSBSに対しても言っていた。今日もそのような趣旨のことはおっしゃったようだ。

(質問)
今回の決定は、放送人権委員会の「判断のグラデーション」の中で、もう少し厳しいとか、逆に「問題なし」との意見はなかったのか。
(三宅委員長)
比較的議論が一本化できた案件だった。

(質問)
話し合いを促し、当事者間に任せるというようなことはなかったのか。
(事務局)
申立書が来た段階で事務局から話し合いをお願いしている。しかし申立人は、終始一貫SBSとは話さないという態度だった。

(質問)
「顔を出さない」「匿名」という条件で記者会見を開いているということは、これまでにもあったのか。
(三宅委員長)
今回についての条件として判断している。以前どういうことがあったかは判断からはずしている。

(質問)
匿名、顔出しNGの申し入れがあった時に、記者会として受け入れず、記者会見の開催自体を断念するべきだったのか。
(三宅委員長)
いろいろな場合があると思うが、「きびしい条件が付いたので共同記者会見に至らなかった」ということで、独自取材で映像を流すこともあると思う。それは当該現場の記者の判断だから、こうすべきだということは決定文では控えている。

(質問)
SBSの内部では、合意の情報は担当記者だけのものだったのか、局として共通認識として持っていたのか。
(坂井委員長代行)
社として合意を受け入れるとしているので、担当記者だけが知っていたわけではない。しかし、ミスをしてしまった。関係者・スタッフは顔を出さない処理をするつもりだったということだ。

(質問)
今回以前の報道でも、顔・名前は一切出ていないのか。
(三宅委員長)
新聞では名前は出ていない。
(大石委員)
顔は今まで出していないと言っていた。申立人は「狭い社会なのでいやだ」と顔出しを拒否している。企業名は出ていたが、顔・個人名は出ていない。

(質問)
一旦合意すると、決定文では「報道各社が一旦受け入れたその条件を以後まったく無視して新たに取材・報道できるかどうか、大きな疑問がある」としているが、この記者会見だけ顔を出さない、個人名を出さないという合意だったのではないかと思うのだが。
(坂井委員長代行)
合意としては、理論的にはその時だけの制限といえるが、例えば翌日に独自取材で顔を映し、実名を出して、記者会の合意には縛られないからと、報道できるのだろうかということだ。顔や実名を出せるかもしれない時に、皆で出さないで行こうと合意することが、本当にいいのかどうか危惧して付言した。
(三宅委員長)
例えば事態が変わっても合意が重くなり、それに縛られてしまうのではないかということがある。そうだとしたら、条件を付けた記者会見をやるべきだったのかどうか、という議論になった。

以上

第216回放送と人権等権利に関する委員会

第216回 – 2015年1月

散骨場計画報道事案の通知・公表の報告
大阪府議事案2件の審理
大喜利・バラエティー番組への申立て事案の審理…など

「散骨場計画報道への申立て」事案の通知・公表について事務局から報告した。「大阪府議からの申立て」事案2件のうち、日本テレビに対する申立ては、前日取下げ書が提出されたため、以後審理しないことを決め、TBSラジオ&コミュニケーションズに対する申立ての審理を継続した。このほか、佐村河内守氏から提出された申立て事案2件を審理した

議事の詳細

日時
2015年1月20日(火)午後3時30分~5時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、林委員 (田中委員は欠席)

1.「散骨場計画報道への申立て」事案の通知・公表の報告

1月16日に行われた本事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局である静岡放送が決定について報じた番組の同録DVDを視聴した。【詳細はこちら

2.「大阪府議からの申立て」(日本テレビ)事案の審理

対象となったのは、日本テレビが2014年8月11日に放送した情報番組『スッキリ!!』で、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通話アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった問題を取り上げた特集企画。この中で、コメンテーターのテリー伊藤氏が「今ずっとVTR見てても、こいつキモイもん」と述べたことについて、山本府議がこの発言は侮辱罪にあたるとして「番組内での謝罪、訂正」を求めて放送人権委員会に申し立てたもの。
今回委員会前日の2015年1月19日に、山本府議から委員会宛てに申立て取下げ書が提出されたため、この日の委員会ではその書面を確認し、この事案については以後、審理しないことを決めた。
委員会は11月の委員会で審理入りを決定し、双方から提出された書面等をもとに審理を続けていた。

3.「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案の審理

対象となったのは、TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』。お笑いタレント「おぎやはぎ」によるオープニングトークで、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語られた。
これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として申し立てたもの。
この日の委員会では、第1回起草委員会を経てまとめられた「委員会決定」案が提出され、起草担当委員が説明したうえで、意見を交わした。また、ヒアリングに向けて起草委員が作成した論点と質問事項案について検討した。
次回委員会で申立人、被申立人双方にヒアリングを実施する。

4.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

本件事案は前回12月の委員会で審理入りが決まり、その後被申立人のフジテレビから答弁書が提出された。
審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では事務局が双方の主張を取りまとめた資料を説明し、議論を交わした。次回委員会では、申立人の「反論書」、被申立人の「再答弁書」の提出を受けて審理を進める予定。

5.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では今後の審理の進め方等について、同じ佐村河内氏が申し立てた上記「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理を勘案しながら検討した。

6.その他

  • 1月15日に行った東海テレビ放送への講師派遣について、事務局から報告した。
  • 次回委員会は2月17日に開かれる。

以上

2014年度 第53号

「散骨場計画報道への申立て」に関する委員会決定

2015年1月16日 放送局:静岡放送株式会社

見解:放送倫理上問題あり
静岡放送は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。この放送に対し社長が、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求めて申し立てた事案。
放送人権委員会は審理の結果、1月16日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送には放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

静岡放送(SBS)は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者(以下、「本件会社」という)が進める「散骨場」建設計画について本件会社の社長(申立人)が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、申立人の顔の分かる映像を使用して放送した。この放送に対し申立人は、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、委員会に申し立てた。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
「個人名と顔の映像は露出しないとの合意」は申立人と熱海記者会との間でなされた。SBSは、熱海記者会所属の同社記者が会見に参加するにあたり、記者会の合意事項を受け入れることとしたのであるから、この合意事項に拘束される。
SBSが合意事項に反して申立人の顔の映像を放送した点は、明らかにSBSに非がある。しかし、肖像権侵害の判断との関係においては、「合意事項に反して放送がなされた」ことは、結局、承諾なく肖像が放送された場合の一態様と評価されるため、肖像権侵害の有無は、報道の公共性との比較考量によって判断される。
本件放送当時、本件会社が建設・運営を計画していた散骨場施設は、亡くなった方を慰霊する施設であることから、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の適用の有無が問題とされており、墓地類似という施設の性格から近隣住民による反対運動が起きていた。記者会見前、報道各社は「熱海の山林に『散骨場』計画 周辺に保養所、マンション 地元住民が反発」などと報道し、また、熱海市は散骨場に対して墓埋法が適用されるかを厚労省と協議していることについて会見を開いていた。そして、本件会社も修正案提出後のホームページ上で「心の"お墓"熱海『大地の里』—海洋散骨園—」と記していた。これらの事実から、本件当時、散骨場建設計画について報道することには相当高い公共性が認められる。
SBSの取材・報道の内容も、散骨場建設を計画している本件会社の社長である申立人が、市役所に計画の修正案を提出する場面と、熱海記者会との会見の状況を取材し、適切な範囲で報道したものであるから、特に問題があったということはできない。
以上から、本件放送は、公共性のある事項に関し、公益目的をもって、申立人の映像を相当性の認められる態様において放送したものであるから、肖像権侵害があったとは認められない。
しかし、取材対象者との信頼を確保し、その信頼を裏切らないことは、放送倫理上報道機関にとって当然のことである。日本民間放送連盟の報道指針の趣旨からすると、SBSが、合意事項に反した放送をしたことは放送倫理上の問題がある。
既にSBSが申立人に対し謝罪の意向を示し、また、今後同様の事態が生じないための措置をとっていることを委員会は評価するが、今回の事態が生じた原因は日々の放送業務の性格上当然に予見されるべき基本的な問題であった。委員会はSBSに対し本決定の主旨を放送するとともに、再発防止のため更なる社内体制の充実を要望する。
なお、本件事案の特殊性に鑑み、以下付言する。
公共性のある事項について、公益目的のもとで、適確な報道を行うことは、報道機関に課せられた重要な使命である。そのような役割を果たすために取材・報道の自由が認められている。その観点から、取材・報道規制につながる申し入れに応じるようなことがあってはならず、また、同様の結果を生じさせるような過度の自主規制的対応があってはならないことを指摘しておきたい。

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2015年1月16日 第53号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第53号

申立人
株式会社 A社社長
被申立人
静岡放送株式会社(SBS)
苦情の対象となった番組
『イブアイしずおか・ニュース』(月~金 午後6時15分~7時)
放送日時
2014年6月11日(水)の上記番組内の4分30秒のニュース

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1. 「個人名と顔の映像は露出しないとの合意」に関する事実関係
  • 2. SBSが申立人と熱海記者会との合意事項に反し申立人の顔の映像を放送したことは肖像権侵害にあたるか
  • 3. SBSが申立人と熱海記者会との合意事項に反し顔の映像を放送したことに放送倫理上の問題があったといえるか
  • 4. 熱海記者会による申立人との合意と報道の自由の問題(付言)

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

全文PDFはこちら pdf

2015年1月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には1月16日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に熱海市内の申立人の会社事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は22社46人が出席した。
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2015年4月22日 委員会決定に対する静岡放送の対応と取り組み

「散骨場計画報道への申立て」事案で、2015年1月16日に通知・公表された委員会決定第53号に対し、静岡放送から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月10日付で提出された。
4月21日に開催された第219回委員会で報告書の内容が検討され、了承された。

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目 次

  • 委員会決定の放送
  • 再発防止についての取り組み
  • 委員会決定に伴う取り組みについて
  • 現場の変化
  • 終わりに

第215回放送と人権等権利に関する委員会

第215回 – 2014年12月

散骨場計画報道事案の審理
謝罪会見報道事案の審理
大阪府議事案2件の審理
審理要請案件:「大喜利・バラエティー番組への申立て」審理入り決定…など

「散骨場計画報道への申立て」事案の審理を行い、「委員会決定」の通知・公表を1月に行うことになった。「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理を続け、「大阪府議からの申立て」事案2件の審理を始めた。また「大喜利・バラエティー番組への申立て」を審理要請案件として検討し、審理入りを決めた。

議事の詳細

日時
2014年12月16日(火)午後3時~6時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「散骨場計画報道への申立て」事案の審理

静岡放送は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。この放送に対し社長が、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求めて申し立てた事案。
この日の委員会では、第2回起草委員会での検討を経た「委員会決定」の修正案が示された。審理の結果、決定案は一部表現、字句を修正したうえで大筋で了承され、委員長一任となった。
「委員会決定」の通知・公表は2015年1月に行われることになった。

2.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷を生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会までに、申立人とTBSテレビからそれぞれの主張や反論等を記した所定の書面が提出された。委員会では、事務局がそれらを取りまとめた資料を配付し、本件事案の論点の整理に向けて審理した。

3.「大阪府議からの申立て」(日本テレビ)事案の審理

日本テレビが2014年8月11日に放送した情報番組『スッキリ!!』で、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通話アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった問題を特集企画で取り上げた際、コメンテーターのテリー伊藤氏が「今ずっとVTR見てても、こいつキモイもん」と述べたことについて、山本府議がこの発言は侮辱罪にあたるとして「番組内での謝罪、訂正」を求めて放送人権委員会に申し立てたもの。
この日の委員会では、申立人側の主張と日本テレビ側の反論を確認、論点を整理した。
次回委員会でさらに審理を続ける。

4.「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案の審理

対象となったのは、TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』で、お笑いタレント「おぎやはぎ」によるオープニングトークでの発言。このトークでは、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯や、それに関連してテリー伊藤氏が日本テレビの情報番組『スッキリ!!』で「こいつキモイもん」と発言したことに対し山本府議が放送人権委員会に人権侵害を申し立てた一連の事態について語られた。これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として放送人権委員会に申し立てたもの。
この日の委員会では、申立人側の主張とTBSラジオ&コミュニケーションズ側の反論を確認、論点を整理した。
次回委員会でさらに審理を続ける。

5.審理要請案件:「大喜利・バラエティー番組への申立て」
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビジョンが2014年5月24日に放送した大喜利・バラエティー番組『IPPONグランプリ』。番組では冒頭、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出し、出演したお笑い芸人たちが次々に回答する模様を放送した。
この放送に対し、かつて「全聾の作曲家」として話題を呼び、その後楽曲が別人による代作だったことを認めて謝罪した佐村河内守氏が11月4日付で申立書を委員会に提出。お笑い芸人から、申立人の身体的特徴や生理的特徴(聴覚障害)および音楽的才能を揶揄する回答が出され、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として、一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らか」として、当該番組内での謝罪を求めた。
また申立書は「本件番組の内容は、一個人への侮辱にとどまらず、現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる。特に、本件番組が申立人の心情はもちろんのこと、同じく聴覚その他の障害を背負って生活している多くの人々の心情をも踏みにじることになるのであり、非常に悪質である」と訴えた。
これに対しフジテレビは11月28日に「経緯と見解」書面を委員会に提出し、本件出題が申立人を想定したものであることを認めたうえで、「大喜利という回答者の知的な発想力を求めるコーナーの1つの出題として取り扱うこと自体が申立人を侮辱し、名誉感情を著しく侵害することなどあり得ない」と主張。また、「自らの楽曲として(髪型を含めた独自の装いを演出して)公表しながら、実際には第三者の創作による部分が極めて大きいものであったことに関して申立人が社会的に批判されることは、やむを得ないことであり、且つ、表現行為として許容(保障)されるべきである」と述べている。
さらに同局は、「児童・青少年への影響を問題視するのであれば、障害の程度を過剰に演出し、なおかつ、別人の作曲であるにもかかわらず自分自身の作曲として公表していたことこそ問題視されるべきである」と、申立人の主張に反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

6.その他

  • 次回委員会は2015年1月20日に開かれる。

以上

2014年12月16日

「大喜利・バラエティー番組への申立て」審理入り決定

放送人権委員会は12月16日の第215回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビジョンが2014年5月24日に放送した大喜利・バラエティー番組『IPPONグランプリ』。番組では冒頭、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出し、出演したお笑い芸人たちが次々に回答する模様を放送した。
この放送に対し、かつて「全聾の作曲家」として話題を呼び、その後楽曲が別人による代作だったことを認めて謝罪した佐村河内守氏が11月4日付で申立書を委員会に提出。お笑い芸人から、申立人の身体的特徴や生理的特徴(聴覚障害)および音楽的才能を揶揄する回答が出され、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として、一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らか」として、当該番組内での謝罪を求めた。
また申立書は「本件番組の内容は、一個人への侮辱にとどまらず、現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる。特に、本件番組が申立人の心情はもちろんのこと、同じく聴覚その他の障害を背負って生活している多くの人々の心情をも踏みにじることになるのであり、非常に悪質である」と訴えた。
これに対しフジテレビは11月28日に「経緯と見解」書面を委員会に提出し、本件出題が申立人を想定したものであることを認めたうえで、「大喜利という回答者の知的な発想力を求めるコーナーの1つの出題として取り扱うこと自体が申立人を侮辱し、名誉感情を著しく侵害することなどあり得ない」と主張。また、「自らの楽曲として(髪型を含めた独自の装いを演出して)公表しながら、実際には第三者の創作による部分が極めて大きいものであったことに関して申立人が社会的に批判されることは、やむを得ないことであり、且つ、表現行為として許容(保障)されるべきである」と述べている。
さらに同局は、「児童・青少年への影響を問題視するのであれば、障害の程度を過剰に演出し、なおかつ、別人の作曲であるにもかかわらず自分自身の作曲として公表していたことこそ問題視されるべきである」と、申立人の主張に反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2014年10月

中部地区「意見交換会」を名古屋で開催

放送人権委員会は、10月7日に中部地区の放送業者との意見交換会を名古屋市で開催した。中部地区での開催は6年ぶりで、御嶽山の噴火、前日の台風と慌ただしい取材・報道と重なったが、31局から88人が出席し、意見交換会の出席者としてはこれまでで最も多くなった。委員会からは、三宅弘委員長ら委員8人とBPOの飽戸弘理事長らが出席した(委員1名は台風による交通への影響で欠席)。委員、役員の紹介に続いて、三好晴海専務理事がBPOと委員会の役割や意義をビデオを交えて説明し、刊行した『放送人権委員会 判断ガイド2014』の紹介をしてから意見交換に入った。前半は今年6月に「委員長談話」として公表した「顏なしインタビュー等についての要望」、後半は「大阪市長選関連報道への申立て」と「宗教団体会員からの申立て」の「委員会決定」を取り上げ、予定を超える3時間20分にわたって意見を交わした。主な内容は以下のとおり。

◆三宅委員長 基調報告◆

『判断ガイド』に少し触れながら、お話をさせていただきたいと思います。私が9年前に委員になって最初に判断をしたのは、2ページの「若手政治家志望者からの訴え」です。
それ以降の「委員会決定」を見ますと、「放送倫理違反」、「重大な放送倫理違反」、「放送倫理上問題あり」とありますが、「人権侵害」と判断した決定は私が委員になる前の「バラエティー番組における人格権侵害の訴え」のあとはありません。先ほどのBPOの紹介ビデオで「委員会は人権侵害を判断する」と言っていますけれども、実際にはほとんど放送倫理の問題を取り上げてきたということがお分かりいただけると思います。
ただ、「放送倫理違反」と言ったり「放送倫理上問題あり」と言ったりして、各局から分かりにくいというご意見がありましたので、「放送倫理上問題あり」に統一し、4ページにあるようなグラデーションを定めました。「人権侵害」と「放送倫理上重大な問題あり」が「勧告」、一番下の「問題なし」と表現や放送後の対応等について局に「要望」するというのは「見解」です。「勧告」はいわばクロ、「問題なし」と「要望」はシロといいますか、セーフの範ちゅうに入るわけですが、その間に「放送倫理上問題あり」の「見解」というのがあります。「放送倫理上問題あり」は灰色、グレーですね、最近の申立てはグレーというのが多い、このグレーをどう判断するのか、非常に悩ましい問題が多々あるわけです。
『判断ガイド』の104ページに、「放送倫理違反」、「放送倫理上問題あり」というのは、何をもって判断しているかというポイントとして、「事実の正確性」、「客観性、公平・公正」、「真実に迫る努力」、「表現の適切さ」、「誠実な姿勢と対応」の5つを挙げております。これはどこから来るかというと、「放送倫理基本綱領」や民放連の「報道指針」、NHKの「放送ガイドライン2011」に書かれている倫理規範を参考にしながら判断しているということです。委員会はあくまで局側で作っていただいたものによって判断をしているというところを、ご考慮いただきたいと思っております。
お手元の資料にございますように、「大津いじめ事件報道に対する申立て」は2012年7月5日と6日のフジテレビの『スーパーニュース』内で各1回、大津市の中学生いじめ事件の報道に際して加害者として民事訴訟を起こされている少年の氏名を含む映像を放送したという事案です。民事訴訟の準備書面が放送され、少年の氏名が瞬間的に画面に出るのです。テレビは大体真ん中を見ますから、瞬間的に1秒、2秒弱見るだけでは分からないんですね。どこに出ているか、ちょうど画面左上の端っこですね、静止画像にして見ると少年の名前が出ていて、そこだけ消す処理を誤った。それがインターネットにアップされて少年の名前が広まったということで、ヒートアップする現象の中でどう判断するか迫られたわけです。
ここでは、新しいメディア状況の中で放送倫理上の問題が出てくる。最近は重要なニュースは各社のホームページに映像が出ます。わたしどもの判断は放送番組、放送された番組が対象ですが、これまでの審理を通じてホームページにアップされた期間は同じように審理対象になるという判断が大体固まっていますので、ニュースをホームページに載せると申立ての可能性が広がるという認識を持って対応していただくことが必要かなと考えています。

◆「顔なしインタビュー等についての要望」について◆

三宅委員長
「顔なしインタビュー等についての要望」について、作成の経緯とわたしどもとして何を言いたいのか、ご説明をしてまいりたいと思います。
「大阪市長選関連報道への申立て」は「まずは朝日放送のスクープです」から始まって、ポイントになるのは、ちょうど真ん中あたりの内部告発者のインタビュー「正直恐怖を覚えますね。やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」の部分です。このインタビューは右肩後ろ側から撮っているいわゆる顔なし映像ですね。この事案を判断するにあたって、今指摘したスクープという強い表現と、「やくざと言ってもいいくらいの団体」というコメント、論評ですね。そして、申立人の大阪市交通局の労働組合は非常に人数も多いし、どうしたものかと。後ほど説明があると思いますが、これを判断しました。
もう一つ「宗教団体会員からの申立て」、きょうのアンケートの中で、大体どこの場所のどの高校に通ってA市内の国立大学に進学する人間の特定はあまり難しいことではないと、ドキッとしたという回答があったんですけれども、ボカシのかけ方が弱いですから、卒業式の時に4人の友人と写真を撮っている映像が出てくるんですが、脇の2人の女性の着物の柄が大体分かりますから、あの時誰それと撮った自分があの着物を着ていたということで特定されてしまう可能性がある。我々の判断は可能性の判断でいきますので、そういう問題が出てくる。なおかつ、アレフ脱会のカウンセリングを受け思春期の悩み等から信仰に至ったことを話す状況を、カウンセラーのみの了承のもとで隠し録音し音声を変えたうえで放送した。プライバシー侵害との兼ね合いが一つ問題になりました。
意見交換会では、ここ数年毎回顔なしインタビューについてどう考えるかということで、意見交換をさせていただいて、だいぶ機も熟してきたと考え、今回委員長談話を出させていただいたということです。

I.情報の自由な伝達と名誉・プライバシーの保護など

内容に入りますが、「I」は、取材・放送の自由のなかで、特にプライバシー、名誉、肖像など他人に知られたくない個人の法益、権利利益を保護していくということとの調整、そういう原則的な部分を書いています。
冒頭の文章は、私がかつて法廷でメモが取れないと訴えたアメリカ人弁護士の裁判の代理人を務め、最高裁の判決でもらった一文を引用しました。「個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく」と、自己実現と呼ばれていますが、表現の自由の非常に重要な趣旨の一つです。後半部分は「民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保を実効あるものとするため」、これは自己統治といわれる表現の自由のもう一つの重要な要素、趣旨の部分が、まさに放送関係者が担っている役割のバックボーンとしてあるということを、まずはっきりさせていただくことがよいだろうと考えたわけです。
ちょうど2003年にBPOが発足するころ、個人情報保護法が「治安維持法以来の悪法である」とメディア全体が反対した中で制定された経過があります。その個人情報保護法の1条には高度情報通信社会におけるというような一文があり、「大津いじめ事件報道に対する申立て」の決定では「新しいメディア状況」と書きましたが、そういう社会状況の変化の中で、とりわけ「他人に知られたくない個人のプライバシー、名誉、肖像などみだりに侵害されることのないよう保護すること」の必要性と自由な情報の伝達との適正な調整を図るという点が、日々放送や取材にあたっていただく基本的な考え方のベースにあるのではないかということを明らかにしたわけです。

II.安易な顏なしインタビューが行われていないか

そのような基本的な考え方をふまえて問題提起をした部分です。「知る権利に奉仕する取材・報道の自由の観点」、これは冒頭の「I」のところの第1文を受けているところですが、「取材・放送にあたり、放送倫理における事実の正確性、客観性、真実に迫る努力などを順守するために、顔出しインタビューを原則」とする。この事実の正確性、客観性、真実に迫る努力というのは、先ほどの『判断ガイド』の中に整理して書いた放送倫理の基本的な部分だということをふまえていただければと思います。
この委員長談話を出すにあたって、在京のキー局の報道マニュアルの中で顔出しインタビューと顔なしインタビューをどういうふうに使い分けているのか、わたしどもは見させていただきました。各局では顔出しインタビューを原則とし、例外として顔なしを認める場合についてルールを定めていることを確認したわけです。さらに、海外のデータを集めたわけですが、ドキュメンタリーとかニュースを見ると、正面から語っている映像が非常に多くボカシはほとんど入っていないということで、ボカシを日本の社会現象として見るべきなのかどうか、少し気になったところです。例外として顔なしインタビューをするにあたって、国際通信社傘下の映像配信会社が理由を付記したうえで配信したりするケースもあり、また法務部と社内複数の関係部局の承諾も義務付けているというようなところもあり、例外の顔なしには非常に制約がかかっているということを見させていただきました。
「とりわけ、地域の出来事について、周辺住民のインタビューをする際に、特に匿名にしなければならない具体的な理由が見当たらないにもかかわらず、安易に、顔なしインタビューが行われてはいないだろうか」という部分ですが、今年1月に1週間、夕方の在京キー局のニュース情報番組を全て録画してチェックをする作業をしました。時間の関係であまり詳しくはご説明できませんが、場合によっては同じ人がある局では顔が出ているけれど、ほかの局では顔なしになっているというようなものもありまして、事案だけではなく、局側の対応によっても様々なケースがあると分かりました。どうしても顔を隠さなきゃいけない理由はないんじゃないかというものがかなり散見されました。犯罪報道の場合ですと、加害者に関わるような証言というものは、もちろんボカシを入れたり顔なしの映像にするということは当然あると思いますが、もう少し事案の内容によって検討すべき要素があるのではないかという問題提起をしました。

III.安易なボカシ、モザイク、顏なし映像はテレビ媒体の信頼低下を追認していないか

バラエティー番組では色を変えてホワーッとした感じでボカシをかけた顔なしがありますが、それに報道情報番組も引きずられているんじゃないかという警告を発したわけです。

IV.取材・放送にあたり委員会が考える留意点

先ほどの放送倫理のあり方をふまえ、一つ目に「真実性担保の努力を」として「安易な顔なしインタビューを避けて、可能な限り発言の真実性を担保するため、検証可能な映像を確保することなどの努力を行うことが大切ではないか」というところを出しました。先ほどの「大阪市長選」の「やくざと言っていいくらいの団体」と言う内部告発者の映像は顔なしで後ろから撮影され、彼が提供した「回収リスト」も自分でねつ造したものだったが、それについて裏付け取材もされていなかった。そういうところから、本人が語っている映像を撮っているときに、もしも「正面からちょっと撮りましょう」と言っていたら、そういうごまかし、ねつ造が防げはしなかっただろうかということも考えなきゃいけないということで、この点を一つ目に考えたわけです。
それから、事件現場の限られた時間内で、どうしても顔なしインタビューになってしまうと現場の方からは言われるわけですね。現にこの談話について「よく言っていただいた」という声と、現場のほうから「それじゃあ、取材、なかなかできないですよ」とか「現場感覚からズレているんじゃないですか」というようなご意見もいただきました。
それはそれとして、できる限り「取材対象者と最大限の意思疎通を」図っていただいて、できる限り顔出しを原則とする基本的なスタンスを考えていただきたい。
もちろん、「放送倫理基本綱領」にありますが、「情報源の秘匿は基本的倫理」も確認もしなきゃいけない。じゃあ、どっちを向いてどう判断すればいいのか、それは現場で考えていただくというのがこの委員長談話ですので、考えるべき筋道と考えるべきポイントを明らかにして、日々の取材の中で、その場その場で考えていただくという趣旨です。
それから放送のあり方ということで、先ほどの「大津いじめ事件」にありますように、「デジタル化時代の放送に対し、インターネットなどを用いた無断での二次的利用等が起こりうる可能性を十分に斟酌したボカシ・モザイク処理の要件を確立すべきである」という点で、新しいメディア状況に対応した留意点を特に考えていただく必要があるでしょうと。
「プライバシー保護は徹底的に」と。「中途半端なボカシ・モザイク処理は憶測を呼ぶなどかえって逆効果になりうることに留意すべき」ではないかと。できる限り真実に迫る取材をしていただきますが、放送に当たってプライバシーを保護するとなったら、もう思い切ってボカシをきっちり入れてもらうということもありうると。さっき言いましたように「宗教団体会員からの申立て」では本人のボカシの入れ方がちょっと弱い、周辺の友だちのボカシも弱いんじゃないかと。「大津いじめ事件」では、例えばいじめのあった学校全体はかなりボカシが入って、ある程度学校というイメージがあって、それから窓や校舎をアップにしたボカシのない映像が出たりする。その辺のボカシの入れ方とか特定されないような工夫は、かなりきっちりされていたんじゃないかというのが私の個人的な感想です。
そういうことをふまえて、場合によっては「放送段階で使わない勇気を」ということもあっていいのでは。いい映像が撮れると、「ぜひ使いたい」という話にもなりますが、プライバシー、名誉、肖像権の保護を考えると、場合によってはその映像を使わないという決断もされてもよろしいのではないかという点です。
それから「映像処理や匿名の説明を」のところは議論もあります。理由を注記すると、かえってボカシを推進することになりはしないかというご意見もあると思いますが、これは私の現場感覚で言うと、長年政府の情報公開の制度化を求めて、その運用の改善を求めてきた立場からすると、やはり「原則公開、例外非公開」。この原則と例外の立場をはっきりしたほうがいいという点からすると、映像処理や匿名の理由の説明を工夫してみるということも、これから各局で考えていただくべきところではないかということです。
今日のアンケートを見ますと、まだ社内ルールのないところもございますが、ぜひ「局内議論の活性化と具体的行動を」と、問題提起型の委員長談話という趣旨で書かせていただきました。

V.行き過ぎた"社会の匿名化"に注意を促す

先ほど言いましたように、個人情報保護法ができてから、警察取材が非常にやりにくくなったとか、顔なしを求める市民が非常に増えた、個人情報保護法はなかったほうがいいんじゃないかというような議論もあります。さらに特定秘密保護法ができて、政府が秘密指定したものはおそらく情報公開でも出ないし、リークを求めると、それ自体で処罰される可能性があり、取材・報道が非常に萎縮する、一方、政府自体はこれから共通番号という鍵を持って情報を全て集約する。政府はきっちり情報を持っているけれども、一般市民は無防備で、なおかつボカシのある社会を望むということになると、冒頭で述べた、社会全体が人と人が互いに知り合って意見を交換する中で人格を高め、民主政治を発展させるという趣旨から遠のいていくのではないかということも考えまして、最後に「行き過ぎた"社会の匿名化"に注意を促す」という点を市民にも向けたメッセージにしたいということで、テレビ局関係者のみならず取材対象となる市民の方々にも信頼関係に基づく十分な意思疎通というものを考えていただきたいという談話にいたしました。

林委員
委員長からご説明がありましたように、私どもで今年の1月の2週目の13日からの週の夕方のニュース情報番組の全てをかなり詳しく精査してみました。委員長談話はこの調査に基づいております。1月13日の週は神奈川県の相模原で小学校5年生の女の子が行方不明になるという事件がありました。このような犯罪報道には、顔なし映像が使われることが多いので、この事件を事例に考えてみました。
お手元に1枚の紙をお配りしました。書かれているのは、女の子がまだ見つからなかった時の12日、13日に放送された近所の方のインタビューのコメントです。「1 早く無事に見つかってほしいです」、「2 無事に見つかってくれればいいなと思ってんだけど」、「3 一日も早く見つけてあげたいと思ってね」、「4 とにかく心配で、一日も早くっていう気持ちです」、「5 親御さんの気持ち、考えると、やっぱり、何て言っていいのか」。このコメントには、実は「顔出し」と「顔なし」があります。答えは、1番と5番が顏なしです。コメントだけ取り出しますと、なぜ顔なしだったのか、理由が分かりません。特に1番と2番のコメントはほとんど同じ意味なのに、1番を顔なしにしているということは、判断としてどうなのかなと思っています。
もう一つ、気づいたのは、顔を出してもいい方は、複数の局で同じようなコメントをして使われているんですね。ですから、顔を出していいという方に取材が集中してしまう、そういう現象も起こるわけです。
さらに、夕方のニュース情報番組全体の調査で明らかになったことは、目玉として、だいたい20分ぐらいの調査報道というんですか、独自取材のニュースがあります。たとえば、リフォーム・トラブルとか結婚詐欺とかが、その週にはありました。こういう話題では、なかなか顔を出してくださる方がいないというのは分かりますが、この類のニュースですと全編、ほぼ全員に最初から最後までボカシがかかっている例が散見されました。顔の部分に赤や黄色の風船がバーッと飛んでいるボカシの画面を見ると(笑)、ちょっと気持ち悪い気がします。好奇心をそそられるテーマでもありますが、報道の責任とのバランスを考えてほしい。
以上、夕方のニュースを素材に、テレビの信頼と報道のあり方について問題提起したいと思いました。

名古屋のテレビ各局の発言
A社 取材を受ける人にとってみると、顔を出して発言していい人もいるし、顔はできれば出してほしくないけれども質問には答えてもいい人、いろんなケースがあるということです。その都度いろんなケースがあるということですから、その辺は記者の力量でもあり、制約された時間の中でどこまで頑張って取材するかということにもなってくるかと思うんですけれども、現場で日々いろいろ悩みながらやっているというのが現状かなと思います。
B社 日本の国民性みたいなところもあって、理由は分からないですけれども、コメントの内容如何に関わらず、顔を出したくないという人は出したくない。それと記者の誘導というか、最初の話の持って行き方ですね。多分、若い記者はかなり控えめに「まあ顔なしでもいいですけど」と言うようなことがあるかもしれません。それは、僕らの教育の行き届かないところだと思うんですけれども、基本的にはそういうのを説得して、顔出しでコメントを取る指導はしているつもりです。ただ、顔は勘弁してと言う人ほど、またいいコメントを言っている場合もあるし(笑)、その辺なかなか難しいかなと私自身は思います。
C社 常々気になっていたことでもありましたので、弊社内でニュース部門の記者とカメラマンがどういう認識でいるのかアンケート調査を行いました。やはり以前に比べて顔出しを嫌がる人が増えている、つまり、10年、20年前に比べると、「顔は出さないでほしい」と言われる可能性が高くなっていると感じている者が多いということが読み取れました。その理由はなかなか難しいんですけれども、やはり、インターネットやSNSの発達によって、自分の画像が思わぬところで拡散するのではないかというようなことへの懸念が一つあるのではないかと。もう一つは、昔に比べるとメディアを見る目が厳しくなっている、冷たいというか理解が少ないというか、漠とした感触ですけれども持っております。そういったことがメディアに自分の顔を晒すことへの抵抗感として表れているのではないかなという気もしております。
今年上半期の弊社のニュース映像2,647本のうち、46本顔なしインタビューがありました。一般の住民の方を顔なしで撮ったものが46本のうち15本ありまして、その15本中12本は明確に顔出しを申し込んだにもかかわらず、拒まれたものでした。また2本はいずれも殺人事件に関する近所の住民のインタビューで、やむなく顔切りにしたということで、安易に顏なしが行われたというケースは感じられませんでした。
D社 御嶽山の噴火で、私たちは遺族の方、周りの方々の取材に入りますが、まず誰も受けてくれない。「遺族の気持ちを考えろ」とか「何を聞きたいんだ」みたいな形でだいたい追い払われる。いろいろ聞いていくと、話していただける方はいるんですが、そういう方はいろんなリスクを負われることになる。顔出しで話した場合に、「あの人は顔を出してどんなふうにしゃべった」とか「こういうことをしゃべった」とか近所で言われる可能性があるかもしれないですし、ネットなどに悪意を持って使われるケースもあるのではないかと。「顔は出せないけれども、お話します」と言われれば、その前提で取材をする。聞けることがあるのであれば、取材しないよりも伝えることのほうに意味があるのではないかと考えるケースが非常に多く、悩みながら、それでも声を拾いたいと努力をしています。
E社 「宗教団体会員からの申立て」は、非常に踏み込んだ内容の番組だと勇気に感嘆したんですね。もちろん安易なボカシは如何なものかというものに関しては、私もそのとおりだと思いますが、委員会の判断はボカシが甘いんじゃないかと逆に出ていますよね、そういうことがあると、特にニュースなどの現場判断においては、「ちょっと危ないから、もうこれはボカシをかけちゃおうぜ」ということになりかねないとも感じるんです。そこは矛盾というのか難しい問題だと感じております。
G社 社内のガイドラインは「取材相手の権利保護が必要と判断される場合を除き、顔出しを基本とする」という形で明記し、徹底してやるよう指導しているつもりですが、実際には本当に吟味しなければいけないケースがかなりあります。
例えば今回の御嶽山の噴火の場合で言いますと、原則として取材相手の権利保護については本来あまり考える必要はないケースだとは思うのですが、でも、放送に出ている部分では顔出しになっていないケースがあります。一つは、自分が生き長らえたことに対する負い目を感じている方がいらっしゃって、親子で御嶽山に行ってお子さんを亡くして自分だけ帰ってきたとか、グループで行って助けることができず自分は生きて戻ってきている、そういう人は、なかなか顔は出せないけれども話せる話はあると。逆に、先週土曜日に御嶽山の噴火を緊急に放送しましたが、同じように仲間と行って助かった人が出てきました。この人は顔出しはOKで、その代わり名前は伏せてほしいと。ネット社会の中で検索されて嫌がらせを受けたりするケースがあるんですけれども、この人のように自分の思いをやっぱりきちんと伝えたいので、顔を出して取材を受けたいという方もいらっしゃったことは、ちょっと付け加えておきたいと思います。

大石委員
皆さんのお話を伺って、本当にいろいろと苦労なさっている、悩んでいらっしゃることがよく伝わってきました。私も写真家として、顔出しの写真を撮らなければならないことがほとんどですけれども、どうしてもダメといわれる時は、やはり話し合いをしたり、何日も通ったりとか、やはりある種の努力はせざるを得ない、相手が分かってくれなければ、こちらは写真を撮れない、写真が撮れなければ、どんなに立派なことを言っても何もならないわけですね、私の仕事は。
テレビも映像が勝負だと思うんです。写真と違って音がありますから、そこはちょっと羨ましい部分でもあるんですけれども、やはり映像が勝負ですから、顔が撮れなければどうするかというところを、もう少し考えてもいいんじゃないかという気がしますね。私もどうしても拒否された時は、真正面の顔がたとえ撮れなくても、その人だということがある程度は伝わるような映像、私の場合は写真を撮るように努力したりします。テレビと写真、初対面の人たちに向き合って報道するということにおいては変わらないわけですから、皆さんの苦労は私の苦労でもあるんですけれども、もう一歩を踏み込んで考えなければならないと思います。被写体の人権を尊重するにしても、外国と日本はどうしてこんなに違うのかと、今もあらためて感じながらご意見を聞いていました。

会場からの発言
私は今視聴者対応をやっております。昔は「何で顔を出さないんだ」みたいな意見が来たんですが、逆に今は「どうして顔を出すんだ」、「あんなふうに晒してしまっていいのか」というような意見が結構来るようになっている。やっぱり空気と言いますか、世の中全体が匿名社会に傾いてしまった上に、それを我々が"受け入れる"というところが変わってきている。世の中の雰囲気、顔なしが普通だとまでは言いませんが、個人情報とかプライバシーとかが取り沙汰されて、意識が変わっているような感じは視聴者対応をしていても感じられるところです。

坂井委員長代行
ここ10年以上ですけれど、インターネット上の誹謗中傷の相談がすごくあります。どんどん拡散してしまいますし、消えて無くならない。例えば「2ちゃんねる」の問題が昔よくありました。相手を実名で特定して自分は匿名で発信する。ある意味で非常に卑怯な、自分の発言には責任を持たないで人を傷つけるという行動なわけですね。
委員長談話にもありますけれども、取材対象者を実名、顔出し放送するということは、その発言内容に責任を持ってもらうという部分が、やっぱり一番大事なわけです。なかなか発言が取れないからと言って顔出しをやめたり実名をやめたりして話をさせてしまった結果の、悪い例が大阪市長選の話だったりするわけです。報道の信頼を得ていく、メディアの信頼を得ていくという意味では、取材を受ける人の発言の信頼性を確保するというのは当たり前の根っこの話で、それを忘れてほしくないですね。

◆「大阪市長選関連報道への申立て」事案について◆

意見交換に先立ち、放送された当該ニュース番組を参加者全員で視聴し、冒頭、決定文の起草を担当した小山委員と曽我部委員から概要と判断のポイント説明があった。

小山委員
今、ご覧いただきましたが、2種類のカードが出て来ました。一つが紹介カードで、これは知人を紹介してほしいというもの。それからもう一つが回収カードで、こちらの方が実は虚偽だったものです。今回のスクープはその回収カードが見つかったということで取り上げた訳ですが、先ほど顔なしでインタビューに応じていた人物がそれをねつ造していた。それが後で明らかになります。
おそらく皆さんもどうして委員会がこういう判断をしたのかということよりも、どうしてこのような放送がされてしまったのかのほうにご関心があるかと思います。いくつか補足しますと、組合側にまったく裏付け取材せずに放送した背景には、一つは市議会議員からの情報提供であったということ。それから、先ほどのカードをねつ造した人物ですが、これまでも局側に情報を提供していたようで、その限りでは信頼できる情報だったと。ですから信頼できる情報提供者だということで、今回も真実だろうと思い込んでいたということです。
それから、そのカードの存在自体はもっと早くから局はキャッチして、局によりますと、要するにギリギリになって組合側に取材を行ったと。そうしたところ、取材することが結果としてできなくなったということを言っておりました。さらに、この放送のあと素直に局側として訂正あるいは謝罪をすればいいのにと思いますが、その後始末という点では不十分だったと委員会は考えました。
あとは皆さん方のご質問を受けて、いろいろご説明できる点があればご説明したいと思います。その前に、一緒に起草を担当した曽我部委員から補足をしていただきます。

曽我部委員
私も基本的に、ご質問等ございましたらその中でお答えするという形にしたいと思いますが、その前にこの事案を委員会が判断するときに、念頭においていた裁判所の判例がありますのでご紹介します。
『判断ガイド』をお持ちと思いますが、一つは74ページに「所沢ダイオキシン報道事件」があります。これは、報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断するのが相当であるとあります。これは本件にどう関係するのか。ご覧いただいたように、形式的には疑惑があるという表現ですね。局側は、あくまでも疑惑を報じたのだと主張していました。しかし全体、ご覧いただくと、皆様どう思われたでしょうか。スクープですということが強調され、あるいは回収リストそのものは本物であるという前提で報道しています。さらにやくざとか、議員の発言もあります。あれも疑惑が本当であるという前提であるかのような発言に見えるわけです。こういったところを総合的に見ると、一般の視聴者はあのニュースは何を言っているのか、疑惑を疑惑として伝えているのか、それとも疑惑というよりはもっと断定して報道しているのかについては、大方ご判断いただけるのではないかと思います。
それともう一つ、疑惑を疑惑と報道しているという点についてです。疑惑だから確実でなくてもよいではないのかという話に仮になったとした場合に、これについても『判断ガイド』の80ページに、1968年の最高裁の判断があります。決定とありますが、さしあたり判決と同じ意味であるとご理解いただければと思います。この決定は非常に著名ですが、要するに人の噂であるから真偽は別にしてという表現を用いて名誉を毀損したというときに何を立証するのか、噂があるということを立証すればいいのか、それともその噂の本体が本当であると立証すればいいのかが争点になったわけですが、最高裁は、いや、噂だといったときに、その噂が実際にあるということじゃなくて、噂の中身を立証しなければいけないとしたわけです。今の疑惑の話に置き換えて考えると、疑惑を疑惑として報道したときに、そういう疑惑がありますよということを立証するだけでは実は不十分であって、その疑惑は単なる疑惑ではなくて真実、あるいは真実相当であるということを立証しなければいけないと読める最高裁の判断です。
すると疑惑報道というものは一切できないのかという話になりますが、この点なかなか微妙で、この決定は大変古い判断であるし、この事件の事案そのものは、きちんとした報道機関の一応根拠のある疑惑報道とか、そういう筋のいい事案での判断ではなく、怪文書の類の事案ですので、やはり報道機関がきちんと疑惑報道した場合にこういう判断になるのかは、やや疑問ですが、一般にはこういう噂、あるいは疑惑を伝えた場合に何を立証すべきなのかという点に関しては、その疑惑の存在ではなくて中身の存在だということになっているということです。
今回の決定は疑惑であるならば疑惑として、一般人にもそういう疑惑であるということをはっきりさせるようにと。そして疑惑であったとしても、一定のレベルの裏付けが必要だと判断していますが、それはこのご紹介した2件の最高裁の判断を念頭において判断したものです。

■質疑応答

Q この件は先ほどの顔なしインタビューのことでも触れていましたが、この内部告発者が顔なしになっていること自体に、ここにも一定の問題があるとお考えなのでしょうか。

三宅委員長
先ほどのケース、顔出し、顏なしでいえば、例えば犯罪報道にかかわる周辺住民からの意見、感想を述べてもらう場合とか、内部告発者の放送自体について、この決定の中でそれが悪いという判断は触れていませんので、基本的に内部告発者の保護という観点からは映像自体はあれでよかったと考えて、委員会では議論を進めています。ただ問題は、かなりていねいにコメントをとる機会の設定をされていますが、裏取りがちゃんとされてないということからねつ造ということを見破れなかった点において、取材上の手落ちがあるのではないかと思いますので、放送のレベルと取材のレベルにおける真実性の担保の努力という観点からはもう少し何がしかの工夫とか、裏取りの取材をした上でその辺の経過をよく聞いてみるとか、取材のあり方が本来求められていたのではないかと考えているところです。

曽我部委員
事前にいただいたアンケートで、組合側にコメントをとっていないところに非常に問題があるとお書きいただいたご意見が多かったと思います。その中で、逆にコメントをとっていれば放送して問題なかったのか、というご意見もありましたが、実は委員会決定の通知公表のときに、記者の方とのやりとりがありまして、小山委員が、組合を取材すると回収リストは自分たちが作成したのではないという答えが返ってきただろうと回答されています。実際、他局もリストと称するものを入手して組合に取材したところ、それは本物ではないということを言われたので放送しなかったということがありました。回収リスト自体も不自然な点は結構あったわけですね。例えば組合であるにもかかわらず管理職の名前が載っているとか、不自然な点があったわけで、これは取材をすればおそらくこの回収リストが本物ではないということはおそらくわかっただろうという事案だったということかと思います。

事務局
事前アンケートをご紹介します。「取材の進め方、番組の進行には問題があったと思いますが、ただBPOに提出した当該局の取り組みの報告書の内容についてまで、改めてBPOのホームページに委員会の決定の趣旨を理解していないと公表する必要があったのかどうかについては疑問です」こういう声がありますが。

奥委員長代行
このアンケートに書かれた方の疑問は、おそらく極めて異例だろうということだと思います。私もBPOの委員になって長くはないのですが、こういう形で改めて書いたというのは、たぶんなかったのではないかと思います。簡単に言うと、我々が一生懸命議論して、こういう決定を出したのにもかかわらず、ちゃんと理解されてなかったという思いが残ったんですね。報告書は、番組には公共性、公益性があったけれども、ちょっと言葉遣いがひどかったよ、ごめんなさい、と言っているだけなんですね。そういうことを我々は言ったわけではないので、そこのところを理解していないので、やっぱりこれには一言言っておく必要がありますよということで、あえてああいう形で載せたということであります。

三宅委員長
私の最終判断でホームページにアップされたことになりますので、一言コメントしておきますが、この『判断ガイド』の430ページ、先ほどのグラデーションですと放送倫理上の重大な問題ありです。勧告ですから、灰色じゃなくて黒ということです。人権侵害と同視できるレベルという点です。委員会は特に以下の4点から本件放送に放送倫理上の重大な問題があると判断したということで、申立人に対する取材のあり方ということでは、回収リストが本物かどうかを含め申立人を取材してその言い分を放送することは取材の基本ではなかったかと。その辺について今後のスクープ報道における取材や表現のあり方について考えください、というのが431ページの末尾にあります。
それから断定的報道のレベルのところでも、一般視聴者には申立人が市長選挙への協力を組合員に強要したことが事実であると認識されるという、そこの断定的な表現、これがまさに表現のあり方として改善の余地はあるんではないかという議論を局内でやっていただきたかったという点です。
同じように内部告発者のやくざという発言ということで、回収リストが本物と決めつけられなかった疑惑の段階では引用を控えるべきではなかったのか。
それから、続報のあり方で、これがねつ造だということがわかった後、かなり詳細に続報しているから、申立人の労働組合の社会的評価はかなり回復しているじゃないかという言い方が出て来ますが、これについても、すみやかに取り消し、または訂正して、続報や訂正すべき情報についての放送のあり方について具体的にこうすべきだったというのが、まさに決定の内容です。この4点について考えていただくということが、決定をしかと読んでいただくと出て来るだろうと思ったのですが、いや、スクープとやくざの点だけちょっと問題だったというニュアンスの報告書の冒頭の表現だったものですから。
我々も意見交換会を直にやって、理解をされているということはわかったのですが、わかった以上は報告書もそれなりの形で変えていただくべきではなかったのかと。報告書を読んだ委員全体の意見からすると、意見交換をした委員のようには委員会全体ではならなかった。この報告書の内容について、これでいいかどうかについて、もう1回委員会で議論をして最終的にこちらもコメントを出したいという経過があったということです。
ですから決定文は決定文として、勧告ですからやはり社内でしっかり受け止めていただいて、その対応をしていただきたかった。もし現場に対応されるときは、決定が出て、決定もらって、それで真摯に受け止め、今後改善しますと放送で言うだけじゃなくて、社内でいろいろ議論を尽くしていただいて報告をいただきたい、という点がこちらの感想、対応であったということを付け加えさせていただきます。

◆「宗教団体会員からの申立て」事案について◆

本事案については、1時間番組を10分程度に編集することについて許諾をいただき、事務局で編集したものを参加者全員で視聴してから意見交換に入った。冒頭、起草を担当した市川委員から概要とポイントの解説があった。

市川委員
まず本件全体の判断枠組ということで大きく分けると、プライバシー権、肖像権を侵害するかという権利侵害の問題と、放送倫理上の問題はあったかという2つを検討しています。
本件ではここが一つ大きな論点になるかと思いますが、放送で申立人と特定可能か、あるいは判例等では同定という言葉を使いますが、同定可能かということです。ボカシのかかっている、顏だけから見ると必ずしもわからない。ただ、かなり薄いボカシで、周りの人たちが映っている。一緒にいる友人、しかも卒業式だというのは見るとだいたいわかるのですが、この卒業式で一緒にいる友人の特徴的衣服のわかるボカシ。それからナレーションで今年の春、A市内の国立大学を卒業して市内で就職したと。申立人が卒業した大学の雑観を映すと、大学名は出て来ませんが学部の門柱が出て来ます。すると、どこの大学かという特定が客観的には可能になります。あと、○○地方に住む家族ということ。それから出身地の駅ビルの名前等が入った背景等が出て来る。(「○○」と「A市」部分は当委員会決定では非公開としています。)そういったものを順繰りに追って見ていくと、結局、当人の周囲の人たち、大学の友人であるとか、職場の人であるとか、あるいは将来、彼と出会って、彼の属性を知っていく人からは特定が可能になるということになります。一般の視聴者から見ると、すべての人からは特定ができるわけではないんですが、こういう場合、判例等ではその周囲の方、それから将来、彼とその人と知り合う方が特定できる場合には不特定多数の人が知りうる、特定しうるという状態にあるという認定をしていて、この決定でも同じような枠組で考えています。ということで、本件は諸事情を組み合わせてしまうと特定できるという点の問題を指摘しています。
次に、この特定された方のプライバシーに立ち入ったというプライバシー権侵害の問題になる。それで公共性、公益性の観点からこの放送が許容されるのかということが問題になります。この点は公共性、公益性の程度の問題と、それから侵害の程度、どういう内容であるかとか、どういう対応で放送しているのかとか、そういった比較考量ということになってきます。いずれかが重ければいずれかが軽くなるというか、程度が下がるという、そういう関係になります。
委員会では、本件放送部分が対象としたのは内心の深い部分の人にもっとも知られたくない事柄の一つであるから、こういう特定しうる状況下で承諾なく放送するのは、いかに公共性が認められているとしてもプライバシー侵害に当たるのではないか。これが一つの意見です。もう一つは、カウンセリングの冒頭の部分、15秒程度の本人の発言です。カウンセリング自体は1分程度の発言で。その中で出てきたのはアレフに対する自分の見方を述べる部分だったので、具体的な事実の吐露があったとまでは言えないのではないかと。しかも放送目的に直結するものであった。
つまり若者がなぜアレフに向かうのかっていうのを明らかにするという観点から考えると、公共性、公益性、それに直結する内容で、あまり深い部分のプライバシーまでは立ち入っていないのではないかということで、プライバシー侵害まではいかないというご意見もありました。
他方では、高校時代に友人関係がうまくいってなくて、この信仰が非常に自分の心の中にストンと入って来たという心情というのは、それはそれで彼にとってみれば大事な、かなり内心の深いところにある問題ではないかということでプライバシー権侵害とは言えるのではないかという議論もありました。
結論としてはその点で両者一致した結論を得ることはできなかったので、プライバシー権侵害についての結論は出さなかったし、プライバシー権侵害とまでは本件の決定では言ってはおりません。ただ問題点としては、こういう議論をしたということを触れております。
次に放送倫理上の問題点があるかどうか。特定可能性への配慮ということで、プライバシーにかかわる事実を明らかにするものだったので、ボカシや肉声の変換という配慮だけではなくて、特定しうる情報をどの範囲でどのように明らかにするかについて、より慎重に配慮すべきだったし可能ではなかったかと。こういう意見を述べて、一つの問題点を指摘しています。
次にカウンセリングの隠し録音と信書の撮影朗読の問題点。やはり放送倫理上の問題としては行き過ぎている、踏み込み過ぎているのではないかというところで意見の一致を見たというところであります。
最後に、団体としての取材拒否、両親の承諾との関係について、当該局としてはアレフという団体からは頻繁に取材拒否をされていた。幹部も絶対に取材に応じないというスタンスだったと。そういう中ではこういう手法もやむを得なかったと。それからご両親の承諾を得ていた。しかし、成人のこの申立人についていかに両親が承諾していても、これは別の問題だろうと。そういう理解の下で放送倫理上問題ありという結論になったわけです。
この見解では高い公共性、公益性と言っていますが、委員会としても評価しております。ただ、そうはいってもやはり踏み込んではいけない領域というのはやはりあるだろうと。そこのバランスは絶えず考えていかなければいけない。当該局の方はなかなかそこの点のご理解がいただけてなかったのかなというふうに感じていまして、局全体としてもやはり一度立ち止まってですね。その担当者あるいはその上のチェックする方が別の視点から立ち止まって考えて、はたしてこれはバランスがとれているんだろうかということは考えていただきたかったなと思いました。

■質疑応答

Q 映像表現等のことで専門家の法律の先生もいらっしゃるのでお聴きしたいのですが、もし本人の特定ができないような処理をした上であれば、隠し録音の内容、あるいは両親への手紙を使用したケースはプライバシーの侵害に当たるのかどうか、それから、それは放送倫理上はどうかという点、この辺をお伺いしたい。

三宅委員長
小山さんと曽我部さんにあとで補足してもらいたいと事前に言っておきますが、たぶん特定されないとしてもカウンセリングの核心部分とか、実際の手紙を映像で出すということは、本人が特定されないとしてもやっぱり権利侵害になるという議論はたぶん一つあると思うんです。ただ、この委員会で議論をしていたときは、そうはいってもまさにそこが核心部分で、なぜ若者がそこに入るのかっていうときに、隠し録音の内容とですね、手紙の内容「すべての魂は否定できなくて」って、あの辺のところがやっぱりキーじゃないか、肝じゃないかということで、あれを抜いて放送がはたして成り立つのかという議論も一方にあってですね、非常にこれをプライバシー侵害として一本の意見にまとめることは基本的にできなかったので、おそらくそこは委員の中でも意見が分かれる部分もあると思います。

小山委員
まず、その当人だとまったくわからないようになっていた場合にはプライバシーではないと思うんですね。ただ例えば名誉毀損を考えた場合に、名誉毀損とは別に名誉感情の侵害があります。名誉毀損は社会的評価の低下ですけども、名誉感情は自分が侮辱されたとか、そんな感じの感情です。それに近いような形でプライバシーではないけども、何か自分が大事にしているものが暴露されたということで、それは人格的利益の一つということはできるんではないかなと。

曽我部委員
まず特定できない場合、これはプライバシーと呼ぶかどうかは別として、やっぱり自分の思想・良心の深い部分について公表されたというような場合については法的責任が発生する場合は十分ありうると思います。普通のプライバシーは自分の私的な事柄が人に知られて、それに対して社会的なリアクションがあって精神的苦痛を受けるというような構造ですけど、この場合、自分の思想・信条が外に出たのは誰にもわからない、自分だけの問題になるので、普通のプライバシー侵害とは構造が違います。広い意味でいうと両方プライバシーでしょうが、通常のプライバシーとは少し違うので、ネーミングとしても別なものになる可能性あるとは思いますが、いずれにしても法的な問題にはなるかと思います。普通の私的な事柄であれば、特定できないようにすれば法的責任は生じないと思いますが、例外的にそういう内心の深い内容のようなものであれば、今、申し上げたようなことになると思いますので、それにともなって放送倫理の観点からも、放送するだけの必然性のあることなのかをお考えいただくということだろうと思います。

奥委員長代行
確かに問題は公共性、公益性と権利侵害のつまりバランスですね。比較考量の問題としてこの番組に対する判断があったわけですが、私が委員会の中で強く言ったのは公共性とか公益性っていうものはどっか宙に浮いてあるわけではないということでした。この番組に即して言えばアレフという現に団体規制法の観察対象になっている団体があって、かつてこれはオウム真理教だったわけですけれども、かつてオウム真理教が若者たち、それも、かなり学歴の高い若者たちを集めた状況がある。今また同じような状況が起こっている。一体これはどうしてだろうか。そこに踏み込んで1時間のドキュメンタリー番組を作ったわけですね。私はそこに公共性と公益性があるのであって、そうした意味での公共性、公益性というものと権利侵害をバランスの中で考えざるを得ないだろうと思いました。
さきほど委員長がおっしゃってくれましたけれども、なんで若者がアレフに惹かれちゃうかという内心に迫らないと、この番組における公共性、公益性は達成することはできないわけですよね。そこに踏み込んだという部分があるんであって、それを名誉毀損だとかプライバシーっていうところで切ってしまうと、そもそもこの番組は成立しないだろうと思っているんですね。にもかかわらずこういう形の決定になったのは、ちゃんとモザイクをかけなかったとか、もっとちゃんと本人かどうかわからないようにすればよかったというのが私の考えです。委員会は決して法律論議だけをしているわけではないということを少し補足的にお話ししておきます。

坂井委員長代行
実はこの番組作った方たちは、ちゃんとプライバシー保護、同定ができないようにしたというふうに断言しておられるんですね。ちゃんとモザイクなりボカシなり、それから匿名なり、本人が特定できないようにすべきだという点については局も委員会も一致しているんです。それについて局は十分やりましたというのに対して委員会はこれじゃダメだろうということで、今、奥代行が言ったようにそこはちゃんとやらなきゃダメじゃないのかと、そういう話だということをご理解いただければと思います。

Q 私も非常に目指すべき意義の高い番組だと思うんですが、ヒアリングの中で制作者の方、申立人に対して取材の申入れをしなかった理由はなんだって答えているのでしょうか? なぜ申入れをしなかったのでしょうか?

事務局
番組のプロデューサーからは、本人に取材を申し込めばアレフが必ずつぶしにかかってくる、それは絶対避けたかったという一点。もう一つはご両親から本人には知らせないでほしいということがあって、本人に取材しなかったという説明はプロデューサーからありました。

◆飽戸理事長から締め括りのあいさつ◆

今日の議論を伺っていて一番気になったのはやはり視聴者がここ10年、20年の間に大きく変わってきているということ。視聴者のカルチャーが大きく変化しているという点だと思います。局の方からも取材拒否が多いとか、視聴者の態度が厳しくなっているというお話がありました。これは他の分野でもそうなんですね。プライバシー意識、権利意識が高くなって、世論調査なんかでも拒否が激増しています。そういうこともあって、視聴者の皆さんのテレビに対する態度も大変厳しくなっている。10年、20年前だったらバラエティー番組でもフリーパスだったようなのが最近は苦情が殺到するようなことが起こっているわけです。
そういう意味でも視聴者のカルチャーに常に配慮しながら番組を作っていただきたい。
これだけ各局の皆さん、熱心に真剣に番組を作ってくださっているわけですが、BPOに年間2万件ほどの意見がずっとここ数年寄せられており、そのほとんどは苦情なんですね。なかでも一番困るのは、BPOは放送局の味方だ。だからいくらBPOに苦情を言っても番組は変わらない。
もっとBPOは番組を厳しく監視して、厳しく罰してくれという意見が相変わらず来るんですね。BPOは番組を監視して処罰する、そういう機関ではないんですね。あくまで放送事業者の自主・自律的改革・改善を支援する組織としてのBPOの役割をしっかりと伝えていくということが我々の責務でもありますが、皆さんの側もそういう視聴者が厳しくなっているという状況に対応するような番組作りにぜひ力を入れていただきたいと思います。
我々も先ほどもありました辛口の応援団としてこれからも努力していきたいと思いますので、今後もご支援いただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

以上

第214回放送と人権等権利に関する委員会

第214回 – 2014年11月

散骨場計画報道事案の審理
謝罪会見報道事案の審理
「大阪府議からの申立て」2件審理入り決定…など

「散骨場計画報道への申立て」事案の審理を行い、「委員会決定」案の検討に入った。「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理を始めた。「大阪府議からの申立て」2件を審理要請案件として検討し、いずれも審理入りを決定した。

議事の詳細

日時
2014年11月18日(火)午後4時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「散骨場計画報道への申立て」事案の審理

静岡放送は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。この放送に対し社長が、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求めて申し立てた事案。
この日の委員会では、双方からの書面やヒアリングの結果をもとに起草された「委員会決定」案の検討に入った。委員会の判断のポイントについて担当委員が説明し、各委員が意見を述べた。結論の方向性を確認しつつ記述等を議論したが、次回委員会で修正案を審理することになった。

2.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報・バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。この放送に対し、佐村河内氏が「聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
前回の委員会で審理入りが決まり、今月の委員会から審理を始めた。TBSテレビは委員会に提出した答弁書で「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷を生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。委員会では、事務局が放送内容の概要や申立人が指摘する問題点を説明し意見を交わした。

3.審理要請案件:「大阪府議からの申立て」(日本テレビ)
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、日本テレビが2014年8月11日に放送した情報番組『スッキリ!!』。番組は、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通話アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった問題を特集企画で取り上げ、山本府議本人のインタビューを含め、大阪府交野市の地元関係者らを取材し、それをまとめたVTRを放送するとともに、スタジオでコメンテーターが山本府議の言動についてコメントした。
この放送について山本府議は翌12日に日本テレビに対し、コメンテーターのテリー伊藤氏が「今ずっとVTR見てても、こいつキモイもん」と述べたことが人権侵害にあたると抗議し、番組内で謝罪、訂正するよう求めたが、日本テレビはこれを拒否した。
このため山本府議は同日、申立書を委員会に提出し、テリー伊藤氏の発言は「侮辱罪」にあたると訴え、改めて同氏による番組内での発言撤回と謝罪を求めた。申立書では、テリー伊藤氏のコメントにより、twitterやブログに多数の「キモイ」を含む誹謗中傷が寄せられ、精神的な負担が生じたほか、連日多数の電話が寄せられ、府議としての活動に支障が生じたと主張している。
これに対し日本テレビは11月5日に委員会に提出した「経緯と見解」書面の中で、「元々山本府議に対して『キモい』と感じたのは中学生であり、そう感じさせた一連の行為を山本府議本人も不適切だと自認している中で、今回のテリー伊藤氏のコメントが侮辱罪にあたるという山本府議の主張には正直、当惑せざるを得ない」と述べた。また「当該コメントは視聴者に対して、公職にある山本府議の行為には大変、問題があり、中学生の気持ちはよくわかるという論評をなげかけたにすぎず、報道内容の公共性、報道目的の公益性に鑑みれば当然、違法性はない」と主張。さらに、「『スッキリ!!』の放送以前にすでに山本議員の不適切な行為は、テレビ・新聞各社で広く報道されており、本番組の放送が主たる原因となって、山本府議の社会的な名誉が低下したことはない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

4.審理要請案件:「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』。番組では、お笑いタレント「おぎやはぎ」の矢作兼氏と小木博明氏がオープニングトークで、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになり、その経緯が多くのメディアにより伝えられる中で、テリー伊藤氏が日本テレビの情報番組『スッキリ!!』で「こいつキモイもん」と発言、それに対し山本府議が放送人権委員会に人権侵害を申立てた一連の事態について、矢作氏が小木氏に説明するという形でトークが展開された。
この放送について山本府議は9月8日、TBSラジオに対し「キモイという発言に侮辱されたと感じた」として番組内での謝罪を求めたが、同社は「社会事象についてのコメント」として、拒否した。
このため山本府議は同日、申立書を委員会に提出、その中で「思いついたことはキモイだね。完全に」、「キモイと思ったもんはキモイでいいんでしょ」等の発言は、「全人格を否定し、侮辱罪にあたる可能性が高く、精神的な苦痛を味わった」と訴えている。また、「インターネット上に『キモイ』という中傷の文言が溢れ、信用やイメージを著しく損なった」と主張している。
これに対しTBSラジオ&コミュ二ケーションズは11月10日、「経緯と見解」書面を委員会に提出、この中で「今回の放送は、大阪府議という公人である山本議員の行為及び、それに付随した一連の社会事象へのコメントが主眼であり、小木氏の『キモイ』という発言は、あくまで山本議員の不適切な行為に向けられている。同議員の人格に向けられたものではないし、ましてや全人格を否定する個人攻撃ではまったくありえない」として、侮辱罪にはあたらないと主張している。
同社はさらに、「公人の名誉権が過度に強調されることは、民主主義の基盤を揺るがすことにもつながりかねないという視点からも、今回の放送について謝罪放送やその他の方法による謝罪を行うことはできない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

5.その他

  • 委員会が今年度予定している系列単位の意見交換会を、2015年2月24日に、高松で開催することを決めた。対象は日本テレビ系列の在四国4局。

  • 次回委員会は12月16日に開かれる。

以上

2014年11月18日

「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)審理入り決定

放送人権委員会は11月18日の第214回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』。番組では、お笑いタレント「おぎやはぎ」の矢作兼氏と小木博明氏がオープニングトークで、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになり、その経緯が多くのメディアにより伝えられる中で、テリー伊藤氏が日本テレビの情報番組『スッキリ!!』で「こいつキモイもん」と発言、それに対し山本府議が放送人権委員会に人権侵害を申立てた一連の事態について、矢作氏が小木氏に説明するという形でトークが展開された。
この放送について山本府議は9月8日、TBSラジオに対し「キモイという発言に侮辱されたと感じた」として番組内での謝罪を求めたが、同社は「社会事象についてのコメント」として、拒否した。
このため山本府議は同日、申立書を委員会に提出、その中で「思いついたことはキモイだね。完全に」、「キモイと思ったもんはキモイでいいんでしょ」等の発言は、「全人格を否定し、侮辱罪にあたる可能性が高く、精神的な苦痛を味わった」と訴えている。また、「インターネット上に『キモイ』という中傷の文言が溢れ、信用やイメージを著しく損なった」と主張している。
これに対しTBSラジオ&コミュ二ケーションズは11月10日、「経緯と見解」書面を委員会に提出、この中で「今回の放送は、大阪府議という公人である山本議員の行為及び、それに付随した一連の社会事象へのコメントが主眼であり、小木氏の『キモイ』という発言は、あくまで山本議員の不適切な行為に向けられている。同議員の人格に向けられたものではないし、ましてや全人格を否定する個人攻撃ではまったくありえない」として、侮辱罪にはあたらないと主張している。
同社はさらに、「公人の名誉権が過度に強調されることは、民主主義の基盤を揺るがすことにもつながりかねないという視点からも、今回の放送について謝罪放送やその他の方法による謝罪を行うことはできない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2014年11月18日

「大阪府議からの申立て」(日本テレビ)審理入り決定

放送人権委員会は11月18日の第214回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、日本テレビが2014年8月11日に放送した情報番組『スッキリ!!』。番組は、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通話アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった問題を特集企画で取り上げ、山本府議本人のインタビューを含め、大阪府交野市の地元関係者らを取材し、それをまとめたVTRを放送するとともに、スタジオでコメンテーターが山本府議の言動についてコメントした。
この放送について山本府議は翌12日に日本テレビに対し、コメンテーターのテリー伊藤氏が「今ずっとVTR見てても、こいつキモイもん」と述べたことが人権侵害にあたると抗議し、番組内で謝罪、訂正するよう求めたが、日本テレビはこれを拒否した。
このため山本府議は同日、申立書を委員会に提出し、テリー伊藤氏の発言は「侮辱罪」にあたると訴え、改めて同氏による番組内での発言撤回と謝罪を求めた。申立書では、テリー伊藤氏のコメントにより、twitterやブログに多数の「キモイ」を含む誹謗中傷が寄せられ、精神的な負担が生じたほか、連日多数の電話が寄せられ、府議としての活動に支障が生じたと主張している。
これに対し日本テレビは11月5日に委員会に提出した「経緯と見解」書面の中で、「元々山本府議に対して『キモい』と感じたのは中学生であり、そう感じさせた一連の行為を山本府議本人も不適切だと自認している中で、今回のテリー伊藤氏のコメントが侮辱罪にあたるという山本府議の主張には正直、当惑せざるを得ない」と述べた。また「当該コメントは視聴者に対して、公職にある山本府議の行為には大変、問題があり、中学生の気持ちはよくわかるという論評をなげかけたにすぎず、報道内容の公共性、報道目的の公益性に鑑みれば当然、違法性はない」と主張。さらに、「『スッキリ!!』の放送以前にすでに山本議員の不適切な行為は、テレビ・新聞各社で広く報道されており、本番組の放送が主たる原因となって、山本府議の社会的な名誉が低下したことはない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第213回放送と人権等権利に関する委員会

第213回 – 2014年10月

散骨場計画報道事案のヒアリングと審理
「謝罪会見報道に対する申立て」審理入り決定…など

「散骨場計画報道への申立て」事案のヒアリングを行い、申立人、被申立人から詳しく事情を聞いた。「謝罪会見報道に対する申立て」を審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。

議事の詳細

日時
2014年10月21日(火)午後4時~7時25分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「散骨場計画報道への申立て」事案のヒアリングと審理

静岡放送は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。この放送に対し社長が、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求めて申し立てた事案。
この日の委員会では、申立人、被申立人から個別にヒアリングを行い、詳しく事情を聞いた。
この中で申立人は、「顔なし」映像を記者会見の条件とした理由として、人口3万7,000人の熱海市で住民2千7,8百人の反対署名が集まっており、「私の顔が出ていれば、狭い田舎町で更なる事件に発展する可能性もある」と指摘。また、「このような行為は故意に行われたと思わざるを得ない」とも述べ、具体的被害として「テレビで大々的に出てしまい、熱海の町では相当な騒ぎになっている。熱海を騒がしている散骨業者と知れ渡ってしまい、よく話しかけてくれた住民たちも目をそむける。町に食事に出ることもできない。そういう状態は今も続いている」などと訴えた。
被申立人は、編成、報道の責任者や番組担当者ら5人が出席し、「約束に反して顔出ししてしまったことは、担当者の不注意・失念によるもので、故意によるものでは決してない。放送時間に追われる中でモザイクをかけ忘れるというミスであり、最終チェックも十分に行われなかった。取材相手との信義を果たせなかったことを深く反省している。業者社長にはお詫びの申し上げようもない」としたうえで、「二度とこのようなことのないように、再発防止策をすでに取っており、社内での研修会なども行っている」と述べた。
ヒアリング後も審理を行い、担当委員が「委員会決定」文の起草作業に入ることになった。その上で、次回委員会でさらに審理を進める。

2.審理要請案件:「謝罪会見報道に対する申立て」~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、TBSテレビが2014年3月9日に放送した情報・バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。番組は、かつて「全聾の作曲家」として知られていた佐村河内守氏が楽曲の代作問題について謝罪する記者会見を取材し、その模様をまとめたVTRを放送するとともに、出演者によるスタジオトークを生放送で展開した。
この放送に対し、佐村河内氏は8月26日付で申立書を委員会に提出し、番組は「申立人の聴力に関して事実に反する放送を行ったものであり、それにより、申立人が聴覚障害者であるかのように装って記者会見に臨んだとの印象を与えたもので、申立人の名誉を著しく侵害するものであると共に、申立人と同程度の聴覚障害のハンディキャップを持つ者に対しても、社会生活上深刻な悪影響を与えた報道であった」と訴えた。申立書はまた、番組が特定の映像を意図的にカットして「悪意ある編集」を行い、「事実そのものを捻じ曲げて放送した上で、申立人の名誉権を侵害したことになり、本件は極めて重大かつ悪質な人権侵害」と主張している。
これに対してTBSテレビは9月30日付で委員会に提出した「見解」書面の中で、「当番組の放送内容は、放送された時点における重大な社会的関心事で、聴覚障害者に対する誤解や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評」と放送の趣旨を説明。その上で「謝罪会見の綿密な取材と、診断書についての専門家の見解の上で制作しており、『悪意ある編集』などによって申立人に聴覚障害がないと断定したものでもない」として、申立人の名誉を傷付ける放送ではないと主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

3.その他

  • 10月7日に名古屋で開かれた地区別意見交換会(中部地区)について、事務局から報告するとともに、その模様を伝える地元局のニュース番組の同録DVDを視聴した。

  • 次回委員会は11月18日に開かれる。

以上

2014年9月

札幌で「意見交換会」開催

放送人権委員会は9月4日(木)、札幌で意見交換会を開催した。在札幌9局から54名が参加し、委員会からは三宅 弘委員長、市川正司委員、田中里沙委員が出席した。まず、6月9日に公表された「顔なしインタビュー等についての要望~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~」について委員長から基調報告があり、後半では、最近の「委員会決定」をもとに、人権や放送倫理について意見を交わした。午後3時から始まり、終了予定の午後5時30分を越えて、5時50分頃まで熱心な議論が行われた。主な内容は以下のとおり。

◆三宅委員長の基調報告◆

「顔なしインタビュー等についての要望」は、反響を呼んでいまして、ご賛同いただくご意見もあるんですが、どうも現場の方々には、「分かっているけれど、こんなんじゃやっていられない」というような意見が結構あるという話を聞いています。
なぜこういうものをこの時期に出したかというところからお話をさせていただきます。昨年の8月から今年の1月にかけて3件の委員会決定を出しています。一つは、「大津いじめ事件報道に対する申立て」の委員会決定ですが、「放送倫理上問題あり」というもので、放送の中で瞬間的に加害者とされている少年の名前が準備書面の中に出ている。通常の見方では分かりませんが、それがネット上に拡散されて行き、炎上して行くことについて、局がどこまで責任を負うのかが問題になりました。ネット上にアップロードして拡散していくところまでは局の責任は問えないけれども、そういうことを想定して、名前をなぜ消せなかったのかということが問題になったケースです。新しい時代、新しいメディア状況においての放送倫理のあり方を考えなければいけないということがあったわけです。
もう一つは、「大阪市長選関連報道への申立て」です。1分37秒のニュースで、初めに「スクープです」で始まって、「朝日放送が独自に入手した紹介カードの回収リストの件です」という話で進んで、回収リストを提供してくれた内部告発者の「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」ということで、大阪市交通労働組合を批判しているコメントが出たわけです。これは顔がないコメントで、後ろのほうから撮っている映像が出ました。内部告発者ですから、顔なしで撮るというのはやむを得ないと思いますが、顔なしインタビューの用い方ということで少し考える必要もあるのではないかということが話題になりました。
三つ目の「宗教団体会員からの申立て」の問題としては、宗教団体に入会した人の脱会カウンセリングのことと、信仰についての気持ちを書いた両親に宛てた手紙がそのままアップで出て、かなり鮮明にプライバシーの根幹に関わる部分が出ました。
そういう状況の中で、取材を進めて行くということと、名誉やプライバシーを保護するということの調整をどう図るべきかを現場で考えていただく上での指針を明らかにしておいた方が良いのではないかと考えました。実はこのテーマは4年位前から各地の意見交換会を行う際に、いろいろ議論してきました。当時は専修大学のメディア学研究の専門家である山田健太教授が自ら提案されたものをたたき台に議論したわけです。今回はその山田教授のたたき台をベースに約半年議論して詰めたものです。

I.情報の自由な伝達と名誉・プライバシーの保護など

冒頭のところは、かつてアメリカ人の弁護士が「法廷でメモが取れない」ということで裁判をしたところ、最高裁が「メモが取れなかったことは申し訳ない」という判断をした中に、表現の自由というのは何のためにあるのかということが書かれている一節があります。報道関係者にとっても、非常に噛みしめるべき一文であると思いましたので、それをまず冒頭に持ってきました。
表現の自由は、自己が自分の人格形成を発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくという、これはいわゆる自己実現という表現の自由の意味合いが一つあります。他人に知られないままのものより、お互いに他人とコミュニケーションを取ることによって、お互いの人格形成に刺激を与えるということがまず基本だろうということです。後段は「民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保を実効あるものとする」としています。これは自己統治という、民主政治、民主主義国家において自ら表現するためには、まず知らなければいけないということで、ここに知る権利、国民の知る権利という発想が出てくるわけです。この要望には書いてありませんが、最高裁の判例で言えば、博多駅テレビフィルム提出命令事件の中にあるように、取材・報道の自由は知る権利に奉仕するという立場がまず基本にあるということです。
その次に、「高度情報通信社会において、他人に知られたくない個人のプライバシー、名誉、肖像などはみだりに侵害されることのないよう保護することも必要である」とし、情報の自由な伝達と、プライバシーや秘密保護の適正な調整ということが必要で、そこを放送関係者の皆さんが担っているんだという基本的な前提をシンプルな形ですが示しました。
表現の自由、それから知る権利に奉仕する報道・取材の自由というものがまずあって、しかし、その自由を行使することに名誉、プライバシー等の侵害があってはいけないということで調整するということです。

II.安易な顔なしインタビューが行われていないか

放送倫理に関して各局で出されているものの中には、事実の正確性、客観性、真実に迫る努力が放送倫理にとって非常に大事なことだと規範として書かれています。それから考えても、顔出しインタビューを原則とするということははっきり掲げていいだろうと思いました。
海外で見ますと、「国際通信社傘下の映像配信会社が…」というところですが、例外的な顔なしインタビューをするにあたっては、配信する上で理由を付記するというようなことがありましたので、日本ではあまり行われていない例も紹介したわけです。
ただ、理念的なことばかりでも良くないということで、東京の各局の夕方のニュースを顔が出ているものと出ていないもの、どういうところで顔を消しているかというようなことを1週間でしたが統計的に分析しました。ある局では顔が出ているが、ある局では出ていないというものもあり、あまり統一的な運用が行われていないと思いました。それから、刑事事件のニュースではない地域のごくありふれた出来事について周辺住民のインタビューをするのに、「なぜ匿名にしなければいけないのか」というものが多くあることが分かり、これはどういうところから来ているのか議論しました。そこで地域の出来事については、周辺住民のインタビューの際に安易に顔なしインタビューが行われてはいないかという点を問題提起しました。

III.安易なボカシ、モザイク、顔なし映像はテレビ媒体の信頼低下を追認していないか

テレビ画面では一層ボカシやモザイク、顔なしインタビューが日常化していますが、事実を伝えるべき報道・情報番組がこの流れに乗って安易に顔なしインタビュー映像を用いることがいいのかどうかという点で、少し価値判断的なことをここで書きました。

IV.取材、放送にあたり委員会が考える留意点

一つが真実性の担保の努力ということで、顔なしインタビューで映像を撮るときも、誰なのかということが検証可能な映像を確保するという努力も一方では必要なのではないかということです。二つ目は取材の対象者と、なるべく意思疎通をきっちりして、限られた時間であってもお願いをするように努めてもらうということです。最近、報道番組を見ていて、「消費税が10%になったらどうなりますか」というような質問で、皆さん税金のこと、物価が上がっていることについてストレートにいろいろな意見を言っていて、顔がきっちり出ているんですね。各世代、いろいろな立場の方が、こういう意見を持っているんだというのが、はっきり分かります。私は、「基本的に顔を出してやっていただくということを提言してよかった」と思いながら、各局のニュース報道を見ています。三つ目の取材源の秘匿ということは基本的な倫理であり、民放連の報道指針の中に書かれていることです。
次に、放送時においてどう考えるのかということですが、「大津いじめ事件報道に対する申立て」の問題のように、インターネットなどを用いた無断での二次的利用も起きる、そういう状況の下では、ボカシ、モザイク処理も思い切ってやっていただくことがあっていいのではないかということです。中途半端なボカシ、モザイク処理は憶測を呼ぶなど、かえって逆効果になるのではないかということで、「宗教団体会員からの申立て」の決定を踏まえたものも盛り込みました。
また、思い切って放送段階では使わずに、別の映像素材を出すということで、素材を替えることがあってもいいのではないかということを議論しました。
それから、モザイクやボカシの使用、顔なし映像の場合に画面上でその理由を字幕表示してはどうかということです。これはまだあまり行われていないことですが、海外の取扱いを見て、こういうこともあっていいのではないかということです。政府の情報公開制度では、原則情報公開、例外として非公開にするときに、「プライバシーの保護のために非公開にしています」ということで政府は非公開にするわけですが、同様に、なぜそこは黒塗りにするのか、ボカシを入れるのかということを原則公開と例外非公開の立場で考えてもらうということです。それは放送する側、それを受け止める国民サイドでも考えるということがやはり大事ではないかということです。
また、すでにルールのあるところは当然そのルールの徹底を社内で図っていただくし、社内ルールがあまりなくて、「系列局のもので応用しています」というところでは、さらに自前のルールを考えていただきたいということも提言しました。

V.行き過ぎた"社会の匿名化"に注意を促す

やはり基本は人がお互いにさまざまな意見、知識、情報に接して、摂取する機会を持つということの大切さを踏まえながら、あまり行き過ぎないように、プライバシーなどを保護するという、そういうモノの考え方を社会に定着させていく上でも、放送の持っている非常に大きな力というものがありますので、その点を意識しながら日常の仕事をしていただくことがこの社会全体のためになるのではないかということです。放送の使命のようなものについて、最後はちょっとエールを送りたいという気持で提言をまとめました。

私もこのテーマについては4、5年考えてきて、最近の委員会決定を踏まえて、この段階において委員会全体で考えた上で、社会に、また取材放送の関係者に提言をさせていただくことが、日本社会における放送のあり方に一石を投ずることになるのではないかと思っていました。思っていた以上に反響があり、「現場のことが分かっていないんじゃないか」というような話から始まって、たくさんの意見が出て私自身は良かったと思っています。この要望を踏まえて、さらにいろいろなことを現場で考えていただければと思っているところです。

■参加者からの発言■

  • 「なぜ匿名にするのか、なぜモザイクをかけるのかということをいつも現場の中で考えなさい」ということは言っていますが、おろそかになる時があり、今回の談話が出て、改めて考えるきっかけになりました。
    ある局は実名だったり、ある局は匿名だったり、モザイクをかけていたり、いなかったりということがあります。各局、判断してやっている中で、なかなか統一ができない、同じようにできない事情もあります。悩みながら決めているということをご理解いただければと思います。

□三宅委員長:犯罪現場に行って近所の人のコメントを取るということがあります。犯罪報道において周辺住民に被疑者について聞いたりするときは、顔なし、声も変えてということは、当然あっていいと思います。また、内部告発者の問題についても、慎重に扱いつつも真実に迫るという点から、少し検証可能な映像を担保することも考えるという点も必要かと思います。もちろん、それを放送するというわけではありませんが。
日常の、地域の出来事のいろいろなことを放送するのと、犯罪報道では違うと思っていますが、その辺は各局がきめ細かい判断をし、具体的な適用基準を考えていただきたいと思います。あまり事細かに「これはこうすべきだ」という談話にすべきではないと考えたものですから、細かく触れていませんが、是非、社内でいろいろ議論していただきたいと思います。

  • 原則、モザイクは無いほうがいいと思っています。この談話に関しては非常に感銘しました。その一方で、若手の記者などを見ていると、他局でモザイクをかけているし、後で処理すればいいということで意外と考えずに現場で撮ってしまうというケースもあります。取材を受ける方も根拠があって嫌だという方もいらっしゃいますが、なんとなく映るのが嫌だということがあり、十分話をすれば応じてくれる場合もありますが、時間がない時は顔なしでそのまま撮ってきてしまうというケースもあります。

  • 最近、学校現場の取材が非常に難しく、取材を申し込んでも、映っていい生徒、児童と映ってはいけない生徒、児童を分けるのは当然になっています。驚いたのは、運動会の取材なんかでも顔を撮ってくれるなという話があったりします。顔なしの駆けっこというのはどうかと思います。ちゃんと顔の出た取材というのをいかに実現していくかが難しくなっていると日々思っています。
    もう一点あります。私どもの局では地上波で流れたものをそのままネットに上げるんですが、やはりネットに一度出てしまうと、これはほぼ永遠に消えることはありません。その辺で違う配慮をしていかなければいけない時代ではないかと思います。

□三宅委員長:事件なり、いじめの問題なりに関わってくると、その重要な部分については、かなりボカシは入れざるを得ないだろうと思います。ただ、普段の行事の何げないものについてまで、ボカシを入れるかどうかということは考えるべき点だと思います。
ニュースについては、最近、特にインターネットですぐ動画で出ますが、放送人権委員会では、一応テレビで放送されたものが対象になるわけですが、当該局のホームページ上の動画で出ていると、出ている限りにおいて全部対象として考えざるを得ないということで、範囲が広がります。最初のニュースと、ネットで出す時のボカシの入れ方とか、その辺は変えてもいい時代なのかもしれないと思います。ネットニュースをどのように各社の戦略上考えるかによって、「放送人権委員会の対象が広がってもいいから、真実性としてそのまま出す」という社から、少し注意をしてボカシの入れ方等を工夫してみるとか、二次的被害が及ばないように工夫をするということも、これから考えていいことだと思います。

□田中委員:子どもが小学校入学の時に、「メディアの取材が来た時にはお子さんを出していいですか、どうですか?」という書類が配られるということがありました。中学校でもそういうことがあり、全ての小中学校でやっているかどうかは分かりませんが、そういう動きが、結構学校の現場ではあります。

□市川委員:ネットニュースでどう出すかということのお話がありましたが、昔は即時的な、その時の映像を見てプライバシー侵害かどうかということで、ある意味では分かりやすい話だったのですが、「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案のように、その瞬間は肉眼では分かりませんが静止画像にすれば分かってしまう。また、それをネット上に上げれば、より拡散するという技術を誰でも使うことのできる時代になってきているという背景の中で、インタビューを受ける側にも「インタビュー受けて映像が出たことによって、どういうふうに使われていくんだろう?」という漠然とした、おそれみたいなものを持っている方もいるのではないかと思います。そういう意味で非常に難しい時代だと思いますが、そうであればこそ余計に現場でも説得する時に、このニュースがどういうところで使われ、どういう範囲で、例えばネットではどうなるのかも含めて、見晴らしの良い形で説明ができると説得もしやすくなるのではないかと思います。きめ細かい基準作りとか対応というのが、これから必要になってくると感じます。

  • 犯罪現場の近所の方のインタビューとか、事実に迫る内部告発者のインタビューは、匿名でもやむを得ないのではないかということですが、それ以外で、どういう場合に顔なしインタビューの違和感を覚えていらっしゃるのかお聞きします。

□市川委員:例えば誘拐事件で、「あの子はいい子だったのに、心配です」など、非常に漠然とした感想のインタビューなどです。やはりインタビューの中身によってもかなり違うところがあって、近所の方とか同じ町とか同じ市の中の一住民としてのコメントであるのにモザイクをかけているというような場合には、必然性がないのではないかと感じています。

◆決定52号「宗教団体会員からの申立て」について◆

意見交換会後半は、「宗教団体会員からの申立て」事案を議題にした。当事案はテレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』において、番組で紹介された男性が、公道での隠し撮影された容姿・姿態が放送されたほか、本人の承諾もなくカウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーを侵害されたなどとして申し立てたもの。委員会は、本件放送の公共性・公益性を高く評価するものであるが、その放送目的を追求するあまり、申立人のプライバシーに対する十分な配慮を欠いた結果となっているとして、放送倫理上問題があると判断した。
「番組の概要」を事務局から説明した後、決定文の起草主査を務めた市川委員から「委員会の判断」の説明があった。同じく起草委員を務めた田中委員からも補足の説明が行われた。

□市川委員の説明□

・本件全体の判断枠組

「判断のグラデーション」がありますが、まずは、一番重い判断として「人権侵害かどうか」というのがあります。私どもとしては、まず人権侵害に当たるかどうかというところを考えることになります。
人権侵害には当たらない、あるいはそこまでの一致点がない、あるいはそれを今回は言う必要がないだろうという判断に至った場合には、「個別の人権侵害には当たらないけれども、放送倫理上問題があるかどうか」ということを次の段階で検討することになります。
この放送倫理上の問題というのは、ある意味では非常に広い捉え方ができるわけですが、この放送人権委員会という名称からも分かるように、放送倫理を全て網羅するということよりも、どちらかというと、この放送倫理を守らないことが将来的には人権侵害に結び付きかねないというような人権侵害との関係、名誉とかプライバシー、あるいは肖像権、それとの関係で問題が生じうるような放送倫理上の問題ということに絞って検討されています。

・プライバシー権等侵害の本件判断枠組

まず、プライバシー権・肖像権を侵害するか、これは要するにプライバシーや肖像権の内容に踏み込んでそれを放映しているのかどうかということが問題となります。
そして、法律上の言い方としては違法性の阻却と言いますが、形式上はプライバシー権侵害になるけれども、それが公共性・公益性の観点から許容されるという場合には、全体としてはプライバシー権侵害にはならないということがあり、プライバシー権・肖像権の場合には、次のステップとして、公共性・公益性の観点から許容されるかということが検討されます。

・プライバシーに立ち入る内容か

プライバシーに立ち入っているのかどうかということですが、本件では2つのところを捉えました。脱会カウンセリングの模様の隠し録音の内容、音声は変えていますが、思春期に悩みがあって、それが信仰によって解決したという、短いのですが、そういう言葉が出てきます。それから両親への私信の映像、朗読が出てきます。この部分は、「プライバシーにかかわるものであり、申立人のプライバシー権を侵害するものではないかとの問題が生じる」としています。

・申立人と特定(同定)可能か

映像という点から行くと、かなり、ボカシの度合いとしては弱い部分があります。顔は隠れていますが、髪型等は分かる。それから卒業式と思われる写真では、その友人の衣装であるとか、そういったものは分かるので、友だちが見れば、「あ、これ、私の着ていた衣装だ」、「卒業式の時のあの衣装だ」というのは、かなり鮮明に記憶にあるところではないかと思います。
「今年春、A市内の国立大学を卒業し、A市内で就職」というナレーションが入っていますが(「A市」は当委員会決定では非公開とした)、申立人が卒業した大学の雑観の映像があり、大学名は出していないんですが、学部の名称が入った門柱を映しています。その門柱はある理系の学部の門柱なんですが、その学部のある大学は特定できると言えばできるということです。また、ナレーションで申立人の実家のある地方名が出て、出身の地方が分かります。そして、その出身地の駅ビル名の入った背景が出てきます。また、よく見ると、実家近くの税務署の映像も、車で通っていく中では出てきたりするということもあります。総合して判断すると、申立人と特定(同定)可能であろうと委員会は考えました。
どの範囲の人が特定できるのかが問題になりますが、いわゆる一般の視聴者の方、全く知らない人から見て特定できるかというと、それはできません。名前は出てきませんので。ただ、申立人の周辺にいる大学時代の友人、あるいは高校時代の友人、今いる職場の知人にとってみると番組全体からは分かるので特定できるということになります。

・プライバシーに立ち入ることを公共性・公益性の観点から許容されるか

次の問題は、プライバシーに立ち入ることを公共性・公益性の観点から許容されるかということです。公共性・公益性という問題と侵害の程度、その何を映し、どういう態様で映したのかということ、放送したのかというところの比較衡量的な部分になってきます。ここは、委員の中で意見が分かれたところであり、「いかに一定の公共性が認められるとしてもプライバシー侵害に当たるのではないか」という意見と、これに対して「そこまでは言えないのではないか」という意見もあったということです。かなり議論をし、その結果、委員会としては、この侵害についての判断はしないということで結論を出しています。

・申立人の特定可能性への配慮

次に、放送倫理上の問題があるのかというのがテーマになります。「申立人の特定可能性への配慮」が一つの論点になるわけですが、これについては、申立人の特定可能性への配慮に欠けるところがあるとしました。「申立人のプライバシーにかかわる事実を明らかにするものであるから、申立人の顔のボカシや肉声の機械的処理による変換という配慮だけでなく、申立人を特定しうる情報をどの範囲で、どのように明らかにするかについて、より慎重な配慮を行うべきであったし、放送目的との関係でもそれは可能であった。」と決定文では言っています。
これは、ボカシの程度の問題もありますが、出身大学であるとか出身の学部であるとかを推測させるような映像、それから出身地を示したりという、そういう情報が果たしてあそこまで必要なのかということに関しては、やや行き過ぎではなかったか、それがあったが故に逆に特定可能性が出てしまったのではないかという判断をしています。

・カウンセリングの隠し録音と両親への信書の撮影・朗読の問題点

次にもう一つの問題として、プライバシーのところでも議論したカウンセリングの隠し録音と両親への信書の撮影・朗読の問題点ということを論じており、「申立人の私生活の領域に深く立ち入るものである」ということで、カウンセリングという場で思春期からの心情を語っている部分、両親に対して信仰に至った経過を書いている部分、これはかなり心の中の深いところを語っている部分なので、そういう意味では私生活の領域に深く立ち入っている、かなり重い部分に入っていると認定しています。

・公共性・公益性により許容されるか

カウンセラーの守秘義務に関する申立人の信頼を裏切らせ、申立人には思いがけず自らの内面を明らかにされる結果となり、両親に対する私信が公開されないことを信頼して信仰に関する感情を記しているのに無断で放映したという点が、態様においても問題が大きいとしました。公共性・公益性は高いけれども、プライバシーへの配慮という面で欠けている部分が大きいということで、放送倫理上問題ありという判断をしました。

・団体としての取材拒否、申立人の両親の承諾との関係

当該局としては、団体としての取材拒否がされていたこと、申立人の両親から承諾を得ていたことをカウンセリングの内容の隠し録音を正当化する根拠として挙げていました。しかし、委員会としては、基本的には、団体と申立人は別個のものであるとし、アレフや申立人以外の信者が取材を拒絶していたからといって、申立人本人に対する取材を申し入れすらしていないということは正当化できないとしました。また、両親が承諾したからといって、申立人は既に成人しており、取材・表現方法の問題は解消されないというのが委員会としての判断です。

以上のような判断過程の下で放送倫理上問題ありという判断をいたしました。決定文では、「個人情報の取扱いに十分注意し、プライバシーを侵すような取扱いをしない」という民間放送連盟の放送基準、それから同連盟報道指針での「名誉、プライバシー、肖像権を尊重する」という指針を示して、放送倫理上の問題を指摘しています。

□田中委員の補足説明□

オウムは何も変わっていないし、若者がまだまだ入信しているという事実に警鐘を鳴らすというもので、非常に感銘を受けた番組の一つでした。
特定可能性の問題でいえば、もう少し配慮があれば良かったと思います。この「もう少し」の線引きがどういうところかということもありますが、周囲の方とか身近な方が見て本人が特定される内容になっていることが問題だったと思います。わからないように、特定できないようにしたと当該局は言っていましたが、数多くの写真が使われ、繋いでいくと、この人ではないかと分かります。その部分を何とかできる方法がなかったのかと思いました。
放送は見た人がどう思うかというところを一義的に考えなければいけないということですので、本人の特定というところに真摯に向き合ってもらうことが本件においては重要だったのではないかと思います。
両親との信頼関係の中で取材が成立していたところもあり、両親は、局と息子である申立人の間で難しい状況に追いやられたのではないかと思いました。

■参加者からの発言■

  • 犯罪者でもない人間に取材申し入れもせず、隠し撮り、隠し録音して、その胸の内を出すという取材方法は、報道のガイドラインをクリアしていないと思います。このような際どい題材の長尺の番組を放送する場合には、オンエアする前に、当然、プロデューサー、その上の管理職、副部長、部長、局長まで事前に見ると思います。そういう作業が行われるはずで、それなりの人間が見れば、危ないんじゃないかとか、問題があるのではないかというような判断がされると思います。事前にそういうことがあったのかどうかを当該局にお聞きになったのかということが、質問の一つです。
    当該局でもきちんと放送前にプレビューが行われていたと思いますが、悪いほうに考えると、危ないところもあるけれども、全体的には非常に社会的に問題を訴えかける番組なので行こうという判断で放送したとすると確信犯だと思います。過去に「勧告」を受けた事例はいくつかありますが、「宗教団体会員からの申立て」事案の場合、気付いていたけれど行ってしまえという、そういう確信犯的なことがもしあったとすれば、この事案の決定が「見解」であって、どうして「勧告」にならないのかという疑問があります。

□市川委員:審理の中で、社内での検討状況と言うか、それを聞くことはあまりしません、出てきたものを内容で判断するというのが基本です。
確信犯かどうかということになると、私は確信犯とまでは言えないのではないかと思っています。担当のプロデューサー達が、アレフの件についてはサリン事件の当時からずっと追いかけていたグループで、今も追いかけています。そういう中で、その団体の危険性や、アレフに今、若い人が入ってきているという、そこに対する警鐘を鳴らさなければいけないという番組の目的があり、担当者の熱意と言いますか、非常に強い情熱と言いますか、そういうものをヒアリングしている中でも強く感じました。恐らく、局内でも、そういったものが強く伝わっていたんではないかと思います。しかし、そこで冷静な判断、違う視点から見て立ち止まって考えるという作業は考えていただかなければいけないことだと思います。
担当者は、高い公共性・公益性というものを非常に強く、ものすごく重いものだと思っていて、これがあれば殆どどんなことでもOKだと思ってしまっているのかも知れません。しかし、そこは違って、仮に重いものであっても、プライバシーの問題として立ち入ってはいけないもの、こちらの方も重いものがあって、そこはバランスを取って考えていただかなければいけないということです。その点の認識を冷静に違うところから見ていただけたら良かったのではないかと思っています。
「勧告」か「見解」かということですが、確信犯だというところまでいっていないということもあり、「見解」ということになっています。

□三宅委員長:公共性とか公益性はかなりあるということですし、担当者もかなり検討をして、この程度のボカシでいいだろうという判断をしたということをヒアリングでも伺いましたが。われわれと見解の違いがありました。例えば、氏名とか生年月日、住所、性別というのは、プライバシーの中の外側の、いわゆる外延情報と言われる部分ですが、思想信条に関わる部分というのはプライバシーの核心部分ですから、そこについての配慮というのは、氏名が公表されるようなレベルとは違うものとして、そこの部分は、それ自体として保護されなければいけないものだという認識を持っていただく必要があります。その辺の温度差がかなりあったわけですが、当該局の担当者も相当に判断しての放送であったという意味で、「見解」にしました。
今回の場合は、判断のグラデーションでは、問題なし・ただし要望ありに留めるか、放送倫理上問題ありにするかという点では、委員全員が放送倫理上の問題として捉えるべきだとしました。ただ、それ以上にプライバシーの侵害として、権利侵害として見るかどうかの点については、意見がまとまりませんでした。

  • 結論部分の「委員会は、アレフの危険性についての疑惑などに関係する調査報道を行う本件放送全体の目的を高く評価し、…」というところで、アレフに危険性があると委員会が決め付けているように思え、高く評価するということは、アレフに人権はないと言ってるように捉えられないでしょうか。

□市川委員:危険性があるという前提の下で決定が書いてあると全く考えていません。当該局としては、アレフに危険性があることは放送の中でいろいろなデータを示しながら言ってるわけですが、そういうことも一つ報道の目的に入っています。あと、そういうアレフに若者が何故入信するのかというのが、もう一つの報道の目的ということになるのですが、「疑惑などに関係する」というのは、番組担当者の放送目的、その意図がこういうことであるということを客観的に述べただけであって、決して疑惑があると私どもが認識しているということはありません。
高い評価というところは、文脈全体を読んでいただければわかるように、アレフの構成員であれば人権はないのかと言うと、決してそうは思っていません。アレフの中でも、いわゆる役員としてより高いレベルでの観察の対象になってる人と、今回の申立人のように一在家信者に過ぎない人と、そこは立場も違うというところもあります。
もう一つ言えば、犯罪報道で、例えば、現に犯罪を犯そうとしている、あるいは、犯しつつあるという中での潜入的な取材などは、ある程度正当化されるとは思いますが、そういうテーマではないというところを考えると、人権あるいは放送倫理の問題として踏み越えているか踏み越えていないかを考えるというのが、この見解の立場だと考えていただければと思います。

  • 両親に寄り添った取材をしていく中で、両親はこの番組を通して息子に戻って来て欲しい、あるいは、自分達が思春期に十分なことをしてあげられなかったという自戒の念があったのではないかと想像します。両親に寄り添った報道という部分に関しては、どのような評価をされたのでしょうか。
    また、両親に届いた手紙を紹介するというシチュエーションは十分ラジオでもあるわけですが、それを放送する時に映像はありませんので、ラジオの場合はどう考えればいいのでしょうか。

□市川委員:両親が取材に応じたのは、息子さんをできれば脱会という方向に向けたいということで、そういう両親の気持ちに寄り添う形で取材していたのだろうということは、推測ですができます。ただ、結果的に、申立人は、この映像の中では、脱会カウンセリングに応ぜず、その後アレフの集会に出たという映像で締めくくられているわけです。そういう意味では、両親の気持ちというのは複雑だったのではないかと思います。両親への対応というのが、ある意味では、取材側と申立人側の引っ張り合いみたいな形になってしまったところがありました。両親は最終的には極めて苦しい立場に追い込まれたのではないかということは、推測ですが、そういうことはあると思います。
手紙については、映像を伴って見せるということは、すごくリアリティを持たせる手法としては強い方法だと思います。カウンセリングの場面も、その場の声をとれたからこそ、リアリティを持って映したいというのはすごくよく分かるのですが、そうであるが故に、より、その人の心情をあからさまにしてしまうという要素があると思います。一般的に手紙を読むことがダメだということにはなりませんが、今回のように、直筆の手紙を撮って読んでいくという手法、手紙の中身も、魂がどうしたとかの記述に及んでるということで、ちょっとこれは行き過ぎではないかというのが判断です。仮定の議論としてラジオで読んだらどうかというのは判断しにくいのですが、絶対ダメだということではないと思っています。

  • 申立人本人に対して取材申し入れを行わなかったという点があるわけですが、全部終わった後で取材グループが思い入れを持って、最後に対峙して欲しかったという気がします。全く最後まで本人に会おうとしなかった、話を聞こうとしなかったのでしょうか。

□市川委員:特段、接触はしていないと伺っています。

◆三宅委員長から締め括りのあいさつ◆

本日は、基調報告をさせていただけた上に、さらに、「宗教団体会員からの申立て」事案の事例分析ということで、放送倫理のあり方についてきめ細かい議論をしているというところはご理解いただけたのではないかと思います。BPOの3つの委員会が独自の立場で、きめ細かい議論をすることによって、放送上の倫理が確立されているという事実は非常に重いものがあると思っております。
BPO自体は政府とは全く離れたところで運営されている、世界的にも珍しい団体ということですが、2009年の6月5日にTBSテレビの『情報7daysニュースキャスター』の問題について総務省が行政指導してから、これでもう5年、放送内容についての指導はありません。これは、私はすごいことだと思います。こういう世界で類を見ない団体であり運営のあり方というのが、これからもきっちりされることによって、公権力の介入を招かない、放送と取材・報道の自由というものの確立にとって非常に大事な役割を果たしていると思いますので、今後とも、こういう意見交換会などを通じて、その辺の認識を共通のものにし、また、いろいろなご意見を伺いながら、私ども委員会の中での運営のあり方を改善して行きたいと思っております。
決定文についても、できる限りわかりやすくということで、従前の決定文の書き方をガラッと変えています。読んでわかっていただけるような形に工夫をしたりするのも、皆さんのご意見を伺ってやっているところです。これからも忌憚のないご意見を伺いながら、放送の自由、取材の自由を守っていく役割を果たしていきたいと思っております。
今日は、いろいろご意見を伺うことができましたので、本当に有意義な時間を持てたと思います。本日はどうもありがとうございました。

以上

2014年10月21日

「謝罪会見報道に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は10月21日開催の第213回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、TBSテレビが2014年3月9日に放送した情報・バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。番組は、かつて「全聾の作曲家」として知られていた佐村河内守氏が楽曲の代作問題について謝罪する記者会見を取材し、その模様をまとめたVTRを放送するとともに、出演者によるスタジオトークを生放送で展開した。
この放送に対し、佐村河内氏は8月26日付で申立書を委員会に提出し、番組は「申立人の聴力に関して事実に反する放送を行ったものであり、それにより、申立人が聴覚障害者であるかのように装って記者会見に臨んだとの印象を与えたもので、申立人の名誉を著しく侵害するものであると共に、申立人と同程度の聴覚障害のハンディキャップを持つ者に対しても、社会生活上深刻な悪影響を与えた報道であった」と訴えた。申立書はまた、番組が特定の映像を意図的にカットして「悪意ある編集」を行い、「事実そのものを捻じ曲げて放送した上で、申立人の名誉権を侵害したことになり、本件は極めて重大かつ悪質な人権侵害」と主張している。
これに対してTBSテレビは9月30日付で委員会に提出した「見解」書面の中で、「当番組の放送内容は、放送された時点における重大な社会的関心事で、聴覚障害者に対する誤解や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評」と放送の趣旨を説明。その上で「謝罪会見の綿密な取材と、診断書についての専門家の見解の上で制作しており、『悪意ある編集』などによって申立人に聴覚障害がないと断定したものでもない」として、申立人の名誉を傷付ける放送ではないと主張した。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第212回放送と人権等権利に関する委員会

第212回 – 2014年9月

散骨場計画報道への申立て
放送人権委員会 判断ガイド2014…など

「散骨場計画報道への申立て」を審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。
刊行された「放送人権委員会 判断ガイド2014」が配布され、その特徴や活用方法等について意見交換した。

議事の詳細

日時
2014年9月16日(火)午後4時~6時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.審理要請案件:散骨場計画報道への申立て

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、静岡放送(SBS)が本年6月11日に放送したローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』。番組は、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について、民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。
この放送に対し社長は、記者会見は熱海記者会との間で個人名と顔の映像は露出しない条件で応じたとして、熱海記者会の幹事に抗議した。一方、静岡放送は同社長に電話して「会ってお詫びしたい」と伝えたが、社長は話し合いには応じられない姿勢を示した。
その後社長は6月17日、本件放送による人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求める申立書を委員会に提出した。申立書はまた、顔出し映像の放送は担当記者による「故意だと思われる」と主張している。
これに対し静岡放送は8月20日に委員会に提出した「経緯と見解」書面で、同社長と熱海記者会との間に「顔と個人名の露出は避ける」という約束があったことを認めたうえで、「故意によるものではなく、担当者の不注意・失念によるもの。業者社長にはお詫びの申し上げようもありません」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

2.『放送人権委員会 判断ガイド2014』について

この春から編集作業を進めてきた『放送人権委員会 判断ガイド2014』が刊行され、委員会で配られた。監修にあたった委員からは「使いやすさ、見やすさの観点から、構成や見出し、表現をいろいろ工夫した。各局で活用して欲しい」、「最近、BPOの決定を論評する論文なども見られ、研究者の資料としても使える」等の発言があった。
『判断ガイド』は各局に送付したほか、地方での意見交換会等でも活用し放送倫理の向上に役立てることにしている。(『判断ガイド』の内容、頒布については別掲を参照)

3.その他

  • 9月4日に札幌で開かれた意見交換会について事務局から報告するとともに、その模様を伝える地元局のニュース番組の同録DVDを視聴した。

  • 10月7日に名古屋で開催する地区別意見交換会(中部地区)について、事務局から議題、議事進行等概要を説明した。

  • 次回委員会は10月21日に開かれる。

以上

2014年9月16日

『放送人権委員会 判断ガイド2014』を刊行

放送人権委員会が『放送人権委員会 判断ガイド2014』を刊行した。A5版、2色刷り、510ページで、4年前に刊行した『放送人権委員会 判断ガイド2010』を全面改訂した。これまでの「委員会決定」で示されたポイントや留意すべき点などを、企画・取材から制作、放送の過程に沿って列挙し、名誉毀損など人権侵害に関する解説や判断例も掲載している。また、仲介・斡旋解決事案や審理対象外とした申立て事例なども紹介し、委員会の判断と活動を網羅する内容となっている。
加盟社には配付したが、実費で頒布もしている(1冊 1000円)。
問い合わせ先はBPO総務[TEL]03-5212-7320

2014年9月16日

「散骨場計画報道への申立て」審理入り決定

放送人権委員会は9月16日の第212回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、静岡放送(SBS)が本年6月11日に放送したローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』。番組は、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について、民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。
この放送に対し社長は、記者会見は熱海記者会との間で個人名と顔の映像は露出しない条件で応じたとして、熱海記者会の幹事に抗議した。一方、静岡放送は同社長に電話して「会ってお詫びしたい」と伝えたが、社長は話し合いには応じられない姿勢を示した。
その後社長は6月17日、本件放送による人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求める申立書を委員会に提出した。申立書はまた、顔出し映像の放送は担当記者による「故意だと思われる」と主張している。
これに対し静岡放送は8月20日に委員会に提出した「経緯と見解」書面で、同社長と熱海記者会との間に「顔と個人名の露出は避ける」という約束があったことを認めたうえで、「故意によるものではなく、担当者の不注意・失念によるもの。業者社長にはお詫びの申し上げようもありません」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第211回放送と人権等権利に関する委員会

第211回 – 2014年7月

デモ行進報道への申立て
放送人権委員会 判断ガイド2014…など

「デモ行進報道への申立て」を審理要請案件として検討し、審理対象外と判断した。
2014年度中に刊行予定の「放送人権委員会 判断ガイド2014」について、編集方針等をめぐり各委員がさらに意見を交わした。

議事の詳細

日時
2014年7月15日(火)午後4時~6時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、林委員 (田中委員は欠席)

1.審理要請案件: デモ行進報道への申立て

デモ行進をめぐる報道に対し市民団体代表から提出された申立書について、審理要請案件として検討し、以下のとおり審理対象外と判断した。
申立ての対象となったのは、A社が2014年3月に放送したローカルニュース番組。申立ては、申立人が会長を務める市民団体が2月に行われたデモ行進について、主催でも共催団体でもないにもかかわらず、あたかもこの市民団体がデモ行進を主催したかのように本番組で報道され、団体会員らの名誉を著しく傷つけたなどとして、番組内での訂正と謝罪等を求めた。また番組はそのデモ行進の中で「ヘイトスピーチ」を行ったと、事実に反する報道をして、会員に対する著しい人権侵害になっていると主張した。
これに対し局側は、委員会に提出した「経緯と局の見解」書面の中で、「本件放送はヘイトスピーチという社会問題を幅広く視聴者に理解してもらう材料を提供するという専ら公益を図る目的で企画・放送したもの」と説明。同社の取材活動は正当に行われ、「本件放送は名誉毀損または人権侵害の余地はない」と述べた。
この日の委員会では、本件申立ての審理入りの可否について、委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして、慎重に検討した。
申立ては、申立人の個人名で提出されている。しかしながら、番組では申立人個人を具体的に取り上げておらず、同個人の名誉等人権侵害に関わる内容は含まれていない。また、申立ての中でも、本件放送が同団体の「会員の名誉を著しく傷つけた」等と書かれており、本件申立ては、団体の会長として、団体を代表して提出されたと受け取ることができる。
委員会は、放送により権利の侵害を受けた個人からの苦情申立てを原則としている。団体からの苦情申立てについては、例外的に「団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるとき」は取り扱うことができることになっている。
同団体のウェブページによると、この団体は明確な会則のもと、1万4,500人余りの会員を擁し、さらに相当程度の情報発信力も備えているものと認められる。こうした団体としての規模、組織、社会的性格等に鑑み、上記運営規則に照らして、本件申立ては、委員会が例外的に救済する必要性が高い事案とは認められないとの判断に至った。
このため委員会では、本件申立てについては、委員会の審理対象外と判断した。

委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)1.(6)において、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる。」と定めています。

2.『放送人権委員会 判断ガイド2014』について

2014年度中に刊行予定の『放送人権委員会 判断ガイド2014』について、事務局からゲラが配布され、それを基に目次、全体の構成、デザイン・レイアウト、各項目の内容・表現等について各委員がさらに意見を述べた。

3.その他

判断のグラデーションについて、放送人権委員会は、従前「放送倫理違反」と「放送倫理上問題あり」の違いが分かりにくいという声があったため、2012年5月の第183回委員会において、放送倫理に関する判断を「放送倫理上問題あり」、「放送倫理上重大な問題あり」に一本化し、判断のグラデーションを表にして公表した。また、BPOホームページにおいては、この表にグラデーションの説明を加えたものを掲載してきた。
この日の委員会で検討の結果、これらグラデーションの表記を以下のとおり統一することを決めた。

「勧告」 人権侵害(名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害等)
放送倫理上重大な問題あり
「見解」 放送倫理上問題あり
「見解」 要望(放送表現、放送後の対応等について局に要望)
問題なし
  • 10月7日に名古屋で開催予定の地区別意見交換会(中部地区)について、事務局から主な議題等概要を説明した。

  • 8月の委員会は休会とし、次回委員会は9月16日に開かれる。

以上

第210回放送と人権等権利に関する委員会

第210回 – 2014年6月

放送人権委員会判断ガイド2014…など

2014年度に刊行予定の『放送人権委員会判断ガイド2014』について、編集方針等をめぐり各委員が意見を交わした。

議事の詳細

日時
2014年6月17日(火)午後4時~6時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.『放送人権委員会判断ガイド2014』について

2014年度に刊行予定の『放送人権委員会判断ガイド2014』について、事務局が編集作業の進捗状況を報告した。そのうえで、目次、全体の構成、掲載する判例、各項目の内容・表現等について各委員が意見を交換した。

2.その他

・次回委員会は7月15日に開かれる。

以上

2014年6月9日

2014年6月9日

顏なしインタビュー等についての要望
~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~

放送と人権等権利に関する委員会
委員長 三宅 弘

I.情報の自由な伝達と名誉・プライバシーの保護など

人が自由に様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保を実効あるものとするためにも必要である。しかし、高度情報通信社会において、他人に知られたくない個人のプライバシー、名誉、肖像などはみだりに侵害されることのないよう保護することも必要である。情報の自由な伝達とプライバシーや秘密の保護との適正な調整があってこそ、行きすぎた社会の匿名化を防ぐことができる。

II.安易な顔なしインタビューが行われていないか

テレビニュースなどで、ボカシやモザイクを施したり、顔を写さないようにして、取材対象が特定できないようにする、いわゆる顔なしインタビューが放送されることがある。
知る権利に奉仕する取材・報道の自由の観点からは、取材・放送にあたり放送倫理における、事実の正確性、客観性、真実に迫る努力などを順守するために、顔出しインタビューを原則とすべきである。
この点について、テレビ局各局では、顔出しインタビューを原則としつつ、例外として顔なしインタビューを認める場合について検討し、社内ルールを定めている。海外では、例外としての顔なしインタビューをするにあたり、国際通信社傘下の映像配信会社が理由を付記したうえで配信したり、放送局が報道部門幹部だけでなく、法務部等社内複数の関係部署の承諾を義務付けている例もある。
しかし、実際の取材現場では、被取材者側に顔を出してインタビューに応じることへの抵抗感が強まる傾向があることや取材者側に顔を出すよう説得する十分な時間がないなどの理由から、顔なしインタビューが行われるケースも多いのではないかと推測される。とりわけ、地域の出来事について、周辺住民のインタビューをする際に、特に匿名にしなければならない具体的な理由が見当たらないにもかかわらず、安易に、顔なしインタビューが行われてはいないだろうか。

III.安易なボカシ、モザイク、顔なし映像はテレビ媒体の信頼低下を追認していないか

テレビ画面では一層、ボカシやモザイク、顔なしインタビューが日常化している。しかし、事実を伝えるべき報道・情報番組がこの流れに乗って、安易に顔なし映像を用いることは、テレビ媒体への信頼低下をテレビ自らが追認しているかのようで、残念な光景である。テレビ局の取材に対して取材対象者が顔出しでインタビューに応じてくれるかどうかは、テレビという媒体が、あるいは取材者が、どこまで信頼されているかを測る指標の一つであると考えられるからである。

IV.取材、放送にあたり委員会が考える留意点

以上をふまえると、取材にあたっては、次の事項に留意すべきである。

  • (1)真実性担保の努力を
    安易な顔なしインタビューを避けて、可能な限り発言の真実性を担保するため、検証可能な映像を確保することなどの努力を行うことが大切ではないか。

  • (2)取材対象者と最大限の意思疎通を
    安易な顔なしインタビューを避けるには、限られた時間であっても取材対象者と可能な限り意思疎通を図るよう努めるべきではないか。

  • (3)情報源の秘匿は基本的倫理
    情報の発信源は明示することが基本であるが、情報の提供者を保護するなどの目的で情報源を秘匿しなければならない場合、これを貫くことは放送人の基本的倫理である。

放送時においても、原則は顔出しインタビューとすべきである。一方、特にデジタル化時代の放送に対し、インターネットなどを用いた無断での二次的利用等が起こりうる可能性を十分に斟酌したボカシ・モザイク処理の要件を確立すべきである。
よって、放送にあたっては、次の事項に留意すべきである。

  • (4)プライバシー保護は徹底的に
    プライバシー保護が特に必要な場合は、一般の視聴者のみならず取材対象者の周辺にいる関係者においても、放送された人物が本人であると識別されることのないように慎重に行うべきである。その場合でも、前後の映像やコメント等によって識別されることがありうるので注意すべきである。中途半端なボカシ・モザイク処理は憶測を呼ぶなどかえって逆効果になりうることに留意すべきではないか。

  • (5)放送段階で使わない勇気を
    伝える内容と使用する映像との関係を十分に吟味し、ボカシなど加工を施してまで使用することが必然ではない映像については、放送時にこれに代替する映像素材を検討し、場合によってはその映像を使わないことも認めることがあってもよいのではないか。

  • (6)映像処理や匿名の説明を
    ボカシ・モザイク使用や顔なし映像の場合は、画面上でその理由を注記(字幕表示等)することで、メディア取材に対する市民意識を変える努力をすべきではないか。

  • (7)局内議論の活性化と具体的行動を
    一つ一つの映像を放送するに当たり、逮捕時の連行映像など定型的にボカシ・モザイク処理をするものも含め、なぜ必要なのかの議論を日常的に行うことが大切ではないか。社内ルールが定められていない放送局においては早急にルールが策定されるべきである。

V.行き過ぎた"社会の匿名化"に注意を促す

以上の留意点をふまえ、原則は顔出しインタビューであり、あくまで例外として顔なしインタビューを認めるという点について、テレビ局各局は、放送関係者だけではなく、一般社会においても認知されるよう努力すべきである。その際、取材対象となる市民との信頼関係に基づく十分な意思疎通が必要である。これにより、人が自由に様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことの大切さを認識することができる。また、例外的に顔なし映像を用いたり匿名化の処理をする場合には、画面上でその処理の理由を注記することなどにより、行きすぎた社会全体の匿名化にも注意を促すことができるものと考える。

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第209回放送と人権等権利に関する委員会

第209回 – 2014年5月

宗教団体会員事案の対応報告
児童養護施設関連ドラマ…など

宗教団体会員事案でテレビ東京から提出された対応報告を検討した。児童養護施設関連ドラマに対する申立書を審理要請案件として改めて検討し、審理対象外と判断した。顔なしインタビュー等について「委員長談話」を公表することを決め、文面をほぼ確定した。

議事の詳細

日時
2014年5月20日(火)午後4時~7時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「宗教団体会員からの申立て」事案の対応報告

2014年1月21日に通知・公表された「委員会決定 第52号」に対し、テレビ東京から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月18日付で提出され、この日の委員会で検討された。
委員会では、「題材に高い公共性・公益性があるとしても、放送内容によっては放送倫理上問題ありとされることを認識してほしい」との意見なども述べられた。
(テレビ東京の「委員会決定に対する対応と取り組み」はこちらから

2.審理要請案件:児童養護施設関連ドラマ

児童養護施設を舞台にしたドラマに対する申立書について、審理要請案件として改めて検討し、委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして、審理対象外と判断した。
申立ての対象とされた放送は、A社の連続ドラマ第1話で、申立てはある病院の院長によるもの。番組中の児童養護施設入所中の子どもに対するあだ名の設定や同施設長が子どもたちをペットショップの犬と同等とみなすような発言等が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を傷つけるとの理由から、本番組の内容変更及びドラマ制作の経過についての説明を求めたもの。
当委員会は、本件申立ての審理入りの可否について慎重に検討したが、次のとおり、本件申立ては、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして、審理対象外とすることとした。

  • (1)まず、運営規則第5条1.(1)は、「名誉、信用・プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする。」と規定している。
    この点について、本件申立ては、本番組の問題部分が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を侵害すると述べているが、個別具体的な子ども、里子ないし施設職員個人の特定がなされていないために、当該特定の対象者についての個別具体的な名誉侵害の有無を判断することができない。

  • (2)また、運営規則第5条1.(2)は、「公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てがあった場合は、委員会の判断で取り扱うことができる。」と規定している。
    この点に関して、本件申立ては、本番組の問題部分によって、児童養護施設の子どもが学校等で非人格的なあだ名等で呼称され、からかわれることを心配するとしており、本番組の問題部分に公平・公正を欠くために、これらの子どもが著しい不利益を被る旨、述べているものとも捉えられる。
    しかしながら、上記と同様、本件申立てにおいては、個別具体的な子どもが特定できず、著しい不利益の内容も明らかでないため、当委員会がその裁量で取り扱うべき事案であるか否かを判断することができない。

  • (3)さらに、運営規則第5条1.(6)は、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。」と規定している。
    この点に関して、申立人は、申立人が理事長・院長を務める病院の名誉その他の権利侵害等を、本件申立てによって主張するものではなく、児童養護施設入所中の子ども等の名誉等を問題とするものであるとの見解を明らかにしている。
    しかしながら、児童養護施設入所中の子ども等の特定がなされていないこととも相まって、当委員会は、当事者と第三者である申立人との直接の利害関係を認定することはできなかった。

以上のとおり、当委員会は、本件申立てについて、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして本件申立てを審理対象外とした。

【委員会コメント】

放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第4条2.は、「放送倫理検証委員会、放送と人権等権利に関する委員会および放送と青少年に関する委員会において、同一の放送番組を取り扱う場合、互いに連携して、必要な措置を講ずる」と規定している。この規定をふまえて、当委員会としても、これまで検討を重ねてきたので、下記のとおりコメントする。

現代社会の事象に対して問題提起する番組を制作することは、放送の自由の行使として、極めて意義のあることです。その一方で、青少年委員会委員長コメント("子どもが主人公のドラマ"に関する「委員長コメント」 2014年4月8日付)が指摘するとおり、そのような「番組内容の場合、その引き起こす社会的波紋に対する事前の配慮は、通常にも増して行う必要があったのではないか」という点において、今後さらに検証されるべきものであると考えます。
この点については、当該局自身「貴協議会から事前に児童養護施設を取り巻く環境などの実情を詳細に伺い、表現上留意すべき点などをより慎重に確認しておく必要があったと認識しております」(全国児童養護施設協議会に対する回答書 2014年2月4日付)と述べ、ドラマ制作の準備段階に問題があったことを認めています。
当委員会は、上記のような事項は単に当該局だけでなく、すべての放送局において共有され、今後十分に配慮されるべき点であると考えます。
当委員会は、苦情の取り扱いにおいて名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とし、公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てをも取り扱うことができるものではありますが、フィクションであるドラマの場合に、これらの取り扱い基準に該当することは、一般には容易なことではありません。しかし、社会的意義あるドラマが引き起こす波紋に対する事前の配慮は、人権侵害や放送倫理上の問題を生じさせないためにも必要であると考えるので、以上のとおりコメントするものです。

3.顔なしインタビュー・モザイク等の在り方について

報道・情報番組における顔なしインタビューやモザイク処理の在り方について、年初来続けてきた議論をふまえた「委員長談話」の修正案が提出され、各委員が意見を述べた。その結果、文面をほぼ確定して委員長一任を取り付け、「顔なしインタビュー等についての要望~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~」を近日中に公表することになった。

「顏なしインタビュー等についての要望~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~」
2014年6月9日 公表

4.その他

  • 2014年度の意見交換会の日程について、調整の結果、県単位の意見交換会を9月4日に札幌で、地区別意見交換会(中部地区)を10月7日に名古屋で開催することになった。

  • 年度中に刊行予定の『判断ガイド2014』について、事務局から構成案が示され、各委員が意見を述べた。

  • 次回委員会は6月17日に開かれる。

以上

2014年5月20日

「児童養護施設関連ドラマへの申立て」審理対象外と判断

放送人権委員会は5月20日の第209回委員会で、上記申立てについて、委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして、審理対象外と判断した。

申立ての対象とされた放送は、A社の連続ドラマ第1話で、申立てはある病院の院長によるもの。番組中の児童養護施設入所中の子どもに対するあだ名の設定や同施設長が子どもたちをペットショップの犬と同等とみなすような発言等が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を傷つけるとの理由から、本番組の内容変更及びドラマ制作の経過についての説明を求めたもの。
当委員会は、本件申立ての審理入りの可否について慎重に検討したが、次のとおり、本件申立ては、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして、審理対象外とすることとした。

  • (1)まず、運営規則第5条1.(1)は、「名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする。」と規定している。
    この点について、本件申立ては、本番組の問題部分が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を侵害すると述べているが、個別具体的な子ども、里子ないし施設職員個人の特定がなされていないために、当該特定の対象者についての個別具体的な名誉侵害の有無を判断することができない。

  • (2)また、運営規則第5条1.(2)は、「公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てがあった場合は、委員会の判断で取り扱うことができる。」と規定している。
    この点に関して、本件申立ては、本番組の問題部分によって、児童養護施設の子どもが学校等で非人格的なあだ名等で呼称され、からかわれることを心配するとしており、本番組の問題部分に公平・公正を欠くために、これらの子どもが著しい不利益を被る旨、述べているものとも捉えられる。
    しかしながら、上記と同様、本件申立てにおいては、個別具体的な子どもが特定できず、著しい不利益の内容も明らかでないため、当委員会がその裁量で取り扱うべき事案であるか否かを判断することができない。

  • (3)さらに、運営規則第5条1.(6)は、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。」と規定している。
    この点に関して、申立人は、申立人が理事長・院長を務める病院の名誉その他の権利侵害等を、本件申立てによって主張するものではなく、児童養護施設入所中の子ども等の名誉等を問題とするものであるとの見解を明らかにしている。
    しかしながら、児童養護施設入所中の子ども等の特定がなされていないこととも相まって、当委員会は、当事者と第三者である申立人との直接の利害関係を認定することはできなかった。

以上のとおり、当委員会は、本件申立てについて、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして本件申立てを審理対象外とした。

【委員会コメント】

放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第4条2.は、「放送倫理検証委員会、放送と人権等権利に関する委員会および放送と青少年に関する委員会において、同一の放送番組を取り扱う場合、互いに連携して、必要な措置を講ずる」と規定している。この規定をふまえて、当委員会としても、これまで検討を重ねてきたので、下記のとおりコメントする。

現代社会の事象に対して問題提起する番組を制作することは、放送の自由の行使として、極めて意義のあることです。その一方で、青少年委員会委員長コメント("子どもが主人公のドラマ"に関する「委員長コメント」 2014年4月8日付)が指摘するとおり、そのような「番組内容の場合、その引き起こす社会的波紋に対する事前の配慮は、通常にも増して行う必要があったのではないか」という点において、今後さらに検証されるべきものであると考えます。
この点については、当該局自身「貴協議会から事前に児童養護施設を取り巻く環境などの実情を詳細に伺い、表現上留意すべき点などをより慎重に確認しておく必要があったと認識しております」(全国児童養護施設協議会に対する回答書 2014年2月4日付)と述べ、ドラマ制作の準備段階に問題があったことを認めています。
当委員会は、上記のような事項は単に当該局だけでなく、すべての放送局において共有され、今後十分に配慮されるべき点であると考えます。
当委員会は、苦情の取り扱いにおいて名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とし、公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てをも取り扱うことができるものではありますが、フィクションであるドラマの場合に、これらの取り扱い基準に該当することは、一般には容易なことではありません。しかし、社会的意義あるドラマが引き起こす波紋に対する事前の配慮は、人権侵害や放送倫理上の問題を生じさせないためにも必要であると考えるので、以上のとおりコメントするものです。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。